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某ベテラン魔法少女の襲来です。
おはこんにちわ!(古!?
夢と希望の白き魔女、ホープディス・プリフィケーションだよ。
ホープちゃんと呼んでくれたまえ!
気軽にホープちゃん♪と呼んでくれたまえ。
そんなホープちゃんですが、いきなりですけどぶっちゃけ今ピンチです。
「さぁ、観念しなさい!」
ドンドンドンドンドン!!
慌てて銃弾をよける私に続けて撃たれる鉛ではない弾。
魔女としての身体能力をフルに使って避けているが、ローブの端に弾が掠っているのかすでにボロボロだ。
うわーん、このローブ何気に気に入っているのにどうしてくれんのよ。
魔法少女の襲来
いつも通りに結界の中に絶望を感じる人間や、人生に疲れている人間を招いて夢を見せていると、キュウべぇを連れて黄色い魔法少女が襲いかかってきた。
私は魔法少女をすっ飛ばして魔女になったことには後悔はしていない。
魔女になった時に唖然としたキュウべぇを見れただけでも儲けものだ。
魔法少女から見れば敵である魔女。
追われることも、命も狙われることもそれなりに覚悟していたが……初っ端からこんな強力な子が来るなんてーーー!!!!
私は半ば必死になりながら赤いチョッキを着た二足歩行のウサギやにんまり笑った赤紫色のネコ……不思議の国のアリスをモチーフにした時計ウサギやチェシャ猫……使い魔たちに人間を流れ弾から護るように指示を出しながら逃げ惑う。
私の結界は他の魔女のように不気味な抽象世界ではなく、暖かい陽光が降り注ぎ、柔らかく爽やかな風が吹く、とあるゲームで世界三大昼寝スポットの王国をモチーフにしたファンタジーな場所。
私は建物の陰に隠れながらどうやって魔法少女を追い返そうかと思案する。
「おかしな魔女ね。逃げ惑うばかりで、ちっともこちらに攻撃してこないわ。」
「油断しないで、どこから攻撃がくるのかわからないよ。」
「わかっているわ、キュウべぇ。」
そんな時に私の隠れている壁の向こう側から、あの魔法少女とキュウべぇの声が聞こえてきた。
おいおい、こんな近くにいるのかよ!?
これじゃ迂闊に動けねーじゃねぇか!
私ははやる心臓を抑えながら慎重に二人の気配を追う。
二人がここからいなくなれば、私は結界の外に出て二人を強制的に追い出せるのに……!!
「ふわあぁぁ……なんだか眠くなってきたわ。」
突然、魔法少女がそんなことを言ってきた。
そしてその数秒後にドサっと倒れこむ音と、心地よさそうな寝息……まさか……
私はそーっと物陰から魔法少女のことを窺うと、彼女はこちらが拍子抜けするくらい気持ちよさそうに眠っている。
眠っているせいなのか、彼女の変身も解けて見滝原中学の制服になっている。うちのとこの生徒だったのか。
上手いこと木陰に入ってぐーすかぐーすか……あれほど追っかけときながら放置プレイかコノヤロー!
「ちょ、マミ。マミ!」
キュウべぇはマミと呼んでいる魔法少女を起こそうと必死に(見えるのは私だけか?)呼びかけている。
あーあ、ありゃ完璧に寝てるわ。
「残念だったわね、キュウべぇ。私を殺すことが出来なくて!」
私はローブの裾を払いながら颯爽と登場!
