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俺がラカンさんとリトさんのところに修行にきて一週間経った。
俺はリトさんから宝玉だけでは学べない踊りのことを学び、ラカンさんからは最低限身を護れるように特訓を受けている。
といっても原作のネギが受けたような過酷な特訓じゃなく、リトさん監修の一族の武術を伸ばす形での特訓だから身体に傷が残ることはない。
怪我自体はするけどそうじゃないと特訓の意味がないからな。
そういや一族の武術に関してまだ説明していなかったな。
スプリングフィールド舞闘術って名前の武術で、俺は単に舞闘術ってよんでいる。
この武術は踊り子の護身用に開発された武術で、今は精錬され戦闘にも十分耐えうるものとなっており、今じゃ踊り手も踊り子も習っているんだよな。
俺もネギも修めているがいまだじーさんに勝てねーんだよ。マジで強すぎ。
この舞闘術は舞の動きを基本に手や足で相手を殴打するほかに羽衣を使って相手を切り裂くことを前提にした武術で、本来の支援・補助の舞を戦闘に特化させたと言ってもいいものなのだ。
他にも羽衣に自分の属性を付加させることでさらに攻撃的な動きを可能とすることができる。
俺の場合は得意属性は光と風と水。
光なら悪魔などの魔に属するものに効果的な退魔の舞を、風ならあらゆるものを真空刃で切り裂く風の舞ができる。
ネギなら属性は風と雷と光の属性だな。
衣装も種類があって踊り手としての正装、戦闘用衣装、通常の衣装の3つに分けられているんだ。
普段の練習や踊るときは通常の衣装で踊るんだけど、特別な儀式や大規模の魔法を行使するときは正装を着て踊るんだ。
それで舞闘術の特訓の時はこのどちらとも違う戦闘用の衣装を着る。
戦闘用衣装はその名の通り戦闘に適した衣装で魔法障壁も物理障壁も通常用衣装の比じゃないほど高く、また魔法の増幅効果も高い。
装飾の方もシンプルでひらひらした裾やベールも遊びが少ないくらいのものだけど、踊り子としての体面も保っている。
それでこの戦闘用衣装なんだが……俺もネギもまだ持ってねーんだよ。
正装用衣装も戦闘用衣装も本来なら一族の年長者……というより『母親』が作ってくれることになっているんだが、ナギはいねーし、じーさんは忙しいし、ネカネ姉はああ見えて裁縫仕事は大の苦手。
一族のみんなが石化した後はネギはまだ幼くて俺が針仕事やっていたんだが、通常用衣装しか間に合わなかったんだよな。
今はリトさんの指導の下で残りの衣装も作っているんだ。リトさんが作ろうかって申し出てくれたけど俺が通常の衣装を作ったんだから、戦闘用も正装用も作ってやりたいんだ。
さすがに付与効果(エンチャント)はリトさんに頼むけどな。
そうやって俺は修行を続けている。
そして今日、近くの町で俺の最初の公演が始まる。
修行上の遺跡からそんなに離れていない町。
そこのそこそこの大きさの酒場が俺の最初のステージ。
ラカンさんは認識疎外のメガネを掛けて万が一を備えて待機中。
リトさんは伴奏のために俺のバックにつくことになってる。
ただ……ラカンさんは護衛中だっていうのに酒をかっくらっているのが心配だよ。
本当は俺一人だけ町に送り出す気だったんだが、リトさんが俺についていくことになったから仕方なくついてきたって感じなんだよな。
踊り手だろうと男ならこのぐらい乗り越えろ!って……護衛だよな?俺の護衛で仕事引き受けたんだろうな!?
まあいいさ。リトさんのおかげでちゃんと?護衛してくれているしな。
俺はステージが始まる前に衣装の最終チェックを行い、リトさんはバックミュージックで使うリュートのチェックを行う。
今回は口周りの布はなしだ。
うう、今まで村のお祭りとかで踊ったことはあるけどあれはみんな知っている人間だし、ネギと一緒っていうのもあったから緊張もそんなにしなかったけど……これから知らない人間の前で踊るのかと思うと体が竦む。
あんなに軽く考えていた修行がこんなに緊張するもんだなんて考えもしなかったな。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫です。ちょっと緊張してしまって……」
「そうか。私もときどき酒場のステージで踊ることがあるんだが、最初はアギくんのように緊張してしまったよ。だけどジャックがリュートを弾いてくれたとき、すぐに無くなってしまった。」
「え?ラカンさんってリュートを弾けたんですか?」
おいおい、楽器なんて繊細なものできたのかあのおっさん。
「村にいる間に簡単なものを覚えたみたいなんだ。ジャックは『天才の俺様に不可能はねぇ!』っていうけどね。だけどそのおかげで……ジャックが傍にいてくれたおかげですごく心の支えになったんだ。」
リトさんはそう言って俺にそういった支えはないのかって訊ねてきた。
そう言われて俺が真っ先に思いついたのはネギのこと。
この世界に転生してからずっと一緒で、小太郎とはまた違う意味で支えてきて、俺も支えられた兄弟。
だけどそのネギはここにはいないし、他に支えになったような人間は強いて言えばじーさんやネカネ姉、アーニャくらいだ。
他に頼れる人間なんて……
「おい!もうすぐ出番だぜ!」
俺が考え込んでいるとこの酒場の店員が控室に入ってきた。
考えるのは後だ。今は修行のことを……!!
