<フェイトside>
「はじめましてフェイトさん。俺はアギ・スプリングフィールドです。」
そうやってにこやかに笑いかけてくる彼は、つい先日家族を悪魔に襲撃されたとは思えないほど鮮やかだった。
「お見合い……ですか?」
僕はデュナミスから要請を受けて墓守り人の宮殿に赴くとそう告げられた。
「そうだ、スプリングフィールドの一族が襲撃を受けてそのほとんどが永久石化の呪いを受けた。今後、世界を救済するにあたって保険となる一族だけに丁重に保護しておきたかったのだが、どこぞのバカが余計なことを……!!」
デュナミスその言葉は溢れんばかりの憎しみが込められていた。
ホント、一体どこのバカが引き起こしたんだが……MM上層部はスプリングフィールドの重要性を十二分に知っているからこんな真似はしないしこちらで裏はとれている。
それ以外だとするならば大戦のときにナギ・スプリングフィールドに恨みを持った奴らの犯行か?
「それで一族の血を継ぐものがナギ・スプリングフィールドの息子のネギ・スプリングフィールドとアギ・スプリングフィールドというのだが、ネギ・スプリングフィールドにはすでに正式な婚約者がいるので除外。残っているアギ・スプリングフィールドと見合いをしてもらうぞ。」
「……アギ・スプリングフィールドは男と記憶しております。その従姉であるネカネ・スプリングフィールドの間違いでは?」
男同士では血は継ぐことはできないと思うのだけど。
「ん?知らなかったのか?スプリングフィールドは呪いが掛けられていて、男以外は子供を作ることができないのだ。それも同性でなければならないというのだからな。今の『完全なる世界』ではアギ・スプリングフィールドに釣り合うのはお前しかいないのだからな、せいぜいひっかけて来い。」
そう言われて僕は保護している孤児をすべてアリアドネーに送った後、見合い場所まで行くことになった。
「えっと……あんたが俺のお見合い相手でいいんだよな?」
そう言って戸惑った様子を見せるアギに僕はただ頷くだけで返事をした。
相手は自分の相手が男だと解っているはずなのに、なぜここまで戸惑っているんだ?
「それじゃもう一度自己紹介するな。俺はアギ・スプリングフィールド。今年で5歳になる。よろしく。」
「フェイト・アーウェンクルス」
お互いに自己紹介をしてそれから軽く雑談をする。
と言っても、もっぱらしゃべるのはアギだけで僕は適当に相槌を打つ程度。
アギの話術はお世辞にも巧みとは言えなかったけど、この年齢にしては驚くほどの知性が備わっているのがわかる。
さて、デュナミスにこの子をたらせと言われたけど僕だって誰かをたらすなんてしたことがないし、どうすればいいんだ。
「えっと……それでな、フェイトに聞きたいことがあるんだ。」
ふと会話の途中でアギが言いづらそうに顔をうつむかせる。
僕はあまり会話が堪能な訳ではないからね。なにか不愉快にさせてしまったのかと思った。
ここで見合いを途切れさせてしまったら任務の意味がなくなってしまう。
「なんだい?」
「あのさ……フェイトはなんでこのお見合いを受けようと思ったんだ?」
なんだそんなことか。
「上からの命令だよ。君も実質そうなんだろう?」
「……はっきり言うやつだな。ここは嘘でも自分がそう望んだからとか言えないのか?」
「君の話を聞いていると下手なことを言っても誤魔化されてくれないと判断したからだよ。それなら最初から正直に応えたまでだ。」
うん、これは僕には向かない任務だね。
デュナミスに正直に話してもっと他に相応しいものを任務につけてもらおう。
「それなら……大丈夫かな?」
アギはなにか納得したかのように頷くと僕をまっすぐ見てくる。
この年齢の子供ができるような表情じゃなかった。
居住まいを直したときに彼の身に着けている腕輪とアンクレットが涼やかな音色を奏でたのが不思議と印象に残る。
「俺と仮初でいいから婚約してくれないか?」
「なぜ……と聞いても?」
「そうだな、あんたなら俺に惚れたり余計な感情を持ち込むことが無さそうだからだ。」
そう言ったアギの不敵な笑顔。
この子が本当に5歳にくらいなのか解らなくなってしまいそうだ。
「フェイトさんも知っていると思うけど、俺たちの一族は男同士でしか子供が成せない。子供を作るには他にも条件があるけど、それが一番の大前提なんだ。俺としても将来的には子供だって欲しいし、好きな奴と添い遂げたいと願っている……けど、俺は男相手に恋愛感情を持てるとは思えないんだ。」
そう言ったアギの顔は心なしか寂しそうに見えたのは僕の錯覚なのか。
さっきからコロコロと表情が変わってとても興味深い。
「仮にこの場であんたとの婚約を蹴ってもどうせすぐに別の奴とお見合いすることになる。俺としては下手な奴と見合いを繰り返して面倒なことになるのは避けたいし、必要以上に一族の秘密が外部に漏れるのを防ぎたい。」
そう言えば資料にあったな。
過去にスプリングフィールドはその強大な魔力に目を着けられて一族の若い者が誘拐されたり、無理やり手籠めにされたことがある。それ以来、そんな混乱を避けるためにも一族は自らを秘匿し、必要以上に情報が漏れないようにMMの元老院と取引をした、と。
それならアギの懸念も理解できる。
本当によく頭が回るな。
「それで僕に偽の婚約者をして欲しいというわけだ。それで僕にどんなメリットがあるんだい?」
「俺にはあんたに何かしらの報いに応えることは今はできない。いまだ幼く保護者の庇護が必要なこの身では金銭的な報酬は勿論、なにかしらの肉体労働にも支障が出るのは目に見えている。それに何より俺は踊り手候補としてこの身体に必要以上の傷を負うことは極力避けなければならないぐらいだ。」
アギの目に僕は吸い込まされるようなそんな錯覚を覚えた。
ただの人形であるはずの僕が、なんだか今日はらしくない。
「それでも俺がなにかしらの報いに応えられるならそれに応えたい。フェイトさん、あんたは俺にいったい何を望む?」
僕のそれは無意識だったのだろう。
この時ばかりは僕は僕でなかった。
「それなら君自身を報酬に貰い受けたい、アギ。」
<アギside>
「それなら君自身を報酬に貰い受けたい、アギ。」
え?えええぇぇぇぇぇぇ!?
