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高鳴る胸の鼓動
それを意味することは一体なにか
それを知るのは何時のことか
あなたはそれを素直に受け入れられるのか
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(ルーク視点)
今日は虚無の曜日。
俺は前からの約束で、サイトを連れてトリステイン城下町に行くことにした。
サイトだって女の子なんだし、いろいろと入用だしな。
え~っと、まずは着替えとかだよな?
他にも化粧品?・・・俺も女として生活してるけど、そういう女の買い物ってよくわからないんだよな~
訓練用の服として平民の服を買うことあるけど、あれは全部男物だし。
キュルケとかならその辺詳しいだろうけど、俺の家とキュルケの家って仲が悪いからな~
俺自身、別にどうでもいいことだけどな。(ご先祖様が恋人や伴侶盗られたのって、自分に魅力がなかっただけじゃないのか?)
キュルケにしても、俺のことライバル視している節があるしな。
俺が男だって知ったら、どんな反応を見せることやら・・・考えただけ頭痛いな。
「ルイズ。馬の用意できたぞ。」
「わかったわ。もうすぐ支度できるから、先に城門で待ってて。」
俺は部屋に入ってきたサイトに背を向けたまま、髪を整える。
着ているものは平民の服。・・・着替え終わったところでよかった!
「あれ?その服で行くのか?」
「そうよ、下手に学院の制服や貴族の私服なんて着ていったら、金持ちだとバレて買い物するとふっかけられるのよ。」
実際に一度面倒くさくて、学園の制服のまま行った時なんか、スリに合いかけること5回。店先でやたら高いものを押し付けられること8回はあった。
あれ以来、俺は町に行くときは必ず平民の服で行くことにしている。
髪の毛を帽子の中にしまうと、デルフリンガーも何時ものように背中に背負っている。
俺は準備が終わると金貨の入った袋を持って城門に行く。
『逢引とは、相棒もやるねぇ』
うっせぇ、ボロ剣。
(サイト視点)
私はルイズに連れられて、現在トリステイン城下町にいる。
かなり賑やかな場所で、道はちょっと狭いけど町の人たちの顔は生気に満ちている。
「ずいぶん活気があるな。」
「ここは城下町で一番の大通りなのよ。露天や商店もかなりの数が揃っているのよ。」
ルイズはここでの平民の服を着て、私の前を歩いている。
その足取りはかなり慣れていて、私はついていくのがやっとのほどだ。
「ちょっ・・・!ルイズ、待ってくれよ。」
「なにやってるのよ。ほら、つかまってなさい。」
私が置いていかれそうになったとき、ルイズは私の手を取ってくれた。
ルイズの手って柔らかいのかと思っていたけど、長年剣術をやっている者らしい手で剣ダコとかあって逞しかった。
こうやって見れば、ルイズって華奢なところばかり目立つけど肩とか結構がっちり鍛えてあるのね。
「ありがとう。」
「・・・///土地勘のない人間が路地なんかに入ったら、あっという間に絡まれるからよ!」
ぶっきらぼうにそう言ったルイズの顔は、照れているのか赤くなっていた。
私はそれを見て、なんだかルイズが可愛いと思った。
(キュルケ視点)
あたしはある日突然恋をした。
恋・・・それは炎のようにとても燃えやすく情熱的なもの!
あたしの二つ名は『微熱』
本当に恋は突然なものなのよ!!
あたしが恋をした殿方の名前はヒラガ・サイト。
あのゼロのルイズが召喚した平民の男。
最初はぱっとしないルイズにお似合いの使い魔だと思ったけど、彼はギーシュと決闘の時に見せた体捌きや、鳥を従えた姿・・・惚れるには十分だわ、ダーリン!!
今日は虚無の曜日だから、この間出来なかった告白の続きをしようとメイクもばっちり決めてルイズの部屋に入ったのに誰もいない。
せっかくあたしから出向いたのに!
あたしはなんとなく窓から外を覗くと丁度二人が馬に乗って出かけるところだった。
しかももう門を出ている。
ルイズの馬術の腕は相当のもので、これじゃ普通の方法じゃ追いつけないじゃない。
あたしはそう結論すると、まっすぐ親友の部屋に向かった。
彼女の使い魔ならきっと二人に追いつけるはずだわ。
待っててね、ダーリン!!!
