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俺とバルムンクはパーティこそは組まなかったが、同じエリアに向かった。

お互い初心者(俺の場合少し違うけど)だから、かなりレベルの低いエリアを選んだ。

バルムンクはフラグメント自体は初心者だって言ってたけど、ゲームはかなりやり慣れていてちょっとぎこちなかったあっという間に動きや表情のモーションをマスターしてた。

俺も体が動きを覚えているかのように、自然とスキルが使えた。

どっちかっていうと自分の意思で体を動かしたというより、体に振り回されている感があるな。

やべ・・・ちゃんと自分で動けるようにならないと、この世界はかなりデンジャラスになるな・・・

獲物も手に馴染むけど、なんか物足りない。

やっぱ都合よく最強主義!・・・ってわけにはいかないか。地道な努力が一番・・・かな?
 


.hack//hydrangea
『認識』







ザシュッ

俺がゴブリンを切り裂くと、深く息を吐いた。

幸いにも肉を切る感触はしなかった。

確かに手ごたえはあったけど、生き物を切る感触がなくて俺はほっとした。

もしこれが生き物なら、俺・・・確実に吐くな。

俺はバルムンクのほうを見ると、バルムンクも丁度ソードマンもどきを切り伏せていた。

「フラグメント初心者っていうわりには、いい動きじゃねぇか。」

「ハイドの方もなかなかだ。初めての戦闘だから少し不安だったんだが、この分なら薬使う必要もなさそうだ。」

バルムンクの言葉に俺はクスっと笑うと、次の魔方陣に歩み寄った。

魔方陣が発動されると同時に、俺はスパイラルエッジをぐっと握りなおした。

手が僅かながらも汗ばんでいることが自分にもわかった。

バルムンクの手前、俺は余裕のある振りをしているけど、実際は余裕なんかない。

今のところ、俺は怪我をせずにすんでいるけど、もしこの世界で俺が怪我を負ったらどうなるのかわからない。

もしかしたら痛みを感じるかもしれない。

死んだら他のプレイヤーのように"おばけ"(PCが灰色になってパーティの仲間のまわりをうろつく。戦闘不能)にはならず、"俺"自身が消滅を意味するかもしれないと思うと、怖くてたまらなかった。

だからといって、なにもせずにただタウンをうろつくようなことはしたくない。

こうやってフィールドやダンジョンに行って冒険したいという心が俺の中にあるのだから。

「夢幻操舞!」

「クロススラッシュ!」

俺とバルムンクのスキルがモンスターにHITした。

砂のように消えるモンスターを見ながら、俺はいつか自分がこんな風に消滅するのかと思うと背筋が寒くなった。

「どうしたハイド?なにかステータス異常でもあったのか?」

バルムンクが心配そうにこちらを伺う。

「いや・・・俺達もやられたら、あのモンスターのように消えるのかな?って思うとな・・・」

「?・・・やられるとセーブした直後の状態に戻るだけだろう?」

「・・・そうだな!わりぃ、変なこと聞いちまったな。」

俺は笑ってバルムンクとその話を終わらせた。

あ~あ、あんまり難しく考えるのって俺向きじゃねぇや。

やられたらやられた!死んだら死んだらのお楽しみじゃねぇか!!

「アイテム神像部屋までまだあるし、気楽に行こう!」

俺は声高らかに言うと、先を進んだ。

 

 

 

 


「バルムンク!!」

「!?」

ほんの少しの油断。

バルムンクの背後からモンスターが襲ってきた。

俺は咄嗟にバルムンクに体当たりして、モンスターの攻撃を受けてしまった。

次の瞬間背中を走る激痛が俺を苛んだ。

この体自体には、血なんて流れていないけど痛みは本物。

俺はなんとか片手でモンスターを倒すと、その場で膝を突いた。

「ハイド!どうしたんだ!?」

「な・・・なんでもない・・・ちょっと、回線不良に・・・な・・ってるだけだから。」

「ならいいが・・・PCの方はすぐに薬で回復させる。」

あんな下手な言い訳を信じるなんて・・・天然にもほどあるぞ?

バルムンクは俺を回復させる。

その途端、あれほどまでにあった激痛がすぅぅぅっと引いていった。

・・・やっぱり俺の体はこの世界で体験した感覚は全てリアル同様に感じるんだ。

俺はゆっくり立ち上がって、自分の手のひらを見る。

他の奴らにはここはただの仮想空間。

だけど今の俺にとっては、

 

 

紛れもない現実

 

 

俺は自分の手を強く握り締めた。

あの痛みは忘れちゃいけない。

あの痛みこそが、俺をここを現実だと思い知らせてくれた痛みなんだから。

俺がここにいるという"認識"を与えてくれたものだから。

俺がここで"生きている"と教えてくれたものだから。

絶対に忘れちゃいけない。

俺はバルムンクに向き直るとにっこり笑った。

「よっしゃ!そろそろ次行くぜ!!」

「ああ!」

バルムンクも笑って一緒に歩く。

ところで少し気になる点がいくつか・・・

「ところでさ。バルムンクのそれってロール?」

ロールにしたってなんか俺の知ってるバルムンクとはちょっと違うぞ?

