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真っ白い大鎌を携えたPCが噂になっている。

そのPCは黒いローブを身にまとい、天気のいい月夜のフィールドに現れる。

そして出会ったプレイヤーに傍観、助言、敵対する。

そのPCの名は・・・
 


.hack//hydrangea
『小石』







最近ハイドランジアのことがBBSで噂になっている。

その姿と武器が今の仕様から離れているから。

おかげでチートキャラ扱い。

日々紅衣の騎士団から追い掛け回されています。

碧衣のほうは、アルビレオがなにか思うところがあるみたいで大丈夫だけど。

俺は最近ハイドとして活動している。

24時間”The World”にログインして・・・フラグメントからやっている俺としてはそろそろレベルがカンストしそうだ。

上限しらないけど・・・

そんな俺がやることといったら、初心者のサポートくらいしかない。

ただ・・・俺は絶対にメンバーアドレスを渡さないし、受け取らないから別の意味でBBSで有名になっている。

それで俺が何が言いたいのかと言うと・・・

「メンバーアドレス。ちょーだい?」

たまたまソロでダンジョン来てたら、芭蕉の弟子に会っちゃいました。

双剣を構えて、にっこり笑っている。

あ~・・・どうしようかな?

俺はばりばり頭をかくと、楚良から目を離さないように双剣を構える。

後ろ取られるへまはしなかったけど、下手すれば接触した瞬間にメンバーアドレス渡されかねないからな。

「わりぃが、俺は誰にもメンバーアドレスを渡さないし、受け取らない。」

俺の答えに楚良は面白そうに顔を歪める。

「うん、気に入った。さすが噂の難攻不落のハイドだよ。」

「へー俺の名前知っているのか。・・・それで?力づくで貰うつもりか?」

「うん♪」

楚良は楽しそうに言うと、こちらに踊りかかってきた。

レベルは恐らく俺のほうが上。

けれど、あっちはPKやってるだけあって操作技術は結構高いはず。

俺がどれだけ動きについてこれるか・・・

俺は迫り来る双剣を弾くと、もう片方の剣で楚良の胴体を狙う。

楚良は器用に体を捻ってそれをかわすと、高く飛び上がって俺から離れる。

「うっわ!本当に強いねぇ。」

「お褒めの言葉ありがとう。俺、PKはあんまりしたくないんだ。大人しく引いてくれない?」

モンスターを倒すときの感触は無機物を壊す感じだけど、PCを斬る感触は間違いなく生き物を切り裂く感触。

一度PKを返り討ちにした時、その感触に俺は本気で吐き気を覚えた。

今もその感触には慣れない。慣れたくない。

キルするたびに吐き気と戦わなくちゃならない。

PCの首を飛ばしたときなんて本気で怖くなった。

だから・・・俺にキルさせないでくれ。

「う~ん?どうしよっかな~?」

楚良はなにか考える仕草をするが、こちらを見てにやりと笑うと再び双剣を構える。

「やだ♪ハイド君ってなかなか見つからないし~、今を逃すとしばらく見つかりそうにないもん。」

俺は珍獣扱いかい!?

今の俺はものすっごい嫌そうな顔をしているだろう。

こういう時って・・・

「三十六計逃げるにしかず!」

「あ!?」

俺はさっさと妖精のオカリナを使うと、続けてゲートアウトする。

最近なにかと追われる身なんだから、これ以上ストーカー増やさないでくれ!!

 

 

 

 

 


「あ~どうすっかな~?」

俺はドゥナ・ロリヤックの広場でぼーっと人々が通り過ぎるのを見ている。

見慣れたPCもいれば、初めて見るPCもいる。

ここでは毎日出会いを楽しめる。

「はぁ~・・・」

「ため息ばかりだと幸せが逃げていくぞ。」

影とともに声を掛けられて、俺がそちらを向くとそこにいたのはオルカと同じタイプのエディットキャラで、青い肌の大柄な剣士がそこにいた。

「久しぶりだな、ベア。」

俺はのっそりとベアに向き直る。

「あぁ、久しぶりだ。おまえはあちこちふらふらしているから、こうやってタウンで会うのも一苦労だぞ。」

「俺は珍獣かよ。・・・それで?なんか困ったことでもあったのか?」

俺はうだる気に聞くと、ベアはご名答とばかりに笑った。

「あぁ、ちょっと厄介なことになっちまって、愚痴を聞いてくれる相手を探していたんだ。」

「ヲイ・・・」

俺とベアはリコリスの事件からすぐに知り合った。

こうやって偶然会うと、愚痴を言い合ったりダンジョンに行ったりする程度の仲でしかないけど、それなりに良好な関係を築いている。

「でな・・・そういや、最近噂の呪文使いを知っているか?なんでも紅衣の騎士団と揉めたとかでな。」

「へ?」

ベアが話の最中に言った言葉に俺は少なからず驚愕した。

確かにSIGNの時間軸はAIバスターから少ししてからだけどな、明確にどれくらいなのかはわからない。

まさかこんなに速くとは・・・

「わりぃ・・・俺、用事思い出した。」

俺はすぐにベアと別れると、マク・アヌの自分のホームでBBSをチェックした。

最近、なにかと追われることが多いからBBSのチェックなんか忘れていたよ。

俺はすぐに目当ての項目を見つける。

確かにあった。

猫のPC、灰色の呪文使いのことが。

まだ鉄アレイモンスターに関してはなかった。

ということはまだ始まって間もないということか。

俺は装備を整えると、ホームを出た。

自分になにかが出来ると思うほど、自惚れる気はない。

けど俺の目指すキャラは『謎の人物』。

俺としては司と接触しないわけにはいかない。

 

