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本編よりも若干BL度高いですけどどうぞ!
これは俺とネギがまだ魔法学校に通っている頃のお話。
さて、みなさまはヴァレンタインと聞いてどのようなものを思い浮かべる?
日本人ならやっぱり好きな人にチョコを渡すのを想像するよな?
だけど俺がいるここ英国では違う。
カップルとかなら互いに送りあうけど、ほとんどは男性から女性に贈るのがメインだ。
贈るものもチョコレートじゃなくてヴァレンタインカード。
しかも名前を書かずに贈るのが伝統なんだと。
カード以外にも贈り物はあるけど、とりあえずカードは必須だな。
そんで俺がなんでこんなことを聞いているのかって言うと……今朝から台所から甘ったるいカカオのにおいが充満しているからです。
ネギが上機嫌で鼻歌を歌いながら。
「ネギ~……ふつーにカードでいいだろ。なんでまたチョコなんて……」
俺はチョコを湯煎しながら隣で生クリームを泡立てているネギに呆れた目を向ける。
今作っているのが誰の口に入るのか解っていながら手伝う俺も俺だが……ネギの奴もべた惚れすぎだろ。
「だってやっぱり小太郎は日本人だし、こっちの方が小太郎も解りやすいかなって。」
小太郎が喜ぶ姿を想像したのかネギはますます上機嫌に手を進める。
はいはい、ラブラブでようござんしたね。
俺はため息をかくしてネギが調味料にとんでもないものを混ぜようとしているのをさりげなく邪魔していく。
さすがにこれで二人の仲がこじれるのはしのびねーしな。
あと、他の人間の安全確保のために。
ほれほれ高麗人参は身体にはいいがチョコに使うな。
鷹の爪も辛すぎるって。
「そういえばアギはカードを贈るの?」
「あ?誰に?」
俺は不意にそう言われてある奴の顔が頭に思い浮かんだが、それを打ち消してすっとぼける。
「誰ってアギの婚約者だよ。いつもカード貰っているじゃないか。」
「名前はないんだからあいつとは限らねーだろ。母さんの名声目当てで俺たちの近づいてくるやつはごまんといるじゃねえか。」
一族の実態を知らずにただナギの子供ってだけでそのおこぼれにあずかろうとする人間は俺が思っていたよりもずっと多い。
その証拠に毎年のヴァレンタインカードの相手を探ってみると俺らよりずっと年上だったり、どっかの名家の奴だったりが大半だった。
あとは俺らがガキだからのからかい半分、親愛半分だったりする。
だって腹黒の奴ら以外のカードには一切「愛の言葉」って奴がなくて親愛の言葉ばっかりなんだぞ?たまに悲しくなる……
「でも毎年、一枚だけ別にとってあるでしょ?毎年同じ装丁の、同じ花を添えてあるヴァレンタインカード」
「うぐっ」
俺はネギの言葉に調理の手を止めてしまった。
そう俺は数あるヴァレンタインカードのなかで一枚だけ別に確保してあるのがある。
特に凝った装丁をしているわけでもないシンプルなカード。
それに添えてある水晶に閉じ込められたデザート・ローズ。
本来なら繊細なそれを簡単に壊れないように魔力が込められていて、その魔力があいつ……フェイトと同じ魔力を感じて俺はなんとなくそれだけは別にとっておいているのだ。
これには特に他意はないけど、なんとなくだな。
べ、別にあいつのことが好きだから残してんじゃねーよ!
「プレゼントを捨てるのが勿体ないだけだっつーの」
「そのわりには他のやつは別の人にあげたり、おじーちゃんに処分たのんでるよね?」
「他の奴のは怪しいからに決まってるだろ。」
「それって婚約者のことは信じているってことだよね?」
「……知るか///」
俺がそっぽ向くとネギがクスクスと笑って作業に戻る。
ちきしょー、この手の話題はこいつのほうが上だからな。
俺は頭の中がなんかグルグルしてきてキッチンを見渡しているとあるものが目に入ってきた。
「そういや……あいつアレが好きだったっけ?」
そんなこんなでヴァレンタイン当日。
ネギは都合よくこっちに来た小太郎にさっそくチョコを渡すべく二人でデートに行った。
つーか詠春さん。
いくらネギからチョコを貰えなかったからって俺に期待の眼差しを向けるのはやめてくれ。
用意してないから罪悪感でSAN値がガリガリ削れるから!
「お、俺ちょっと森のほうに行ってくるな!」
俺はついに耐えきれなくなって森の方に逃げて行った。
後日、詠春さんにチョコを贈ったのは言うまでもない。
「はあ~どうしたもんかな~……」
俺はひとりでぶらぶらと森を歩きながら手の中のモノを見る。
あのとき、ネギの手伝いの合間に別に作っておいたチョコ。
ほんの気まぐれで作っておきながら、恐らくこのチョコを食べさせるような相手はいないだろう。
「あいつの連絡先って……いつも変わっているからなぁ」
あいつは……フェイトは魔法世界中を暗躍しているから一つのところに留まることがない。
手紙のやり取りだってあいつが手紙をよこしてきて、返信はこの場所にって指示がある場所に送るのが基本だから本当に場所がわからないのだ。
もし俺にチートオリ主みたいな力があるなら、あいつの居場所くらいすぐに掴めるかもしれないのに……
「どこに送ればいいんだよ……」
「なにをだい?」
俺が考え事をしていたちょうど、本当にタイミングよくフェイトが俺の横にたった。
俺もそこそこ鍛えているつもりだけど、まったく気配を感じなかったぞ。
「フェ、フェイト?今日は来ないんじゃなかったのか?」
だから俺、これの送り先に悩んでいたのに!