ん?さっきまでと態度が違う?ほっといてよ。
「紅、これが君の力かい?」
キュウべぇは感情の見えない赤い目でこちらを見るが、その姿と相まって不気味だけど怖くない。
私は眠っている少女の寝顔を覗きこみながら答える。
「半分正解かな?私は結界内に招いた人間に夢を見せて、その人間が持っている絶望や憂鬱を希望や夢に変える。だから昼寝には打って付けの世界を構築して安眠をお約束♪ってわけなんだけど、まさか魔法少女にも有効とは思わなかったわね。それとも、この子がそれほどの負担を抱え込んでしまっているってことなのかな?」
魔女がこれほど近くにいるというのに、彼女はまったく起きる気配がない。
穏やかに微笑んですらいる彼女の様子に私は苦笑しか浮かばない。
これがさっきまで何十発も弾丸を撃ち込んできた子とは思えないな。
「なるほど、最近のマミは頑張っていたから負担が蓄積。それで君の術に陥ったというわけなんだ。」
「なによ、まるで人が悪い魔女みたいじゃない。」
「実際に僕たちインキュベーターから見れば君は悪い魔女だよ。君が一人だけとはいえ、絶望の感情エネルギーの集まりが少し悪くなっているんだ。」
「ああ、それで最近は私のところに姿を見せずに彼女を使って私を殺そうとしたわけか。」
私は納得がいった、という顔でうんうん頷いていると、キュウべぇはらしくもないため息を吐いている。
この調子じゃ、今日は諦めてもまた別の魔法少女をけしかけてきそうね。
私はこんなときの為に作っておいたあれはキュウべぇの前にちらつかせる。
まるで……というかソウルジェムそのものにそっくりな宝石。
だけどその色は深いふかーい闇の色。
通常は色鮮やかな色にたいしてこれは一切の光も反射しないほどの闇を湛えているそれに、キュウべぇは言葉も出ないようだ。
「これがいったいなにか、キュウべぇなら予測つくでしょ?」
私は自分でもわかるくらいにんまりと笑っている。
「絶望の塊……なんだね。」
「せーかい♪もしもあんたらが私を殺そうとした時の為に作っておいたんだよ。こいつには私のソウルジェムの穢れを含めて今まで浄化してきた人間たちの絶望と憂鬱が詰め込んである。」
私はそれを陽にかざすが、やっぱり光なんて反射していない。
「取引だよ、地球外生命体。私はこいつをあんたたちに提供する。あんたたちは私の活動に干渉しない。」
時間は掛かるがわざわざ新しい魔法少女を選別、育成しなくても上手くいけば定期的に絶望のエネルギーが手に入る。
こいつ1個でも並みの魔法少女の2人くらいのエネルギーが入っているんだ。
悪くない取引のはずだ。
ま、多少のエネルギーは私の糧の為に使わせてもらっているけどね。
「……わかった。僕たちインキュベーターは君に手は出さない。けど、君を狙った魔法少女までは知らないよ。」
「十分よ。今回は魔法少女の襲来なんて初めてだから驚いたけど、今後はそれなりの対策を立てさせてもらうわ。」
こうして私と宇宙人の間に密約が交わされた。
「あ、ついでにこの子のソウルジェムの穢れもとっとこ。」
取引が成立されて、置いて行かれた魔法少女……えーっとマミちゃんだっけ?のソウルジェムに手をかざすと、私の手のひらに黒いモヤモヤが集まり小さな結晶に変わった。
親指の爪ほどのそれを見ながら、私は掻いてもいない汗を拭う仕草でそれを懐にしまった。
「ずいぶんため込んでいたのね。普通の人間ならこれの半分以下の量なのに……やっぱり魂を露出している分、絶望にさらされやすいのかな?」
私は立ち上がると杖を一振りしてマミちゃんによって穴ぼこだらけにされた街を修復していく。
使い魔にも指示を出して、お客さんたちをもっと寝心地のいい場所に移動させる。
私はフードを脱いで、魔女形態時に腰まで伸びた菫色の髪を払うとマミちゃんもお姫様抱っこして連れて行く。
ここもいいお昼寝スポットだけど、修復が終わるまでは別の場所で眠ってもらおう。
「んん……ママ…パパ……」
マミちゃんは私にすり寄りながら幸せそうな顔で眠っている。
私はそれに苦笑しながら彼女を連れて行った。
今だけは優しく幸せな夢の中で微睡んでいていいよ。
起きたらまた戦い(現実)が待っているのだから。
でも、また疲れたらここに来て。
ここは疲れた人が休む休息所。
人々の絶望を希望に転換する自己を見つめる鏡の間。
絶望という闇を希望という光で照らすことを手伝う鍛錬所。
「我が名、ホープディス・プリフィケーション(希望と絶望・浄化)に誓って、ここにいる人々の絶望と憂鬱を癒そう。」
だけど、もし……
「我が身でも癒せぬ絶望と憂鬱があるというなら、たくさんの希望と夢を束ねよう。それこそが我が最期の魔法なのだから。」