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燃える家
消えていく思い出
その炎に照らされて、エドワードの胸に光るタリスマンが血のように紅く輝く。
その日、エドワードたちは帰る場所を一つ・・・自らの手で失くした。
錬金術師は魔法使い!?
『National Alchemy Teacher Qualifying Examination』
(エドワード視点)
俺たちは今セントラルにいる。
ここに来るまでいろいろあった・・・ある村では愛故に狂気に駆り立てられた男を正当防衛とはいえ殺し、列車に乗れば列車強盗に会う。
短い間なのに本当にいろいろなことがあった。
始めて人を殺した夜は危うく潰れそうになったが、俺たちがやらなきゃいけないことを思い出してなんとか踏みとどまった。
それにマスターのこともある。
『これぐらいで潰れるなら、あたしが完膚なきまで潰してあげるv』と笑顔で言われそうだしな・・・
そうこうして、俺とアルフォンスは国家錬金術師資格試験を受けるために、ロイ・マスタング中佐のところにいる。
マスタング中佐は、俺とアルフォンスの覚悟を聞いてくるが、そんなのもうとっくの昔に出来ている。
そう言ったら、マスタング中佐は最適な環境で勉強してもらうと言って、一人の国家錬金術師を紹介してきた。
生体錬成の第一人者。
綴命の錬金術師・ショウ・タッカーを。
タッカーさんは優しそうな人だった。
快く書庫の資料も見せてくれたし、娘のニーナと犬のアレキサンダーも俺たちを歓迎してくれた。
流石、史上初めて人語を理解する合成獣・・・キメラを錬成した人の書庫だと俺は思った。
夕食のとき、タッカーさんに勉強の具合はどうだって聞かれたけど、タッカーさんの書庫の本は知らないことが多すぎて、まだ頭の中をぐるぐるしてる。
ニーナがなにも食べない・・・いや食べられないアルフォンスに食べるように薦める。
それは純粋な好意だから、俺もアルフォンスも無碍に出来なくて、仕方なくアルフォンスは食べる振りをして鎧の中に食べ物を放り込む。
俺はそれを横で見ていて、胸が締め付けられそうだった。
・・・・・・俺がアルフォンスをこんな体にしてしまったのだから。
アルフォンスは、そんな体にしてしまった俺をどう思っているんだろうか?
それから俺とアルフォンスは毎日錬金術の勉強に励んだ。
国家錬金術師になれば、道が拓けると信じて・・・
俺たちがタッカー家にお世話になって数ヶ月。
季節も冬に変って、最近寒くなってきちまった。
俺は今日も書庫で本を読んで勉強中。
ゴーン
そのとき、柱時計の時計が鳴って俺ははっとなった。
「いけね!もうこんな時間か。」
俺は持っていた本を傍らに置いてアルフォンスの姿を探すが、書庫のどこにもいない。
そのとき俺は、外のほうでニーナとアルフォンスの楽しそうな声が聞こえてきた。
「遊んでんのか?」
俺はそう思って中庭に出ると、そこには一面の白銀世界が広がっていた。
「「兄さん(お兄ちゃん)!雪!!」」
楽しそうに雪遊びしているアルフォンスとニーナに触発されて、俺も一緒になって雪の中を飛び込んだ。
本当に久しぶりに楽しい一時だった。
勉強ばかりだったから、いい息抜きにもなったしな。
「試験が終わっても、お兄ちゃんたち、うちにいてくれるといいな。」
俺たちが雪の上に寝転がっていると、ニーナがそんなことを言った。
俺たちが国家試験に合格したら、もうここにいる理由がなくなる。
そうすれば、ニーナともお別れか・・・
俺は暗くなりかける思考を振り払って起き上がると、近くの枝を拾う。
そして俺は簡単な錬成陣を雪の上に書き始めた。
「お兄ちゃん、それなに?」
ニーナが俺の手元を覗き込みながら聞いてきた。
「錬成陣って言ってな。願いが叶うおまじない。」
俺はそう言って、書き終わった錬成陣に手をあてて、錬成を始める。
錬成陣が光り、そこから植物の芽が出て、あっという間に華を開かせた。
「うわあ、すごーい!」
ニーナはそれに目をきらきらさせて、俺が錬成した華を見る。
俺はその華を華冠にして、ニーナの頭に乗せてやる。
「よう、エルリック兄弟!」
そこに聞き覚えのある声がして、俺たちがそちら見ると、列車強盗事件でお世話になった軍人がいた。
確か名前は・・・
「ヒューズ少佐」
俺が名前を呼ぶと、人のいい笑顔でこちらに手を振ってる。
「迎えにきてやったぞ、今日エドの誕生日だろ?」
そう言われて、俺は今日が何日なのか思い出した。
隣のアルフォンスも俺の誕生日を思い出したようだ。
誕生日・・・家族に祝ってもらった思い出と一緒に、ある種封印しておきたい記憶も蘇る。
マスター・リナが俺の誕生日に用意するプレゼントいう名の地獄が・・・
本人曰く、俺を鍛えるためのバースデー・スペシャルだって言うけど、そんな生易しいもんじゃない・・・あれは地獄だ!