「そのはずだったけど予定がキャンセルしたから会いに来たんだ。会いたかったよ、アギ」
そう言ってフェイトは俺を抱き寄せて頬にキスしてくる。
これはこいつが来る時の挨拶みたいなもので、最初はちょっと抵抗していた俺だけど諦めたな。
「それで?今日、誰に、なにを!送るんだい?」
フェイトは一つ一つの単語をはっきりと強く言いながら俺の顔に手を添えながら笑っているが、付き合いの長い俺ははっきりわかった。
……いもしない奴に嫉妬しているのか。
俺はため息を吐くと手に持っているものをフェイトに押し付ける。
少しぐらい乱暴に扱ったところで壊れるものじゃないからいいだろ。
反射的にだろう受け取ったフェイトはそれにわずかばかりに目を丸くしている。
俺はそれに少しばかり気分がよくなった。
「アギ……これ」
「いつもおまえに貰ってばかりだからな。たまには俺からってな!」
俺は恥ずかしくて背を向ける。
顔中が熱い。多分、耳も赤くなっているんじゃないか?
俺が誤魔化すように頬を拭っていると後ろから抱きしめられた。
俺のほうがフェイトより若干小柄だから、その腕のなかに納まってしまう。
俺は振りほどこうかどうしようか悩んでしまい、今日はヴァレンタインということで特別抵抗しないことにした。
「ありがとう、アギ。開けてもいいかい?」
「おまえにやったもんなんだから、好きにすればいいだろ。」
俺はついそっけなく答えてしまったが、フェイトは気にするようなことがなく、俺を抱きしめたまま包みの封を開けた。
中から出てきたのは小さい丸い粒のチョコレート。
それはただチョコを丸めたものじゃなくコーヒー豆をコーティングしたいわゆるチョコビーンズだ。
たしかフェイトはコーヒーが好物だったから用意したけど、甘いものこいつ平気だったっけ?
「これは……コーヒービーンズ?」
「ん。フェイトっていつもコーヒー飲んでるって聞いているから、これならおまえも食べれるかと思ってな。その……気に入らなかったか?」
「そんなことはない。嬉しいよ、君が僕のことを知っていてくれているのがすごく」
フェイトはそういって一粒口に含んだのが見えた。
初めて作ったけど、そんなにまずくもないと思うけど……こいつコーヒーに関しては厳しかったような……
「美味い」
「そっか、意外とチョコって気を使うこと多いんだよな。俺、あんまり料理したことないけどもうちょっと覚えてみようかな。」
「そうなったら僕に味見させてくれないかな?君の手料理を他の人間に食べられるのは腹が立つ。」
それに俺は思わず噴き出した。
こいつは俺に関して驚くほど執着と独占欲を見せる。
俺に気づかれないように気を使っているみたいだけど、こうまで露骨にするのは珍しい。
俺はそんなフェイトにわざともたれてやる。
フェイトはそれに体勢を崩すわけでもなく、なんなく俺を支える。
普通なら男の独占欲なんて男の俺は気持ち悪がっておかしくないのに、心地よく感じている自分がいることに気づいている。
前世でもここまで一人の人間に想われたことがない。
俺自身フェイトのことを想っているのか?と聞かれたら首を傾げるが、こいつからの想いは悪くないな。
「それじゃお前がいない間に作って失敗作は処理しないとな。」
「失敗はそうそうないと思うよ、初めてでこれだけ作れるならね。」
「んっ」
そう言われてフェイトはチョコを俺の口に入れる。
思わずフェイトの指を軽く噛んでしまい、俺はフェイトの指に舌を当てて怪我がないか確認したけど、この分ならなさそうだな。
フェイトの指がなくなって広がるビターの味に俺は眉をしかめた。
「やっぱ俺には苦いな。」
「それなら今度は僕が甘いチョコを用意するよ。」
「あんがとな」
まだ子供の俺にビターチョコは早いな。
俺は口をもごもごしてさっさとチョコを飲み込んでしまおうとしていると目の前にシンプルな封筒と小さな手のひらサイズの小箱が差し出された。
毎年、この日に送られるそれに俺は苦笑しながらも受け取る。
封筒の裏にはいつも通りSWALKの文字。
こいつ……ほんとうにどんな顔でこれ書いてるんだよ、恥ずかしい奴。
「My Heart belongs to you.アギはどうだい?」
耳元でささやかれるそれに身が竦みそうになるが、俺はなんとか抑えた。
「俺のハートがどうなるかはお前次第だよ、フェイト」
フェイトは俺の答えが気に入ったのか、気に入らなかったのかそのまましばらく俺は抱きしめられたままだった。
そうやって俺とフェイトは森でまったり過ごしましたとさ。