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その声は神の笛
たとえどんな幻獣であろうとその声に逆らえない。
否、逆らおうとする気も起きない。
なぜなら彼女はとても優しい神の笛だから・・・
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(サイト視点)
「それにしても凄い威力だな・・・」
私は箒を片手に、教室中に落ちている瓦礫を片付ける。
その視界の端にはルイズも机や椅子の片づけをしている。
なんでこうなったかというと、ルイズが原因。
その他にも原因はあるかもしれないけど、教室を破壊した直接の原因はやっぱりルイズにある。
錬金?の魔法を使おうとして、いきなり爆発したのだ。
その威力は本当にすごくて、重傷者がいないのが不思議なくらいだったわ。
「悪かったわね・・・」
ルイズは机を運びながらそう呟く。
「あ、聞こえてたんだ。でもよ、いくら馬鹿にされたからって、火薬の類を錬金してそれを爆発させるのはやりすぎだぞ?下手したら大怪我するところだったんだぞ?」
ルイズは多分、発火性のなにかと爆発性のあるなにかを錬金して爆発させたんだ。
粉塵爆発みたいな感じで。
私はルイズを窘める気持ちでそう言ったら、どこからか笑い声が聞こえた。
男みたいな声に聞こえるけど、なんか人間の声とも違う・・・
私は声の出所を探そうとするけど、近くに人は見かけない。
「デルフ!」
私がきょろきょろと辺りを見回していたら、突然ルイズがそう怒鳴った。
「わりぃ相棒。そいつがあんまりにもおもしろいこと言うから、つい笑っちまった!」
・・・声の出所は・・・ルイズの背中?
「ルイズ・・・それ・・・」
背中の剣が・・・喋ってるの?
私が恐る恐る聞くと、ルイズはため息を吐いて背中の剣を抜いた。
今朝はあまりよく見てなかったけど、柄の部分に顔みたいなモノがある。
「こいつはデルフリンガー。インテリジェンス・ソードっていう喋る剣よ。口は悪いけどそんなに悪い奴じゃないわ。」
喋る剣・・・本当にファンタジーね、ここ。
「よ・・・よろしく。それで、さっきなんで笑ったんだ?」
私が聞くと、デルフリンガーはまた大笑いして、話してくれた。
「相棒はな。魔法を使うとことごとく爆発させんだよ。さっきのも、そういう物質を錬金したんじゃなく、魔法そのものが爆発したんだ。」
そう言って笑うデルフリンガーに、ルイズはゆっくり刀身に手を掛ける。
そしてにっこり笑って・・・
「いい加減にしないと・・・折るぞ?」
ミシッ・・・・
なんだか不吉な音が聞こえたんですけど?
その後は、デルフリンガーがルイズに平謝りすることで一件落着した。
それと同時に私はルイズの二つ名である『ゼロ』が魔法が使えない『ゼロ』じゃなく、自らの前に立ちはだかる全てをなぎ払う『ゼロ』に思えてしまった。
「腹減った・・・」
あの後、なんとかお昼までに教室の片づけが終わった私たちは昼食にありつけた。
けど、ルイズはともかく私のご飯は固いパンが一つと麦スープ。
これじゃ力なんて出ないわよ・・・
私は昼食が終わって、ルイズに夕方まで好きに過ごしていいと言われて、ぶらぶらと学院内を散策する。
さすが貴族と名乗るだけのことがあるほど、学院内は広い。
私は今、どこにいるのかも解らない状態になっている。
つまり、完全に迷子。
お昼はあれだけで、ルイズの部屋に戻ろうにもここがどこかなのかすら解らない・・・最悪だわ。
「せめて、もう少しなにか食えてたらなぁ・・・ん?」
私の鼻になにやら美味しそうな匂いが漂ってきた。
私はその匂いに引き寄せられるかのように歩き出す。
そして、私は曲がり角で誰かにぶつかった。
「きゃ!」
「うわっ」
どうも匂いに気を取られすぎて、人の気配に気づけなかったんだわ。
私はなんとか踏みとどまることが出来たけど、ぶつかった子はそのまま尻餅をついてしまった。
なんだかメイドさんみたいな格好をしている子。
「あ、ごめん。大丈夫?」
私がそう聞くと、その子はいいえと笑いながら立ち上がった。
あ、よく見ればシーツとかそういうのが周りに落ちている。
私はまた謝りながら、それを拾う。
「ホントにごめん。洗濯物汚しちゃって・・・」
「大丈夫ですよ。このくらいの量なら、すぐに洗いなおせます。」
そう言って笑うメイドさんは、なんだか懐かしい感じがする。
「あ、それなら手伝うよ。これでも家事は得意だからね。」
うん、これは自身持って言える。
しかも洗濯機を使わずに手洗いも完璧に出来ます。
メイドさんもそれならお願いします。って笑った。
「わりぃな。洗濯物汚しちまったのに、飯までくれるなんて。」
あのあと、洗濯物を洗いなおした後、盛大に鳴ってしまった私のお腹。
それにシエスタ(メイドさんの名前)が賄いでいいならばって、ご飯を食べさせてくれることになった。
出されたシチューを私は夢中で口の中にかきこんだ。
どんなに行儀が悪いと言われても、今の私には聞こえない。
飽食の日本で育ったんだから、こんなにお腹がすくことなんてなかったんだからね!
