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「それじゃまずはかかってきな!」
はい、アギ・スプリングフィールドです。
あの後ジャック・ラカンに問答無用で誘拐されました。
こいつ、俺の話もクルトさんの話もろくに聞かずにクルトさんに俺の師匠をする請求書だけ押し付けていきやがった。
俺が何度も離せって言っても意味がなくて、気が付いたらメガロメセンブリアより遠く離れた、原作でネギがラカンさんに『闇の魔法』を学んだ遺跡に連れてこられました。
それでなんかいろいろと言いたいこと言っていつの間にか模擬戦する羽目になっちまったよ。
俺、こんなバグキャラと渡り合えるほどつよくねーよ!!
けど、多分だけど何言っても通じ無さそうな気がする。腹くくるか。
シャン
俺は腕輪を一振り、踵を鳴らしてそれぞれ鈴を鳴らす。
シャンシャンシャン
それを数回繰り返すと腕輪とアンクレットを中心に光が俺の体に纏わりつき、一瞬で俺の着ている服が変わった。
どこかエキゾチックな形式の白を基調とした踊り子の衣装。ところどころ入った金糸の紋様が光に反射して衣装をより一層神秘的に魅せていた。
靴も変わってそれも白い布製のものになり、頭も肩上ぐらいの長さの薄いベールの付いたティアラが身に着けられ、口元も隠す布も現れる。
最後に俺の両手首のブレスレットを繋ぐように多少幅の広い羽衣が俺の肩にかかる。
これが俺の踊り手としての衣装であり、腕輪とアンクレットのもう一つの機能だ。
このアイテムを使うことによって俺はいつでも踊り手として踊ることが出来る。
正装用でも戦闘用の衣装でもないのが痛いが、この衣装でも通常の魔法障壁よりも高い防御力もあるし、魔法の増幅能力もある。
そう簡単に負けてたまるか。
ラカンさんは俺の衣装が変わったことに面白そうに見ていたけど、なぜか途中からどんどん顔色が悪くなっている。
最後には顔面蒼白、汗がだらだら流れてこころなしか体が震えている。
おーい?あんたから振ってきた模擬戦だよな?
なにそんなに震えて……つか、怯えてんだよ!?
あんた本当に最強の剣闘士か!?
「おーい、ラカンさーん?戦うんじゃないんですかー?」
俺が一歩前へ出ると、ラカンさんは後ろに一歩下がる。
「「……」」
俺はまた前へ一歩、ラカンさんは後ろに一歩。
また前へ、また後ろへ。
「……ラカンさん?」
「おまえ……ナギの息子なんだよな?」
なにをいまさら?
「そうですけど?」
「……ま、まさか踊り手候補じゃ……ねーよな?」
ん?この人は踊り手のこと、つか一族のこと知ってるのか?
いや、母さんの戦友だし知っていておかしくないよな。さすがに出生の秘密までは知らされていないだろうけど。
でもクルトさんは踊り手のこと知らなかったっぽいし……なんで知ってんだ?
「そうですけど……か、父さんから聞いたんですか?」
あぶねー!今、母さんって言いかけた!!
俺がネギに注意していたのに、俺がやっちまってどうする!?
「ああ、いや……その……」
ラカンさんはしどろもどろにどもって、あちこちに視線を泳がせたりなんか挙動不審だな。
「あの~……「こらーーーーー!!!ジャックーーーーー!!!!!!!」……へ?」
スッコーーーーーーーーーンン!!!!
いきなりラカンさんの頭めがけて銀色の丸い球の付いた棒……俗にいうお玉が飛んできて、見事命中した。
お玉は思ったより威力があったみたいでラカンさんはそのまま倒れこんでしまった。
俺はお玉が飛んできた方向を見ると見事な赤銅色の髪をなびかせた美人さんがいた。
あれ?この人どっかで……?
美人さんはそのままラカンさんに近づくとげしげしとラカンさんをその見事なおみ足で踏みつけている。
そうやって気が済んだのか今度は俺の方に近づいてきた。
彼(・)が一歩歩くたびに聞き覚えのある鈴の音が俺の耳に届く。
この数年間毎日聞いていた音色。
俺は無意識に彼の両手首と足首を確認した。
両足はズボンに隠れて解らなかったけど、手首には色こそ違えど間違いなく俺と同じ紋章の刻まれたブレスレットを身に着けていた。
俺と同じ一族の人間。しかも男。
「大丈夫?怪我とかはしていないかな?」
優しく微笑みかけてくれた人に俺は思わず見惚れてしまった。
うっ不覚!男にトキメクなんて!フェイトにだってトキメいたことなんてなかったのに!!
「ありがとうございます。それより……あなたは?」
俺は気を取り直してお礼を言う。
こういうことはキチンと礼儀正しくな。
「私はリト・スプリングフィールド・ラカン。ジャックの妻だよ。」
そう言ってほほ笑む人に俺は思わずナギの面影を見てしまい、リトさんの言葉を理解するのに一拍かかってしまった。
つーか……この筋肉ダルマの妻って……え、ええ?