(ルーク視点)
俺はサイトの手を引きながら、いろいろな店を回った。
服屋に小物屋、装飾品店。
時には露天で売られている食べ物や飲み物を片手に、俺たちは買い物を楽しんだ。
女の買い物は時間が掛かるっていうけど、これはサイトも例外じゃなかった。
とくにサイトは小物が気に入ったみたいで、別に買うわけじゃないのに一つ一つ手にとってじっくり眺めたり、「これかわいい。」と話を振ってくる。
こういう一面を見ると、サイトも普通の女の子なんだなって実感しちまうな。
服のほうは女物の服を数着購入した。
晩餐やパーティ用のドレスも買うって言ったのに、あいつは自分には似合わないって拒否されちまった。
いつか俺の供として、そういうのに出席する場合には必要なんだけど、サイトにはまだ理解できないか。
ついでだから、今サイトの着ている服はサイトがいつも着ているあの不思議な材質の服じゃなくて、袖のない白いワンピースで背中の部分にウェストを調節するリボンがデザインされているものに、丈の短いレモン色の薄い長袖のカーディガン、それとつばの広い白い帽子でどこから見ても本当に『女の子』だ。
服屋に行ったときに、サイトは別段特別な理由があって男装していた訳じゃないと聞いたから、どうせだからそれに着替えさせたんだ。
・・・俺も男物着て、長い髪を帽子の中に隠して『男』なんだし、他の奴が見たって違和感ないよな!
サイトはスカートは履き慣れていないみたいで、しきりに足元を気にしていたけどそれもすぐに慣れたみたいで今は窓際に飾られている商品を見ながら一緒にブルドンネ通りを歩く。
・・・これじゃ、本当に逢瀬みたいだ。
『お!この辺りって俺が売られていた武器屋の近くじゃねぇか?』
不意にデルフリンガーが口を開いた。
俺もそう言われて初めて気づいた。
「へ?デルフリンガーってこの辺りで売られていたのか?」
「ああ、そういえばそうね。あそこの主人って貴族にはやたらと高い物を押し付けるけど、ちゃんと見る目のある人間には相応のものを出してくれるのよ。」
最初に行った時、本当にナマクラを押し付けられかけたから性質悪いんだよな。
まぁ、俺も武器の見立てに関してはちょっとくらい自信あったから、それを見抜いて主人と意気投合したってわけよ。
今でも時々、あそこに顔を出して珍しい武器とか見せてもらっている。
「サイト。あんたの武器って確か棍だったわよね?」
「へ?うん、そうだけど?」
「それなら、ついでだからあんたの武器も新調するか、新しく購入しましょう。今の武器じゃ、いざってときに折れないとも限らないしね。」
俺がそう提案すると、サイトもそうだな、と言って了承した。
そのまま俺たちは武器屋へと足を向けた。
(サイト視点)
私は履き慣れないスカートを気にしながら、武器屋に入っていった。
そこは本当にファンタジー世界で出てくるような武器がたくさんあった。
うわ・・・これってモーニングスター?こっちはハルバートだし、マスケット銃も置いてある。
私はざっと店内を見渡していると、ルイズは気負うことなくカウンターに近づく。
そこでぼーっとしていた・・・多分この店の主人がルイズに気づいて慌てて起き上がった。
「おう!また来たのか嬢ちゃん!」
「ええ、たまたま近くに来たから寄らせてもらったわ。なにかめぼしい物は入荷したかしら?」
「悪いがさっぱりだ。アルビオンの内乱とかで武器は結構売れるが、これ!といった名品はほかの店に持っていかれちまった。」
「そう。まぁ、今日は私じゃなくて連れの武器を見立てて欲しいのよ。サイト!」
二人の会話を黙って聞いていると、ルイズが私を呼んだので私は急いでカウンターに近づく。
主人は私を頭から足の先までじっくり眺めるように見ると、主人はルイズのほうを見る。
「本当にこの嬢ちゃんの武器を見繕うのかい?」
「そうよ。彼女の得物は棍。それでなにか頑丈で使いやすいものを持ってきて。」
ルイズの言葉に主人は了承して店の奥に引っ込む。
「ルイズって、ここの主人と仲がいいんだ。」
「まぁね。私も武器に関してはちょっとうるさいから、気が合ったのよ。」
私たちがそうこう話している間に、主人が何本もの棍を両手に抱えて戻ってきた。
「これが俺のおすすめの奴だ。一本一本説明していくから、嬢ちゃんは少し振り回して合うかどうか試してくれ。」
私はそう言われて頷くと、適当に一本手にする。
ほかの奴より若干細いシンプルなデザインの棍
「うわ、これすっごい軽い!」
なにこれ?まるで羽根みたいじゃない!?