一番最初は猛獣の潜むジャングルに何も持たされずに放り込まれて、次の年はブリッグズ山の人食い熊と一騎打ち・・・じゃなくて、一対多数・・・ほかにもアルフォンスや母さんにバレないように綿密に工作してあれこれしてたよな・・・あの人・・・
俺は今年もなにかありそうな予感がして、無意識のうちに震えが走ったけど、それをヒューズ少佐は寒さのせいだと思って特に気にもしなかった。
「祝い事はみんなで分かち合ったほうが楽しいからな!」
そう言って笑うヒューズ少佐に、俺は感謝の反面、少し憎らしく思えた。
本当に、いやなこと思い出しちまったぜ・・・
俺たちはヒューズ少佐の家に招待されて、奥さんのグレシアさんに出迎えられた。
俺たちがグレイシアさんに思ったことは・・・
「うわっお腹大きい!」
「赤ちゃんうまれるんですか?」
これだ。
本当にお腹が大きくて、そこに新しい生命があると思うとなんだかちょっと感動する。
グレイシアさんに「触ってみる?」と薦められたけど、俺はなんだか怖くて遠慮した。
ニーナは嬉々として触っている。
「あ、動いた!」
ニーナの言葉に俺とアルフォンスは、本当にそこに生命があるんだって思えた。
それからは美味しい料理に、美味しいケーキ・・・温かな空気に俺たちは楽しんだ。
今年の誕生日はいい日になりそうだ。
そして日も暮れて、グレイシアさんが新しいお茶を注いでくれようとしたとき、事件は起こった。
「・・・産まれる・・・」
この一言で俺たちは大パニックになった。
病院に行こうとしても外は吹雪になってる。
この吹雪の中、グレイシアさんを病院に連れて行くのは無理だと思った俺たちは、ヒューズ少佐が医者を連れてくることになり、残った俺たちはグレイシアさんの指示で、タライいっぱいのお湯とたくさんのタオルを用意する。
ニーナもグレイシアさんの汗を拭ったりしながら、手伝ってくれる。
俺たちは右往左往しながら、医者を待つ。
その間、グレイシアさんは必死に痛みに耐えている。
「ちくしょー・・・俺たちには何も出来ないのかよ・・・」
俺の魔法も錬金術も、こんなとき何の役にもたたない。
俺は拳を自分の手のひらにあてて、悔しさに歯噛みする。
「お兄ちゃん・・・お湯冷たい。」
俺は用意したお湯が冷めてしまったことをニーナに言われて、お湯を取り替えようとタライを持ったとき、錬成反応が起きて、お湯が瞬時に沸騰した。
「「!?」」
な・・・なんで錬成陣もなしに!?
