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フラグメントが終了した。
今までバルムンクやアルビレオと遊びまわっていたのに、突然その日々が終わった。
ユーザーたちがログイン出来なくなり、タウンにも、フィールドにも誰もいない。
いるのはNPCとモンスターだけ・・・
誰もいないタウンで、俺はただ待ち続けた。
この町の住人を・・・
旅人を・・・
友を・・・
新しい物語を紡ぐ者たちを
.hack//hydrangea
『スノーフレーク』
みんなが戻ってくるまでの数ヶ月の間、俺はひたすらフィールドやダンジョンでレベル上げやアイテム集め没頭した。
俺のホームにはたくさんのアイテムで溢れかえった。
一応一通りの武器防具を揃えた俺は、双剣以外で自分が装備できるものがないか試した。
両手剣、片手剣、両手斧、両手槍、杖。
全部試したけど、どれも出来なかった。
ったく!これじゃなんで錬装士なんだかわからりゃしない。
今の世界じゃ、武器の種類はこれだけ。
他に武器はない。今俺に装備できるのは双剣のみだ。
くそ!バルムンクが帰ってきたら片手剣はプレゼントするか?
防具のほうは要らないのは売り飛ばして、残りの武器も必要な物意外はトレードもしくは売るか。
ハイドランジア姿で武器が双剣なんてすっげー微妙じゃねぇかよ・・・
しゃーない、R:2まで待つしかないのか・・・
「バルちゃーん!おかえりー!!」
「どわ!?」
The Worldのサービスが開始されて、ユーザー達が帰ってきた。
俺はウキウキしながらフィールドをハイドとして、ハイドランジアとして駆け回る。
そしてハイドランジアとしてきっちり『謎の人物』をロールしている。
けど、かなりの確立でなぜか『天気のいい夜』で、月を背にロールすることが多い。
おかげでBBSで『闇の紫陽花』のほかに、『月の華』っていうあだ名ももらった。
俺としてはもうちょっとカッコイイあだ名が欲しかったんだけどなぁ。
そんなこんなでサービス開始から数ヶ月。
俺は偶然見つけたフィールドで、バルムンクを発見したからとりあえず飛びついた。
というより、弾き飛ばした。
それを近くにいた、上半身裸の緑のペイントがされている剣士が目を丸くした。
「ハイド!!一体なにをする!?」
「いやー折角バルムンクがこの世界に帰ってきてくれたから、歓迎の意も込めて♪」
「♪じゃなーい!!」
あぁ・・・これだよ・・・この反応だよ。
律儀なバルムンクの打てば響くこの反応・・・待った甲斐があったってもんだよ・・・
「あ、あんたは初めましてだな?俺はハイドだ。」
「あ・・・俺はオルカだ。よろしくな。」
こいつがオルカか~・・・
俺とオルカがのんきに自己紹介していると、バルムンクがこちらに来た。
ずいぶんご立腹なご様子。
「ハイド~~~」
「ほれほれ、ロール崩れてるぞバルちゃん。」
俺は面白そうに片手を振る。
こりゃ冷静沈着の騎士さま台無しだな。
「くっ・・・それで何のようなんだハイド。」
あ・・・久しぶりに会えた嬉しさで忘れかけてた。
「2人とも腕に自信ある?」
「あ・・・?一応そこそこと・・・」
「私もその辺のプレイヤーには負けないつもりだが?」
ふむふむ・・・それなら大丈夫かな?
「情報を1つ提供!2人とも『ザワン・シン』というイベントについてご存知かな?」
攻略不可能と言われるイベント。
絶対に勝てないと言われるモンスターがいるエリア。
この世界で先着1パーティのみの、たった1つのイベント。
この2人が攻略するイベント・・・
「いや・・・バルムンクは聞いたことあるか?」
「私もないな・・・」
それを聞いて俺は度肝を抜かれた。
うそ!?てっきり知ってるかと思ってたんだぞ!?
オルカだけじゃなく、バルムンクも知らないなんて・・・俺が教えなきゃどっから情報を仕入れてくる予定だったんだ?
