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「一目ぼれしました!僕をあなたの僕にしてください!!」
もう一度、上条恭介の声が聞こえた。
が、彼の口は中途半端に開かれたままで一切動いていない。
自分が声を出す前に、自分にそっくりな声をしたなにかが先ほどのセリフを言ったのだ。
目の前の魔女も自分が言ったのではないセリフに、唖然とした態度でこちらを見つめる。
彼は声が聞こえてきた方向をギッギッギッと壊れたオモチャのように首を動かすと、そこにはフリルをたっぷり使ったゴスロリに似た格好をしている自分より1,2歳下の少女が奇妙な形のメガホンを片手にニヤニヤしている。
「一目ぼれしました!僕をあなたの僕にしてください!!」
少女はメガホンに向かって一字一句間違えずに、さきほどのセリフを繰り返した。
それも恭介と同じ声で。
白い魔女もそれが恭介ではなく、この少女の言葉だと気付いたのか、つかつかと早足に彼女のもとに向かうと拳を振り上げて……
ガゴンッ
実にいい音でした。
のちに恭介はそうコメントした。
「え~っと、なにか手違いがあったみたいだからもう一度聞くわよ?」
魔女は仕切りなおすかのように咳払いすると恭介に向き直る。
空気がなんとも微妙だ。
だが、恭介はいい意味でも悪い意味でも緊張が解けた。
彼は魔女をまっすぐに見つめて口を開いた。
「どうかあなたの「奴隷にしてください!」……」
また空気が凍った。
恭介と魔女はもう一度、声がある方を向くとあの少女がタンコブ作りながらもメガホン片手にニヤニヤしている。
そしてもう一度魔女の拳が降りあがった。
まったく懲りない少女である。
魔女はまた咳払いして、恭介を促す。
恭介は頷いて、今度こそ自分の要求を伝えた。
「どうかあなたの曲を、ボクに作らせてください。」
「どうかあなたの曲を、ボクに作らせてください。」
え~っと、なんでこうなのかな?
それから恭介は自分のことを語りだした。
自分はこう見えてもバイオリニストで、それなりに腕がたつ。(知ってる、学校でも有名だもん)
今までは曲を弾いてばかりだったけど、私を一目見てインスピレーションが刺激された。(なんのこっちゃ)
私をイメージした曲を作りたくてたまらなくなり、ここまで追いかけてきた。(それで追いかけてくる執念がすごいわね)
「ボクにあなたの曲を作らせてください!」
恭介はまたそう言って、詰め寄るような勢いで私に近づく。
私は慌てて距離をとった。
なにせ今の私は普段の自分を成長させただけでしかないのだ。
顔を見られたらバレる!
一瞬、恭介を眠らせようかと思ったが、私の結界は絶望、憂鬱、疲れている人に効果があるのであって、ここまでキラキラした眼でくる人間には効果なんてない。
どうしよう?
「別に作らせても構わないでしょ?」
私が頭を悩ませていたら、頭に二つのコブをつくったアルベルティーネが私たちの間に割って入った。
とういうか、今どこから湧いた!?
「曲の一つや二つ、好きに作らせたら良いじゃん。いいのが出来たらここのBGMに使わせてもらえばいいし。」
アルベルティーネの提案に私は考えてみる。
確かに曲を作らせるぐらいはいいかもしれないけど、恭介は私のことをほとんど知らない。
それで勝手なイメージで曲を作る→ホラー系やミステリー系の曲→希望の魔女のイメージが!?
「……あなたは私をどのようなイメージで作りたいのですか?」
とりあえず、恭介の話を聞いとこ。
さすがにこの世界を見て私にそんなイメージがついたらヤダし。
「え?そうですね……最初は幻想的な夜のイメージだったのですが、この王国とそこで寝ている人たちを見ているとなんというか……」
言いづらいのか恭介は一瞬言いよどむが、意を決して口を開く。
「お昼寝王国?」
小首を傾げて、テヘッなんて言われて思わず萌えてしまった。
畜生、美少年ってやっぱ得だよ。
そうやって私の結界のBGM作成が決定された。
「おはよう!」
今日も私は元気に学校に登校する。
自分の席に向かう途中で恭介の席を横切るから挨拶しようと思ったが、思わずぎょっとしてしまった。
なにせ、彼の机の上には音符の書いていない楽譜が何十枚とあり、恭介はそれに必死に書き込んでいたのだから。
私は話しかけることが出来なくて、彼の幼馴染であるさやかに話を聞くことにした。
「ねぇ、さやか。上条君どうしたの?」
「うーん、なんか作曲に目覚めたとか言って急にやりだしたのよ。もう鬼気迫る勢いでさぁ。恭介の奴、私の知らないところでなにがあったのやら……」
そう言って落ち込むさやかをみんなで浮上させてました。
うん、恭介にはもっと幼馴染を敬え、構えと言っておこう。