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バリーの事件から数日。

俺とアルフォンスはセントラルの街を歩いている。

前にははしゃいでいるウィンリィ。

俺は隣を歩くアルフォンスを見る。

アルフォンスの両腕には、買わされたお土産が大量にある。

・・・なんでも買ってやるっていうんじゃなかった・・・
 


錬金術師は魔法使い!?
『Silver Watch of the Dog of the Military』








俺とアルフォンスは汽車に揺られている。

まわりには客が一人もいない。

なんでこうなったのかと言うと・・・

ぶっちゃけ、仕事。軍の命令。

マスタング中佐の命令で、東の終わりの町と言われる炭鉱の町・ユースウェル炭鉱に視察に行くんだ。

あと、採掘資源の調査も含まれている。

それにしても、ウィンリィの土産代がすっげー逝ったな・・・

いくら研究費用が入って、それなりに金持ちになったからってあれは買いすぎだ。

「まるで貸切みたいだね。」

「・・・・・・・・」

アルフォンスがそう言うが、俺はなにも言えなかった。

「汽車の旅っていいよね。歩かなくて、座ってるだけで目的地に着くんだもの。」

アルの奴、俺に気を使ってるな。

「アル。これは軍の狗になった俺の仕事だ。お前までついて来ることはなかったんだぞ?」

俺が窓の外を見ながらそう言うと、アルフォンスは悲しげな声を出した。

「またそんなこと言って・・・僕は兄さんと一緒だよ。兄さんがリゼンブールに帰らないなら、僕も帰らない。帰るときは一緒だよ。」

俺はユースウェルに向かう前に、ウィンリィに帰らないと宣言した。

アルフォンスはそのことを言ってるんだ。

「そうだな・・・」

俺はアルフォンスに心から感謝した。

 

 

 

 

 


活気がねぇ・・・

俺が街について一番最初に思った感想がこれである。

みんな下を向いて、疲れきった顔だ。

アルフォンスも俺と同じ意見みたいで、辺りを見ている。

「とくに見るところもなさそうだし、はやく調査して帰ろう。」

ドガンッ

俺がアルフォンスにそう言って歩こうとしたとき、俺の後頭部になにかがぶつけられた。

「兄さん!」

「おっと、ごめんよ。」

俺は痛みにその場に蹲る。

つーか、マジいてぇ・・・

俺は犯人を見ると、それは俺より年下の子供だった。

大人の炭鉱夫と同じ格好をして、角材を持ってる。

そいつは俺たちの姿を見ると目を輝かせた。

「お!!なに、旅行者?どっから来たの?飯は?宿は決まってる?」

そして次々とまくし立ててくる。

「なんだ、おまえ――」

「親父、客だよー!」

俺が訝しげにしていると、そいつは高所にいる炭鉱夫を大声で呼んだ。

「あー?なんだって、カヤル?」

どうやら親子みたいだ。

「客だよ、客!カネヅル!!」

「「カネヅル!?」」

俺とアルフォンスは同時に顔を見合わせた。

炭鉱夫はヘルメットを取り、にやりと笑った。

「よく来たな。俺が宿屋の主人、ホーリングだ。」

 

 

 

 

その夜、俺たちはホーリングさんの案内で宿屋についた。

けっこう大きな宿で、酒場みたいなところでは、他の炭鉱夫が酒やカードでくつろいでいた。

「いやぁ、ホコリっぽいとこですまねーな。」

ホーリングさんはビールのジョッキを両手にもってそう言った。

「炭鉱の給料が少なくて、この店と二束のワラジってわけよ。」

そう言ってホーリングさんは豪快に笑った。

俺は女将さんに宿泊を告げて、記帳してもらいながら苦笑した。

「宿代はおいくらですか?」

アルフォンスがそう聞いた。

「たけぇぞぉ?」

うっなんか嫌な予感が・・・

「ご・・・ご心配なく。カネなら結構持ってるから。」

俺はホーリングさんや他の人たちの様子にひきつつもそう言った。

そうだよな・・・国家錬金術師になったし、カネの心配はそんなにしなくても・・・

俺がそう考えていると、ホーリングさんはあっさりその金額を言った。

「20万だ。」

「「20万!?」」

俺が考えていた金額よりも一桁多いじゃねぇか!?

