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俺がフィールドで出会った不思議な少女、スノーフレーク。
華の名前を持つ彼女。
太陽のような笑顔で彼女はただ冒険をしたいと・・・
だから俺は叶えてあげる。
ハイドランジアとしてでもなく、ハイドとしてでもなく・・・
ただのタツキとして・・・
.hack//hydrangea
『スノーフレークⅡ』
俺は・・・俺とスノーフレークは出会ったあの日から、一緒にフィールドやダンジョンで遊びまわった。
時にはモンスターに追い掛け回されたりしたけど、それでもすごく楽しい日々が過ぎた。
スノーフレークは特に戦闘に参加することなく、ただ俺と一緒に行動するだけ。
それでも彼女は満足みたいで、1つの冒険を終えるたびに太陽のように笑う。
俺もその笑顔を見るのが好きで、本当にいろんなエリアに行った。
彼女の姿は、他のプレイヤーには見えないみたいだ。
そして、今日はタウンで『モンスター街侵入』イベントがある。
俺はそれに参加するべく、現在アイテムを補充している。
スノーフレークは俺の隣で、興味深そうにアイテムを見ている。
俺は買出しを終えると、彼女を伴って民家の屋根に上る。
モンスター街侵入イベントのときに必要なのは、まわりの状況把握。
俺は何度もこのイベントに参加しているから結構ベテランだと自負できる。
MVPを取ったのも1回や2回じゃない。
俺は陣取った場所で腰を下ろすと、ただ時を待った。
隣で同じように座るスノーフレークもどことなく楽しそうにしている。
俺たちは特に言葉を交わすことなく、カオスゲートただ一点を見つめる。
そしてしばらくして、カオスゲートから悲鳴が上がり始めた。
モンスター街侵入イベントを知らない初心者がモンスターに襲われた悲鳴だ。
「はじまった!!」
俺は双剣を握り締める。
「いくぜ、スノーフレーク!」
「おう!タツキがんばりな!!」
俺は屋根から屋根へと飛び移りながらモンスターの中心地を目指す。
そうしながらも俺はモンスターの構成を見ていく。
ゴブリン系や、ハーピー系・・・ボスはデーモン系か!!
俺は屋根から下りてモンスターを引き裂いていく。
その中に俺はアルビレオの姿を認めた。
そして・・・
「リコリス!?げっもうそんな時期なのかよ。」
俺はアルビレオが連れている赤い少女を凝視した。
盲目のNPCリコリス。
どうして俺に見えるのかわからないが、彼女がいるなら、俺は今回MVPを取るわけにはいかないな。
俺はアルビレオから離れるようにして、少し後退した。
今回は後方で雑魚モンスターの掃除といきますか。
「スノーフレーク!今回はMVPを連星に譲る。おまえの姉か妹のためにな。」
俺はそう言って、スノーフレークに笑いかける。
スノーフレークも納得した、という顔で笑った。
「リコリスのことやな?かまわへん!あの子は自分でこの運命を選んだんや。わいが干渉することやらへん。」
はは・・・リコリスの事もちゃんと理解してるよ・・・
俺は苦笑しながらも、モンスターを次々に討伐していった。
途中危ないプレイヤーをついつい助けちまったりしてけど・・・(中にはあの魔女っ子の姿も)
なかなか珍しいものも見れたよ。
アルビレオと少女の手つなぎ姿はかなり貴重でした。
突然だが・・・俺とスノーフレークはエリア 『病める、囚われの、堕天使』に来ている。
リアルの時間はわからないが、バルムンクとオルカがザワン・シンのイベントを攻略するからだ。
俺は吹雪で凍えそうになる体をどうにかスキルで暖めながら、オルカとバルムンクを待ち続けた。
つっても、戦闘に参加するためじゃなくザワン・シンを倒した後に出てくる堕天使を見たいがためにだけどな・・・
あと、こっそりアルビレオたちに合流するつもりなのだ。
ちなみに姿は防寒もかねてハイドランジアだ。
ローブってあんまり生地が厚くないから、ほとんど気休めだけどな。
この世界で感覚あると、こういうところで不便なんだよな~・・・
「スノーフレークは寒くねーのか?」
「こんなの気合や気合!タツキは男のくせに情けないで!!」
見かけは清楚可憐な美少女なのに、中身は俺より漢らしいです・・・
そうやって待つことしばらく・・・ようやく来ました。
何度もバクドーンで暖をとっていたけど、そろそろ限界だったんだよ。
俺は見つからないようにしながら、2人の剣士を見送る。
スノーフレークの手を引きながら、もう一組の待ち人を見っけた。
「やっと来やがった。」
俺を凍えさせる気かよ!!
