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遅れてしまった戦い。

その戦勝祝いに俺が参加できるわけない。

なのに・・・

なんで俺がこの場にいるんだよ?
 


.hack//hydrangea
『パーティ・パーティ!』








時を少し巻き戻そう。

俺は『隠されし 禁断の 聖域』にいた。

なんでそこにいたのかは、なんとなくだった。

俺はあの最後の戦いのとき、カイトたちのもとに現れたのかと思えば、すぐに敵に吹っ飛ばされて気絶という情けない結果になった。

だから俺は、目を覚ましたらすぐにカイトたちに気づかれる前にその場から去った。

どうやら、あれがモルガナだったみたいだ。

ちくしょー・・・最終決戦は俺も参加しようと思ったのに・・・

よりによって途中参戦・すぐさま退場かよ!?

俺は自分に対する憤りを拳に込めて壁を殴る。

「・・・いたい・・・」

「当たり前じゃない。」

痛みを訴える拳をさすっていたら、背後からヘルバの声が聞こえて、俺は振り返った。

案の定、ヘルバは呆れた顔でこっちを見てる。

「何しに来たんだよ・・・」

俺は自然と仏頂面でそう言った。

ヘルバはそんな俺に気にも留めないといった感じに、話を持ち出す。

「新しい女神も決まって、この世界は安定したわ。それで、ネットスラムで黄昏事件の解決祝いにパーティを開くの。あなたも参加する?」

パーティ?

そんなのあったかな?

俺が思案していると、ヘルバはさりげなく爆弾を落とした。

「司たちも来るわよ。それにあなたは強制参加が決まっているから。逃げたらカイトたちが許さないわよ。」

「うぇっ!?」

強制参加かよ!?しかも司たちも来る!?

・・・いかん・・・これは絶対参加しろって、俺の中の悪魔が囁く~!!

「返事は?」

俺はヘルバにそう聞かれて、自分の中の悪魔に負けたことを自覚した。

 

 

 

 

 

ドパーンッ ドパーンッ

ここはネットスラム。

ヘルバがテクスチャに手を加えたみたいで、町並みの色が柔らかくなっている。

空には花火が盛大に上がり、景気のいいBGMでみんなそれに合わせて踊っている。

俺はそれをハイドランジア・フードなし状態で、ヘルバと一緒にビルの上から見下ろしていた。

「あなたは踊らないの?」

「俺はある意味部外者だろ?そんな俺があそこに行けない。」

俺の眼下には、カイトやブラックローズたちが楽しそうに踊っている。

別の場所に目を向けると、司や昴もミミルもベアもBTもクリムも楚良もいる。

・・・銀漢のダンスはちょっと意味不明だけどな。

俺が生暖かい視線を銀漢に向けていると、俺たちの近くに光の環が現れ、ショップのNPCが現れた。

・・・こいつリョースだな。

俺は初対面のそいつが現れて、どうしようかと考えていると、アルビレオも一緒にいるのに気づいた。

「遅かったわね、リョース。」

「少しごたごたがあってね。ヘルバ、ネットスラムをルートタウンとして受け入れる準備が出来ている。」

俺がアルビレオに近づこうとしたら、突然話が始まった。

おいおい・・・ネットスラムがルートタウンになっちまったら、ここは『世界』であって『世界』じゃない場所から、『世界』そのものになっちまうじゃねぇか。

俺がそう考えていると、ヘルバも同じように思っているのか、あっさり断った。

「その必要はないわ。」

「・・・そうだな、必要ないな。」

おーい!2人だけで通じあうなー!