「ばかも休み休み言えよ、おっさん!たかが宿代になんで20万も!!?」

俺がそう喚いても、ホーリングさんたちには効果なし。

「ウチはこれでもユースウェルで一番の高級宿屋だからな。」

「それにどこに行ってもこの値段だよ!」

俺が別の宿を探そうと考える間もなく、カヤルが早口にそう言った。

くっ逃げ道なしか!

「久しぶりの客だ、たっぷり金を落としていってもらわねーとな!」

俺とアルフォンスは隅でしゃがみながら、財布の中を見る。

「う・・・足らない・・・」

「ウィンリィにお土産いっぱい買わされたしね・・・」

金がないなら・・・

 

 

 

 

俺は宿代が足りない分、宿の道具やつるはしを修理することで補おうとしてたんだけど、俺が国家錬金術師だと解った途端宿から蹴りだされちまった。

「軍の狗にくれてやるような飯も寝床もないわ!」

「なにぃ!?」

ホーリングさんはそう言うと、今度はアルフォンスのほうを見る。

「おまえも軍人か!?」

「あ、いえ僕は・・・」

「!そいつは軍とは関係ない!汽車で一緒になっただけだ!!」

俺はアルフォンスがなにか言う前に、そう言った。

アルフォンスまで蹴りだされる必要ないんだ。

俺がそう言ったことで、アルフォンスはなんとか宿に置いてもらえることができた。

あとは、アルフォンスが余計なことを言わなければ、追い出される心配もない。

俺は荷物を持つと、どこか休める軒先を探して歩き出した。

 

 

 

 

「はらへったなぁ・・・」

なんとか休める場所を探せたけど、なんにも食えなかったからさっきから腹が減ってしょうがねぇ・・・

俺は喉だけでも潤そうと魔法で水を出そうとしたところ、アルフォンスが飲み物と食い物が載ったトレイを持ってきてくれた。

「僕は食べられないから・・・」

「アル・・・ありがとな。」

俺はアルフォンスに出されたと思われるそれに口をつけていると、アルフォンスがぼそりと呟いた。

「軍人って嫌われているね。」

「ま、覚悟してたけどな。」

しかし・・・まさか蹴りだされるなんて思わなかったな。

「僕もやっぱり国家資格取ろうかな?」

「やめとけ。」

アルフォンスの言葉に俺はすぐに反対した。

「こんな目にあうのは俺一人で充分だ。それに・・・自分の目的のために軍の狗になったのは本当だしな。」

俺はそう言って、苦笑した。

「兄さん・・・」

必ずアルフォンスの身体をもとに戻すんだ。

そのために、もっと錬金術も魔法も鍛えとかなきゃな。

賢者の石で補助しても、実力不足だったら笑えねぇし。

「おどきなさい!」

俺がそこまで考えていると、ホーリングさんの宿のほうで、そんな声が聞こえてきた。

俺とアルフォンスは宿の様子を見ようとこっそり窓から中を覗いた。

宿の中にいるのは、軍人が3人と若い女が一人。

おっと・・・軍人の中の一番小さいおっさんは中尉か・・・

俺はすばやく中の人間を服装や襟章で把握すると、なにやら中で言い争いの声が聞こえる。

纏めてみると、税金の滞納について・・・中尉のほうは給料を安くして税を高くしている。

そのせいで、町の人間は税を納めることができない。

それじゃ滞納して当たり前じゃねぇか。

俺はため息を吐くと、どうしたもんかと考える。

炭鉱夫の一人が、我慢できなかったのか、中尉に殴りかかるが、若い女が前に出ると風と紅い光が弾けて、炭鉱夫を吹っ飛ばした。

そのとき、カヤルが持っていた雑巾を中尉の顔に投げつけた。

それが見事にHIT!

