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俺にはまだまだ言えないことがたくさんある。
それでも、あんたはこの世界で数少ない信頼できる人だって思っている。
それで・・・あんたは俺のことをどう思っている?
連星の重槍使いさん?
「胡散臭い奴。」
がーん!!
俺はアルビレオの言葉に思わずムンクになりました。
.hack//hydrangea
『華の騎士』
えーっと、もろもろ描写を省くと俺とアルビレオはなんとかガーディアンを追い払ったんだよ。
倒すまでにはいかなかったけど、向こうが諦めてくれたのか、司が別のエリアに行ってしまって足止め出来たからなのかはわからないけどな。
そんで俺とアルビレオは精神的に(俺の場合体力的にも)疲れまくって、その場所に座り込んでいろいろと話し込んでる。
主に、俺がどうしてログインし続けていられるかってことだけど。
「信じられない話だな。」
「信じられなくても、紛れもない事実だよ。」
俺はアルビレオに自分がこの世界に取り込まれていることを話した。
この世界での俺は五感はリアルそのものだと。(味覚に関しては薬を飲んでマジで味があるのに驚いた)
ただ三大欲求に関しては、睡眠欲以外は皆無。
食欲もないから、食べ物系アイテムは嗜好品扱いだな。
なんとなく口さびしいときはよく飲んだり食べたりしてる。
排泄に関しては、まったくない。
そんで、俺は今なんとなく冷たい井戸水を飲みながら、山吹色の菓子をつまんでいる。
アルビレオはそんな俺を呆れた目で見ている。
「美味いのか?」
「たまに当たりはずれがあるけど、案外いけるぞ?」
最中みたいなものだ。
俺はアルビレオにも食べるか?と薦めてみるが、アルビレオは首を横に振る。
「あそ。・・・そういや、アルビレオはこれからどうするんだ?」
これは俺が一番聞きたかったこと。
ヴォータンの槍が砕け、リコリスが新たな牙となった。
デバックチームのアルビレオ・・・度会一詩としてはどうするつもりなのか。
アルビレオは手元の槍をじっと見る。
長さはヴォータンの槍より若干長い。
柄の部分は紅く、刃の部分は三叉になっている。
その刃の部分は、紅い水晶のような不思議な透明感を持って月明かりに反射している。
見ているだけで、なぜか胸が締め付けられるような輝きがその槍にはあった。
「・・・俺には、妹がいたんだ・・・」
アルビレオが静かに口を開いた。
「妹?」
そんなのいたっけ?
俺は原作知識を思い返していると、アルビレオは言葉を続けた。
「俺がCC社に入社する前に死んだ。・・・妹は生まれつき目が悪くて、いつも俺の手をとってついてきていた。」
俺はその言葉に、ある少女が頭によぎった。
「・・・俺と妹はいつも一緒にいた。それが当たり前で、俺は全然苦でなかった。そんなある日、俺と妹は天気が良かったから散歩に出たんだ。本当に日差しが暖かくて、いい日だった。」
アルビレオはそこで言葉を区切ると、空を仰いだ。
「・・・俺と妹が歩いている場所に、突然車が突っ込んできたんだ。妹は目が見えないはずなのに、俺を咄嗟に突き飛ばして助けたんだ。・・・本当は、俺がそうしなければならなかったのに・・・!」
アルビレオは槍を持つ手に力を込める。
俺はアルビレオの話に、ある程度推測が頭に浮かぶ。
「もしかしてその妹って・・・」
「ああ・・・リコリスは瞳や髪の色は違うが、妹にそっくりだったんだ。」
アルビレオがリコリスを削除しようとしたときの思いが、その言葉からにじみ出るような気がした。
アルビレオは恐らく、自分のせいで妹を死なせたって思ってる。
その妹そっくりのリコリス。
リコリスを削除することは妹と同じ顔の奴を殺すようなもの。
その思いは俺には計りきれない。
「俺は、リコリスを削除しようとした時、恐怖で指が動かなかった。またあいつを失うんじゃないかって・・・」
アルビレオはまっすぐ俺の顔を見た。
「上手くは言えないが、今の俺にはもうリコリスを削除することなんて出来ない。だけど、この世界も護りたい。」
その瞳には、迷いなんかなかった。
「だから・・・リコリスと共にこの世界を護る!!」
ああ・・・いい答えだ。
「たとえ、その槍が仕様から逸脱したものでもか?」
俺は試すように問いかける。
「覚悟の上だ。」
俺は軽く目を閉じる。
アルビレオはもう、決めたんだな。
だから、俺は彼らにこう言った。
「汝らに夕暮竜の加護があらんことを。」
(アルビレオ視点)
俺はハイドと話し終わると、一度ログアウトした。
ハイドは結局、メンバーアドレスを俺に教えなかったな。
FMDをはずし、米神を軽くもむ。
なんだろう。体が少し軽い。
俺は自然と緩む頬をそのままに、仕様書を開く。
その仕様書の武器の項目で、俺は少し手を加えた。
本来ならこんなことはしてはいけないが、リコリスを削除させたくないエゴゆえに。
ある程度、手を加えると武器の名前の部分で手が止まった。
リコリスと、そのまま武器の名前にするわけにはいかない。
俺は槍の輝きを思い出す。
確か、彼岸花の花言葉は・・・
悲シイ思イ出
俺はそう打ち込むと、手を加えた痕跡を綺麗に消してパソコンの電源を落とした。
真っ暗になった画面をしばらく眺める。
最近、仕事が多すぎて有給が溜まっていたな。
これを機に、少し体を休めるか。
今倒れたら、あいつと一緒に戦えないな。
俺はぼんやりとだけど、あいつが挑んでいる敵が見えてきた。
「神様に喧嘩売るなんて・・・怖いもの知らずな奴だ。」
それに加担しようとしている俺も、たいがい命知らずな怖いもの知らずだな。
俺はそう呟いて席を立った。
後には、ただ時が来るまで沈黙するしかないパソコンだけが残った。
「おまえらにも、夕暮竜の加護があらんことを。」
歴史が変わった。
消え去るはずだった連星は、紅い花の乙女と共に立ち上がる。
もはや先がどうなるのか誰も知らない。
ただその時が来るまでは・・・