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フラグメント・・・fragment

.hackの世界でThe Worldの前身。B版。

テストプレイヤーは1000人あまりで、システムもThe Worldとところどころ違う。

そして、このfragment、後の日本語版The Worldのデバッカーを勤めている1人がこの目の前のオッドアイの人。

デバッカー・・・つまりバグを見つけたり、削除する人。

現在司状態・・・つまり放浪AIもどきの俺にとっては天敵以外の何者でもないということだ。
 


.hack//hydrangea
『もうひとつの名前』







ハイドランジア・・・紫陽花は俺が好きな花の名前。

うっすらと青みがかったあの花は不思議と心を落ち着けてくれる。

最初に俺がそう名乗ったのは、そんな他愛のない理由から。

でも後から考えてみると、結構皮肉った名前だと自分でも気づいちまったな。

 


紫陽花の花言葉は「移ろ気」「高慢」

 


俺はこの世界のことを知っている。

だけどそれはほんの一部、一握りのこと。

だとしたら、この名前は戒めになる。

自分は全てを知っているわけではないという戒めに。

謎の人物をロールするには、自分の限度を知ることが大切。

もし驕ってしまえば、全てが台無しになるのだから。

だから、この名前は戒め。

敵でも味方でもない「移ろう」存在で、だからといって「高慢」にならないように。

 

 

「ハイドランジア?紫陽花か。いい名前だな。」

そう言ってアルビレオはさっきと同じように笑った。

その手に持っているのは『神槍ヴォータン』じゃない。

初期装備の銅の槍だ。

よかったー!!!あれじゃなけりゃ、今すぐ消されるってことだけはないな。

まだ騎士団結成前か。

「汝こそ・・・連星とは良き名だ。」

俺は口元しか見えないように気をつけながら相手を見る。

俺が名前の由来を言い当てたことに、アルビレオは相当驚いたみたいで、結構間抜け面してる。

「・・・あんた結構博学だな。まぁいいや、このエリアは初心者には結構きついから気をつけなよ。」

アルビレオはそう言って踵を返す。

「忠告痛み入る・・・では後ほど、騎士団長殿。」

俺はそう呟いてゲートアウトする。

視界の端にまた間抜け面しているアルビレオを映しながら。

 

 


ゲートアウトできるかどうかなんて、一種の賭けだった。

自分の中で、ゲートアウトこうするんだっていう感覚があったから。

それで無事成功。

俺は今、水の都マク・アヌの路地裏を何の気なしにも歩く。

こんな格好、たぶん仕様にもないからあまり人目に付くのは得策じゃない。

にしても、こんないかにも魔法使いです。と言わんばかりの格好でなんで双剣士なんだか。

あ、そういやこのローブの下にもなんか着ている感触あるんだよな。

俺は辺りに人がいないことを確かめて、脱げるかどうか半信半疑でローブを脱ぐ。

「うわっ・・・本当に脱げるもんだな。にしてもこの格好って・・・」

俺はローブを感覚で呼び出したアイテム欄にしまうと、自分の格好を見下ろす。

ローブを着ているときにはなかった大き目の帽子、動きやすそうだけど布地が多い典型的な双剣士の格好。

色は絵の具をそのまま着色したようなセルリアンブルー。

簡単に言うと、カイトの青バージョンってことろだ。

服の文様は少し違うけど。

しかし、ローブ着用時とはえらく違う格好だな。

俺は河に自分の顔を映して驚愕した。

てっきり、顔の造形もカイトに似ているのかと思ったから。

俺は自分の顔に手を当てる。

間違いない。

この顔は

 

 

 

 

元の世界の俺そのものだ。

 

 

 


瞳の色も、髪型も色も、リアルの俺そのもの。

この世界じゃ、PC(プレイキャラクター)に自分を似せるのはよくあること。

だけど、ここまでそっくりなことってあるのかよ。

俺は我武者羅に自分の像に手を叩きつける。

水が冷たい。

そんな俺をまわりのプレイヤーは不振そうに見てくる。

俺はそんな視線にたえられず、その場を逃げ出した。

あぁ・・・なんで・・・なんで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで美形じゃないんだ!!!!!ヲイ)

 

 

 

 

普通ここでお約束なのは、美形キャラになっていることだろ!?

なんで、平々凡々の俺の顔!?

せっかく異世界トリップしたんだから、せめて瞳の色が変わっているとか髪の色が変わっているとかあるだろ?