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!?????????????」
「聞いているよ、一族のみんなのことは……」
あの後お互いに事情を説明したところ、俺が村での襲撃事件を話したところリトさんは悲しそうにそう言った。
あの襲撃事件に関してはある程度の緘口令が敷かれているけど、ラカンさんほどになるとやっぱり伝わっているのかな。
ちなみにラカンさんはリトさんになにか食べ物を探してほしいとどこかに追いやった。ラカンさん、尻に敷かれてんだな。
それより気になることがあるんだが……
「あの、リトさんはラカンさんの妻だって言いましたけど、一族の夫になる人は基本的に村に住むはずじゃないんですか?」
「ん?ああ、確かに一族の掟ではそうだけど私はラカンさんを追いかけて村を飛び出してしまったんだよ。」
村を飛び出したって……見かけに似合わず豪胆な人だな。
「そう言えば名前だけしか言ってなかったけど、私はナギの弟なんだ。踊り手候補から外れてしまったけどね。」
「うぇ!?母さんの弟って本当ですか!?」
うそ!?てっきり一人っ子だと思っていたのに、ここでも原作との齟齬が出てるんだな。
どうりでナギの面影があるはずだ。兄弟なら納得だ。
「そうだよ。踊り手は必ず男子二人は産まなければならない。確実に後継者を作るためにね。だから私たちの母は私たち二人を産んだんだ。でも、ナギは踊り手としての腕も一流だけど、同時に好奇心も一流だからね。ナギが魔法学校を中退した時は驚いたけど、同時に納得もしたものだよ。」
そう言って朗らかに笑うリトさんはナギに似ていないようで、どこか似ている。
こういうところを見ると兄弟だって納得できるな。
「納得……ですか?」
「そう納得。一族の人間は外の常識もある程度学ぶから、外を見たいと思う人間は当然出てくる。そんな人間は同性と結婚することにも疑問を持つからね。ナギもそんな人間の一人だった。普段からヤンチャで評判の悪餓鬼でもあったナギが魔法学校を中退したと聞いたときはやっぱりやったなって村の人と笑ったものだよ。」
リトさんは空を仰ぎながら懐かしむような目をする。
俺としてはラカンさんとリトさんの馴れ初めが気になるんだけどな。
「あの・・・・…聞いていいですか?」
「ん?なにをだい?」
「ラカンさんとはどうやって出会ったんですか?」
リトさんは顔を赤くしはにかみながら頬をかく。
男なのにその仕草が妙に似合うし可愛らしい人だな。
「ジャックとはナギが大戦から帰ってきたときに出会ったんだ。ナギがたくさんの男を連れてきたときは驚いたものだよ。ナギは村を出るまで『絶対に男と結婚なんてするもんか!』って言っていたくらいだからね。」
ああ、なんか想像できるなそれ。
「てっきり女性の仲間を作ると思ったら、構成員全員男のパーティだったんだ。その中の一人と恋仲になったのにも驚いたな。そして私はラカンさんに一目惚れしてね。それからずっとラカンさんを追いかけて追いかけて……振り向いてもらうのに15年も掛かった。」
そう言って楽しそうに笑うリトさん。
つーか15年って……よく追い続けられたな。
俺なら絶対にどこかで挫折してるぞ、それ。
「ああ、どんなに無下に扱っても撒いても絶対に俺に追い付いてきたんだよな。」
おっとラカンさんが帰ってきたな。
両手にはたくさんの果物と足元には猪に似た動物がいた。今日のご飯はしっかり確保できたみたいだな。
「本当についていくのが大変でしたよ。ラカンさんは険しい峡谷や密林のジャングルに入っていったり、追い付けない速度で走って逃げたりして。」
「それでもリトは最後まで俺を追いかけ続けたよな。踊り手は身体に傷をつけちゃならねえって聞いたのによ。ボロボロになりながらも俺を追いかけてきたな。」
「そうですね。でも身体にいくら傷をつけられても、ジャックを諦めることだけはできなかった。だから5年前ジャックに受け入れてもらった時は嬉しかった。」
「リトの根性には敗けたよ。今だから言うが、それより前にリトに惚れはじめていたんだぜ。」
「知ってました。ジャックがそれを自覚して苦悩していることも。だから余計に諦められなかったんです。」
そう言って笑いあう二人の空気は間違いなく夫婦のそれだった。
しかもかなりのバカップルの類だ、これは。
ネギが魔法世界に来るまで俺は一人でこの空気に耐えなきゃいけねーのかよ!!?
俺はなんとなくやさぐれた気分でラカンさんが持ってきてくれた果物をかじった。
ちきしょー!俺だって恋人欲しいぞーーー!!!
ん?フェイトはどうしたって?
あいつはあくまでも暫定婚約!
好意は嬉しいけど、俺はまだノーマルなんだよ。