デジモンウィザード
『僕が君のパートナー!』
(ルイズ視点)
今日はトリステイン魔法学園の2年生に進級するための大事な儀式がある。
私は目の前で、次々と自分の使い魔を召喚するクラスメイトを見ながら、自分の杖を握り締める。
もうすぐ・・・もうすぐ私の番。
「次が最後か・・・ルイズ!」
自分の名前が呼ばれて、私は前に出る。
そして杖を構えて目を閉じ、意識を集中させる。
落ち着け・・・落ち着け!
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
お願い来て・・・!
「五つの力を司るペンタゴン」
この世界・・・ううん、どこでもいい。
「我の運命に従いし・・・」
私の・・・私だけの・・・
「使い魔を召喚せよ!」
運命の使い魔よ!!!
私が詠唱を終えて一拍置いて・・・
どかーん!!!!
ものすごい爆発が起こった。
「けほけほ・・・成功したの!?」
私は巻き上がる煙に咳き込みながらも、爆発の中心を見る。
煙でよく見えない。
徐々に晴れていく煙。
胸が高鳴る。
一体どんなのが私の使い魔なのかしら?
そして私の視界の入ったのは・・・
「たまご?」
そこにあったのはカラフルな模様の見たことのない卵がそこにあった。
なに・・・これ?
これがわたしの使い魔?
そりゃ、使い魔の中にはまだ幼生の生き物もいたけど、たまごなんて聞いたことないわよ!!?
私は呆然としながらも、その卵を両手で拾い上げる。
両手の中にずしりとくる重さ。
まるでこれから生まれてくる命の重さのような気がして、私の胸が少し温かくなった。
これじゃコントラクト・サーヴァントできない。
でも・・・この卵が私の使い魔なんだ。
「ほー・・・見たことのない卵ですな。」
そこにミスタ・コルベールが卵を覗き込んだ。
「一体、どんな生き物が生まれるのか楽しみですな。」
ミスタ・コルベールは興味津々といった感じで卵を見る。
私はなんとなく、その卵を手のひらでゆっくりと撫でた。
気のせいかな。心なしか暖かい。
私がそうしていると、いきなり卵にひびが入った。
へ?ひび?
「え?え?ええええぇぇぇぇ!!!!?」
私が驚いている間もひびはどんどん広がっていく。
そして・・・
「初めましてルイズ!」
白くて、なんか柔らかくて、四足のが生まれてきた。
これが・・・私の使い魔?
「なんなのあんたー!!?」
その日の夜。
私はあの後、コントラクト・サーヴァントをなんとか終わらせて部屋に戻った。
なんだか精神的にすっごく疲れたわ。
使い魔のルーンを刻むとき、痛みで泣き出したときなんて泣き止ますのに苦労したわ・・・
「ルイズー・・・お腹すいたー・・・」
私の使い魔・・・トコモンって名前らしい・・・がそう言った。
そういえば、昼間の儀式からなにも食べさせてないわ。
と言っても、トコモンってなにを食べるのかしら?
私は試しに夜食として出されたパンを半分にちぎって出してみる。
トコモンはパンを一口食べて、あとは嬉々として食いついてきた。
・・・人間の食べ物でも大丈夫みたいね。
「そういえば・・・トコモン、あんたなんで私の名前知ってたの?」
私は聞きたかったことを聞いてみた。
トコモンは口の中のパンを飲み込むと、私のほうをまっすぐ見た。
「僕はずっとルイズを待っていたんだ。僕はルイズのために生まれてきたんだ。」
トコモンははっきりそう言った。
その瞳は真っ直ぐで無垢で、嘘なんかついている瞳じゃなかった。
私のためって・・・そう言われて悪い気はしないわね。
「そっか・・・」
私はそれだけ言うと、制服を脱いで寝巻きに着替えてベッドに潜り込む。
パンを食べ終わったトコモンが私の枕元に来て丸くなる。
本当なら使い魔と主人が一緒に寝るわけにはいかないけど、まだ生まれたばかりの子を床に寝させるわけにはいかないわよね。
まだこの子がなにが出来るかわからない。
人間の言葉を喋れる時点で、知能が高いことはわかるけど。
生まれたばかりの赤ちゃんみたいなこの子となら、私上手くやっていけるかな?
私はトコモンの温もりを感じながら、眠りについた。
その日の眠りはすごく穏やかなものだった。
「・・・・・・イズ・・・・ル・・ズ・・・」
だれ?私を呼んでいるのは?
私は重いまぶたをゆっくり持ち上げた。
途端に広がるまぶしい光。
そして・・・
「おはようルイズ!」
視界にいっぱいに大きな口と歯が覗き込んでいた。
「きゃああああああああああ!!!!?」
私は貴族らしからぬ叫び声を上げて飛び起きた。
「うわ!?」
私の顔を覗き込んでいたトコモンがその拍子にベッドから落ちた。
「ト・・・トコモン、脅かさないでよ・・・」
一瞬食べられるかと思ったじゃない。
トコモンはすぐに起き上がって、私の顔を見てにっこり笑った。
「おはようルイズ!朝だよ、ごはん食べよう!」
「おはようトコモン。解ったわ、支度するからそこのクローゼットから着替え出してちょーだい。」
「はーい!」
トコモンは素直に返事すると、クローゼットに向かって歩き出した。
トコモンが準備してくれている間に、私は水差しから水を汲むと顔を洗って目を覚ました。
今日の朝食はなにかしら?
私はそんなことを考えながら、トコモンの方に目を向けてみる。
「・・・なにしてるの?」
「ルイズー・・・重くて動かせないよー・・・」
トコモンはクローゼットの引き出しに捕まって、必死になって開けようとしている。
・・・・・・ま、まぁ、小さいトコモンに任せたのが間違いね。
私は苦笑しながら自分でクローゼットから着替えを取り出す。
この子に雑用を任せるのは、やめとこう。
なんだかものすごく罪悪感に苛まれそうだし。
それから色々あった。
私と天敵のキュルケの使い魔の見せ合いや、授業中の実演魔法の爆発とか・・・
ふ・・・ふん!火竜山脈のサラマンダーがなによ!
トコモンのほうがすっごいんだから!・・・多分。
そしてもうすぐ昼食の時間。
私はいつの間にかいなくなったトコモンを探して、今学園中を歩き回っている。
「おかしいわね・・・トコモンー!」
一体どこに行っちゃったのよ。
私がヴェストリの広場に入ったところで、人垣が出来ているのに気づいた。
「あれ?ねぇ、一体どうしたのよ?」
私が手近な生徒に聞いてみると、トコモンとギーシュが決闘しているのだという。
なんでそうなったのか聞いてみると、トコモンがたまたま拾った香水のビンをギーシュに返したところ、それで二股かけていることが発覚。
恥を欠かされたギーシュがトコモンに決闘を挑んで、トコモンがそれを受けたみたいだけど・・・待って!トコモンはまだ生まれたばかりの赤ちゃんみたいなものなのよ!?
いくら言葉が話せて知能が高いからって、決闘だなんて・・・
私は慌てて人垣を分け入って、中央に行く。
決闘はとっくに始まってるみたいで、ギーシュの側には錬金で作られた人形が、その少し離れたところにぼろぼろになったトコモンが転がっていた。
「トコモン!!」
「来ないで!」
私はトコモンに駆け寄ろうとしたが、トコモンが鋭く言うから私は思わず足を止めてしまった。
トコモンはぼろぼろな癖に立ち上がってギーシュを睨みつける。
「ほぉ、まだ立ち上がるなんて。そのタフさには敬意を評するよ。ゼロのルイズの使い魔のわりにね。」
ギーシュはそう言いながらも、その目はトコモンをせせら笑っていた。
「もういいでしょう!トコモンのやったことは主人である私が謝るわ!だからもうやめて!!トコモンも決闘なんてする必要ないわよ!!」
私が必死にギーシュに訴える。
けど、私の言葉に反してトコモンはギーシュを睨むのをやめない。
「僕はやめないよ、ルイズ!」
「なんで?どうしてよ!?主人である私の言葉が聞けないっていうの!?」
使い魔のくせに私の命令に従わないなんて・・・
「だって・・・あいつ、ルイズを馬鹿にしたんだ!そんなの僕許せない!!この決闘も僕が勝てばルイズに謝ってくれる約束なんだ!!」
・・・私の・・・ため・・・?
