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「あ、やりすぎちゃった。」
自分の結界のお城の中で、私は自分のソウルジェムの絶望を抜き出していると、ちょっと力が入りすぎてしまった。
しまったな、ただでさえ少ないのに。
「え?どこが失敗したの?オネェちゃんのソウルジェム今まで見たことがないほどすっごく綺麗になってるじゃない。」
どっから出てきたのよ、アルベルティーネ。
確か使い魔たちと遊んでいたんじゃないの?
「そのすっごく綺麗なのが問題なのよ。」
私は結晶化している絶望を掌でコロコロ転がしていく。
それはだんだんと角が丸まって完全な球体に変わった。
以前にキュウべぇに渡した絶望の塊ほど黒くないけど、一目で禍々しいものだとわかる。
私はそれを一瞬の躊躇もなく口に含んだ。
それと同時にアルベルティーネが息をのむのがはっきり聞こえた。
「お、オネェちゃん!それって絶望なんだよね!?飲んでも大丈夫なの!?」
「うーん、本当ならあんまり大丈夫じゃないけど必要なのよ。」
絶望の塊……呼びづらいわね、呼び名募集!……はすぐに口の中で溶けて喉の奥に流れていく。
私はそれを感じながら口を抑えるのを止めることが出来なかった。
「くっ!」
「お、オネェちゃん!?大丈夫?やっぱり吐き出しちゃいなよ。」
「ダメよ。ねぇアルベルティーネ、使い魔たちから何か飲み物貰ってきて、できれば甘いものがいいんだけど……」
「わ、わかったわ!」
タッタッタッタッタ
アルベルティーネがその場を離れるのを見送って私はその場に突っ伏してしまった。
「に…………にっがーーーー!!」
そう苦いのだこれわ。
コーヒーの粉を丸ごと飲んだより、カカオ99%のチョコレートを食べたよりも苦い。
しかもすぐに口の中で溶けるから飲み込む暇もない。
最近は力加減もわかってこういう失敗はなくなってきたけど、いざやるとキツい。
事前に飲むとわかっていたら、もう少しマシなんだけどこうも突発だと遣る瀬無い。
ん?なんでわざわざ絶望を飲むのかって?
これこそが私の欠点のようなものなのだ。
人間というのは絶望では溺れ死ぬけど、じゃ逆に希望だけで生きられるのか?と聞かれると私はNOと答える。
これは私の持論でもあるけど、人間というのはぷらすの感情だけで生きているのではない。
怒り、悲しみなども併せて心というものだ。
仮に、希望だけが胸の中にある人間と希望に溢れているけど絶望も宿す人間が困難極まりないダンジョンを踏破する場合、どっちが無事に到達すると思う?
ダンジョンの難関さも、トラップの数も、入る人間の運の良さもすべて同じ場合。
大抵は前者と思う人が多いかもしれないけど、私は後者だと考えている。
前者は希望ばっかりで立ち止まることを知らないけど、後者は立ち止まることを知っている。
つまりそういうこと。
希望は前を進むのにいいけど、前だけを突っ走っていったら走っている本人も、一緒に走っている人間も転んだ時が悲惨極まりないのだ。
人間というのはときに立ち止まり、周囲を見ることも重要なことである。
絶望とは恐れ、悲しみ、孤独などのマイナス感情。
プラスとマイナスが両方あって、初めて心は健康なんだと私は思っているわけ。
で?なんでそれが私の欠点かって?
それではみなさんに質問です。
私の「性質」ってなに?
うん、「希望」なんだよね。
希望の魔女である私は他の人間なんかより絶望の感情が溜まりにくい。
時々、ソウルジェムの浄化の為に抜き出すけど完全な浄化はしない。
希望だけの心は慢心を産み、傲慢になってしまうことがある。
他の人間はほっとけば勝手に絶望が蓄積されてバランスがよくなるけど、私は自分で調整しないといけないから面倒だ。
ま、これも私の「祈り」の範囲内だから自業自得なんだけどね。
とりあえず思うこと……
「アルベルティーネ……飲み物早くプリーズ!」
口直しさせて!
「おやすみなさい、良き夢を。」
私は今日も結界内に人を取り込み、夢を見せる。
ああ、どうか安らかに眠りたまえ。
「全然、安らかじゃないよ。」
「あり?遊びに行ったんじゃないの?」
「う~ん、魔法少女がうろついていたから今日はやめにしたの。それより聞いていい?」
「いいよ~」
アルベルティーネから質問とは珍しい。
「なんで絶望を抜き取った後に希望を入れないの?わざわざ本人から出させるんじゃなくて。」
おう、難しい質問だね。
確かに私は絶望を希望に変えているけど、別にそれは絶望を希望に変換しているわけじゃないのだ。
それだったら、わざわざ絶望の塊なんて作らないし、必要ない。
・・・・・
私はただ、人間から、魔法少女から絶望を抜き取って夢を見せているだけなのだ。
「私わね。希望というのは誰かに与えられるんじゃなくて、自分で見つけるもんだと思っているんだ。」
私がこうやってアルベルティーネと話しているのも、普通の日常にも希望を見出すように。
「私がここの人たちに希望という感情を与えたら、それは本人のものじゃない。偽物の感情なのよ。だから私は夢でそのきっかけを与えるだけ。その人にはその人の希望があるのだからね。」
それに……
「私にも旨みはあるしね。」
そう言って私の手のひらには抜き取った絶望が結晶として掌に集まる。
水晶の原石のように黒いながらも光に反射する絶望。
キュウべぇに渡すにはもっと高純度にしないといけないかな?
私は絶望の結晶を一つとると口に含んで飲み込む。
う~やっぱり苦いや。
「面倒だね。」
「それが人間ってものっしょ?」
私とアルベルティーネがにこやかなに笑いあうと、いきなり招いた人間が起き上がった、つか立ち上がった。
妙齢のメガネの女性……つか先生!?
私の学校の先生までここにいんのかよ!?
先生はなにやらやる気を漲らせて、がおーっと吠えるかのような咆哮をあげた。
「そうよ!男なんて男なんて男なんて!!あの人以外にもいっぱいいるんだからーーーーー!!!!!」
それはまさしく魂の叫びだった。
おそらく現代の独身女性を代表するかのような悲鳴だ。
「またダメだったのか……」
というより、この結界に招かれるほど疲れてるのね。
「……今度、なにか差し入れしようかな?」
「おかしいな……私って子供のはずなのに、あの人の叫びを聞いていたらなんだか涙が……!!」
優しいねアルベルティーネは。
どうかその優しさを忘れないで。
先生はそのまま叫ぶとそのまま結界から走り去ってしまった。
グッドラック、先生。
今度はいい人が見つかりますよ。
「あの人このまま魔法少女に見つからないかな?」
「あ」
結界を移動させたのは言うまでもありません。