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もうすぐ終わる。

始まりの物語が。

だから俺は準備をしよう。

黄昏に立ち向かうために。
 


.hack//hydrangea
『闇の女王』








俺はハイドとしてあるダンジョンに潜っていた。

古参のプレーヤーでも滅多に来ない、超高レベルのエリア。

目的はレベル上げじゃなく、鍛錬。

俺のレベルはこれ以上上がらないから、自分で動けるように訓練するためにここに来た。

鍛錬とアイテム集めのためにこういった超高レベルのダンジョンに潜ることが多い。

集めたアイテムはトレードするか、売るかしたりしながら装備を整える。

ここで便利なことっていったら、装備のせいで動きにくくなることがないってことだな。

新しい装備に変えても、武器以外はグラフィックが変らないから馴染むのを待つ必要がない。

「よっと」

俺はモンスターを切り裂いて、アイテム神像部屋に到着する。

俺が部屋に一歩入って、先客がいることに気がついた。

白いドレスのような、ローブのような不思議な格好で、顔にはバイザーがついている女性キャラ。

こんなエディットは、通常出来ないはずだ。

ということは・・・

「あんた・・・闇の女王の名前を冠する凄腕ハッカー、『ヘルバ』か?」

「当たりよ。『孤高』の双剣士さん。」

「『孤高』?」

俺は訝しげに眉を寄せると、ヘルバは笑って応えた。

「あなたがあまりにも自分のメンバーアドレスを渡さないものだから、最近になって付けられた2つ名よ。」

「おいおい・・・」

俺は某プチグソ乗りのナルシストじゃねぇぞ。

でも、俺のメンバーアドレスをそう易々と渡すわけにはいかないからな。

「はぁー・・・それじゃ、闇の女王さまは俺にどんな御用ですか?」

俺が聞くとヘルバじゃますます笑みを深めた。

「あなたに少し興味があるのよ。たとえシステム管理者でも、ログを調べるの精一杯でそれ以外のデータが不明で居場所も掴めない。私の包囲網にも引っ掛からないあなたに興味が。」

本当なら『闇の紫陽花』ともコンタクトが取りたいくらいなんだけどね。

そう言うヘルバに俺は内心、ガッツポーズを取った。

よっしゃー!ヘルバは俺とハイドランジアの関係に気づいていない。

「なるほど、俺がここにログインし続けていられるのが、あんたの興味をついたのか。」

俺とハイドランジアはどっちもログアウト出来ない。

おまけに情報網から引っ掛からないとなったら、大概の奴は興味を持つ。

さて、ヘルバだったら教えておこうかな。

「『闇の紫陽花』ならここにいるじゃん。」

俺はことさら明るく言った。

「?どういうことかしら?」

「そのままの意味さ。」

俺がこう言うのは打算あってのこと。

ここでヘルバを味方につけておけば、いざというときに助けになってくれるかもしれないから。

もし、この先俺が司たちが向かった鏡像世界みたいなところにいったら、強制終了させなきゃ戻れない状態になる。

端末にいない俺。

強制終了が出来ないから、ヘルバのようにコンピュータに精通したバックアップが必要になる。

「あんたが俺に力を確実に貸してくれるというなら、『闇の紫陽花』についても教えてやるよ。」

俺の言葉にヘルバはしばらく黙ったままだったが、やがて微笑を浮かべる。

「・・・望みはなにかしら?」

「わかってくれてありがたいよ。・・・俺の望みはこの世界の存続。黄昏の阻止。それと俺の避難場所の提供。」

モルガナとの戦いのせいで、『プルートアゲイン』が起こり、この世界も危なくなる。

そんなことになったら、俺の存在も危うくなる。

この世界での俺はどんな扱いか解らない。

データなのか、そうじゃないのか・・・

だから俺には”The World”であって”The World”じゃない場所。

ネットスラムへの逃げ場所が必要になる。

バックアップと避難場所。

俺がヘルバに求めるのはそれ。

「黄昏の阻止。今バルムンクたちが調べていることとも関係しているのかしら?」

「ひゅー!流石凄腕のハッカーさん。ご明察。この世界は歪んでしまった神のせいで滅びへの道を辿っている。」

しかもそれはこのゲームの中だけじゃなく、リアルにまで影響を出す。

実際にリアルの人間がこの世界に取り込まれている。

つまり司がモルガナのせいで取り込まれている。

司は元に戻れるけど、ゲーム編になれば6人も意識不明者になる。

原作どおりなら、ここで俺がなにもしなくても"勇者"たちが事件を解決してくれるけど、俺は生憎知っていながら何もしないほど人間出来ていない。

ヘルバに最初から情報を流しておけば、八相との戦いの時、"波"を防ぐ手立てをもっと速く打ち立ててくれる。

「それはハロルドが関係しているのかしら?」

「あぁ、むちゃくちゃ関係してるね。」

なにせモルガナ作った張本人だし。

いや、ハロルド自身はただエマ・ウィーラントとの娘が欲しかっただけだろうけどさ。

「思念プログラムのことは知ってるだろ?」

「この世界のどこにでもあってどこにも存在しない、あのプログラムのこと?」

「あぁ、あんたほどの奴ならすぐにわかるはずだ。」

「ハロルドの遺書にヒントがあるのね。・・・わかったわ、交換条件ですもの。」

ヘルバは俺から話を聞いてあるアイテムを取り出した。

今まで見たことのないカードキーのようなアイテム。

「これがネットスラムへの鍵。"ヘルバ・キー"よ。これをタウンのゲートで使えばネットスラムへ行けるわ。」

俺はそのアイテムは軽く礼を言いながら受け取る。

そして、俺とハイドランジアの関係を話す。

これが約束だからな。

「ありがとう。緊急時に使わせてもらう。」

「こちらこそ、なかなか貴重な話を聞かせて貰えたわ。」

俺はそしてヘルバと別れようとして、ふと思いついたことを口にした。

「・・・世界が黄昏に満ちようとした時、薄明を携えし蒼炎の勇者が黒薔薇と供に、この世界に舞い降りる。」

俺は一歩足を踏み出す。

「光の子は彼の者に、”力”を与えるだろう。」

また一歩踏み出す。

「光の子は、古き神に代わり新しい神となる。」

俺はそこで足を止める。

「・・・本当にそうなるかは、当事者の努力次第だがな。」

タイミングを見計らって俺はゲートアウトした。
 

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