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そいつは突然現れた。

噂どおりの真っ黒いローブに、真っ白い大鎌を持って・・・

ディスプレイ越しのはずなのに、そいつの存在感がはっきりわかる。

司も突然あわられたそいつに困惑している。

そいつが口を開く。

司と同じように滑らかな形で。

「汝が・・・『世界に囚われし者』か。」
 


.hack//hydrangea
『接触』







(ミミル視点)

あたしに司からメールが来た。

会いたいってあったけど、ちょっと不安だからベアについてきてもらうことにした。

それにしてもあいつ、何時の間にΔサーバーから出たのかしら?

それで、マク・アヌで偶然会ったハイドにも付いて来てもらおうと思ったけど、断られちゃった。

しょうがないから、ベアと2人だけで行くことになった。

場所はドゥナ・ロリヤックのサーバー。

ある荒野のエリア。

 



 


うそ・・・本当にそんなことがあるの?

ログアウトできないなんて・・・端末の前にプレイヤーがいないなんて・・・!?

それにゲームバトルでプレイヤーに、軽い記憶障害を与えるようなダメージを与えるなんて!

あたしがその事で色々言おうとしたら、いきなり真っ黒いローブのPCが目の前に現れた。

この世界に存在するはずのない真っ白い大鎌を持って。

「!?誰?」

司が困惑した表情でそいつを睨む。

そのローブの奴はそれに怯むことなく真っ直ぐ司を見ている。

「汝が・・・『世界に囚われし者』か。」

それは確信した声。

一体なに?一体なんなの、こいつ?

「あんた・・・一体誰よ!?」

あたしは堪らず叫んだ。

そいつはひどくゆっくりした動作で、こちらを向く。

口元だけしか見えないけど、そいつがなにか面白がっているような感じがした。

「我はハイドランジア。この世界が始まりし頃より存在する迷い人。」

迷い人?

「まさか・・・本当に『闇の紫陽花』なのか?」

ベアが信じられないといった声で、問いかける。

その手には剣が握られている。

「ちょ!?なんで武器構えてんの!?」

ベアはハイドランジアと名乗るPCから目線を逸らさず返す。

「ハイドの忠告を忘れたのか?『闇の紫陽花』は気まぐれで、敵対するか、助言するか、傍観するかのどれかしかしない。まさか・・・月夜のフィールド以外で会えるなんてな。」

ハイドランジアはベアに武器を向けられているにもかかわらず、ただ真っ直ぐ見るだけ。

「・・・今宵は汝らの敵ではない。それ以上我に敵対の意思を向けるとなれば・・・」

ハイドランジアは僅かに大鎌を構える。

それにベアは剣をしまった。

ハイドランジアも構えをとく。

そして、ハイドランジアはまた司に向き直った。

「あんた・・・何?」

司はハイドランジアにつっけんどんに聞く。

「さて?我が何者であるかなど、この際問題ではない。我は我でしかないのだから。強いて言うならば、汝と似て非なるもの。」

似て非なる?ハイドがこいつもログアウト出来ないって言ってたけど、こいつも端末の前にいないの?

「!?・・・あんたもログアウト出来ないの?」

ハイドランジアはそれに応えず、口もとだけで笑っている。

それはイヤラシイにんまりとした笑みじゃなくて・・・うまく言えないけど、綺麗な形。

「あんた・・・一体なんなんだー!?」

司が癇癪を起こしたように叫ぶと同時に、何もないはずの宙からなにか鉄アレイのようなモンスターが姿を現した。

「ふむ・・・それが紅衣の騎士を斃したガーディアンか。」

液体のように流動しているそれに、言葉の出ないあたし達と違ってハイドランジアは、動揺した素振なんか微塵もなかった。

ハイドランジアがガーディアンと呼んだモンスターは、触手のようなものを伸ばすとそれで攻撃してくる。

「あ!危ない!!」

あたしが言うと同時にハイドランジアは腕を軽く振るった。

その瞬間、ガーディアンの触手の一部らしきものがあたしの足元に落ちてきた。

「!?」

あたしもベアも・・・司もそれに息を飲んだ。

あの紅衣の騎士を倒した奴の攻撃をこんな簡単に・・・!?

「なるほど・・・なかなか主人思いの守護者のようだ。これ以上我がここにいる必要もない。・・・汝らに夕暮竜の加護があらんことを。」

そう言ったと同時にあいつはゲートアウトした・・・って!?