俺が聞くとバルムンクはちょっと照れたように笑った。

「一応そうだが・・・ロール自体初めてでな。変か?」

うそ!?ロール初めて!?

うわー・・・意外な事実発見したな。

「・・・俺の見立てでは半分くらい素が出てないか?」

「やっぱりそうか?自分でももっと凛々しい騎士のようなロールをしたいのだが・・・」

俺の知ってるバルムンク。

石頭で頑固者。それでもちょっと間の抜けてるハッカー大嫌いの清廉潔白人間。

ちょっと世間ずれして天然も入っているよな。

なるほど・・・あの性格は長年のロールのためか・・・

「大丈夫!今はそんなでも、いつか自分のイメージどおりのロールができるって!!」

そして黄昏の時には是非ともハイドランジアでからかわせてくれ。

俺の下心にバルムンクは気づくことなく、言葉通りに受け取り笑顔で頷いた。

・・・だからあんたリアルで幾つだよ・・・

こうして・・・俺の初めての冒険は終了した。

俺自身・・・様々なものを学んで・・・

 

 

 

 

水の都マク・アヌ

俺は裏路地の人目の付かぬところで、適当に木箱の上に座るとメニュー画面を引っ張り出した。

バルムンクはタウンに戻ってすぐに落ちたから、ここにはいない。

さて、今から俺がするのは改めての現状確認。

ステータス画面とかで俺の名前はどうなっているのか、俺の能力値とかでなにか変わっているものがないか、その他でのチェック等だ。

俺はまずメニュー画面自体を見てみる。

やはりというか、当然というかログアウトのコマンドはなく、代わりに何故かBBSと表記されたコマンドがあった。

俺はそれを開くと、そこに表示されたのは紛れもなくBBSそのものだった。

親切にも下のほうには俺も書き込めるように、ノートパソコンのと同じようなキーボードがある。

なるほど、タッチパネルみたいなものか。

俺はBBSを一通り読み終えると、次にステータス画面を開いた。

さて、表示されている名前は天宮龍樹か、ハイドランジアか、ハイドか。

____________________

PC名1:ハイドランジア
PC名2:ハイド

職業:錬装士

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


WHAT?

 

 

 

 

 

俺は自分の目が信じられなくて、何度も目を擦ったり瞬きを繰り返したが、表示されているものは変わっていない。

PC名が2つある。

まぁこれはよしとしよう。

十分に考えられる事実だ。

むしろこれでメンバーアドレスを渡す際に表記される名前を固定できるなら、これほど便利なことはない。

問題は2つ目。俺の職業。

錬装士

マ・ル・チ・ウ・エ・ポ・ン

マテマテマテマテマテマテマテマテ・・・!!!

ここはR:2じゃなくて、R:1・・・その前にB版のフラグメントだっての!!!

その職業は今現在ないはずだぞ!?

確かR:2になってから付け加えられた職業だって・・・

格好だって典型的な双剣士じゃねぇか!!

俺は何人も見たぞ。同型の双剣士は。(ここまで鮮やかな青の奴はいなかったけど。)

いくらローブで格好が変わるからって・・・・・・!?

まさかあれがジョブエクステンドの代わりなのか?

俺の他の獲物ってなんなんだよ・・・ローブからして杖っぽいけど・・・その考えは浅はかかな?

双剣以外に今のところ武器はないから、解らずじまいだな。

俺はため息を吐くと、ローブを着る。

今度はハイドランジアとしてフィールドに出るためだ。

今日はいろいろと収穫があった。

俺のここでの痛覚や触覚、ステータス画面の名前、BBS、職業。

そして、ここから導き出される答えは・・・俺は結局ソロプレイするしかないという事実だ。

いくら名前を任意に選べるとしても、職業がこれじゃ無理だっつの!!

パーティ必須のイベント出られねーじゃねぇか!!!

俺はうがー!と頭をかき回して一通り騒ぐとちょっと落ち着いた。

俺はフードを被るとタウンの大通りに出る。

まわりの奴らが物珍しそうに俺を見るが、そんなのは無視だ。

俺はカオスゲートに近づくと適当にエリアを選ぶ。

目的?

そんなの決まってる・・・

 

 

 

憂さ晴らし♪
 

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