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彼はその日、不思議なものを見た。
用事ですっかり暗くなった夜の街。
彼はふと空を見上げて見つけた。
月明かりの下でビルの合間を飛び交うそれ。
他の人間には見えなかったのに、なぜか彼にはそれがはっきり見えた白いローブを纏った箒に乗る存在。
性別はおそらく女性……恐らくというのはフードで顔が見えなかったのと、体型が女性のような細さがあるからだろう……はビルの合間をすいすいと軽やかに飛び交う。
月明かりがローブを軽く反射して、彼女自身が輝いているかのように彼には見えた。
「魔女…?」
彼は思わずつぶやいたが、なるほどしっくりきた。
彼女はまるでおとぎ話に出てくる魔女のようだ。
それも禍々しい悪い魔女ではなく、人々を助ける白き魔女。
彼は気が付いたら走り出していた。
魔女を追いかけて。
見失ってはいけない。
それだけを思って彼は必死に足を動かす。
途中、何人かにぶつかってしまったが彼は振り返らずに走り続ける。
流れる景色にも目をくれない。
ただまっすぐに魔女を追いかける。
そうやってどれくらい走り続けたのだろう。
彼は人並みに体力はあるつもりだったが、すでに足は棒のように感覚が麻痺してしまっている。
呼吸もつらい。軽い酸欠で頭がガンガンする。
それでも気力で足を動かし続ける。
まだ自分の視界には魔女が映っているだから。
誰もいない公園が見えてくると彼は足を止めた。
それは魔女を見失ったのではない。
魔女の箒が減速して、徐々に降下を始めたからだ。
彼は魔女を見失うものか、と静かに近づいていった。
急に近づいたら逃げられるかもしれない。
そう思い彼は足音を殺して近づいていくが、魔女は噴水の前に行くと、どこからともなく杖を取り出した。
魔女の身長よりも長い杖を一振りすると、月と太陽を組み合わせた紅い魔法陣が目の前に現れた。
彼はそれに息を飲んでいると、魔女は魔法陣の中に入って行ってしまった。
彼はおいて行かれてはたまらないとばかりに自分も魔法陣のなかに飛び込むと、そこはとても美しい世界が広がっていた。
「ここはいったい……?」
彼は目の前に広がる景色にただ呆然とするしかなかった。
今は夜のはずなのに頭上には暖かな太陽の日差し。
それだけでも驚きなのに、彼は目の前の王国にも目を奪われる。
ファンタジーのような西洋式の王国。
シンデレラのお城のような城を中心に展開されるおもちゃの様な城下町。
それも完全に自然と調和している形でそこにあった。
彼はそこを完全に見渡せる丘の上にいたのだ。
そこは背後を振り返ると自分が通ってきた魔法陣をそのままに緑の草原が広がっている。
向こうに見えるのは山なのだろうか?
