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俺たちアクマは自我を持つと、なにかしら人間のやることに興味を持つ。

レベル2のエリアーデは美容とショッピング。

レベル3のエシは芸術・・・つーか、絵画?

まぁ、アクマそれぞれなんだけど、最初から自我を持っていた俺。

俺が興味を示したのは・・・
 


D.Gray-man~逆十字の使徒~
『若き記録者』

 

 

 

 

「~~~♪」

ここは小さな町。

俺はその町の広場の噴水で、歌を歌っていた。

手には先日購入したばかりのギター。

前のはケンカ吹っかけてきたアクマに壊されたからな・・・

夏の日差しがさんさんと照りつける。

俺はギターケースを開けたままに歌い続ける。

今までに聞いた、教えてもらった歌を、曲を・・・

いつの間にか集まった人だかり。

ギターケースに投げられるコイン。

そう、俺が興味を持ったのは音楽。

曲次第で、楽しい気持ちにも、悲しい気持ちにもなる音楽に、俺は惹かれた。

そんで、こうやって町から町へ旅を続けながら、俺は歌を歌って日銭を稼いでんだよ。

どこ行っても結構盛況でな、劇団とかにうちの専属にならないかって話も来てるんだぜ?

けど、俺は全て断ってる。

俺はアクマだから、普通の人間のように年を取らない。

そんな俺が劇団とか、大勢の人間の中に入ってみろ。

すぐに年を取ってないことを感ずかれちまう。

だから俺は流れの吟遊詩人もどきをやっている。

まぁ、稼いだ金もすぐに俺の食費に消えるんだがな・・・

どっかの町で真っ当にアルバイトでもするか。これじゃ、何時まで経ってもリナリーに金返せないぜ・・・

俺の歌が終わり、人だかりがなくなる中、一人だけぽつんとまだ残っていた。

赤い髪に左目に眼帯。

黒の上着の左肩にある十字架は・・・エクソシストの証のローズクロス。

うわっこんなところでエクソシストに会うなんて!!?

つか、最近エクソシストの遭遇率高くないか?俺。

「お客さん?歌はもう終わりだ。お金払って帰ってくれない?」

俺はなるべく普通を装って言う。

万が一バレたら、破壊されるかもしれないからな。

「あ~・・・俺は別に歌を聴きにきたわけじゃないさー・・・」

エクソシストは後頭部を掻きながら、なんだか言いづらそうにする。

「それじゃ何用かい?」

金も払わないで、つまんない用事だったら容赦しねーぞ?

俺は言外にそう言って、エクソシストを睨んだ。

エクソシストは、俺の睨みに少したじろいだが、ようやく口を開いた。

「・・・いやさー、あんたにおかしな噂があって俺はそれを調べにきたのさ。」

「おかしな噂?」

はて?一体なんのことなんだ?

俺とそのエクソシストは落ち着いて話せる場所に行くことにした。

 

 

 

 

 


場所は変わって落ち着いた雰囲気の小さなカフェ。

ここならゆっくり話すことが出来るな。

俺は注文したコーヒーを飲みながら、目の前に座るエクソシスト・・・名前はラビと言うそうだ・・・を見る。

ラビはそんな俺の視線に気づいたのか、にぱっと笑う。

そんで・・・

「あんた、魔性の歌声で美女を次々と誘惑してるって本当さ?」

なんて、とんでもないこと言っちゃってくれてるよこいつーーー!!!!?

俺はラビの台詞に思わずフリーズしてしまった。

待て・・・激しく待て。

確かに俺は各地で歌を歌っているが、女性を誘惑するなんてことは一回もない。

あるとしても、全部向こうが誘ってくるんだ。

一回も応じたことないけど・・・

あのさ、俺って見た目15くらいでも、生まれてまだ4年くらいしか経ってないんだ。

そんなお子様の俺が女性に誘われて応じるわけも無い。(その前にアクマだ。)

未だに黙ったままの俺にラビはなにを思ったのか、説明してくれた。

曰く、俺が歌った場所で女性が次々と正体不明の気絶を起す。

曰く、気絶する女性よりも少ないが俺がいなくなった後、旅に出る女性が出てきた。

曰く、俺は歌で女性を操って連れ去っている。

曰く・・・

俺は身の覚えの無いことをつらつらと上げられ、思わず頭を抱えてしまう。

「・・・とまぁ、こんな感じさ。それでそんな怪異を調べるためにファインダーに調べてもらっていたんだけど、あんた逃げ足速いから俺が出張ることになったさ。」

そんなこと知らん。つか、最近のストーカーは黒の教団かよ。

俺はまたいちゃもんつけに来たアクマかと思ったぞ。

「・・・・・・なんでそんな素敵な噂が流れてるんだ?」

にっこり

俺はそんな擬音がつきそうなぐらい、爽やかに笑った。

ラビはそんな俺に冷や汗を掻いていたが、んなもん無視だ無視。

「そんなもん知らないさ。ただ、気絶した女性も旅に出た女性もおまえの名前を出すだけで、あと何も話してくれないのさ。」

だから、本人に話を聞きにきたってか?

