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あの時ああしていれば。
それは誰でも考えること。
誰もが、いろんなことを後悔しながら生きている。
それは俺も例外じゃない。
.hack//hydrangea
『傍観?助言?敵対?』
「う・・・」
俺はゆっくりと目を覚ます。
ずきずきと痛む頭を手で押さえながら、俺はゆっくり立ち上がる。
「く・・・そ・・・スケィスのやろう、今度会ったら覚えていろよ・・・」
殴られたせいか、まだ足元がふらふらする。
俺ゆっくり周りを見ると、そこは俺が気絶する前にいたダンジョンじゃなかった。
ここは・・・
「ネットスラム・・・」
「そうよ、孤高の」
俺が呆然とその場所の名前を呟くと、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
「ヘルバか・・・おまえが助けてくれたんだな。」
「えぇ、アウラの動きを察知して見ていたら、あなたが『死の恐怖』に遅れを取っていたのを見つけたから。」
「そっか・・・なぁ、アウラは無事か?あと、俺が途中まで一緒だったオルカとカイトは・・・」
俺は自分がなにかを忘れていることは自覚している。
だけど、こんなに胸が痛むなんて・・・頼むからみんな無事でいてくれ・・・!!
だけど、俺の願いは次のヘルバの言葉によって崩された。
「オルカはスケィスのデータドレインを受けて未帰還者に、アウラもセグメントを分割にされてばらばらに散っていったわ。私が駆けつけたときには双剣士の少年しかいなかったわ。」
「そ、うか・・・」
俺はそれだけしか言えなかった。
これだったのか、俺が忘れていたことは・・・
畜生・・・もう少し速く思い出していたら、2人ともとはいかねーけど、どちらか片方は助けられたかもしれねーのに・・・
俺は後悔の念に押し潰されそうになったとき、カイトのことが俺の頭によぎった。
そうだ、カイトが残っているんだ。
正史どおりならアウラから腕輪を受け取っているはずだ。
カイトが無事ならまだ希望はある。
「これからどうするの?」
ヘルバに聞かれて、俺は今後の身の振り方を考える。
カイトの仲間・・・ドットハッカーズになるっていう手もあるけど、その場合俺のメンバーアドレスを渡さなきゃいけなくなる。
渡さなくてもどうにかなるかもしれないけど、それはあまりにも他の仲間に対して不評を招く。
だとしたら、影から支援する形になるな。
今まで以上にハイドとハイドランジアを使い分けなきゃいけないな。
「ハイドランジアとして、カイトたちを支援するよ。」
俺はそう言いながら黒のローブを身に纏い、フードを深く被った。
そして、スノーフレークを片手に持つ。
「まずは適当に俺のうわさを流して、向こうから接触してくるようにする。」
俺から接触してもいいけど、それじゃ敵だと思われかねない。
カイトに俺への興味を持たせないとな。
俺はネットスラムからマク・アヌに戻ったあと、BBSにあったカイトのレスにすぐに書き込みを入れた。
俺からと解らないようにちゃんとレスの名前も変えて、口調も変えて『ここに来たら?』と打ち込む。
カイトの奴、ちゃんと来るかな?
あれから俺が2回寝たから、多分2日ぐらい経って、指定のエリアをうろついていたら見慣れない、でも見覚えのある紅い双剣士の少年がそこに現れた。
その横にはピンクの髪に褐色の肌の重剣士の少女の姿も。
「あなたが、『闇の紫陽花』ですか?」
カイトがそう聞いてくる。
「是。そう呼ばれている。腕輪を継ぎし者と黒き薔薇よ。」
俺はとくに取り乱すことなくそう応える。
この時点で蒼炎と呼ぶわけにはいかないから、俺はそう呼ぶ。
にしてもブラックローズもいるとはちょっと予想外だな。
まわりに壊れたデータの羅列があちらこちらを飛び回っている。
このエリアはプロテクトエリア。
別に狙ってこの場所を選んだわけじゃないぞ。
俺が1回ここで寝泊りしている間に、プロテクトされちまっていて、出るに出れなくなったんだよ!!
俺が着いたばっかのときは、まだ普通のエリアだったのに、一夜明けてこれだぜ?
いやになるぜ・・・
だが、これでカイトたちに俺は『謎の人物』と認識されたはずだ。
「なぜ腕輪のことを?」
カイトが顔を顰めて問いかけてくる。
ブラックローズの方も俺を警戒して、今にもスキルを繰り出しそうな形相だ。
・・・怪しいのは認めるが、そんなに警戒してくるなよ。
悲しいぞ、俺。
「我はアウラとは旧知。そのアウラが汝に腕輪を託されたことは聞き及んでいる。だから・・・確かめたい。」
俺はそう言うなり、大鎌を構えてカイトに挑む。
「な!?」
カイトは驚愕の声を上げて俺の鎌を受け止めた。
反応速度は悪くないな。
手加減したから、一撃で死ぬなんてことはない。
だが、カイトは俺の一撃を防ぐと同時にまともに後ろに吹っ飛んでいった。
「カイト!!?・・・あんたなにするのよー!!!」
カラミティ!!