私がそれを持ち上げて驚いていると、主人が私の反応に満足そうに笑った。
「そいつはスピードを重視した奴だ。可能な限り軽くしてあんだが、強度がそんなに強くないのが難点だ。嬢ちゃんがどんな戦法で戦うかわからんからな、頭数揃えで出してきた。」
「へー」
私はそれに納得しながらヒュンヒュンと振り回す。
長さも丁度いいし、思ったより使いやすい。
私は一通り振り回して、次の棍を手にした。
「あれ?これは・・・先端のほうが重い?」
「よく気づいたな。そいつは攻撃力を重視した奴だ。見た目は普通の棍だが、先端の辺りの密度はトライアングルメイジの錬金でも作り出せねぇほどに濃くしてある。先端が重いから、そのスピードで相手に大打撃を与えることが出来るんだ。」
私はそう言われながら、その棍を振り回す。
遠心力を利用したやつね。
止めるときにちょっと私のほうが振り回されるけど、慣れたらすごい使いやすそう。
そうやって私は次々と出される棍を試してみるけど、どうもしっくりこない・・・
「それもダメなの?」
「あぁ、使いやすいんだがどうもしっくりこなくてな・・・」
私は最後の棍をカウンターに戻すと、主人はうーんと首をひねる。
「うーん、嬢ちゃんの腕は悪くないがどうしたもんか・・・」
「他にはないの?」
ルイズが聞くと、それに答えたのは以外にもデルフだった。
『それならとっておきのがあるじゃねぇか。』
その言葉に主人は盛大に顔を顰めた。
「あほか、デル公!ありゃこんな嬢ちゃんが扱える代物じゃねぇよ!!」
『んなもんやってみなけりゃわからねーだろ。実際に相棒は傍目には剣なんて振り回せねーと思っていたが、実際には凄腕の剣士だぜ?』
ルイズを引き合いに、主人に『とっておき』を出させようとするデルフに、主人はちらっとルイズを見る。
ルイズはその視線の意味が解ったのか、わずかに顔を顰めた。
確かにルイズは剣士ってイメージじゃないしね。
「・・・わかった。だが、あれを使いこなせるかどうかは嬢ちゃんの腕次第だ。」
主人はそう言うと、奥に引っ込んでいった。
「デルフ、とっておきってなんなんだ?」
私がそう聞いてみるけど、デルフは楽しみにしてろ、というだけで教えてくれない。
ルイズも知らないみたいで教えてくれなかった。
そうやってしばらく主人を待ち続けること数分。
主人はなにやら相当疲れたような表情で、なにかを引きずって現れた。
「主人・・・それ、一体なんなの?」
ルイズが恐る恐るという風に聞いてみるが、主人はただ棍だ、としか言わずやっとの様子でそれをカウンターに乗せた。
主人は棍をカウンターに乗せた後、大きく息を吐いて明らかに疲れていた。
「ぜーはー・・・こいつがこの店のとっておきの棍だ。こいつには魔法が掛かっていてな、デル公みたいに喋るわけじゃねぇけど、自分が認めた奴以外には持ち上げるのもやっとの程の重量になるんだ。」
認められりゃ、手足のように自在に使いこなせるようになるぜ。
そう言って主人はドカッと椅子に座った。
本当に重かったんだ。
私はその棍を見てみる。
柄の部分は深い青に塗られていて、その存在を主張するかのように紅い宝石が一つだけ埋め込まれている。
なんだろう、見ているとすごく惹かれる・・・
「サイト?」
隣でルイズが呼ぶけど、私はふらふらと引かれるように棍に手を伸ばす。
私の行動にルイズも主人も黙ってみる。
私は棍を手にし、意を決して持ち上げようとする。
・・・これで持ち上がらなかったら間抜けもいいところよね。
だけど、その棍は私の考えとは裏腹にいとも簡単に持ち上がった。
なんだか右手のルーンが光ったような気もするんですけど!?