あいついい腕してるな。

カヤルの行動に、軍人たちは怒りを顕にした。

見せしめだと言って、剣を引き抜く。

おい、まさかあんな子供を!?

俺は考えるよりも速く、カヤルの前に立ちふさがると、機械鎧の腕で剣を受け止める。

剣は金属同士がぶつかる独特の音を響かせながら、折れた。

「な、なんだおまえは!?」

「中尉さんが来てるっていうから、ちょっと挨拶しておこうかなと思って。」

俺はそう言いながら、銀時計を見せる。

国家錬金術師は少佐相当官の地位を持ってるからな。

案の定、中尉は驚いている。

「大変失礼しました。私、この街を治めるヨキ中尉と申します。」

俺が国家錬金術師だとわかると、ヨキはいきなり下手に出やがった。

いやだな・・・こういう奴は・・・

「このような田舎町にわざわざおいで頂くとは、なんのご用でしょう。」

手のひらでゴマをするこいつに、俺は嫌悪感を感じながらもそれを顔に出さないようにした。

「ちょっと視察に来ただけだ。」

「視察!?なんと、それならばご連絡いただければ迎えをよこしましたのに。長旅でお疲れでしょう、ささ、私の屋敷までおいでください。」

よく回る口だな・・・

俺は部下に車を回させているヨキに若干呆れながらも、宿を出て行く。

「軍の狗め・・・!」

「・・・・・・・・・・・」

出て行くとき、ホーリングさんが苦々しく呟いたのが聞こえてきた。

俺はなにも言えなかった。

 

 

 

 

 

俺はヨキの屋敷に呼ばれて、そこで食事をしている。

さっき錬金術で炭鉱夫をふっ飛ばしていたライラという娘が、メイド姿で給仕している。

こいつ、国家に尽くす立派な国家錬金術師になりたいとか言うけど、軍の狗がどういうものか解っているのか?

出されたものは、上流階級の貴族が食べるような豪華なものだ。

まるでこの屋敷と町は別世界に見えちまう。

「良いものを食べているね。街はあんな状態なのに。」

「いや、お恥ずかしい。税を徴収もままならず困っておりますよ。おまけに先ほどのような野蛮な住民も多く・・・ははは。」

なんかムカムカしてくる・・・それ以上口を開くな!

「納税の義務を怠りながら、権利ばかり主張しているってことか。」

「おお、流石エドワード殿は話がわかる方だ。」

「この世の理は、全て錬金術の基本、等価交換であらわすことができるからね。義務あっての権利・・・だろ?」

俺はそう言うが、口で言うほどこの世の理が等価交換だとは思っていない。

俺が生粋の錬金術師だったら、心からそう思うかもしれないけど、俺は錬金術師で魔導師。

だからか、等価交換の法則を心から信じられない。

俺の言葉にヨキはまるで演説を聞いたように褒めてくる。

そして、俺の前に巾着を乗せたトレイが差し出された。

「ほんの気持ちです。どうぞお受け取りを。」

・・・マスター、こいつにギガ・スレイブ(重破斬)ぶち込む許可を今すぐください・・・

俺は今、どこでなにをやっているか解らないマスターに、心からそう願った。

俺は引きつりそうになる顔を必死に押し隠す。

「これはいわゆる・・・賄賂というやつか?」

こいつが高官政府に賄賂を送って、今の地位を手に入れたって話は本当みたいだな。

俺は目を細めて、ヨキを見る。

「そんな見も蓋もない。あえて言うなら、等価交換ですよ。」

思ってもいないことを・・・!