「僕は・・・僕は・・・
ルイズのパートナーなんだ!!」
「トコモン!!」
私の中でなにかが弾けたように感じた。
その瞬間、トコモンの体が眩しい光に包まれた。
なに!?一体なにが起こっているの!?
「トコモン進化 パタモン!!」
トコモンの姿が一回り大きくなって、オレンジと白のツーカラーになった。
耳のような部分でぱたぱたと飛んでる。
「トコモン・・・なの?」
私は呆然と呟いた。
「な!?変身した!?けど、そんなの見掛け倒しだろ!?」
ギーシュは杖を造花の杖を振るって、人形・・・ワルキューレをトコモン(?)に仕掛ける。
そんなトコモンはもう動けないはずなのに!
「トコモン逃げて!」
トコモンはまっすぐワルキューレを見る。
「エアーショット!」
トコモンが空気の玉を吐き出して、それをワルキューレにぶつけるけど、ワルキューレはそれを苦とも思わず真っ直ぐつっこんで来て、トコモンを地面にたたきつけた。
「トコモン!」
トコモンは殴られた頭を抑えながら、とうとう涙目になっている。
あ・・・やばい・・・
「トコモン・・・」
「うわーーん!!!!!」
私が声を掛けると同時にトコモンが泣き出した。
ただ泣いたわけじゃない。
空気が震えているのが見えるぐらいの、超音波を発しながら・・・
がっしゃーん!
がらがらがら!
窓ガラスが割れて、ワルキューレが超音波に耐えられず崩壊している。
まわりの生徒たちはあまりの音に、気絶する者続出!
ギーシュも耐え切れず既に気絶している。
そういう私も気力だけで、意識を繋ぎとめているけど・・・
私は耳を押さえながらなんとかトコモンのところに歩いていく。
そして私はトコモンを抱きしめた。
「トコモン。もう泣かなくていいわよ。ギーシュは気絶しちゃって決闘を続けられないわ!あんたの勝ちよ!!」
「ふぇ・・・ルイズ?」
よかった・・・泣き止んでくれたみたいね。
「よくやったわね、トコモン。」
私はトコモンの背中を撫でながら、周りを見る。
なんていうか死屍累々ね・・・
「ルイズ。今の僕の名前はパタモンです。」
トコモン・・・パタモンはまだ少し涙目になりながらも、にっこり笑ってそう言った。
「そう。これからもよろしくパタモン!」
私もパタモンににっこり笑い返した。
続かない!
もしも自分が別の世界に行けたとしたら、そこでなにをしたいと思う?
通常は、主人公やヒロイン。もしくは事件などに関わりあわず平穏に過ごすことを願うのが普通だ。
いつしか友達とそんな話をしていたとき、俺の答えは友達から変だと言われた。
友達の答えは言ったとおり、主人公やそんなのとは関わりのない人間。
けど、俺の答えは『キーパーソン』。
事件に関わるが、表立って関わらず、必ずしも主人公側の味方というわけでもない。
かといって、悪役というわけでもない。
謎の人物。
これが俺のなりたいもの。
ちょっと違うかもしれないが、例えるならば.hackのヘルバ姉さんを想像してくれればいい。
もしくはG.U.のフィロ。
あっちは完璧に主人公側だけどな・・・
さて・・・なんで俺がそんな話を突然始めたのかというと・・・
「どこだよ・・・ここ・・・」
さっきまで自分の部屋で寝転がっていたのに、目を覚ませば知らない平原にいたからです。
.hack//hydrangea
『紫陽花の花言葉』
俺の名前は天宮 龍樹(あまみや たつき)
性別男のめちゃくちゃそこらにいる普通の19歳のフリーターです。
毎日毎日バイトバイトの日々を送って生活費を稼いでるしがないフリーターです。
唯一の趣味と言えば、ゲーム。
その中でも.hackシリーズが大好きです。
うん。結構あきっぽい俺でもあれはかなり夢中になった。
調子に乗って、小説も漫画も読破してG.U.のドラマCDも買ってアニメも全部見た。
おかげで家計が火の車だよ、コンチクショー!!
話がそれた・・・G.U.はVol2までクリア。無印の方は2までクリアして現在3を攻略中。
そんな中途半端なゲーマーの俺が、なんでおもっくそ見覚えのない平原で寝てなきゃあかんのだ!!
「うわー・・・知らないうちに外国に拉致されたか?」
俺は起き上がって辺りをぐるりと見渡す。
すがすがしいほどに何もない平原。
空は青いし、なんかいい天気だと呟いて現実逃避したくなるな。
そこで俺は初めて自分の服装が部屋で着ていたものとは違うことに気がついた。
まず黒。
それしか言えない様な真っ黒なフードつきのローブ。
一見すると魔法使いだ。
どうやらローブの下にも服は着ているみたいで、それは後で確かめた方がよさそうだ。
俺は簡単に持ち物をチェックしてみる。
ローブの下に手を突っ込むと色々探してみる。
出てきたのは・・・どこかで見たことあるようなデザインの双剣が一組。
腰に下がっている。
なんでこんなもんがある?
え~っと、俺の記憶に間違いがないのならこれは.hackのスパイラルエッジに形状がクリソツなんですけど;
俺はその双剣をじっくり見る。
色といい、形状といい・・・気に入っている武器リストの中でも上位に入るスパイラルエッジだ・・・
ちなみに1位はハセヲの死ヲ刻ム影だ。
・・・なんだろう。このままだとすっごくありえない解答に行き着きそうです(涙)
俺はなんとなく双剣をしまうと、フードを被る。
フードは結構大きいみたいで、これなら俺の顔は相手にはあまり見えず口元が見えるくらいだろう。
さーて、これからどうするかな?もしここが俺の知っている場所なら・・・目立つのは得策じゃない。
ザッ
その時、後ろから人の気配がして俺はゆっくりと振り返った。
そこにいたのは、褐色の肌に右目が青、左目が黄色の連星の名を持つ重槍使いさん。
「ん?プレイヤーか?ようこそフラグメントへ。」
会いたかった人リスト上位で、今一番会いたくなかった人上位の人『アルビレオ』だ~!!!
みなさん。俺はどうやら.hackの世界に俗にいう異世界トリップをしてしまったようです。
しかも司状態のフラグメント時代ですか~!!!?