「そんなにお腹がすいてたんですか?」
私がシチューを食べていると、シエスタはそれを微笑ましそうに見てくる。
うう・・・なんだか小さい子を見守るお母さんみたいな慈愛の眼差しが痛い・・・
「ああ、使い魔だからってパン一つに麦スープが一杯だけ。まったくあいつは俺に飢え死にしろっていうのかよ。」
私は今朝のメニューを思い出して、つい愚痴っぽくなってしまう。
それにルイズのメニューを見た私の感想は一つ。
栄養バランス偏りそう・・・この一言ね。
私の話を聞いて、シエスタは気の毒そうな目で私を見て、またお腹がすいたら来て下さいとまで言われた。
あれ?私、なにかフラグたてた?
「ありがとう。そうさせてもらうよ。食事のお礼になにか仕事を手伝うよ。」
「え、いいんですか?それなら、貴族様にお出しするケーキを運ぶのを手伝ってください。」
私はそれを二つ返事でOKした。
けど、まさかあんなことが起きるなんて予想できなかったわね。
(ルーク視点)
一体なにがどうなってるんだ?
俺はサイトに夕方まで自由にさせていた。
それで俺自身は午後のお茶を楽しんでいたら、ギーシュの二股が発覚して、それで原因となった平民と決闘することになったんだと。
俺はそれを聞いて、暇つぶし程度にはなるかと思って決闘の場所であるヴェストリの広場に行ったら、なぜかサイトがいた。
サイトは今朝の鍛錬のときに使っていた棒を構えて、真っ直ぐギーシュを睨んでいる。
「サイト・・・あんたなんでこんなことになってるのよ?」
私は一歩前に出て、サイトにそう呼びかけるとサイトは俺に気づいて、怒りに満ちていた瞳がふっと和らいだのを感じた。
「ルイズか。なーに、あいつが二股して、それを他の奴のせいにするから腹がたってな。俺はあういう奴が一番嫌いだからな。」
そう言って、サイトはまたギーシュのほうに目を向ける。
「おやおや、使い魔が心配で君も来たのかい?ミス・ヴァリエール。」
ギーシュが俺に気づいたのか、そう言って嘲るように笑う。
それと同時に俺はこいつの魔法や戦い方を思い出す。
ゴーレムを作り出して、自分では戦わない典型的(無能)指揮官タイプ。
この手の奴は頭を潰せば事足りる・・・って、なんで俺が分析してんだよ。
とりあえず、今朝の鍛錬じゃサイトもそこそこやるし、ギーシュレベルなら互角にいくはずだ。
「侮っていたら痛い目見るわよ。それからサイト。」
俺はギーシュの挑発をスルーして、サイトに向き直る。
「この程度の奴に負けたら、朝の鍛錬を倍にするからね。」
「へー、ルイズは『平民は貴族に勝てない』って言わないんだ。」
俺の言葉にサイトはおもしろそうに応える。
誰に聞いたんだよ、そんなこと。
「私は剣一本で喧嘩吹っかけてきた馬鹿をのしてきたのよ。あんたも私の使い魔になったんだから、ドットメイジくらいサシで倒せるようになりなさい。」
実際にゼロ、ゼロって馬鹿にしてた奴らをぶっ飛ばしてんのは本当だしな。
俺はにやりと笑って、野次馬達を一瞥する。
中には俺が今までのしてきた奴らも混じっている。
そいつらは俺と目が合うと、たちまち顔を青くして後ずさりする。
「ああ、今の俺はルイズの足元にも及ばないけど、こいつくらいなら俺でも勝てる。」