俺の顔はブサイクってわけでもないが、女子に好かれやすい顔かと問われればはっきり言って否。

その辺にいる奴らとたいして変わらない容姿をしている。

女子には癒し系とか、なんか弟みたいな感じだ、と言われる。

これは高校時代に好きな子にも言われた悲しいレッテルさ・・・(TT)

・・・って!また話がそれた。

この世界を楽しもうとした矢先、PCボディに関しては俺は周りの奴らが羨ましくなった。

他の奴らは自由にキャラメイクが出来るけど、俺は格好だけで顔は自分。

なんかちょっとへこむ。

「おい」

せめてさー・・・

「おい!」

この目の前の青い瞳のものすっごい美形の剣士といわずにねー・・・

「聞いているのか!?」

・・・・・・あれ?

「まったく、離席しているのか?」

・・・メノマエニイルコノカタハ、モシカシテノチノ『蒼天』ノフタツナヲサズカルカタデスカ?

「%')"$'%"&%"#('%)("%)"$))(%')($%'"$('%"#&%'#&$'"&#"'$(#!!!!!!!!?」

「うお!?」

俺は言葉にならぬ悲鳴を上げてしまい。

剣士・・・後の蒼天のバルムンクはらしくもない驚きを示していました。

 

 

 

「いやー・・・ごめんごめん。いきなり目の前にお兄さんがいたからちょっと驚いちゃってさ!」

「こっちはいきなり叫ばれて鼓膜が破れるかと思ったぞ。」

とっさにマイクの音量を下げたからよかったものの・・・

お兄さん・・・バルムンクはそう言って未だになんかブツブツ言ってる。

まさか、こんなに速く有名人に会えるとは思わなかったな。

「だからごめんって。そんで俺になんか用事あるの?」

羽が付いていないバルムンク。はっきり言って妙!これの一言に尽きるな。

俺はなんとか普通の顔をしようと顔に力を入れる。

いかん!余計強張る!!

「いや・・・パーティを組む相手を探していてな。よければ一緒に行かないか?」

・・・俺の耳がおかしくなったのかな?

基本的にソロプレイの人からこんなお誘いがあるなんて・・・

「だめ・・・か?」

バルムンクはしゅんとした顔で、ちょっと俯く。

あのー・・・キャラ違くありませんか!?

なんですか、その"構われなくて寂しい子犬"のような目は!?

いくらまだフラグメント初心者時代でも、これは違うだろ!?

なんだろう・・・断ったら物凄い罪悪感を感じそうな自分が怖い・・・

「・・・パーティは組めないけど、一緒にダンジョンに行けるぐらいしてあげれるよ。」

パーティを組むためには、メンバーアドレスの交換は必須。

俺の名前とかが一発でばれる。

メニューのステータス画面で俺の名前がどうなっているのか、まだ確認できていない状態で渡すわけにはいかないな。

本名で登録されていたら、今後ソロプレイ必須じゃねぇかよ。

俺がそう言うと、バルムンクは目に見えてぱぁっと明るい笑顔をした。

パーティを組めなくても、一緒に行ってくれるのが嬉しいんだな。

あんた、リアルでいくつだよ・・・

俺達は一緒にカオスゲートに向かう。

「俺はバルムンク。剣士バルムンクだ。」

「俺はハイド・・・」

ハイドランジアと名乗りそうになり、慌てて止めた。

やばい。アルビレオに名乗ったハイドランジアと今の俺の格好は似ても似つかない。

この世界では、同じ名前は名乗ることは出来ない。

同じハイドランジアと名乗るPCが2人もいたら怪しまれる。

どこでローブ姿の俺と今の俺を嗅ぎ付けられるのかわからない。

下手したら削除対象じゃねぇか!?

俺は別の偽名を考えていると、バルムンクが意外そうな顔をした。

「ハイド?ジギルとハイドのハイドか?面白い名前を使うな?」

・・・はい。勘違いー!!

うわっどっか天然染みたところがあると思ったが、ここまでか!?

でも、この勘違いを利用しない手はない。

「あ・・・あぁ!そうだよ。俺の名前はハイド。よろしくバルムンク。」

こうして、この格好のときの俺の名前は「ハイド」に決定された。

バルムンクは知らず知らずのうちに、俺の名付け親になったわけだ。

しかし、偶然とは恐ろしいものだ。

ジギルとハイド・・・二重人格の男の話。

ハイドランジアとハイド・・・1人で2役をやる俺。

ぴったりの名前だ。

俺はカオスゲートの光の輪を潜りながら、自嘲気味に笑った。
 

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