「俺はアルビレオ。見たとおり重槍使いだ。今回のテストプレイの当選者だよな?」
アルビレオはにっこり人のよさそうな笑みを浮かべて言う。
やばい・・・ここはゲームの世界。
本名を名乗るわけにはいかない。
俺の名前・・・天宮龍樹。
なりたいものは謎の人物『キーパーソン』
味方でも敵でもない・・・うつろな存在。
「・・・我の名はhydrangea。ハイドランジアだ。」
どうして俺がこの世界に来たのか解らない。
わかんないけど、こうして来れることが出来たんだ。
自分の境遇を嘆くより、前向きに楽しんでやろうじゃないか。
都合のいいことにここはゲームの世界。
暇をつぶすには丁度いい。
俺なりに謎の人物をロールしてやろうじゃないか。
hydrangeaは紫陽花の英語名。
花言葉は『移ろ気』
今日から俺はハイドランジアだ。
死神に誘われた先の世界。
そこで待ち受けるのは一体なにか。
それはどんな神々でも解らないだろう。
「あ、間違えちゃった。」
「へ?」
死神のその一言を最後に、少年は世界から消えたのだから。
IF~もしリオンが別の世界に行ったら?~
「あんた誰?」
「へ?」
少年が目を覚ましたそこは少年が望んだ世界ではなかった。
「あんた、名前は?」
「名前?・・・一度死んだ俺にそんなのないよ。なんならあんたがつけてよ。」
「なに言ってるかわかんないけど、そうね・・・なら、これからはリオンと名乗りなさい!」
新たな生、新たな名前。
「まったく・・・まさか魔法つながりで『ゼロの使い魔』の世界かよ・・・」
「あんた!なにぐずぐずしてるのよ!」
主人と定められた少女に付き従う使い魔となったリオン。
「僕は『青銅』のギーシュ!」
「俺はリオン。『ゼロのルイズ』の使い魔だよ。」
些細な決闘。
「おいおい・・・身体能力が上がったとはいえ、これはあがりすぎだろ・・・」
「そんな・・・僕のワルキューレを素手で粉砕するなんて・・・」
強大な力。
「ルイズ、逃げろ!」
「いやよ!魔法が使えることが貴族じゃない、敵に背を向けないのが貴族なのよ!!」
「アホか!そんなのは貴族とかじゃなくて、戦士とか騎士の志だ!!」
すれ違う見解。
「てめぇはやりすぎだ。」
「リオン?何する気なの?」
「丁度いいから、実験台になりな。・・・・・・メラゾーマ!」
発覚した能力。
「君がルイズの使い魔くんかい?」
「そうですがなにか?子爵殿?」
「一度君と手合わせしたいな。」
向けられる敵意。
「あんた・・・どこまで非常識なのよ・・・」
「人間を使い魔に召喚しちまうマスターよりマシだろ?」
「そんな・・・魔法をあっさりはじいただと!!?」
怒涛の流れ。
「これが竜の翼?」
「おいおい・・・ボロボロすぎて、これじゃあ飛べねぇよ・・・」
予定よりはずれた時間軸。
「どうするのよ!アルビオン軍が着てるのよ!!ドラゴンもなしにどうやって落とす気よ!!」
「大丈夫!ドラゴンならすぐに用意出来るさ!風の竜をな!」
「あんた、何言って・・・」
「右手にバギクロス。左手にドラゴラム。合成魔法!嵐竜変化!バギグラム!!」
現われたるは風の竜。
「どうよマスター?」
「あんたの非常識振りには慣れたわよ!」
「だったら、今度はルイズが非常識振りを発揮しな!!」
「言われなくってもね!!」
顕現するゼロの力。
「リオン・・・リオンは私のこと好き?」
「嫌いだったら、大人しく使い魔になってねーよ!」
「ちがうの!恋愛として好きかどうかなの!」
「・・・悪いけど、俺はこの世界に来てから一度も、俺は誰かにときめいた覚えがないんだ・・・」
惚れ薬騒動。
「怖い?」
「はっこんなんより、マスターの怒りのほうが数億倍こえーよ!」
「上等!絶対に生き残るわよ。」
「OK、マスター!」
7万もの大群を前に立ちはだかるルイズとリオン。
「あんた・・・元の世界に帰りたくないの?」
「前にも言ったろ?俺は元の世界で一度死んだ。今更帰れるわけないだろ。」
「それでも・・・」
「おまえは俺の世界をそんなにパニックにしたいのか?」
「え?」
「俺が帰ったら・・・死人が生き返ったってゾンビ騒ぎにならぁ!」
束の間の休息。
「トリステインだの、アルビオンだの、レコン・キスタだの、始祖の遺産だの、聖地だの・・・俺にとってはどうでもいい。」
「なんだと!」
「俺はただ・・・気に食わないからぶっ潰すだけだ!」
「やれーーーー!!」
そして潰される数々の陰謀。
「どうかしたのか、ルイズ?」
「あんたと一緒にいると、自分の常識がどんどん壊れていくわ・・・」
「固定観念に縛られるよりいいだろ?」
「はいはい・・・」
どのような結末が二人を待ち受けるのか、それはだれにも理解できない。
俺が軍の狗になって3年の月日が流れた。
いまだ俺とアルフォンスは元の身体に戻ってはいない。
マスターも、まだクレア・バイブルを見つけていないとこないだこぼしていたな。
それと同時にマスターが各地で起こした騒ぎも聞いている。
・・・俺たちより派手にやってるから、どこに行っても聞こえて来るんだよな。
話がずれた・・・今現在、俺たちは昇進したマスタング大佐からの情報で、東方の辺境砂漠の街・リオールに向かっている。
錬金術師は魔法使い!?
『One Who Challenges the Sun』
俺とアルフォンスは、リオールの街にいる。
街の様子は豊かで、それなりに活気がある。
にしても、ワインで噴水を作るなんて贅沢もいいとこだ。
「ずいぶん豊かなんだな、リオールの街は。」
俺とアルフォンスは、街の広場のフードスタンドで店主と話していた。
俺はジュースを飲みながら、そう言うと店主は笑って頷いて、なにかに気づいたようにラジオのスイッチをONにした。
『祈り信じよ、されば救われん。―――」
それと同時に厳かな音と一緒に流れる放送。
まわりを見れば、そこかしこでラジオを聴いて祈りを捧げている人たちがいる。
「なんだこりゃ?」
「ラジオで宗教放送?」
俺とアルフォンスがそう言うと、店主はむっとした顔になった。
「俺からすれば、あんらのほうが『なんだこりゃ?』なんだがね?」
あ、やっぱり少し怒ってるか。
「・・・あんたら、大道芸人かなんかか?」
ぶばぁ!!
俺は店主のその言葉に思わずジュースを噴出してしまった。
いくらなんでも、そりゃねーぞ!!
「あのなおっちゃん!俺たちのどこが!!」
「芸人じゃなけりゃ、またなんでこんなところに?」
「ちょっと探し物・・・」
大佐の情報じゃ、それらしきものがあるって話だけど・・・だー!どういったのかわかんねーから探査の魔法も使えねー!!
伝承に伝わる形状が正しいって保障もねぇし・・・地道に調べるしかねーんだよな。
「んで、この放送なに?」
「コーネロ様さ。」
俺は話題を帰るためにそう聞く。
けど、それじゃわかんねーよ。
「だれ?」
「!?太陽神レトの代理人を知らんのか!?」
「だから・・・だれ?」
そんな目を向いて驚かれても、知らんもんは知らん。
しかも神の代理人って・・・胡散臭い以外のなにものでもねーぞ。
神や魔王がいるのは知ってるけど、人間がそれを名乗るのはどうも胡散臭い。
・・・そういや、マスターはその魔王を滅ぼしてるんだった・・・
俺はそんなどうでもいいことを考えていると、まわりの客がコーネロについて話してくれる。
なんでも『奇跡の業』って奴で、滅びかけたこの街を蘇らせたらしい。
「宗教には興味ないから・・・行くか、アル。」
「あ、うん。」
俺は早いとこ賢者の石を探すために、スタンドから離れようとしたが、アルフォンスの頭がスタンドの天井に当たって、その上にあったラジオが落ちた。
うわー・・・見事に真っ二つだな。
「あー!困るなお客さん!大体そんな格好でいるから・・・」
「わりぃ、すぐに直すから。」
俺は苦笑して錬成しようとしたら、アルフォンスが代わりにやると言った。
そしてアルフォンスがチョークを取り出して、ラジオを中心に描かれる錬成陣。
書き終わって、アルフォンスが手を翳すと錬成反応が起こってラジオが元通り。
壊れる前と変らず宗教放送が流れている。
「こいつぁたまげた!あんた、奇跡の業が使えるのかい!?」
「なんだいそりゃ?」
「僕達、錬金術師なんです。」
この辺の奴は、錬金術を見たことないのか?
俺たちの言葉に俺の予想を裏付けることを言ってる。
・・・本当にいないのか。
「エルリック兄弟っていえば結構名が通っているんだけどな。」
ここじゃ、マイナーなのか?