俺とアルフォンスはその現象にまたパニックになったが、グレイシアさんの呻きにまた違うパニックに陥った。
「医者はまだかーー!?」
思わず叫んでしまった俺を、誰も責めないで欲しいとそのとき心底思いました。
(??視点)
あたしは窓の外から、中の様子を見てため息を吐いた。
今日はあいつの誕生日だから、なにか祝ってやろうと思ってきたんだけど・・・その必要もなかったか。
「今年はなにもしなくても良さそうね。」
あたしはそう呟くと、離れたところから医者を抱えた無精ひげの男が走ってこっちに来てる。
やばっそろそろ行かないと・・・
あたしはそのままレビテーションで空を飛ぶと、その家から離れた。
「Happy Birthday Edward。」
(エドワード視点)
結果的に言うと、赤ちゃんは無事に生まれた。
女の子だった。
俺は思わず泣いちまった。
生命が生まれるのが、こんなに感動するなんて思わなかった。
アルフォンスが産まれたとき、俺は1歳くらいだったから覚えてないけど、アルフォンスもあんな風だったんだ。
絶対、俺がアルフォンスを元に戻してやるんだ。
俺は決意を新たに、その新しい生命の誕生を祝った。
それから俺たちはますます錬金術にのめりこんだ。
あの頃の体を取り戻すために。
そして始まった試験当日。
最初は筆記だったけど、俺は最後の問いまで行き着けなかった。
アルフォンスは最後まで書けたみたいだけど、自信ないのか、それとも次の面接のことを考えているのかしょんぼりしている。
それで、雪も無くなりかけているタッカー家の中庭で、俺とアルフォンスがぼーっと空を見上げていたら、マスタング中佐が尋ねてきた。
そして尋ねてきた理由は・・・
「どういうことですか!?僕に面接を受けるなだなんて・・・」
ここはタッカー家から離れた路地裏。
そこで聞かされた内容は、アルフォンスにこれ以降の試験を受けるなというものだ。
理由はなんとなく解る。
面接には、人によって健康診断もあるからそれでアルフォンスの体を調べられでもしたら・・・
だから俺はアルフォンスに言った。
「国家錬金術師ってやつは、戦争が起これば駆り出されるし、大衆のために使うべき錬金術で人を殺めることだってある。」
アルフォンスをそんな目にあわせたくない。
俺の自己満足でも構わない。
それでアルフォンスが少しでも危険から遠ざけることが出来るなら・・・
「国家錬金術師になるのは俺だけで十分だ。約束する。俺が国家錬金術師になってお前の願いを叶えてやる。」
俺は有無を言わさず、そう言った。
アルフォンスの願いは、俺が必ず叶えてやるからな。
俺は面接もパスできた。
そして、最後の実技試験。
俺は面接で自分の言ったことを思い返してみる。
この試験の動機を・・・
『・・・約束したんだ。たった一人の家族と・・・必ず、国家錬金術師になるって。』
あの気持ちに偽りなんかない。
アルフォンスのためにも、絶対合格するんだ。
俺は大総統から与えられた目の前の物質・・・氷、水、土、木などの様々なものを目の前になにを錬成しようか考える。
「一体どうすりゃ・・・合格できるんだ?」
俺が考えている間に、一人の男が前に進み出て、巨大な塔を錬成した。
あんな大質量の錬成を・・・
次に別の男が木と水を錬成する。
出来たものは、巨大な紙の風船と風船を浮かせている水素。
風船はどんどん上昇していって塔の先端に向かっていく。
「!?」
やばい!あのままだと風船が塔に!
風船は俺の予想通りに塔の先端に刺さって、塔もろとも崩れていった。
しかも塔の真下には、塔を錬成した人が力尽きて動けない状態。
俺は無我夢中で走った。
詠唱・・・ダメだ、間に合わない!
俺は無意識のうちに手を合わせると、地面に手をついて錬成した。
材料は、塔と風船!
錬成反応が起こり、空から花びらが降って来る。
俺が空を見ると、そこには巨大な華冠が出来ていた。
俺は自分の手を見る。
あの錬成は先生と同じだった。
試験も終わり、俺はアルフォンスと一緒にタッカー家に帰る。
アルフォンスの背中には、アルフォンスと一緒に俺の試験の応援に来ていたニーナがすやすやと眠っていた。
「アル・・・俺、もうあれこれ悩むのやめにする。前だけ見て突っ走る。行き止ったら、そん時はそん時だ。」
俺は振り返ってアルフォンスを見上げる。
「いつか、必ず、お前を元に戻してやるからな。」
「うん・・・!その時は兄さんも一緒だよ!」
そう言って俺たちは拳を合わせた。