俺は内心悪態を吐きながらも、隠れて2人の剣士を見ている連星と吟遊詩人に背後から近づく。
気配は隠さない・・・つーか、プレイヤーにとってここはゲームだから気配を感じようにも感じられないんだけどな。
あ、ほくと”おばけ”になってるや・・・
俺は真後ろに立ちながらもバルムンクとオルカの戦いぶりを見る。
やっぱ、互いに相棒と呼ぶだけあってコンビネーション抜群!
なんであんな動きが出金だってくらいのレベルだよ。
ちなみに、アルビレオとほくとは俺にまったく気づいていない。
こんなんでいいのかね~?
そうして見物しているうちに、バルムンクとオルカはザワン・シンの秘密に気づいたみたいで、互いに違う属性の攻撃をぶつけいていく。
そして・・・あたりにぶちまけられる7色の光の血、差し込んでくる太陽の光に永久氷壁には亀裂が走り崩れていった。
ザワン・シンは倒された。
フィアナの末裔と呼ばれる剣士たちによって・・・
永久氷壁の奥からなにか出てきた。
とても美しいものが・・・
「堕天使・・・」
俺は知らず知らず呟いた。
6枚羽根の鎖に繋がれていた天使が解き放たれた。
天使が羽ばたく毎にその翼からは幾つもの羽が辺りに舞う。
アルビレオは急に走り出したかと思うと、その羽の中から1枚を掴んだ。
血のように赤い羽を・・・
それからのやりとりを俺は黙ってみていた。
ちょっと強制転送されるときに、こっそりほくとの腕を掴んで一緒に転送したけどな。
「なんでおまえがここにいるんだ・・・」
アルビレオが恨めしそうに草原に横になりながら、俺を睨む。
俺はアルビレオから少し離れた気の根元に座りながら応える。
スノーフレークはなにやらリコリスと"ささやき"あってる。
ほくとは俺が蘇生させておいて、今は楽しそうにリコリスたちの様子を見ている。
「前にも言ったはずだ・・・連星が何れ出会う儚き華の行く末を観たい、と。だから我は付いてきたまでの事。」
「・・・あのNPCはおまえが作ったのか?」
アルビレオはリコリスを見ながら問いかけてきた。
ま、当然の疑問だわな。
「否。我にはそのような技術はない。あの”華”たちはこの世界が生み出した夢の試作品。」
アウラのプロトタイプ。
そして、親から望まれなかった子供達だ。
だから・・・
「汝がどのような選択をするのか見せてもらうぞ?」
俺はスノーフレークと一緒にいたいんだ。
俺もあの子たちもこの世界の異物だから・・・
「・・・俺には出来すぎたシナリオだ。」
アルビレオは一言そう言うと、起き上がってリコリスとほくとを連れて泉の魔人のところに行く。
俺はそれを見送ると、スノーフレークの手を引いてゲートアウトする。
「どないするんや?」
「先回りして、見届けるよ。」
俺はゲートアウトの光の環に包まれながら、スノーフレークと一緒にいられる砂時計がそろそろ落ちきるのを、心のどこかで考えていた。
Δ 隠されし 禁断 聖域。
俺はステンドグラスの虹彩を見ながら、スノーフレークの手を強く握り締めた。
手の感覚があるはずなのに、半分ぼやけている感じだ。
俺がずっと握っている間感じていたこと。
多分、近いうちにスノーフレークは消えてしまう。
この子はリコリスと同じアウラのプロトタイプだから。
モルガナやハロルドにとってこの子が存在し続けるのは、好ましくないんだ。
「そろそろリコリスたちが来るで?」
「そうだな・・・なぁ、スノーフレークはいつまで俺と一緒にいてくれるんだ?」
この世界で一緒に冒険してくれた数少ない仲間。
『ハイド』には仲間はいるけど、『タツキ』には他に仲間がいない。
俺はこの子を失いたくない。
俺は泣きそうになる声を必死に抑えて問いかけた。
その問いにスノーフレークはにっこり笑った。
「なに言うとんのや!わいはタツキとずっと一緒にいたるわ!!おとんとおかんの言いなりにはならへん!」
力強い笑み。自分に自信があるものが持てるその笑顔に俺は慰められた。
気休めでもなんでも、彼女がそう言ってくれるのはすごく嬉しいから。
「あんがとな。」
俺がそう言うと同時に聖堂の扉が開く音が響く。
そこにいたのは沈痛な面持ちの連星とリコリス。そして戸惑いが丸解りの吟遊詩人。
俺は体ごとゆっくり振り返る。
「汝の答えは決まったのか?」
俺の問いに、アルビレオは『ヴォータンの槍』をリコリスに向ける。
やっぱり・・・それがアルビレオの答えか・・・
「後悔のなきよう・・・以前、そう言ったよな?」
アルビレオがリコリスに目を背けずに言った。
『リコリスの記憶』は既に渡してあるみたいだ。
あ~・・・なんか色々順番狂ってなる。
「確かに言った。それで、それが汝の答えか?」