「鋼の錬金術師エドワード・エルリック。」
そこに、スタンドの端のほうに座っていた女が突然そう言った。
「イーストシティあたりじゃ有名よ。ウワサの天才錬金術師だって。」
そう言った女の顔は、どこかで見たような紫の瞳だった。
なんか猫みてーな目だな。
俺がそんなこと思っている間に、まわりは騒ぎ出す。
・・・アルフォンスのまわりに集まって・・・
「なるほど、こんな鎧着てるから二つ名が『鋼』なのか?」
「そんなに有名なのかい、あんた?」
「あぁ、いや・・・僕じゃなくて・・・」
アルフォンスは特に明確に言う訳じゃなく、俺を示す。
「へ?あっちのちっこいの?」
ぶちっ
「だれが豆粒みたいで目に入らないってーー!!?」
「「そこまで言ってねーー!」」
背が低くて悪かったなーー!!
「今日はなんだか賑やかですね?」
俺が怒りのままに暴れていると、前髪だけピンク色の褐色の肌の女が来た。
店主との会話を聞いていると、名前はロゼみたいだ。
「こちら、旅の方」
「あ、僕アルフォンス・エルリックです。」
「俺が兄の!エドワード・エルリックだ。」
俺は『兄の』の部分に力を込めてそう名乗った。
「あら、あなたのほうがお兄さんなの?」
ぐっどいつもこいつも・・・!!
「ロゼ、この人たちをレトの教会まで案内してくれ。探し物があるらしいから、神のご加護があるようにな。」
「いいですよ。宿坊もありますし、どうぞお泊りになってください。」
店主とロゼの会話に、俺は考える。
宿坊に入り込めば、賢者の石の情報が手に入るかもしれないしな。
それに書物庫みたいなところに入れれば、なにかしらの情報はあるはずだ。
「それじゃお言葉に甘えて、お世話になります。」
俺は笑顔でそう言った。
その日の夕方。
俺は与えられた一室の窓際で、この教会の墓地を見下ろしていた。
ロゼがその墓地で、墓の前から動こうとしない。
この宗教の教主もいる。
そこに、アルフォンスが来た。
「あれ、ロゼさんの恋人のお墓なんだって。」
どっからそういうこと聞いてきたんだ。
「身寄りもなくて、恋人を失ったロゼさんはコーネロ教主の教えに縋ったんだってさ。」
宗教に縋ること自体、別にかまわない。
だけど、依存しすぎてはいけない。
俺はマスターからそう学んだ。
あくまで心の拠り所程度にしておけってな。
だけど、アルフォンスの口調に引っ掛かった。
「死んだ者が蘇るわけでもなし・・・」
「生き返るらしいよ。」
「!!」
俺はアルフォンスのほうを見る。
アルフォンスは、まだロゼたちのほうを見ている。
「『生きる者には不滅の魂を 死せる物には復活を その証が奇跡の御業』だってさ。」
俺はもう一度、ロゼたちのほうを見る。
治療系魔法のエキスパートなら、瀕死の人間も治すことが出来るけど、完全に死んだ人間は生き返らせることなんて出来ない。
これは錬金術でも同じだ。
教主の奇跡が本当でも、そうでなくても・・・
「うさんくせぇ・・・」
翌日。
俺たちは聖堂前の広場で教主の奇跡の業とやらを見に来た。
水をワインに変え、丸太をレト神の像に変える。
「どう思う?」
「どうもなにも、あの変性反応は錬金術でしょ。」
俺とアルフォンスは同じ結論に至った。
俺はもしかしたら、魔法の可能性も考えていたが、あれを見る限りそれはない。
「それにしても法則がな・・・」
俺は思考の渦に沈もうとしているところに、ロゼが俺らに気づいて話しかけてきた。
「どうです?教主さまの奇跡の業は?」
「いや、あれは錬金術だ。コーネロって奴はペテン野郎だな。」
俺の言葉にロゼはむっと怒るが、事実だ。
「でも、そうと決まったわけじゃないんだ。第一法則無視しているし・・・」
アルフォンスがロゼにフォローを入れる。
「法則?」
ロゼはわけがわからないといった顔をする。
錬金術を知らない奴なら、これが普通か。
「錬金術ってのは、無から有を生み出すわけじゃない。自然界の法則に従った科学技術なんだ。」
「・・・え・・・?」
俺はロゼの顔を見ずにそう言った。
俺から見えないけど、ロゼは意外そうな顔をしているんだろうな。
「一の質量のものからは同じく一のものしか出来ない。僕が同じ大きさのラジオしか作れなかったのと同じです。」
アルフォンスが俺の後を継いで、説明してくれる。
「巨大なラジオを作ったり、紙や木に変えることが出来ない。」
「だが、あのおっさんはそれを無視しちまってる。」
「だから奇跡なんですってば!!」
俺の言葉にロゼは怒鳴る。
その間に、コーネロは子供が差し出した死んだ小鳥を手で包んだ。
起こる雷に似た錬成反応。
コーネロが手を小鳥は生きているかのように飛び、コーネロの肩に止まった。
「錬金術で、あんな奇跡が起こせるんですか?」
ロゼは勝ち誇ったようにそう言うが、俺には解った。
あの小鳥は本当に生き返ったわけじゃない。
「兄さん・・・」
「あぁ・・・」
アルフォンスの言葉に、俺は頷く。
やっと・・・目的のものを見つけた。
その日の夕方。
俺は一人で聖堂の長いすに座って、レト神の像を見ている。
そこにロゼが来た。
ロゼは俺の姿を見て、一瞬引いたような仕草をしたが、すぐに布巾で台座を磨き始める。
「そうやって真っ正直に神に仕えてれば、いつか死んだ者も生き返るのかい?」
俺の言葉に、ロゼは一瞬身体を強張らせたけど、笑顔で振り返る。
その目は、本当にそう信じている。
いや、信じなければ立っていなられない目だ。
俺はため息を吐くと、懐から研究手帳を取り出してページを開く。
「水35リットル、炭素20キログラム、アンモニア4リットル、石灰1.5キログラム、リン800グラム、塩分250グラム、硝石100グラム、硫黄80グラム、フッ素7.5グラム、鉄5グラム、ケイ素グラム、その他少量の15の元素・・・」
俺は手帳に書かれていることを淡々と読み上げる。
ロゼは訳がわからないといった感じで、俺を見る。
「標準的な大人一人分として計算した人体の構成成分だ。」
俺はそこまで言って、手帳を閉じる。
「今の科学だとここまでわかっているのに、足りない『なにか』が何なのか、科学者は何百年も研究を続けている。ただ祈って待ち続けるより有意義な努力じゃないかな。」
ロゼは幸せになるために努力するわけでもなく、ただ他人から与えられる偽りの幸福を夢見ているだけ。
「ちなみにこの成分材料な、市場に行けば子供の小遣いで全部買えちまうぞ。人間ってのは、お安くできてんな。」
俺は昔の自分の思い出して、苦笑する。
ロゼはそれが気に入らなかったみたいだ。
「人は物じゃありません!神を冒涜するのですか!?」
険しい表情でそう怒鳴ってくるロゼ。
俺はそれを見て口元が歪む。
「別にそう言うわけじゃないさ。ただ・・・」
俺は長椅子から立ち上がると、レト神の像に近づく。
「人間は、どこまで行っても人間でしかないのさ。」
そこで俺はロゼを真っ直ぐ見る。
「人は・・・神にはなれない。」
よっぽど特殊でない限りな。
確かマスターの姉ちゃんが『赤の竜神の騎士』だっけ?
他にも、マスターの世界にはそういった竜神の力と記憶を受け継いだのがいるらしいけど、それらは例外だ!
あとは魔族と契約、勧誘を受けて魔族になった奴か?