ブラックローズが大剣を構えて、スキルを繰り出してくるが俺はそれをバックステップでかわす。
俺は間合いを計りながら、じりじりと距離を詰めていく。
「待って!!どうして攻撃して来るんだ!!」
カイトが必死な顔で俺に訴えかけてくる。
「我は確かめたい。光の子アウラより力を託された汝の力を・・・汝の心を!」
蒼天大車輪!!
俺の繰り出したスキルにカイトとブラックローズはまとめて吹っ飛んだ。
俺は構えを解かずに、カイトとブラックローズの出方を見る。
この程度で挫けるようなら、俺の見込み違いだ。
さぁ、どう出るカイト!!
「僕・・・は・・・」
カイトがゆっくり立ち上がる。
その目には、なによりも強い力があった。
「僕はこの力がなんなのかまだよく解らない・・・だけど、ヤスヒコを・・・オルカを助けるんだー!!」
舞武!!
カイトのスキルは俺に見事にHITした。
っていっても、レベル差がでかいから精々HP1しか削れてねーけどな。
けど、今回はこれで十分だ。
俺はまだ双剣を構えてこっちを睨んでいるカイトを満足気に見ると、スノーフレークをしまった。
「?」
カイトはそんな俺の行動に怪訝そうに見る。
「汝の強さ見せてもらった。再び我と勝負したいのであれば、大聖堂で我は待つ。」
俺はそれだけ言うと、踵を返して歩き出した。
「あ・・・待ってよ!まだ聞きたいことがあるんだ。ハイドのことが・・・」
その単語で俺は思わず立ち止まってしまった。
まさか、カイトからその名前を聞くことになるなんて・・・
けど、答えなきゃ俺が悪役だし。
「孤高ならば無事だ。今もこの世界にいる。」
だって孤高って俺のことなんだからな。
「汝らに夕暮竜の加護があらんことを。」
俺はそういい残して、今度こそそこを後にした。
「あいつがアウラから力を託された奴か?」
俺がカイトたちから見えなくなったところに、アルビレオが顔を出してきた。
気配で近くにいるのはわかっていたけど、最後まで出刃亀しやがったな。
俺はローブを脱いでアルビレオを睨む。
「見ていたなら顔ぐらい出せ。薄情者。」
「お、そういうならこの差し入れは削除するしかないか。」
アルビレオはそう言いながら、カツどんの器を取り出す。
湯気や匂いもあって美味そう・・・
俺はゴクンと唾を飲み込んで、アルビレオに謝り倒した。
かっこ悪いと言われようが、食の楽しみが極端に減った俺に言わせれば、たまにアルビレオが持ってきてくれる料理データはなによりの楽しみなんだよ!!
それでなんとかアルビレオからカツどんを貰えた俺は、それを食いながらアルビレオと話し込む。
「にしてもよくここが解ったな。」
「BBSにこのエリアのことが載っていたからな。あのレスはお前だろう?」
削除しておいたぞ。
疑問系だけど、アルビレオの中にはそれは確信だ。
「正解。カイトたちの技量を見ようと思ってな。なかなか、初心者のわりには才能あるよ。」
友を想う気持ちもな。
俺はそう言いながら、気付けソーダを飲む。
カツどんにソーダって結構きくな。
「それで、これからどうするんだ?」
「恐らく近いうちに管理人が出てくる。PC名はリョースだったか?」
「あぁ、黄昏の碑文の光の王の名前だ。」
俺はゲームは途中までしかしてないけど、あの親父の苦労もわかる反面、あんまり好きじゃない。
会社に縛られているからって、頭から押さえつけようとすんのがな~・・・
俺も見つかったら、問答無用で削除されそうだし。
カイトたちみたいに、俺にプロテクトがあるかわかんねーしな。
「しばらくはΔサーバーで大人しくしてるさ。」
アウラもカイトたちがセグメント集めるまで時間かかるだろうし、向こうから接触するまではぶらぶらするしかないさ。
「こちらからは接触しないのか?」
アルビレオが意外そうに俺を見る。
俺ならカイトたちの仲間になるだろう、とでも考えていたんだろうな。
「俺はあいつらを甘やかす気はないぜ。精々しごいてやるさ。」
俺の目的はカイトたちの成長の手助け。
勇者は俺じゃなくて、あいつらなんだからな。
「なら、俺はヘルバと協力して波への防御壁の強化を急ぐさ。」
アルビレオはそう言い終って、ゲートアウトした。
最近、俺たちが別れるときに挨拶代わりする言葉を言い残して。
「我らに夕暮竜の加護があらんことを」