「上等・・・ま、頑張りなさい。」
俺はそれだけ言って、野次馬の中に戻っていった。
(サイト視点)
私はギャラリーの中に戻っていくルイズの背中を見送りながら、どこかほっとした。
だってルイズは平民も貴族も関係ないって言ってくれたから。
私は無意識のうちに微笑んで、ギーシュを見る。
「それじゃ俺が勝ったら、シエスタやおまえが二股かけた女の子に謝れよ?」
「いいとも。それで、君が負けたら土下座してこう言ってもらおう。『平民の分を弁えず、生意気を言ってごめんなさい』って。」
ギーシュは完全に自分の勝利を信じてる。
ならば、そこにつけいる隙がある。
「俺は棍を使う。おまえはなにで戦うんだ?」
私が聞くと、ギーシュは薔薇の造花を一振りする。
花びらが一枚地面に落ちると、そこから人間と同じくらいの大きさの人形が生まれた。
戦乙女を模したそれは槍のような武器を持っている。
「僕はメイジだからね。魔法で戦う。青銅のゴーレム・ワルキューレが相手だ!」
それと同時に、ゴーレムが私に向かってくる。
はやい!
私はゴーレムから繰り出される拳をなんとか紙一重でかわすと、急いで距離を取る。
「なかなかすばしっこいな。けど、何時まで持つかな?」
「はっこれでも鍛えてるからな。早々に負けるわけにはいかねーよ。」
私ははったりでそう言うけど、ギーシュは全然余裕な感じ。
どうしよう、あんなのまともに受けたら棍が折れちゃう。
だからといって、防戦一方じゃ勝てない。
・・・一か八か司令塔を狙う!
私は意を決して、足を踏み出す。
ゴーレムは一体のみ。
あれを突破できたら、あとはギーシュのみ!
私は自分の持てるだけの力で地面を蹴る。
その瞬発力で私はゴーレムの脇を通り抜ける。
ゴーレムのほうも、私のスピードには反応できなかったみたいだ。
「よし、あとはおまえだけだ!」
とりあえず、顔面にいれてやる!!
私は棍を振り上げてギーシュに迫る。
「ふ、僕も甘く見られたものだな。」
ギーシュはこの期に及んでも、余裕な顔で笑う。
それと同時にギーシュの目の前にもう一体ゴーレムが現われた。
「やばっ!」
私の棍は既に振り下ろされていて、すぐに軌道を変えることなんて出来ない。
ゴーレムは私の棍を片手で受け止めると、もう片方の腕で私の鳩尾を思いっきり殴ってきた。
「かはっ」
ズサーー!
あまりの痛みと衝撃に、私は棍から手を放してしまい、そのまま地面を滑るように投げ出された。
「ちくしょう・・・まさか、カウンターで返してくるなんて・・・」
私は痛み鳩尾を手で押さえながら、なんとか立ち上がる。
「僕もこれでも軍人の家系だからね。兵法は少しばかりかじってるんだ。君の戦闘センスもなかなかのものだよ。」
ギーシュはそう言って更に造花を振ると、合計で7体のゴーレムがその場に出てきた。
「僕みたいな司令官タイプの敵に対して、頭を叩くのが一番だというのは僕自身、一番解っていることだからね。さぁ、降参するなら今のうちだよ?」
そう言うギーシュはルイズとはまた違う意味合いでの、戦士の顔をしている。
ルイズが戦場を知る戦士なら、ギーシュは訓練校を卒業していない戦士ってところかな?
私はそう考えて、思わず笑った。
私ったらなにしてるのかな?