 

 

 

 

高山都市ドゥナ・ロリヤック。

確か司はこのエリアでうろつくことが多かったはず・・・

俺は元の世界での記憶を頼りに、タウン内をうろつく。

今日見つかるとは思えないけど、それでも探す価値はあるはずだと思う。

俺は一通りタウン内を巡りカオスゲートで他のサーバーに行こうとしたら、その近くにベアと綺麗な呪文使いの女性キャラがいた。

「ベア!」

俺は今日はもう無理かなと思い、ベアのところに走り寄っていく。

「ん?ようハイド。」

「やっほ。美人のお姉さんと一緒とはやるじゃん。」

俺は茶化して言うが、ベアはそれに怒るわけでもなく苦笑する。

「最近始めた初心者さんだ。」

「BTだ。始めまして。」

へー、この人がBT。

予想より綺麗な人じゃん。

「始めまして。双剣士のハイドだ。」

俺が双剣士と言うと、BTは一瞬嫌そうな顔をした。

「双・・・剣士なのか?」

「そうだよ。これでも古株だから、なにかあったら相談に乗るよ。」

俺はにっこり笑う。

BTもつられたように笑ってくる。

「そうか。それじゃこれがあたしのメンバーアドレスだ。」

BTは俺にメンバーアドレスを渡そうとしてくるけど、俺はそれを拒否する。

BTはそれに怪訝そうな顔をする。横にいたベアがはははと声に出して笑った。

「なに?」

「BT。こいつにメンバーアドレスを渡そうとしても無駄だ。こいつは誰にもメンバーアドレスを渡さないし、受け取らないことで有名なんだ。」

「そのおかげで変な奴に目を付けられちまったんだよな。」

楚良のことは気に入っているけど、あのメンバーアドレスの収集癖は勘弁して欲しい。

「そうなのか?それならどうやって相談に乗ってくれるというんだ?」

それは俺がサポートしてきたほとんどのプレイヤーが聞いてくることだ。

そして、俺を見つけられる方法は・・・

「BBSや聞き込みで、こいつのうろついている場所を特定する。こいつは気まぐれでどこのサーバーにいるのかわかったもんじゃないからな。探しているうちに、嫌でも情報収集のスキルがあがる。」

これも結構有名なことだ。

ベアは俺の顔を見ながらジト目で言ってくる。

そう言うベアも俺のことを探しているうちに情報収集の腕が上がったクチだ。

俺はあはは~と能天気に笑う。

そうしている内に、俺の視界の端に重剣士の女の子がこちらに来た。

 

 

 

 


「ログアウト出来ないことってあるの?」

重剣士の女の子・・・ミミルがそう言ってきた言葉に俺は思わず「ある」と言いそうになった。

ログアウト出来ない典型は俺。

それにほんの少しの間だけど、アルビレオもログアウト出来なくなったことがある。

俺の場合は(ちょっと違うが)PCに意識を取り込まれている状態。

アルビレオはPCだけがログアウト出来ない状態。

「そんなはずあるものか。逆に言えば、ログインしたままでいられるかということではないか。」

BTがそう言う。

「あるぜ。」

俺はちょっと悪戯心がもたげた。

少し湖に小石を投げても大したことにはならない。

俺の存在はモルガナも認識しているはずだ。このくらいのことをしても大丈夫だろ。

これも俺のロールの布石。

ベアたちが驚いて俺のほうを見る。

「闇の紫陽花って知ってるか?」

「月夜のフィールドにのみ現れる謎のプレイヤーか?」

ミミルとBTは知らなかったみたいだが、流石にベアは知っていたみたいだ。

けど、別に俺は月夜だけを選んでるわけじゃねぇぞ?

「あぁ、あいつもログアウトできないみたいなんだ。それでずっとこの世界をさ迷っている。」

俺がそう言えば、ベアたちは考え込む。

「・・・ただのうわさじゃないのか?」

BTが信じられないといった感じに聞いてくる。

「さぁな。信じられなきゃ本人に聞いてみなよ。PCボディはかなり特殊な姿だからすぐにわかるよ。」

BBSに結構姿の特徴が書かれているから、すぐに見つかるさ。

俺はそう言うと、カオスゲートに向かう。

「待ちなさいよ!あんたそれだけ言ってトンズラするわけ!?」

ミミルが激高して怒鳴ってくる。

俺は人を食った笑顔で笑う。

「ちょっと忠告。闇の紫陽花と会う場合気をつけなよ。あいつは気まぐれだから、傍観や助言してくれたらラッキーだけど、敵対されたらやばいぜ。」

俺はマク・アヌにいる。

俺はそれだけ言って、さっさとカオスゲートを通った。

 

 

 


物語は動き出した

闇に咲く華は白き光の華を手に舞い狂う

この世界で生きるために・・・

それは狂宴のはじまりか

あるいは・・・・・・・・・
 

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