なんだよコレ?どういうことなんだよ!?
俺はフェイトに交渉を申し出たのはいいけど、なんでか手を掴まれてその手がフェイトの唇に……うわーーーーーーー!!!!これって口説かれているのか!!?口説かれているのか俺!?
「ふぇ……フェイトさん?あんたがここにいるのって上からの命令だって……」
「フェイトでいいよ。最初はそうだったけど、君自身にも興味が出てきた。その年齢に似合わない言葉と眼差しは本当に興味深いよ。」
ガーーーン!?
これって自業自得なのか?
曲がりなりにも世界の救済を目指している『完全なる世界』ならいくら大戦で敵対していたナギの子供でもスプリングフィールド一族の一員で踊り手候補の俺を無下にできないっぽいからの提案なのに、これじゃ墓穴掘った!?
フェイトは俺の手をもったまままた唇を寄せてくる。
その感覚に俺は背中がぞわぞわしてきて、それがどういう種類のものか自分で追及するのが怖くて気のせいだと何度も自分に暗示のごとく内心言い聞かせる。
俺は女の子が好きなんだ!決して男相手にドキドキしたりしない!!ときめくなんて論外だ!!いくら一族のためとはいえこんなに早く前世のアイデンティティまで失いたくなーーい!!!
「あ、ああ。それで俺が欲しいって……スプリングフィールドの魔法が欲しいって意味……だよな?」
頼む、そうであってくれ!
しかし現実は無常であった。
「スプリングフィールドの魔法?そういえばそういうのもあったね。君自身しか興味がなかったから忘れていたよ。」
おーい本当にこれ誰だよ。
原作であれほど魅力的で個性的な女の子をパートナーに侍らせていた奴だよな?
フェイトガールズなんて言われている女の子の従者ばっかり作っていた奴だよな?
それがどうしてこうなった!!?
「フェイト……さすがに会ったばかりの奴にすべてを渡せるほど、俺だって人生投げ出しているわけじゃないんだぞ?」
「それは君を見ていれば大体察しが付くよ。それでもいいよ。僕が勝手に君を口説くから。」
そう言ってフェイトはもう一度俺の手にキスをしてようやく離してくれた。
これって見た目五歳児がすることじゃねーよ。
「それでも、俺があんたに恋愛感情を抱くとは限らないぞ。あんただって今のその感情が一時の気の迷いかもしれないのに。」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。今感じている感情にまだ名前は付けれそうにないけど、君の隣に他の男が立つと考えるとなんだか癪に障る。」
フェイトは俺に自然な距離を縮めてきて、俺は逃げるタイミングを完全に失ってしまった。
いつの間にかフェイトの手は俺の腰に回っていて、本当に逃げれそうにない。
いや、魔力で身体強化すれば振り切れるかもしれないけど曲がりなりにもフェイトは『完全なる世界』の幹部だ。そうそう上手くいくわけない。
「僕も感情というのを理解しきれていないからね。まずはこの気持ち確かめさせてもらうよ。」
その後の接触を俺は避けることができなかった。
これ以降、俺とフェイトは暫定婚約をし、手紙で文通をする仲になった。
ネギの方も小太郎と文通しながらの遠距離恋愛中で、お互いの言葉を勉強中である。
俺もそうしながら魔法世界の言葉を勉強していたりするのだ。
けどなフェイト。
いくらなんでも回数こなすうちにやたら愛もしくはそれを示唆させる言葉を連呼するのはやめてくれ!
元日本人としては鳥肌がたつっつーの!!!
はぁ、これから原作突入したらどうなることやら……