「太陽はその恵みを地上に齎してくれるけど、近づきすぎれば燃え尽きるだけ・・・」
俺の言葉にロゼは押し黙ってしまった。
しばらく沈黙が俺たちの間を支配する。
ずがーーん!
そこに一発の銃声が聞こえてきた。
俺たちが音の発生源を見ると、扉の向こうから頭が取れ倒れこむアルフォンスと銃をこちらに向ける信者の一人。
「クレイ師兄!なにを・・・」
ロゼにクレイと呼ばれた奴は、銃を俺に向けた状態で歩み寄ってくる。
「こいつらは神の敵!すべては神のご意思です!!」
・・・こいつも、盲目的に神に依存している口だな・・・
「あーびっくりした。」
俺はとくに同様もせず、クレイを見ているとアルフォンスの身体が起き上がる。
クレイはそれに動揺して、俺からアルフォンスに銃を向ける。
チャンス!
俺はそれを見逃すことなく、足元にあったアルフォンスの頭を拾い上げるとそれを思いっきりクレイの後頭部にぶつける。
「あ、僕の頭!」
いい音を立てて、クレイは気絶した。
「ストライク!」
「きゃああああ!!」
ロゼが今頃になって悲鳴を上げた。
反応遅いって・・・
「ど、どうなってるの?首が・・・」
「どうもこうも・・・」
「こういうわけで。」
アルフォンスが鎧の中身を見せる。
なにも入っていない空洞の中身を。
「な、中身が・・・ない・・・」
ロゼはその事実にさらに怯える。
俺はその反応になにも言えない。
「これが・・・神さまの聖域とやらを侵した罰というやつさ。僕も・・・兄さんもね。」
アルフォンスが自分の頭を装着しながら、そう言った。
それは、俺の心にも重く響く言葉だ。
自分達の身勝手で、あんなことをしちまったんだからな。
「い、いやあああああ!!!!」
ロゼはとうとう耐え切れなくなったのか、悲鳴を上げながら逃げていった。
俺とアルフォンスはそれを慌てて追った。
神様の信者には、俺たちはまさに神の敵って奴か・・・
「こんなところがあるなんて聞いてないぞ。」
俺たちはロゼのあとを追って、広い部屋に出た。
窓も何もなく棺みたいなのがあるところからして、一見霊安室にも見えるけど、なんか違う・・・
その部屋の奥でロゼが俯いたまま、そこにいた。
「ロゼ!」
「よくやった、ロゼ。」
俺はロゼに走り寄ろうとしたら、別の奴がロゼに歩みよるのに気がついた。
そいつはこのレト教の教主コーネロ。
「国家錬金術師・・・いつかは来ると思ったよ。」
コーネロはそう言って、俺たちを見る。
その肩には、昼間の奇跡とやらで生き返らせたように見せかけた小鳥を乗せている。
「ペテンで信者を騙しているからか?それとも・・・賢者の石を持っているからか?」
俺はコーネロを睨みながらそう言うと、コーネロは優しそうな教主の顔を脱ぎ捨てて自分の指にある指輪を見せる。
「これのことかね?」
その指輪についているのは・・・俺たちが捜し求めていたもの・・・
「錬成陣も描かず、等価交換も無視した錬成・・・答えは一つしかない!」
「そうだ、伝説の中だけの存在といわれた幻の術法増幅器。―――賢者の石!」
ああ・・・本当に・・・どんなに焦がれたことか・・・!!
「探したぜ・・・単刀直入に言う。賢者の石を渡しな。そうすればあんたのペテンは街の奴らには黙っててやる。」
俺は捜し求めた物を目の前にした興奮を抑えつつ、そう言う。
しかし、コーネロはとくに慌てる様子はない。
「私からこれを奪うのかね?私の奇跡の御業がなくなればこの街はどうなる?なぁ、ロゼ。」
コーネロはそう言いながら、隣にいるロゼに問いかける。
ロゼは肩をぴくんと奮わせる。
やろう・・・!人の心の弱みに付け込みやがって・・・!!!
「ロゼ!そいつはただの三流ペテン師・・・」
「私は内乱で滅びかけたこの街を蘇らせた。水を生み、ワインに変え、建物を作り、人々にカネさえも与えてやった。」
俺の言葉を遮って、コーネロは話す。
「私は神の代理人だ!貴様らはこの街の人々から神を奪うつもりかね?そんなに軍の命令は絶対か?」
自分が本当に神の代理人だと言わんばかりの、恍惚とした表情で。
「軍の命令なんかどうでもいい。」
俺は"おいといて"のポーズで、そう言う。
コーネロはそれに一瞬、呆けるが俺は構わず続けた。
「俺には・・・俺たちにはそれが必要だ!」
「どうして!」
俺が宣言した直後、ロゼが今にも泣きそうな顔をして叫ぶ。
「私達から希望を奪うって解ってて・・・それでも!?」
「ロゼ、僕たちは!」
「無駄だ。」
アルフォンスがロゼに俺たちの事情を話そうとするが、俺はそれを制する。
そんなことを話したところで、事実は変わらないんだ。
「それでは賢者の石を力を見ていただこう!」
コーネロは今がチャンスだとばかりに、賢者の石を掲げると俺たちの床を砂に錬成し、それが盛り上がって俺たちを飲み込もうとしたけど、俺はそれを後ろにジャンプすることでかわした。
「うわああ!」
「アル!」
しまった、アルフォンスのあの鎧の身体じゃ簡単にかわせない!
アルフォンスは砂の下に埋もれてしまい、俺が掘り出そうとしたところコーネロは次の手とばかりになにか仕掛けを使って部屋の横にある檻のようなものを開ける。
そこから出てきたのは、ライオンとなにか爬虫類をを合わせた様な生物。
「賢者の石で、生物同士の合成した・・・」
「そうキメラだ!」
合成獣が今にも俺に襲い掛かってきそうな状況に、俺はとくに怯えも驚きもしなかった。
こんな合成獣なんかよりも、マスターに放り込まれたブリッグズ山の人食い熊の方が何倍も恐ろしいぞ。
しかし・・・
「こりゃ素手でジャレ合うのはきつそうだな、と!」
俺は手を合わせて、地面に両手を付くとそこから槍を錬成する。
「なに!?錬成陣もなしに錬成を!!?」
コーネロが驚いている。
俺はそれを気にすることなく、槍の柄を合成獣のどてっ腹に叩き込んでやる。
遠心力の応用でそれなりの威力もあるから、きついだろう?
合成獣が倒れて、コーネロは次に自分の肩に乗っている鳥を巨大な怪鳥の合成獣にして俺にけしかける。
俺はすかさず槍をかまえて、その合成獣を撃退しようとするが、その鳥合成獣は俺の槍をあっさり鉤爪で掴むと折りやがった。
その直後に、俺の『左足』を掴んできた。
「ははは!どうだ!!」
コーネロは勝ち誇った声でそういうが、運が悪かったな。
「なんてな!」
俺の言葉と共に、鳥合成獣の爪は砕けた。
鳥合成獣はそれで逃げようとしたが・・・
「逃がすかよ!」
俺は思いっきり『右手』で鳥合成獣の顔をぶん殴る!!