己が職分を全うすることが。
「なんで?」
そこでほくとが口を開いた。
「なんでリコちゃんに槍を向けるの!?リコちゃんを攻撃するなんてお話として滅茶苦茶だよ!!?」
ほくとは半ば絶叫にも近い叫びをアルビレオに向ける。
俺も叫びたいけど、ロール上それは出来ない。
代わりにスノーフレークの手を握り締める。
俺だって、リコリスについて納得してるわけじゃないんだ。
それでもこれはアルビレオとリコリスが決めたこと。
俺たちが口を挟んでいいことじゃない。
「リコリスはそれでええんか?」
スノーフレークがリコリスに問いかけた。
リコリスはスノーフレークに微笑みかけながらも、その場を動かない。
「・・・これで・・・クリアだ。」
「アル!リコちゃん!!」
アルビレオは泣きそうな顔をしている。
アルビレオの槍の穂先がリコリスの胸を貫く。
そしてホワイトアウト。
光が収まったあと、そこに取り残されていたのは俺とスノーフレークとほくとだけだった。
「あれ?リコちゃんとアルは?」
ほくとはきょろきょろしながら2人の姿を探す。
「今頃、華の記憶と真実の一部を見ているのだろう。」
「え?そういやあんた誰なの?」
まだ”初心者プレイヤー”のロールをするのか。
俺は苦笑しながら自己紹介する。
「我はハイドランジア。そなたが付けてくれた2つ名は『闇の紫陽花』だ。」
「!?」
「それではまた・・・吟遊詩人どの・・・」
俺は呆けるほくとを置き去りにして、スノーフレークと一緒にゲートアウトする。
目指すは初めて会った森のフィールド。
俺とスノーフレークは黙って森を歩き続ける。
初めて会ったあの場所に向かって。
しばらくして、スノーフレークが口を開いた。
「なぁ、わいにもうすぐ妹が出来るんや。おとんの話やと”アウラ”って名前らしいんや。」
この子は・・・一体どれだけのことを知ってるんだ?
「知ってる。光の子って意味らしいけど、俺はその辺りちんぷんかんぷんだ。スノーフレークはアウラに会いたいのか?」
「もちろん!長いことおかんから逃げ回ってるけど、兄弟と会ったのはリコリスと初めてやし、アウラにも会いたいわ!」
「・・・それまで逃げられるかな?」
「難しいところやな。わいのデータのほうもそろそろ限界やし・・・」
スノーフレークは自分の手のひらを見ながら自嘲的に笑った。
スノーフレークは理解しているんだ。
自分がもうすぐ消えてしまうことを。
「それでも・・・わいはアウラに自分みたいになって欲しくない。そのために出来ることはやるつもりや。」
タツキとも一緒におりたいしな!!
元気よく笑うスノーフレーク。この子がもうすぐ消えるなんて俺には、想像しがたいことだ。
そうして、俺とスノーフレークが初めて会った場所に着いた。
突然、スノーフレークは俺にタックルするように抱きついてきた。
「スノーフレーク?」
「ん~・・・もうすぐタツキともおしゃべりできひんようになるんや。このぐらい勘弁してや。」
「スノーフレーク・・・一体なにをするつもりなんだ?」
俺は最後の思い出のつもりでこの場所を選んだけど・・・スノーフレークは全然違うことを考えているみたいだ。
そしてスノーフレークは俺の顔を見てみやりと笑った。
「わい・・・タツキの牙になったる!!」
スノーフレークは俺から離れると、地面から足が離れ宙に浮いた。
「な!?どういう意味だ!?」
「そのまんまや。どうせこのままやったら、データ分解されて消えてしまうんや!!やったらわい自身のデータを書き換えてタツキの力になったる!これがわいの選んだ運命や!!」
スノーフレークは光に包まれると、どんどん姿が変わっていった。
その形態は大鎌。
俺の身長よりもでかい真っ白い鎌になった。
柄の部分は蔦のようになっていて先にはスノーフレークの華があしらってあった。
「スノー・・・フレーク・・・」
俺は呆然とその大鎌を見る。
止める間もなかった。
彼女には全然迷いなんかなかった。
思いっきりのいい少女は、これから生まれてくるための妹のために自分を捨てた。
「本当にいい姉だよ。」
いいよ。それなら俺も協力するよ。
一緒にまた冒険しよう。
「そんじゃ、傷心のアルビレオに塩を塗りに行くか!」
俺はスノーフレークの柄を取りながら言った。
リコリスは完全に消えてないで!!
「へ?」
俺の耳に元気のいい少女の声が聞こえてきた。
「スノーフレーク?」
俺は鎌に向かって問いかけたけど、返事は返ってこない。
「気のせいか・・・それじゃ、改めてよろしくな。スノーフレーク。」
俺は大鎌を片手にその場を颯爽と踵を返した。
スノーフレークの花言葉は『純粋』『慈愛』『汚れなき心』