「それってさ・・・単に俺の歌に惚れて着いて行こうとしたミーハーじゃねぇのかよ?」

教団はそんなことも解らないのかよ!?

俺の言葉にラビは苦笑する。

「確かにそれならよかったさ。けど、あんたの調査してたらやたらまわりにアクマが多いんさ。それでなにかあると思って・・・」

・・・なるほど。

黒の教団の奴らは俺にイノセンスの可能性を見たって訳か。

黒の教団も伯爵もイノセンスを狙っているからな。

けど残念。俺の周りにいるアクマはイノセンス狙いじゃなくて、俺にいちゃもんつけにきただけだ。

つか、俺はアクマであって神の結晶であるイノセンスを持ってるわけ無いだろ?

暗黒物質ダークマターから作られた俺が・・・

俺は自分の中で納得して、もう一度コーヒーを飲む。

ラビはまた黙ってしまった俺をじっと見て呟いた。

「龍樹は驚かないさ?」

「なにが?」

「普通なら自分が調査されてるって聞いて、怒るはずさ。それにエクソシストとかアクマとか言われて平然としてる。龍樹は何者さ?」

アクマです♪なんてふざけても言えない様な雰囲気に、俺は知らず知らずのうちに息を呑む。

勘がいいというかなんというか・・・

あぁ、どう言って誤魔化そうかな?

え~っと・・・そうだ!!

「あ~・・・俺、今度入る黒の教団のサポーターなんだ。」

俺はそう言いながら、声帯部にある逆十字をわずかに見せる。

普段は隠してる逆十字はぱっと見、刺青のようにも見えるからすぐに隠せば問題ないはずだ。

すまん、ラビ。

俺はまだ破壊されたくないんだ。

あぁ、けどエクソシストとなると多分、全サポーターのことは知ってるだろうし、新しく入るとなると絶対になにかしら報告されてるよな?

咄嗟にデタラメ言ったけど、もう少しマシな言い訳考えりゃ良かった。

俺の命運もここまでか・・・

「へ~そうなのさ?」

しかし、ラビは俺の予想とは違いしっかり納得してくれた。

「え?」

「そりゃ悪いことしたさ。まったくコムイの奴、調査対象が身内だってこと教えてくれればよかったのにさ。」

・・・・・コムイって奴が誰だか知らないけど、この分だとちゃんと情報の円滑がされてないみたいだな。

「けど、俺ってまだサポーターじゃありませんから仕方ないんじゃないですか?」

だったら、そいつを最大限に活かさせてもらうぜ。

安心しろ、伯爵に情報を流すなんてことしないからよ。

「そういうもんさ?」

「そういうもんです。」

頼むから騙されてくれ~(泣)

俺の言葉にラビはあっさり騙されてくれた。

そっからは、追及されないために俺はそそくさとその場を立ち去った。

後に残されたのは俺を引きとめようと、手を伸ばしたラビが1人だけである。

はやく次の町に行かなきゃな。

 

 

 

 

 


<ラビ視点>

物凄い速さで店を出て行った龍樹に、俺は半ば呆然とした。

なにさ、あの速さ。なにもあんなに急ぐ必要ないさ。

俺は懐から渡された龍樹の資料を見る。

龍樹 性別男 年は15~16くらい。

人種は日本人だが出身地は不明。

2年くらい前にふらっと現れ、各地で吟遊詩人の真似事をしている。

その歌は不思議なもので、聞いた女性たちはまるでハメルンに連れさらわれた子供のように、次々にその歌の虜となる。

ファインダーが調査を行うが、彼の周りには多数のアクマがおり調査は難攻。

イノセンスを所持している可能性がある。

資料にそう書かれているように、龍樹の歌は不思議な魅力があるさ。

加えてあの容姿じゃ、女が騒ぐのも無理ないさ。

俺はそう納得して、コムイと連絡を取るために無線ゴーレムを繋ぐ。

『はい、もしもし』

「コムイ?俺さ。」

『あれ?ラビどうかしたのかい?』

「どうしたもこうしたもないさ。調査対象の龍樹って今度新しく入る教団のサポーターだったさ。」

『へ?おかしいな、サポーターが新しく入るなんて僕聞いてないよ?』

「でも、本人がサポーターだって言ってたさ?咽のところに十字架の刺青も・・・」

あれ?ちょっと待つさ?

『ラビ?ラビ、どうかしたのかい?』

龍樹のあの十字架・・・なにかおかしかったさ・・・

俺は龍樹の声帯部の十字架の形を良く思い出す。

確かにあれは十字架だ。けど、どこか違和感が・・・!!!

「悪ぃコムイ・・・またあとで報告するさ・・・」

俺は震える声で、なんとかそれだけ言って通信を終わらせる。

そして急いで店を出て龍樹の姿を探すが、当然もうどこにいなかった。

龍樹の声帯部にあった刺青は確かに十字架さ。でも、あれは・・・

「・・・逆十字・・・」

神の十字架と反対の意味を持つもの・・・

「龍樹・・・あんた、本当に何者さ?」

俺の呟きは照りつける太陽の下、誰にも聞かれることなく消えていった。
 

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