鳥合成獣は見事に吹っ飛んで、絶命した。
動物を殺すのは慣れた。
マスターの修行や先生の修行中に、生きるために殺してきた。
俺がそんなことを考えている間に、容赦なく最初に襲ってきたライオン合成獣が俺に飛び掛ってくる。
俺はその合成獣に『右手』を差し出す。
合成獣は俺の『右手』を食いちぎろうとするが、こんな程度の牙と爪じゃ出来るわけねぇよ。
ただコートと服がぼろぼろになるだけだ。
「どうした猫野郎?しっかり味わえよ・・・」
俺はゆっくり持ち上げる。
それとともに、合成獣の身体も持ち上がり、俺は『右手』を振り払った。
同時に、『左足』で合成獣のあごを蹴り上げる。
そのままライオン合成獣は、鳥合成獣のところまで吹っ飛んでいった。
俺はコーネロを睨みつける。
「あの爪でも切り裂けぬ足・・・あの牙でも砕けぬ腕だと・・・!まさか、きさま・・・!!」
コーネロはなにかに気づいたような顔をする。
「ああ・・・そうだ・・・」
俺はさっきのライオン合成獣にボロボロにされた部分を自分で引き千切る。
「ロゼ。よく見ておけ・・・これが人体錬成を・・・神様の領域を侵した咎人の姿だ!!!」
顕になる俺の『右手』
「機械の手足・・・機械鎧・・・!」
ロゼは怯えたような顔で、俺を見る。
「貴様・・・人体錬成を・・・最大の禁忌を犯しおったな!あちら側に・・・身体を持っていかれおった!!」
砂の下からやっと這い上がってきたアルフォンスが俺の隣に並んだ。
「それゆえにこやつの称号は『鋼』!」
鋼の錬金術師!
バリーの事件から数日。
俺とアルフォンスはセントラルの街を歩いている。
前にははしゃいでいるウィンリィ。
俺は隣を歩くアルフォンスを見る。
アルフォンスの両腕には、買わされたお土産が大量にある。
・・・なんでも買ってやるっていうんじゃなかった・・・
錬金術師は魔法使い!?
『Silver Watch of the Dog of the Military』
俺とアルフォンスは汽車に揺られている。
まわりには客が一人もいない。
なんでこうなったのかと言うと・・・
ぶっちゃけ、仕事。軍の命令。
マスタング中佐の命令で、東の終わりの町と言われる炭鉱の町・ユースウェル炭鉱に視察に行くんだ。
あと、採掘資源の調査も含まれている。
それにしても、ウィンリィの土産代がすっげー逝ったな・・・
いくら研究費用が入って、それなりに金持ちになったからってあれは買いすぎだ。
「まるで貸切みたいだね。」
「・・・・・・・・」
アルフォンスがそう言うが、俺はなにも言えなかった。
「汽車の旅っていいよね。歩かなくて、座ってるだけで目的地に着くんだもの。」
アルの奴、俺に気を使ってるな。
「アル。これは軍の狗になった俺の仕事だ。お前までついて来ることはなかったんだぞ?」
俺が窓の外を見ながらそう言うと、アルフォンスは悲しげな声を出した。
「またそんなこと言って・・・僕は兄さんと一緒だよ。兄さんがリゼンブールに帰らないなら、僕も帰らない。帰るときは一緒だよ。」
俺はユースウェルに向かう前に、ウィンリィに帰らないと宣言した。
アルフォンスはそのことを言ってるんだ。
「そうだな・・・」
俺はアルフォンスに心から感謝した。
活気がねぇ・・・
俺が街について一番最初に思った感想がこれである。
みんな下を向いて、疲れきった顔だ。
アルフォンスも俺と同じ意見みたいで、辺りを見ている。
「とくに見るところもなさそうだし、はやく調査して帰ろう。」
ドガンッ
俺がアルフォンスにそう言って歩こうとしたとき、俺の後頭部になにかがぶつけられた。
「兄さん!」
「おっと、ごめんよ。」
俺は痛みにその場に蹲る。
つーか、マジいてぇ・・・
俺は犯人を見ると、それは俺より年下の子供だった。
大人の炭鉱夫と同じ格好をして、角材を持ってる。
そいつは俺たちの姿を見ると目を輝かせた。
「お!!なに、旅行者?どっから来たの?飯は?宿は決まってる?」
そして次々とまくし立ててくる。
「なんだ、おまえ――」
「親父、客だよー!」
俺が訝しげにしていると、そいつは高所にいる炭鉱夫を大声で呼んだ。
「あー?なんだって、カヤル?」
どうやら親子みたいだ。
「客だよ、客!カネヅル!!」
「「カネヅル!?」」
俺とアルフォンスは同時に顔を見合わせた。
炭鉱夫はヘルメットを取り、にやりと笑った。
「よく来たな。俺が宿屋の主人、ホーリングだ。」
その夜、俺たちはホーリングさんの案内で宿屋についた。
けっこう大きな宿で、酒場みたいなところでは、他の炭鉱夫が酒やカードでくつろいでいた。
「いやぁ、ホコリっぽいとこですまねーな。」
ホーリングさんはビールのジョッキを両手にもってそう言った。
「炭鉱の給料が少なくて、この店と二束のワラジってわけよ。」
そう言ってホーリングさんは豪快に笑った。
俺は女将さんに宿泊を告げて、記帳してもらいながら苦笑した。
「宿代はおいくらですか?」
アルフォンスがそう聞いた。
「たけぇぞぉ?」
うっなんか嫌な予感が・・・
「ご・・・ご心配なく。カネなら結構持ってるから。」
俺はホーリングさんや他の人たちの様子にひきつつもそう言った。
そうだよな・・・国家錬金術師になったし、カネの心配はそんなにしなくても・・・
俺がそう考えていると、ホーリングさんはあっさりその金額を言った。
「20万だ。」
「「20万!?」」
俺が考えていた金額よりも一桁多いじゃねぇか!?
「ばかも休み休み言えよ、おっさん!たかが宿代になんで20万も!!?」
俺がそう喚いても、ホーリングさんたちには効果なし。
「ウチはこれでもユースウェルで一番の高級宿屋だからな。」
「それにどこに行ってもこの値段だよ!」
俺が別の宿を探そうと考える間もなく、カヤルが早口にそう言った。
くっ逃げ道なしか!
「久しぶりの客だ、たっぷり金を落としていってもらわねーとな!」
俺とアルフォンスは隅でしゃがみながら、財布の中を見る。
「う・・・足らない・・・」
「ウィンリィにお土産いっぱい買わされたしね・・・」
金がないなら・・・
俺は宿代が足りない分、宿の道具やつるはしを修理することで補おうとしてたんだけど、俺が国家錬金術師だと解った途端宿から蹴りだされちまった。
「軍の狗にくれてやるような飯も寝床もないわ!」
「なにぃ!?」
ホーリングさんはそう言うと、今度はアルフォンスのほうを見る。
「おまえも軍人か!?」
「あ、いえ僕は・・・」
「!そいつは軍とは関係ない!汽車で一緒になっただけだ!!」
俺はアルフォンスがなにか言う前に、そう言った。
アルフォンスまで蹴りだされる必要ないんだ。
俺がそう言ったことで、アルフォンスはなんとか宿に置いてもらえることができた。
あとは、アルフォンスが余計なことを言わなければ、追い出される心配もない。
俺は荷物を持つと、どこか休める軒先を探して歩き出した。
「はらへったなぁ・・・」
なんとか休める場所を探せたけど、なんにも食えなかったからさっきから腹が減ってしょうがねぇ・・・
俺は喉だけでも潤そうと魔法で水を出そうとしたところ、アルフォンスが飲み物と食い物が載ったトレイを持ってきてくれた。
「僕は食べられないから・・・」
「アル・・・ありがとな。」
俺はアルフォンスに出されたと思われるそれに口をつけていると、アルフォンスがぼそりと呟いた。
「軍人って嫌われているね。」
「ま、覚悟してたけどな。」
しかし・・・まさか蹴りだされるなんて思わなかったな。
「僕もやっぱり国家資格取ろうかな?」
「やめとけ。」
アルフォンスの言葉に俺はすぐに反対した。
「こんな目にあうのは俺一人で充分だ。それに・・・自分の目的のために軍の狗になったのは本当だしな。」
俺はそう言って、苦笑した。
「兄さん・・・」
必ずアルフォンスの身体をもとに戻すんだ。
そのために、もっと錬金術も魔法も鍛えとかなきゃな。
賢者の石で補助しても、実力不足だったら笑えねぇし。
「おどきなさい!」
俺がそこまで考えていると、ホーリングさんの宿のほうで、そんな声が聞こえてきた。
俺とアルフォンスは宿の様子を見ようとこっそり窓から中を覗いた。
宿の中にいるのは、軍人が3人と若い女が一人。
おっと・・・軍人の中の一番小さいおっさんは中尉か・・・
俺はすばやく中の人間を服装や襟章で把握すると、なにやら中で言い争いの声が聞こえる。
纏めてみると、税金の滞納について・・・中尉のほうは給料を安くして税を高くしている。
そのせいで、町の人間は税を納めることができない。
それじゃ滞納して当たり前じゃねぇか。
俺はため息を吐くと、どうしたもんかと考える。
炭鉱夫の一人が、我慢できなかったのか、中尉に殴りかかるが、若い女が前に出ると風と紅い光が弾けて、炭鉱夫を吹っ飛ばした。
そのとき、カヤルが持っていた雑巾を中尉の顔に投げつけた。
それが見事にHIT!