「うそ・・・だろ?」
「本当に・・・持ち上がった・・・」
『だーから言ったろ?この嬢ちゃんなら使えるって!!』
いや、それは言ってないから。
私は信じられない思いで、その棍を振るう。
軽い・・・それにこんなに手に馴染むの初めてだわ。
「・・・決まりだな。主人、こいつはいくらだ!」
ルイズがなんだか男の子みたいな口調でそう言う。
ルイズってこんな口調で話す子だっけ?
私はそんなルイズに首を傾げていると、いきなり棍が勝手に震えだした。
「え?な、なんだ!?」
PON♪
私は思わずそれを落としそうになったとき、そんな軽い音と一緒に持っていたモノが暖かい毛に包まれたなにかになった。
「「「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」」」
「きゅ♪」
店内の音がすべて消えたと思った。
「えーっと・・・これって、なに?」
なんで棍が青い毛に包まれた猫ぐらいの大きさの生き物になったの?
しかも額には柄にはまっていた宝石がついているし、耳が長いからウサギ?でも体格は猫っぽくて尻尾も長いし・・・うわーん!!!!
「かわいいーーーーーーー!!!!」
私はその生き物を思いっきり抱きしめた。
私だって女の子なんだし、こういう可愛い生き物は大好きよ。
「・・・主人。」
「・・・俺だって知りませんよ。」
(ルーク視点)
サイトはいきなり棍から動物に変った動物を抱きしめて、ふわふわそうな毛に顔を埋めている。
動物のほうもそれを嫌がることなく、嬉々として受け入れて、自らも擦り寄っている。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!?
無機物から有機物になる魔法なんて俺はしらないぞ!?
俺は自分の系統を知らないから片っ端から魔法を学んでいる。
魔法に関する知識ならそこらのトライアングルにも負けないという自信もある。
だけど、こんな生物知らない。
「・・・主人。」
「・・・俺だって知りませんよ。」
「どういう経緯で、あれを入手したの?」
「いえ、気がつけば倉庫に置いてあったんですよ。メイジの方にも見てもらいましたが、魔法が掛かっていることくらいと、持ち主を自ら選ぶことくらいしか解らなくて・・・」
「害はないのよね?」
「・・・おそらく」
俺は主人と話しながら、もう一度サイトのほうを見る。
サイトは上機嫌であの小動物を撫でたり抱きしめたりを繰り返している。
小動物のほうも、サイトを気に入ったのか自分から肩に乗ったり、擦り寄ったりをしている。
サイトも、小動物もお互いを気に入ったようだ。
・・・これで引き離したりしたら、俺が悪者だな。
「いくらだ?」
「お買いに?」
「あれだけお互い気に入っているのよ?あれで買わないなんて言ったら、私が悪者よ。」
「へぇ・・・あれなら新金貨2000で結構ですよ。」
「え!?そ、そんなんでいいのか!?万を覚悟してたんだぞ!!!?」
あんな貴重価値が激しくあるようなもの、万でも安い気がする。
「嬢ちゃん、言葉言葉。いやぁ、嬢ちゃんにはいつも贔屓してもらっているし、持ち主が見つからなかった奴がようやく主を決めたんだ。その祝いがわりだ。」
主人はそう言って悪戯が成功したように笑った。
『親父、おまえも丸くなったねぇ・・・』
「おう。武器もわからねぇ貴族様は嫌いだが、嬢ちゃんなら別だ。」
デルフと主人のそんな掛け合いに、俺は思わず笑った。
「買った!」
俺は小切手にサインして、店をあとにした。
「えへへ、名前なんにしようかな?」
「きゅー♪」
「そうね・・・エー○ィなんてどうかしら?」
「ルイズ・・・それはジャンルが違うからちょっと・・・」
「それならル○ー・カー○ンクル。」
「それもまずいから!!」
「?・・・それならコウは?」
「コウ?」
「そいつの体毛はサファイアみたいだけど、額の石はルビーみたいでしょ?サファイアもルビーも同じ鋼玉なんだ。だからコウ。」
「へぇ。うん、いいね。わかりやすいしな。よし、今日からお前の名前はコウな!」
「きゅ!」
「気に入ったみたいね。」
一方、忘れかけられているキュルケは・・・
「ちょっと!ルイズもダーリンもどこに行ったのよ!?」
「・・・武器屋」
かーなーりー出遅れて武器屋に到着。
それでもすでにコウを買って、だいぶしてからである。