それも背景の絵のようなものじゃない完全な存在感を醸し出している。
「夢なのか?」
彼自身、この存在感を無視できないのを自覚しておきながらもつぶやいた。
彼はもう一度、その王国を見渡した。
目をこすっても、頬を抓っても王国はそこにある。
その時、彼の視界に城に向かって飛んでいる魔女の姿を見つけた。
彼は頭が動く前にその魔女を追いかけるために丘を駆け下りた。
その彼の後ろから追いかけるネコとうさぎに気づかずに。
彼は城下町に降り立つと違和感を感じた。
人の気配がない。
いや、人の気配はするのだが人の営みをする音が聞こえないのだ。
彼は思わずその辺の家の中を覗くと、家のベットやソファの上で人が眠っている。
よくよく見れば眠っている人の服装はこのファンタジーの世界に似つかわしくない自分と同じような現代の服装だ。
家の中庭にはベットチェアが置かれてそこで眠っている人もいれば、無造作に木陰で眠っている人もいる。
みな、一様に安らかで穏やかな寝息を立てている。
中にはなにをそんなに悔しがっているのか、難しい顔で歯ぎしりしている人もいるがしばらくすると穏やかな顔をする。
「なんでみんな眠っているんだ?」
確かにここはとても暖かく、風も穏やかで気持ちいい。
昼寝には絶好の環境だが、それだけでこれだけの人間が誰も起きずに寝ているのがおかしい。
彼は魔女のいるであろう城を目指しながらも、それに疑問を思っていると目の前になにか降ってきた。
「うわ!」
彼は思わず手で顔をかばうがなにも起きない。
彼はそーっと構えを解くと目の前に赤いチョッキと時計を持った白いウサギと赤紫色の縞模様のネコが立っていた。
日本足で。
「え~っと、ここまでファンタジーだから喋っても驚かないよ。というか君たち喋れる?」
ウサギとネコは彼の頭の先から爪の先まで眺めるとそろってコクンと頷いた。
『私たちはここの案内人でございます。』
『あの方が招いた人間を案内し、接待するのが私たちの役目。』
『お客人、あなたは主が招いた方ではないようでございます。』
『なに用でこちらに参られましたか?』
交互に喋るウサギとネコに彼は頭をかきながら説明する。
説明すると言っても彼自身、ほとんど衝動に身を任せての行動ゆえにうまく説明できていないのだが。
『なるほど、それでは我が主にお伺いをたてましょう』
『このままお客人を無粋に追い返しては我らの名折れでございます故。』
そう言ってウサギは城に向かって走り去っていき、ネコは彼を城下町の広がらしき場所に案内する。
彼は逆らうのもなんなので、ネコの後ろを素直についていく。
ここまで不思議なことが続くと、彼自身は何でもアリな気がしてきたのだ。
「お客様?しかも私が招いたわけじゃない?」
私がお城の中でいまだに眠っている魔女の様子を見ていると、時計ウサギ……名前はペーター。某ゲームからいただきました。……が知らせに来た。
私が招いたのはみんな『魔女の口づけ』がついていて、半ば意識が朦朧状態なのに……それでもここに来たって魔法少女じゃないでしょうね?
いや、魔法少女なら使い魔がやられるからすぐに解るか。
「そのお客さんってどんな人?男?女?」
『男性でございます。主と同じ見滝原中学の制服を着ておりました。』
男?男子でここに来ることが出来る人で心当たりなんてないわよ?
「そんで?その人はどうしたの?」
『は、どのような力があるやもしれませんので、城ではなく広場に案内させていただきました。』
ふむ、確かに城の中にはいまだ絶望を癒しきれていない魔女やキュウべぇに渡すために凝縮中の絶望の塊……ダークネスジェムがあるのよね。
やはり私の使い魔は優秀ね。
「それじゃ会ってみようかな?ここまで魔女を追いかけてきた勇気ある若者にね♪」
うん、会ってみようと思った数分前の自分を絞殺したいわね。
私は口元しか見えないように気を付けたローブの奥で口がひくつくのを必死に抑えていた。
「それで?いったいなに用なのかしら?」
なーんで彼がここにいるのよ!?
「上条恭介くん?」
私が名前を呼ぶと彼は驚いたような顔をした。
そりゃ初対面……じゃないけど、向こうからしたら知らない人にいきなり名前を呼ばれたらびっくりするよね。
でもね、私もそれ以上にびっくりしているから。
なんでさやかの思い人と結界内で対峙しなきゃならないのよ。
私としてはさやかの恋は応援したいの!こんなところで彼に変な影響を与えて話を拗れさせたくないのよ!
「あ、あの……あの!」
恭介は何かを言おうとするが言いよどんでしまう。
しかしそれも数回で、彼は意を決して口を開いてきた。
私にとって大きな爆弾を
「一目ぼれしました!僕をあなたの僕にしてください!!」
なんで告白が隷属宣言になってんのよ!?