あいついい腕してるな。
カヤルの行動に、軍人たちは怒りを顕にした。
見せしめだと言って、剣を引き抜く。
おい、まさかあんな子供を!?
俺は考えるよりも速く、カヤルの前に立ちふさがると、機械鎧の腕で剣を受け止める。
剣は金属同士がぶつかる独特の音を響かせながら、折れた。
「な、なんだおまえは!?」
「中尉さんが来てるっていうから、ちょっと挨拶しておこうかなと思って。」
俺はそう言いながら、銀時計を見せる。
国家錬金術師は少佐相当官の地位を持ってるからな。
案の定、中尉は驚いている。
「大変失礼しました。私、この街を治めるヨキ中尉と申します。」
俺が国家錬金術師だとわかると、ヨキはいきなり下手に出やがった。
いやだな・・・こういう奴は・・・
「このような田舎町にわざわざおいで頂くとは、なんのご用でしょう。」
手のひらでゴマをするこいつに、俺は嫌悪感を感じながらもそれを顔に出さないようにした。
「ちょっと視察に来ただけだ。」
「視察!?なんと、それならばご連絡いただければ迎えをよこしましたのに。長旅でお疲れでしょう、ささ、私の屋敷までおいでください。」
よく回る口だな・・・
俺は部下に車を回させているヨキに若干呆れながらも、宿を出て行く。
「軍の狗め・・・!」
「・・・・・・・・・・・」
出て行くとき、ホーリングさんが苦々しく呟いたのが聞こえてきた。
俺はなにも言えなかった。
俺はヨキの屋敷に呼ばれて、そこで食事をしている。
さっき錬金術で炭鉱夫をふっ飛ばしていたライラという娘が、メイド姿で給仕している。
こいつ、国家に尽くす立派な国家錬金術師になりたいとか言うけど、軍の狗がどういうものか解っているのか?
出されたものは、上流階級の貴族が食べるような豪華なものだ。
まるでこの屋敷と町は別世界に見えちまう。
「良いものを食べているね。街はあんな状態なのに。」
「いや、お恥ずかしい。税を徴収もままならず困っておりますよ。おまけに先ほどのような野蛮な住民も多く・・・ははは。」
なんかムカムカしてくる・・・それ以上口を開くな!
「納税の義務を怠りながら、権利ばかり主張しているってことか。」
「おお、流石エドワード殿は話がわかる方だ。」
「この世の理は、全て錬金術の基本、等価交換であらわすことができるからね。義務あっての権利・・・だろ?」
俺はそう言うが、口で言うほどこの世の理が等価交換だとは思っていない。
俺が生粋の錬金術師だったら、心からそう思うかもしれないけど、俺は錬金術師で魔導師。
だからか、等価交換の法則を心から信じられない。
俺の言葉にヨキはまるで演説を聞いたように褒めてくる。
そして、俺の前に巾着を乗せたトレイが差し出された。
「ほんの気持ちです。どうぞお受け取りを。」
・・・マスター、こいつにギガ・スレイブ(重破斬)ぶち込む許可を今すぐください・・・
俺は今、どこでなにをやっているか解らないマスターに、心からそう願った。
俺は引きつりそうになる顔を必死に押し隠す。
「これはいわゆる・・・賄賂というやつか?」
こいつが高官政府に賄賂を送って、今の地位を手に入れたって話は本当みたいだな。
俺は目を細めて、ヨキを見る。
「そんな見も蓋もない。あえて言うなら、等価交換ですよ。」
思ってもいないことを・・・!
「なにとぞ、視察の件をよしなに・・・」
「・・・考えとくよ。」
俺はかろうじて、そう言った。
俺は与えられた一室に入ると、壁を殴りつけた。
すごく腹が立つ。
親父に感じている腹立たしさとは、また違う苛立ちをあいつから感じた。
あー・・・うまく言えないけど、生理的嫌悪?みたいなもんか?
俺は、気持ちを落ち着けようと水差しを傾けるが、水が一滴も出ない・・・
「~~~・・・人を持て成すなら、もうちょっと気配りくらいしろっての。」
俺は水差しを両手に持つと、魔力を練り上げる。
「・・・アクア・クリエイト(浄結水)」
俺が魔法を使ったと同時に、水差しに水が満ちていく。
この魔法。修行時代にアルフォンスに内緒で結構使っていたから得意なんだよな。
俺は水差しに満ちた水をコップに注ぐと、それを一気に飲み干した。
そして、気分を落ち着けると窓から街の様子を眺める。
アルフォンス大丈夫かな?
ホーリングさんたちと喧嘩・・・はしないか。
俺はそう考えて、タリスマンの紅い宝石に自分の顔を映す。
アルフォンスは、俺の魔法を知らない。教えていない。
最初は幼心から、びっくりさせてやろうと思って内緒にしていた。
でも、成長するにつれて知識も増えて、この力はこの世界には存在しないことを知った。
学べば、多かれ少なかれ大抵の人間が使える力でも、この世界でその技術を持つのは、マスターだけ。
そして・・・知られれば・・・軍に知られたら・・・
錬金術だって誤魔化しが聞くのは、錬金術を知らない人間だけ。
術師のアルフォンスには、通用しないいい訳だ。
それに・・・異端の力は拒絶されやすい。
もしアルフォンスに拒絶されたら・・・
そう思うと、アルフォンスに教えることが出来なかった。
もしも、他の奴に俺の考えが知ったら「魔法を捨てろ。」って言われるかもしれないな。
それでも、俺は魔法を捨てない。
この力で出来ることがあるなら・・・俺はこの力も高めていく。
ドーン・・・・
俺が考え事をしていたら、街中のほうでなにかが爆発したような音が聞こえた。
俺は窓を開けて、外を見るとホーリングさんの宿の方角に爆煙が見える。
「!?アル・・・」
俺は窓に足を掛けると同時にレビテーションで、翔んだ。
今は真夜中で月もそんなに明るくない。
見られる心配は、ないはずだ。
俺はアルフォンスの身を案じながら、ユースウェルの街を滑るように飛んでいった。
俺は宿に向かう途中、屋敷に向かって走っている軍人たちを見た。
その中には、あのライラも一緒だ。
なんであいつらあんなとろこに・・・
俺は、ライラたちを追おうかとも考えたが、今はアルフォンスのことが心配だ。
俺はライラたちのことを頭から振り払って、宿に向かった。
宿は炎上しており、俺はその炎で姿を見られたらまずいと思って近くの屋根に降りる。
アルフォンスは・・・いた!