人、人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人
たくさんの人が俺を見てる。
人間だけじゃなく亜人もたくさんいる。
ここはそこそこの大きさの酒場だって言っていたからな。この人数の多さはある意味納得だ。
だけどこういう場では酒や飯が主で、音楽や踊りなんてオマケだというのがほとんどのはずだ。
そのはずなのに、多くの人間が俺を見ている。
ある人はこんなガキが本当に踊れるのかとう言う懐疑的な眼で。
ある人は俺がどんな無様を見せるのかというニヤニヤした眼で。
ある人はこれから何が起こるのか知らず、不思議そうな目で。
俺の被害妄想かもしれないけど、そんな視線ばかり感じる。
ゆっくりとリトさんがリュートを奏で始める。
村では何度もお祭りのときに踊った祝い唄だ。
音楽が始まって少しあるインターバルの間に俺は辺りを見た。
たくさんの視線に体が強張ってしまう。
意識を強く保っていないとステップを忘れてしまいそうになる。
ちくしょう、俺がこんなに本番に弱い人間だとは思わなかったぜ。これでもそんなに緊張しない性質だったのによ。
もうすぐ舞の最初のステップが始まるときに俺は不意にある一点に目がいった。
俺と同い年くらいの白い髪に薄い水色の学生服のような服を着た少年……
「あ……」
……なんでいるんだよ。
なんで……そんな愛しいものを見るような、蕩けるような熱い目で見るんだよ。
いつもの無表情なおまえはどうしたんだよ。
俺、おまえにここでステージすることなんて話していないんだぞ。
本当におまえは俺を愛しているなんて戯言……信じているのかよ。
感情なんてよく解らないなんて言ってるくせに。
俺はいつの間にか解けている体の強張りに気づかずに最初のステップを踏んでいた。
<???side>
俺は転生者だ。
神様に哀れだからと言われてろくに原作知識もない漫画の世界に送られて適当に傭兵稼業している。
最近は転生者ばっかりが集められているギルドがあって、俺も勧誘された。
特にやることもないから入ったけど、そのギルドからの命令に俺は眉をしかめた。
『アギ・スプリングフィールドを抹殺』
なんでも本来ならいないはずの主人公の双子の兄弟らしい。
それくらいなら俺もなんとも思わなかったが理由にあきれた。
ギルドの連中は自分たちがハーレムを作るために邪魔ものを排除するだと。
俺は一応傭兵をやっていたから依頼には応えるけど、こんなバカバカしい理由は初めてだ。
それで俺はそのアギがいるであろう酒場にやってきた。
今日のこの時間。
そいつが踊り子としてステージに立つと聞いてが、ターゲットは男と聞いていたんだが……大丈夫なのか?
俺は酒の肴にはなるかと軽い気持ちでステージが始まるのを待った。
初めてのステージらしいから、最期くらい華を持たせてやろうと思って。
それからしばらくしてステージの幕が上がって俺より1,2歳くらい下の少年とやたら綺麗な男が出てきた。
あれがアギ・スプリングフィールドか。
可哀そうに身体ががちがちじゃないか。
綺麗な衣装に身を包まれているが、顔を俯けていてはそれも半減している。
アギは曲が始まってから顔をあげた。
まだ体の強張りが解けていないのか緊張が見て取れる。
しかし、あいつがある一点を見たときそれは一変した。
笑ったのだ。
雪が融けるように、華が開くように、宝石の原石が顔を出したかのように……笑った。
本人が気づいているか解らないが、わずかに頬を紅潮させて淡く、儚く……綺麗に笑った。
それから始まる踊りにも俺は見惚れてしまった。
曲とともに活き活きと楽しそうに踊るさまは目に眩しいほどで、彼が身に着けている腕輪とアンクレットからの清涼な鈴の音は耳を楽しませた。
他の客も引き込まれているのか喧騒はなく、彼の鈴と曲以外の音がしなかった。
それからどれほど経ったのだろうか。
俺は踊りが始まってから一度も酒を口にせず、ただ彼の踊りを一心不乱に見続けた。
やがて曲が止み、彼の動きも止まる。
彼は優雅に一礼するとリュートを弾いていた男と舞台から消えた。
俺はしばらく余韻で動くことが出来なかった。
とりあえずギルドへの脱退申請と依頼の違約金をだそう。
傭兵クロウ・ブレイズ
現在12歳 男。
これが彼の前世、現世を合わせて初めての恋の始まりであった。