「なにとぞ、視察の件をよしなに・・・」

「・・・考えとくよ。」

俺はかろうじて、そう言った。

 

 

 

 

 

 


俺は与えられた一室に入ると、壁を殴りつけた。

すごく腹が立つ。

親父に感じている腹立たしさとは、また違う苛立ちをあいつから感じた。

あー・・・うまく言えないけど、生理的嫌悪?みたいなもんか?

俺は、気持ちを落ち着けようと水差しを傾けるが、水が一滴も出ない・・・

「~~~・・・人を持て成すなら、もうちょっと気配りくらいしろっての。」

俺は水差しを両手に持つと、魔力を練り上げる。

「・・・アクア・クリエイト(浄結水)」

俺が魔法を使ったと同時に、水差しに水が満ちていく。

この魔法。修行時代にアルフォンスに内緒で結構使っていたから得意なんだよな。

俺は水差しに満ちた水をコップに注ぐと、それを一気に飲み干した。

そして、気分を落ち着けると窓から街の様子を眺める。

アルフォンス大丈夫かな?

ホーリングさんたちと喧嘩・・・はしないか。

俺はそう考えて、タリスマンの紅い宝石に自分の顔を映す。

アルフォンスは、俺の魔法を知らない。教えていない。

最初は幼心から、びっくりさせてやろうと思って内緒にしていた。

でも、成長するにつれて知識も増えて、この力はこの世界には存在しないことを知った。

学べば、多かれ少なかれ大抵の人間が使える力でも、この世界でその技術を持つのは、マスターだけ。

そして・・・知られれば・・・軍に知られたら・・・

錬金術だって誤魔化しが聞くのは、錬金術を知らない人間だけ。

術師のアルフォンスには、通用しないいい訳だ。

それに・・・異端の力は拒絶されやすい。

もしアルフォンスに拒絶されたら・・・

そう思うと、アルフォンスに教えることが出来なかった。

もしも、他の奴に俺の考えが知ったら「魔法を捨てろ。」って言われるかもしれないな。

それでも、俺は魔法を捨てない。

この力で出来ることがあるなら・・・俺はこの力も高めていく。

ドーン・・・・

俺が考え事をしていたら、街中のほうでなにかが爆発したような音が聞こえた。

俺は窓を開けて、外を見るとホーリングさんの宿の方角に爆煙が見える。

「!?アル・・・」

俺は窓に足を掛けると同時にレビテーションで、翔んだ。

今は真夜中で月もそんなに明るくない。

見られる心配は、ないはずだ。

俺はアルフォンスの身を案じながら、ユースウェルの街を滑るように飛んでいった。

 

 

 

 


俺は宿に向かう途中、屋敷に向かって走っている軍人たちを見た。

その中には、あのライラも一緒だ。

なんであいつらあんなとろこに・・・

俺は、ライラたちを追おうかとも考えたが、今はアルフォンスのことが心配だ。

俺はライラたちのことを頭から振り払って、宿に向かった。

宿は炎上しており、俺はその炎で姿を見られたらまずいと思って近くの屋根に降りる。

アルフォンスは・・・いた!

ホーリングさんたちと一緒に外にいる。

俺はそれに少し安堵して、今だ燃え続けている宿を見る。

「本当はこんなことをする義理はない。・・・だけど、ほっとくこともできないな。」

俺はそう呟くと、魔力を集中させる。

さっきよりも、強く高密度に・・・

「・・・エクスト・ボール(消化弾)!」

俺の放った魔法は、あっという間に宿の火事を鎮めた。

けど、消火が遅かったのか宿のほとんどが焼け落ちている。

「なんだ、今のは?」

「火があっという間に、消えちまったぞ!?」

やべっ!俺がここにいるのがバレたら、ややこしいことになっちまう。

俺は見つかる前に、レビテーションで飛び立つと、屋敷のほうに戻っていった。

明日の朝、もう一度行ってみるか。

 

 

 

 