ホーリングさんたちと一緒に外にいる。
俺はそれに少し安堵して、今だ燃え続けている宿を見る。
「本当はこんなことをする義理はない。・・・だけど、ほっとくこともできないな。」
俺はそう呟くと、魔力を集中させる。
さっきよりも、強く高密度に・・・
「・・・エクスト・ボール(消化弾)!」
俺の放った魔法は、あっという間に宿の火事を鎮めた。
けど、消火が遅かったのか宿のほとんどが焼け落ちている。
「なんだ、今のは?」
「火があっという間に、消えちまったぞ!?」
やべっ!俺がここにいるのがバレたら、ややこしいことになっちまう。
俺は見つかる前に、レビテーションで飛び立つと、屋敷のほうに戻っていった。
明日の朝、もう一度行ってみるか。
屋敷で少し休んで空が白み始めた頃、俺はホーリングさんの焼け跡に向かった。
ホーリングさんは俺のほうを見ずに、焼け跡を見ている。
女将さんは焼け残った看板を胸に抱いて泣いている。
「あいつらか?」
「うん・・・」
そこにカヤルが俺のところに来た。
「なぁ、あんた凄腕の錬金術師なんだろ?・・・金を錬成してくれよ!金を錬成して親父を・・・この街を救ってくれよ。」
そうやってカヤルは俺に縋ってくる。
俺がここで金を錬成するのは簡単だ。
だが・・・
「金の錬成は重罪だ。それにバレないとしても、すぐに税金に取り上げられる。その場しのぎで使われても、困るんだ。」
俺がそう言うと、カヤルは何も反論できないのか、俯いて唇を噛んでいる。
「そんなに困っているなら、この街を出て、違う職を探したらどうだ?」
そうしたら、少なくともヨキからは解放される。
「小僧。おまえにゃ、わからんだろうがな・・・ここが俺たちの家で棺おけよ。」
俺の言葉にホーリングさんは女将さんを支えて言った。
「・・・ここが家で棺おけか・・・」
俺はその言葉をかみ締めるように呟くと、アルフォンスを連れてその場を立ち去った。
俺とアルフォンスは、くず石が大量に積み込まれているトロッコの前に立つ。
「アル。俺たちは自分で家を焼いた。」
思い出すのは、燃えていく自分の家。
「もう帰るところはないし、俺はそれでいいと思っている。」
俺はアルフォンスの返事を待たずに、トロッコの上に乗ると、ヨキから渡された金貨をくず石の上にばら撒いた。
「だけど・・・帰る場所がある奴は、それを大事にしないとな!」
「兄さん・・・」
俺は手を合わせると、くず石と金貨を錬成する。
その錬成反応が、俺の視界いっぱいに広がっていった。
「炭鉱を買い取りたいですと!?」
ところ変ってヨキの屋敷。
「えぇ。鉱山から販売ルートまで全部ひっくるめて欲しいんだけど。」
俺はことさら笑顔でそう言った。
「いや、いくら国家錬金術師の頼みとあっても、そればかりは・・・」
ちっやっぱり渋ってくるか。
「そう?残念だなぁ・・・折角お金用意してきたのに・・・」
俺が残念そうに言うと同時に、アルフォンスが扉を開けた。
それと同時に眩いばかりの金塊の山が、見える。
さっき俺が錬成した金塊だ。
「こ、これは全部・・・金!?」
ヨキが目をギラギラさせて金塊に歩み寄る。
やっぱり、こいつは好きになれそうにないな。
「調査したらこの鉱山には、錬金術の研究に使う珍しい元素が眠っててね。人に渡したくないんだ。これじゃ足りない?」
俺がそう言うと、ヨキは首を横に振って否定する。
それでも建前上、軍から任されてる炭鉱を売って自分の利益にするのは、躊躇があるようだ。
「それなら、炭鉱の全権を無料で譲り渡す、と念書を書いてください。そうすれば、これは全部あなたのものですよ。ヨキ中尉。」
ヨキは完全に、金塊の虜になっているのを、俺は確かに感じた。
「はーいみなさん、シケた面下げてご機嫌麗しゅう!」
俺はホーリングさんたちが集まっている倉庫の扉を開けながら、そう言った。
案の定、みんな俺を睨んでる。
視線で人が殺せるなら、この時点で俺は死んでると言えるほどに。
「・・・何しに来たんだ?」
カヤルがそう聞いてきて、俺はおどけたように振舞う。
「あらら、ここの経営者むかってその言い草はないんじゃないの?」
「経営者!?なにをばかな・・・!!?」
俺は全部言わせないように、炭鉱の権利書を突きつける。
「この炭鉱の採掘、販売、運営、その他全ての権利書だ。」
俺の言葉に、みんな息を呑む。
「すなわち今現在。この炭鉱は俺の物ってことだ!」
「!!!」
ふふん、みんな驚いてる。
「とは言ったものの・・・俺はセントラルに帰らなきゃならないし、どうしようかな~?」
ホーリングさんは、俺の意図に気づいたようだ。
「それを俺たちに売りつけようってのか?」
「高いよ?」
俺はにやりと笑ってみる。
こういうの案外楽しいな。
「何かを得ようというなら、それなりの代価を支払ってもらわないとね。」
「・・・くっ」
「なんせこの権利書は、高級羊皮紙を使っている上に金の箔押しだ。」
「は?」
俺の言葉にみんな目が点になる。
俺はそれに気づかない振りをしながら、続ける。
「さらに箱には翡翠を細かく砕いたもので、さりげなくかつ豪華にデザインされている。うーん、こいつは職人技だねぇ。おっと、鍵は純銀製か―――」
俺はきょとんとしているみんなを見ながら、値段を言った。
「ざっと見積もって・・・20万!」
「20万!!!?」
「権利書が・・・たったの20万!?」
「あ、そう言えばホーリングさんの宿が20万だっけ。一泊してチャラってどう?」
俺の言葉にみんな戸惑っているが、カヤルが残念そうに俯く。
「そんな事言っても、店はもう・・・」
それなら心配ご無用!
「あれ?それじゃ、あれはなんだい?」
俺はそう言って、扉の外を指差す。
そこには、焼けたはずのホーリングさんの宿が前より少し立派になってたたずんでいた・・・って、俺が錬成したんだけどな。
みんなで宿の前に行くと、俺はホーリングさんに炭鉱の権利書を渡す。
「宿代、これで足りる?」
「あ、ああ!」
俺は笑って権利書を渡した。
「エドワード殿~~!!」
そこにヨキが血相を変えて来た。
「エドワード殿、あなたに頂いた金塊が全部石くれになってしまったのですぞ!どういうことですか!」
「金塊?さて、何の話ですか?」
俺はとぼけると、ヨキは怒りを顕にする。
「とぼけないでください!金塊の山と権利書を交換したでありませんか!」
俺は慌てずにヨキに書かせた念書を見せる。
実は、ヨキに念書を書かせている間に金塊を元に戻して、あとはイリュージョン(夢幻覚)で幻覚を見せていたんだよな。
そんで、あとは頃合を見計らって魔法を解いたってわけ。
「あれ?権利書は無償で譲り受けたんじゃありませんか?ほら、念書もありますし。」
「な!?これは詐欺だ!ライラ!」
ヨキは後ろに控えていたライラに呼びかけると、ライラは錬成陣のペンダントに手を翳す。
げっここじゃ、みんな巻き添え食っちまう!
俺はホーリングさんたちから離れると、ライラの大気を凝縮した弾が俺目掛けて飛んでくる。
俺はそれを紙一重で避ける。
「『錬金術師よ、大衆のためにあれ』。私利私欲で錬金術を使うのは、感心しねーな!」
「あなた国家錬金術師でしょ?なぜ軍のすることに逆らうの?」
盲目的に国家に傾倒してやがる。
俺はライラが次の弾を錬成する前に、機械鎧を甲剣に錬成してライラのペンダントを切った。
ペンダントがライラの手の届かないところにあることを確認して、俺は機械鎧を元に戻し、きっぱり言った。
「悪いが、魂まで売った覚えはないね。」
その後は、ヨキが部下を使って権利書を取り返そうとしたけど、ホーリングさんたちに返り討ちにあった。
こうして、俺の初任務は終わった。
なんだかんだと、長いようで短い任務だったな。
そしてこのことがきっかけで、俺たちの名前は東を中心に広がりはじめた。
民衆に味方する軍の狗がいるってな。