「あ~・・・バルムンクまで知らないなんて・・・『ザワン・シン』はこの世界でたった1つしかないイベントだよ。絶対に攻略不可能と言われているイベント。もし2人とも自信があるなら試しにやってみたらどうかってな。」
俺の話に2人は興味深そうにしている。
そしてオルカとバルムンクは笑った。
「おもしれー!やってやろうじゃんか。」
「ああ!クリア出来ないイベントはない。クリア出来ない時点でそれはゲームじゃなくただのバグだ。」
俺は満足げに笑った。
この2人ならそう言うと思った。
「頑張れよ。これは餞別だ。」
俺は2人にそれぞれ2人のレベルに見合った片手剣を渡した。
結構レア物である。
「!いいのか?」
「2人には頑張って欲しいからな。」
俺は用は済んだし帰ろうとしたら、オルカに呼び止められた。
「ハイドも一緒に行かないか?」
うそー?まさか俺がパーティメンバーに誘われるなんて・・・
「ワリィ!俺はソロだから。誰ともパーティ組まないんだ。」
「えー?それじゃメンバーアドレスの交換だけでも・・・」
「それも断る。俺は誰のメンバーアドレスも持たないし、渡さない。」
俺の職業が判明した時点で決めたマイ・ルール。
誰にもメンバーアドレスを渡さない代わりに、誰のメンバーアドレスを受け取らない。
それはこの2人も例外じゃない。
「それじゃ・・・2人に夕暮竜の加護があらんことを。」
俺は最後にそう言ってゲートアウトした。
さーて・・・これからどうしようかな~?
俺はハイドランジアとしてさっきとは違うエリアを散策していた。
今回のエリアは森。時間は夜。
森そのものがダンジョンのようなそこで俺は適当にモンスターを倒しながら進む。
最初にソロをやってた頃は毎日激痛との戦いだったが、今は慣れたモンで攻撃も上手くかわせるようになってきた。
俺は特にダンジョンを目指すこともなく、時々偶然会ったプライヤーに助言をしたり、傍観したりしていた。
今回は敵対者になることはなかった。
それほどのプレイヤーがいなかったことが要因。
俺が敵対者になる条件は、俺と同等のプレイヤーか、それに値するもの・・・
他にもあるけど、大体はこんな感じだ。
「あ?なんだ行き止まりか・・・」
俺は少し開けた場所を見回す。
特に宝箱もプチグソの餌もない。
俺は引き返そうとしたら、後ろから声を掛けられた。
「ねぇ?」
まだ幼い少女の声・・・
俺は後ろを振り返ると、そこには僅かながら宙に浮いた真っ白い姿、真っ白い髪の長い少女がいた。
こんなイベントあったかな?
俺はその少女に僅かな違和感を感じながらも、少し近づく。
遠すぎず、近すぎず・・・適度な距離を保つ。
なにかがあったときのために、すぐに対処できるようにするのは基本。
俺は双剣に手を掛けながら少女に声を掛ける。
ハイドランジアとして・・・
「なにか?」
少女は足を地に着けると、まっすぐにこちらを見る。
その少女は口を開く・・・その容姿からして恐らくかなり大人しい子だと予想される。
「すまんのやけど、わいを連れて行ってくれへんか?」
「はい?」
俺はロールも忘れて問い返した。
いや・・・こんな可憐系美少女の口からまさか関西弁を聞くことになるとは思わなかった。
俺はどう返したものか考えていると、その少女はいつの間にか俺の横に来て俺の手を握っていた。
この展開は・・・アルビレオと同じ状況かよ・・・
俺はローブを脱ぐと、その少女と目線をあわす。
「俺の名前は龍樹・・・タツキっていうんだ。君の名前は?」
俺はその時、ハイドランジアでもハイドでもなく、本当の名前であるタツキを名乗った。
どうしてそうしようと思ったのか、俺にはわからなかったけど、目の前の少女には嘘を吐きたくない。
なぜかそう思った。
「わいはスノーフレーク。一緒に冒険に連れてってな!タツキ。」
にっこり笑った少女・・・スノーフレークに俺も笑い返した。
俺の予想ならこの子は放浪AIだ。
それもその辺のハッカーが作ったものじゃない。
この子が俺を呼ぶ声も滑らかだ。
この子も多分リコリスと同じ存在だ。
「いいぜ!それじゃまずはダンジョン攻略だ!!」
「おう!」
俺はスノーフレークと一緒にダンジョンを目指す。
俺はこの子の望むことをしてあげよう。