「こいつ一体どうすりゃいいのよ!!!!?」

その後、あたしとベアは残されたガーディアン相手に四苦八苦するはめになった。

闇の紫陽花め~・・・厄介なものを残していったわねーーー!!!

 

 

 

 

(主人公視点)

ちわー!なんとか司と接触出来てから1日経って現在ハイド君でーす。

接触して、ガーディアンまで拝めて一石二鳥♪

めっちゃ怖かったけどな!!

だってアニメで見るよりなんかデカイし、早いし、反応して武器を振り回すだけで精一杯だったんだよ!?

余裕あるように見えてムッチャなかったって!!

軽く自己暗示まで掛けてたし、あの時は。(そのくらい切羽詰っていた)

用が済んだら速攻ゲートアウトして逃げましたよ!!

カオスゲートのところで紅衣の連中に見つかってしばらく鬼ごっこしてたけどさ。

いやーほんとあいつらしつこすぎ。

プレイヤーの見えないところまで逃げて、急いでローブ脱いで難を逃れたけどな。

最近、エリアでローブ脱いでいたから、タウンでのハイドランジアの目撃情報なかったんだよね。

ハイドとして紅衣の騎士団のブラックリスト聞き出してみたら、案の定ハイドランジアが上位キープ者でしたよ。

今のところの一番は司と猫PCのマハ。

あと、何気に楚良までいるらしい。

まぁ、楚良はPKだしいてもおかしくないか。

・・・コホン。

いろいろ無駄話が過ぎたみたいだけど、今俺がなにをやっているのかといえば別のエリアでこっそり紅衣の騎士団の昴を尾行中♪

マク・アヌで偶然見つけたからついでとばかりにストーカー紛いのことやってます。

天国のお父さん、お母さんごめんなさい!(まだ死んでないって)

 

 

 

 


雪原のフィールド。

ダンジョンに向かって昴は1人歩く。俺は雪の中を気づかれないように潜りながら尾行する。

そこ!モグラって言うな!!

だって、この広い雪原で特に隠れられる場所とかってないから仕方ないだろ!?

俺は慎重に昴の後ろをついていくと、やがてダンジョンの入り口が見えてきた。

そして、そのダンジョンの建物の屋根に人影・・・

「ばびょん!」

「!?」

楚良が高く跳躍して昴の目の前に降り立った。

そして二人の会話が続く。

俺は事前にその会話の内容を知っているからある程度聞き流すけど、どうしても聞き逃せない単語が耳をよぎった。

「キー・オブ・ザ・トワイライト」

この世界の重要な・・・文字通りキーワード。

黄昏の鍵・・・その姿形、どんな存在なのか誰も知らない伝説のアイテム。

かくいう俺も知らないんだよな。

存在しないって元の世界でも結論されてるしなー・・・結局どっちなんだろ?

「それじゃ行こうか。・・・そのまえに。いい加減出てきなよ!」

「!?」

そうやって昴と楚良の話が終わると、いきなり楚良が俺のほう目掛けて双剣を突き刺そうとしてきた。

俺は咄嗟に雪の中から飛び出てそれを避ける。

まさか気づかれるなんてな。

ほらほら、昴も驚愕のあまり呆然としてるじゃんか。

「うわー危ないなぁ。いきなりなんて乱暴じゃないか、楚良くん?」

「だってー、そんなこそこそと人の話を盗み聞きするなんてーマナー違反じゃないのかい?ハイドくん♪」

はは・・・俺のことばっちり覚えてるよ・・・

「あなたは何者ですか?」

昴が一応我に返ったみたいで聞いてくる。

「ハイド。ソロ専門の双剣士だ。」

俺は別に隠すことでもないから正直(?)に応える。

まぁ、若干嘘も入っているけど。

「うわさに名高い昴さまもお見かけしましたもので、ついここまで来てしまいました。あなたの美貌の虜となってしまった哀れな男のしたこと・・・どうかお許しください?」

俺は優雅に昴に向かって一礼すると、昴は顔を真っ赤にしてうろたえた。

・・・おいおい。たくさんの騎士たちに慕われているのに、こういうのには弱いのかよ。

それに自分でもさっきの台詞は正直鳥肌もの。ものすっごく寒くなってきたよ。

「ハイドくん・・・それ寒い・・・」

楚良が腕を擦りながら、呆れた表情で言う。

あ・・・やっぱり?

「まぁいいけどね。ここで会えたのも何かの縁だしーメンバーアドレスちょーだい?」

楚良はそう言って俺に踊りかかってきた。

最近、こういうの多いな俺。
 

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