屋敷で少し休んで空が白み始めた頃、俺はホーリングさんの焼け跡に向かった。

ホーリングさんは俺のほうを見ずに、焼け跡を見ている。

女将さんは焼け残った看板を胸に抱いて泣いている。

「あいつらか?」

「うん・・・」

そこにカヤルが俺のところに来た。

「なぁ、あんた凄腕の錬金術師なんだろ?・・・金を錬成してくれよ!金を錬成して親父を・・・この街を救ってくれよ。」

そうやってカヤルは俺に縋ってくる。

俺がここで金を錬成するのは簡単だ。

だが・・・

「金の錬成は重罪だ。それにバレないとしても、すぐに税金に取り上げられる。その場しのぎで使われても、困るんだ。」

俺がそう言うと、カヤルは何も反論できないのか、俯いて唇を噛んでいる。

「そんなに困っているなら、この街を出て、違う職を探したらどうだ?」

そうしたら、少なくともヨキからは解放される。

「小僧。おまえにゃ、わからんだろうがな・・・ここが俺たちの家で棺おけよ。」

俺の言葉にホーリングさんは女将さんを支えて言った。

「・・・ここが家で棺おけか・・・」

俺はその言葉をかみ締めるように呟くと、アルフォンスを連れてその場を立ち去った。

 

 

 

 


俺とアルフォンスは、くず石が大量に積み込まれているトロッコの前に立つ。

「アル。俺たちは自分で家を焼いた。」

思い出すのは、燃えていく自分の家。

「もう帰るところはないし、俺はそれでいいと思っている。」

俺はアルフォンスの返事を待たずに、トロッコの上に乗ると、ヨキから渡された金貨をくず石の上にばら撒いた。

「だけど・・・帰る場所がある奴は、それを大事にしないとな!」

「兄さん・・・」

俺は手を合わせると、くず石と金貨を錬成する。

その錬成反応が、俺の視界いっぱいに広がっていった。

 

 

 

 

 

 

「炭鉱を買い取りたいですと!?」

ところ変ってヨキの屋敷。

「えぇ。鉱山から販売ルートまで全部ひっくるめて欲しいんだけど。」

俺はことさら笑顔でそう言った。

「いや、いくら国家錬金術師の頼みとあっても、そればかりは・・・」

ちっやっぱり渋ってくるか。

「そう?残念だなぁ・・・折角お金用意してきたのに・・・」

俺が残念そうに言うと同時に、アルフォンスが扉を開けた。

それと同時に眩いばかりの金塊の山が、見える。

さっき俺が錬成した金塊だ。

「こ、これは全部・・・金!?」

ヨキが目をギラギラさせて金塊に歩み寄る。

やっぱり、こいつは好きになれそうにないな。

「調査したらこの鉱山には、錬金術の研究に使う珍しい元素が眠っててね。人に渡したくないんだ。これじゃ足りない?」

俺がそう言うと、ヨキは首を横に振って否定する。

それでも建前上、軍から任されてる炭鉱を売って自分の利益にするのは、躊躇があるようだ。

「それなら、炭鉱の全権を無料で譲り渡す、と念書を書いてください。そうすれば、これは全部あなたのものですよ。ヨキ中尉。」

ヨキは完全に、金塊の虜になっているのを、俺は確かに感じた。

 

 

 

 

 