こんな戦場も知らない戦士にこんなにされるなんて、馬鹿みたい。
「だめだな・・・こんなのじゃルイズに追いつけない。」
私はそう呟いて、ギーシュを真っ直ぐ見る。
ギーシュはそれに少したじろいだ顔をする。
棍は未だゴーレムの一体に奪われたままだけど、まだ私は負けていない。
「徒手空拳は苦手なんだけどな・・・」
私はそのままゴーレムに突っ込む。
「素手のまま突っ込むなんて自殺行為だな!」
その言葉と同時にゴーレムたちも活動する。
私はそれを捌きながらも、肩や腕、足に傷が出来ていく。
たまにわき腹あたりにまで裂傷が出来る。
痛い・・・こんなの元の世界でも感じたことない。
ドゴッ
「あああああああ!!!!」
ゴーレムの一撃で、私は地面に叩きつけられる。
やっぱり武器なしだときついな。
私はもう一度立ち上がる。
周りからは「もうやめろ!」「充分やった!」とか声が聞こえてくる。
ルイズはなにも言わず、ただじっと私のほうを見るだけ。
手を出す気はないみたい。
「おや?まだ立ち上がるのかい?さすが往生際の悪い『ゼロ』のルイズの使い魔だ。」
そう言って笑うギーシュは、明らかにあざ笑っている。
その瞬間、私の中でなにかがはじけた。
(ルーク視点)
不意に音が消えたと思った。
ギーシュが俺やあいつをあざ笑ったとき、サイトの雰囲気が変った。
俺は実戦経験なんてほんの1度や2度・・・それも師匠に連れられての国境の小競り合い程度しかやったことない。
それでも解る。明らかに今までのサイトとはなにかが違う。
サイトは身体のダメージを受けていないかのように真っ直ぐ立つと、右手をギーシュに向けて真っ直ぐ向ける。
身体のあちこちから血が流れて、明らかに重症なのにサイトはそれを微塵も見せない。
「力を・・・貸して・・・」
サイトが呟くようにそう言うと、学園の外の森が急に騒ぎ出した。
そこから一斉に飛び出してくるのは、鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥・・・大型の鳥から小鳥まで、あらゆる鳥がこちらに・・・否、ギーシュ目掛けて飛んでくる。
その鳥達の中には、今朝サイトが肩や手に止まらせていた種類の鳥まで混じってる。
なんだよ、これ?一体、なにがどうなってるんだ?
俺はもう一度サイトのほうも見る。
これだけの鳥達が辺りを旋回しているのに、サイトはまったく動じた様子もなく、変らない体勢でギーシュを見てる。
右手のルーンが強い輝きを放っているのが、俺の目を引いた。
「な、なんだこの鳥は!?ひっやめてくれ!突っつくな、引っ張るな!!」
ギーシュは鳥達の猛攻に晒されて、すでにマジ泣きに入ってる。
いきなりの事態に、ギーシュはお得意のゴーレムで撃墜することも出来ない。
ただガキみたいに腕を振り回しているだけ。
「参った!僕が悪かったから、もう止めてくれー!!」
あ、ついに降参した。
「ちゃんと、みんなに謝るか?」
サイトが無機質な声でそう聞く。
ギーシュは何度も大きく頷くと、サイトはギーシュに問いかけたものとは違う柔らかな声音で鳥達に語りかける。
「ありがとうみんな。また・・・力を貸してくれる?」
その問いかけに鳥達はまるで「応」と言うかのように、サイトの周りを穏やかに飛び、そして森に帰っていった。
俺はそれを呆然と見送って、サイトのほうに振り返った。
「サイト!!」
サイトはまるで糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。
俺はサイトが地面に着く前に身体を割り込ませて受け止める。
「サイト!!」
俺はもう一度サイトに呼びかける。
あちこち傷だらけの上に血の気のない顔でぐったりしている。
「誰か治癒魔法を!出血が多すぎる!!」
俺は周りの生徒に呼びかけながら、ハンカチを裂きながらサイトを応急手当していく。
こういうことを師匠から教わっといてよかった。
俺はサイトを部屋に運ぼうとして、俵担ぎで持ち上げる。
そのとき、俺の背中に柔らかいなにかが当たった。
・・・男には絶対にないような温もりと弾力が・・・
「うそ・・・だろ?」
俺はそのままの体勢で呆然とサイトの顔を見る。
確かに今朝はなんとなくサイトが綺麗だな~とかそんなこと思ったけどよ・・・マジで?マジなのか!?
こいつ・・・女じゃねぇか!!!
「だから言ったろ?本当にそいつでいいのか、相棒。」
「おまえ・・・知ってたな。」
この時ほど、俺は自分の愛剣を憎んだことはなかったな。