「久しぶりだな、ハイド。」

俺はどういうリアクションを取ればいいのか迷っていたら、アルビレオが声を掛けてきた。

その手には、『悲シイ思イ出』を持っている。

「よう、アルビレオ。久しぶり、ちょっと未帰還者になりかけたけど、こうやって戻って来れたぜ。」

俺がそう言うと、アルビレオは呆れたように笑った。

「おまえは・・・まぁいい。元気そうでよかった。」

「おまえもな。」

俺たちはそうした掛け合いをしていると、不意にアルビレオが真剣な顔で俺を見た。

「ハイドランジア及びハイドに碧衣の騎士団団長アルビレオから通達する。」

俺は自然と居住まいを治して、アルビレオに向き合う。

こいつがこういう風に言うってことは、余程なことがあるときくらいだ。

さて、なにを言うか・・・

「今回の『黄昏事件』の功績により、ドットハッカーズのリーダー・カイトとサブリーダー・ブラックローズのPCデザインを他のプレイヤーが使用することを禁止とする。」

げっそういや、俺の服装ってカイトの青バージョンじゃねぇかよ!?

やっばー・・・ずっとハイドランジアでいなきゃならなくなっちまう・・・

俺が内心頭を抱えていると、アルビレオがふっと表情を緩めた。

「だが、そのドットハッカーズを裏から支えた功績として、君のPCデザインも他のプレイヤーが使用するのを禁止となった。」

「へっ」

それって・・・俺はハイドになってもいいってことか?

俺はアルビレオの顔をまじまじ見ると、アルビレオはそれが可笑しかったのか、ぷっと吹き出した。

「そんな顔するな。これはカイトたちからの要望もあってこうなったんだ。」

「カイトたちの要望?」

「あぁ、カイトたちがさっきの通達をしたら、おまえのPCは使えるようにしてくれって頼んできてな。(しなければ腕輪で『世界』を壊すって脅しもあって)こうなったんだ。おまえは今までと同じように、ハイドの姿でいればいいさ。それに、ハイドランジアのPCもおまえ専用になった。」

おい・・・なんか含みがあったぞ?

俺が訝しげにしていると、アルビレオが遠い顔してビルの下のみんなを見る。

「これが、碧衣の騎士団団長アルビレオの最期の仕事だ。」

本日2度目の爆弾に俺は目を見開いた。

だって、そうだろう?

アルビレオがCC社をやめる理由は、体調不良が原因のはずだ。

今のアルビレオにそれは・・・

俺が絶句していると、アルビレオは声を上げて笑い出した。

「なにを想像しているんだ?俺が騎士団を辞める理由はただの人事異動だ。」

あ、そうなの?

「ひやひやさせんなよ・・・おまえがThe World止めちまうのかと思ったじゃねぇか・・・」

俺は深いため息を吐いて、そう言う。

いつの間にか、ヘルバとリョースはいない。

「おいおい、いくらなんでもThe Worldまでは止めないさ。この世界には、おまえもリコリスもいるからな。」

そう言って、アルビレオは紅い槍を見た。

槍の輝きは変らないけど、受ける雰囲気が随分変っている。

前は見ているだけで、悲しい思いになるのに、今は優しい感じが・・・いや、懐かしい感じがする。

「そっか・・・それで、新しい団長は?」

俺は気づかない振りしてそう聞くと、アルビレオは笑った。

まるで悪戯が成功した子供のような表情で。

「神威という女性PCだ。俺の後輩で、今はアメリカのほうに出張している。騎士団の制式鎧を着ているからすぐにわかるはずだ。それと・・・おまえのことを知らない。というより知らせていない。」

・・・えっと・・・この場合の知らないは、ハイドランジアの格好がCC社公認になったということか?

だとしたら・・・俺って追いかけられること大決定!!?

「ちょっと待てーー!!」

「騎士団の連中も、面白がっているから、多分おまえのことは誰も知らせないな。頑張って自分で弁解しろ。」

俺を心配させた罰だ。

そう言って爽やかに笑ったアルビレオの顔を、俺は忘れることはないだろう・・・

その後、俺は自棄だとばかりに、カイトたちのところに乱入して踊り明かした。

当然、カイトたちに説明を求められたから、話せること(俺が放浪AIもどき)を全部話した。

ま、メンバーアドレスの交換だけは、俺のロール上しなかったけどな。
 

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