「はーいみなさん、シケた面下げてご機嫌麗しゅう!」

俺はホーリングさんたちが集まっている倉庫の扉を開けながら、そう言った。

案の定、みんな俺を睨んでる。

視線で人が殺せるなら、この時点で俺は死んでると言えるほどに。

「・・・何しに来たんだ?」

カヤルがそう聞いてきて、俺はおどけたように振舞う。

「あらら、ここの経営者むかってその言い草はないんじゃないの?」

「経営者!?なにをばかな・・・!!?」

俺は全部言わせないように、炭鉱の権利書を突きつける。

「この炭鉱の採掘、販売、運営、その他全ての権利書だ。」

俺の言葉に、みんな息を呑む。

「すなわち今現在。この炭鉱は俺の物ってことだ!」

「!!!」

ふふん、みんな驚いてる。

「とは言ったものの・・・俺はセントラルに帰らなきゃならないし、どうしようかな~?」

ホーリングさんは、俺の意図に気づいたようだ。

「それを俺たちに売りつけようってのか?」

「高いよ?」

俺はにやりと笑ってみる。

こういうの案外楽しいな。

「何かを得ようというなら、それなりの代価を支払ってもらわないとね。」

「・・・くっ」

「なんせこの権利書は、高級羊皮紙を使っている上に金の箔押しだ。」

「は?」

俺の言葉にみんな目が点になる。

俺はそれに気づかない振りをしながら、続ける。

「さらに箱には翡翠を細かく砕いたもので、さりげなくかつ豪華にデザインされている。うーん、こいつは職人技だねぇ。おっと、鍵は純銀製か―――」

俺はきょとんとしているみんなを見ながら、値段を言った。

「ざっと見積もって・・・20万!」

「20万!!!?」

「権利書が・・・たったの20万!?」

「あ、そう言えばホーリングさんの宿が20万だっけ。一泊してチャラってどう?」

俺の言葉にみんな戸惑っているが、カヤルが残念そうに俯く。

「そんな事言っても、店はもう・・・」

それなら心配ご無用!

「あれ?それじゃ、あれはなんだい?」

俺はそう言って、扉の外を指差す。

そこには、焼けたはずのホーリングさんの宿が前より少し立派になってたたずんでいた・・・って、俺が錬成したんだけどな。

みんなで宿の前に行くと、俺はホーリングさんに炭鉱の権利書を渡す。

「宿代、これで足りる?」

「あ、ああ!」

俺は笑って権利書を渡した。

「エドワード殿~~!!」

そこにヨキが血相を変えて来た。

「エドワード殿、あなたに頂いた金塊が全部石くれになってしまったのですぞ!どういうことですか!」

「金塊?さて、何の話ですか?」

俺はとぼけると、ヨキは怒りを顕にする。

「とぼけないでください!金塊の山と権利書を交換したでありませんか!」

俺は慌てずにヨキに書かせた念書を見せる。

実は、ヨキに念書を書かせている間に金塊を元に戻して、あとはイリュージョン(夢幻覚)で幻覚を見せていたんだよな。

そんで、あとは頃合を見計らって魔法を解いたってわけ。

「あれ?権利書は無償で譲り受けたんじゃありませんか?ほら、念書もありますし。」

「な!?これは詐欺だ!ライラ!」

ヨキは後ろに控えていたライラに呼びかけると、ライラは錬成陣のペンダントに手を翳す。

げっここじゃ、みんな巻き添え食っちまう!

俺はホーリングさんたちから離れると、ライラの大気を凝縮した弾が俺目掛けて飛んでくる。

俺はそれを紙一重で避ける。

「『錬金術師よ、大衆のためにあれ』。私利私欲で錬金術を使うのは、感心しねーな!」

「あなた国家錬金術師でしょ?なぜ軍のすることに逆らうの?」

盲目的に国家に傾倒してやがる。

俺はライラが次の弾を錬成する前に、機械鎧を甲剣に錬成してライラのペンダントを切った。

ペンダントがライラの手の届かないところにあることを確認して、俺は機械鎧を元に戻し、きっぱり言った。

「悪いが、魂まで売った覚えはないね。」

その後は、ヨキが部下を使って権利書を取り返そうとしたけど、ホーリングさんたちに返り討ちにあった。

こうして、俺の初任務は終わった。

なんだかんだと、長いようで短い任務だったな。

そしてこのことがきっかけで、俺たちの名前は東を中心に広がりはじめた。

 

 

 

民衆に味方する軍の狗がいるってな。
 

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