D.Gray-man~逆十字の使徒~
『龍樹コンバート・黒の侍との出会い』
満月が輝く夜静寂に満ている筈の森の上空で、先ほどから爆発音や打撃音がひっきりなしに聞こえてくる。
その森の上空では、無数の異形の者たちが少し離れたところを高速で移動している異形の1人を追っていた。
って、なんかナレーター風に言ってるけど、異形の1人ってのは俺のこと。
運が悪いことに、いちゃもんつけにきたアクマが大量に襲い掛かってきたんだよ。
チクショー!あいつらのせいでまたギターが壊されちまった!!
・・・そういう訳で、ただ今俺はコンバートして逃げ回っているんだよ。
俺だってアクマなんだし、コンバートすりゃ見かけは化け物だ。
コンバートした俺の姿は、背丈は人間形態時の時とほとんど変わらない。
けど、耳は鋭く尖り、黒の瞳も爬虫類の様な金の瞳。
黄色人種を思わせる肌は、漆黒の硬いウロコにびっしり覆われている。
歯も獣の牙のようになっている。
背中には一対の黒い大きな翼がある。
ここまで見れば、俺の姿はまるで黒い竜人だけど、俺の翼は皮翼なんかじゃなく、カラスの様な鳥の翼だ。
まるで神に落とされ、異形に変えられた堕天使のような・・・
そして声帯部にある逆十字は、黒い皮膚に色を落とすかのように白に染まっている。
人間形態の時は真っ黒いのにな。
俺はいつまでも逃げているのに埒が明かなくて、仕方なく空中で止まりアクマたちを振り返る。
「お?ついに観念したか?」
先頭にいたアクマが、下品に笑いながら言った。
俺はそれが不愉快で眉根を寄せる。
「・・・あぁ、このまま逃げていても仕方ないからな。」
おまえ等に付き合ってたら、まともに旅が出来なくなる。
俺は自分でもそうとう冷たい眼でこいつらを睨みつけているのを自覚している。
アクマたちはそんな俺の睨みにまるで気づかず、俺に攻撃しようとするが、甘い。
あいつらの攻撃よりも速く、俺の能力が発動する。
『堕天使の悲鳴』
ひぃぃあああああああああああああああああああああ!!!!!!
俺の叫びが辺り一面に響き渡る。
俺の声を聞いたアクマたちが、なにかに縛られているかのように動けなくなる。
これが俺の能力『堕天使の悲鳴』
特殊な音波を悲鳴のような形で出すことで、聞いた者の動きを制限させる。
耳をふさいでも、少しでも入ってしまえば術中に落ちてしまう。
今俺の目の前にいるアクマ程度だったら、完全に動きを封じることができる。
その気になれば、生命活動も止めることができるけどそれはしたくない。
俺はエクソシストじゃないからな。
イノセンス以外でアクマを破壊してしまえば、内蔵されている魂ごと消滅しちまうらしい。
俺には、内蔵されてる魂はないけど、消滅なんていやだ。
だから、俺はこいつらを破壊しない。
俺は完全に動けなくなっているアクマたちを見やると、くるりと背を向けてどこかへ飛び立とうとした。
けれど、ここで思わぬ邪魔者が入ってしまった。
森の木々であまりよく見えないけど、なにかが下から向かってくる・・・
まるで・・・無数の蟲のようなものが・・・
俺は嫌な予感がしてそれを避けると、その蟲のようなものは俺によって動きが封じられているアクマに直撃。そして、断末魔と一緒に数体のアクマが消滅した。
「こんなところでもエクソシストかよ!!」
俺は次々と来る攻撃を避けながら、エクソシストの場所を特定しようとするが、如何せん、こんな深い森じゃ相手を見つけるのは困難だ。
俺はタイミングを見計らって、攻撃が来るところより別の場所に着地してボディをコンバートする。
急いでこの場を離れないと俺も破壊されちまう。
俺は走り出そうと足を踏み出そうとしたが、目の前に長い黒髪をポニーテールにしている、黒い刀を構えた男のエクソシストがいた。
「・・・あっちゃ~・・・」
こりゃ俺の命運も尽きたかな?
俺は乾いた笑顔を浮かべながら、内心そんなことを考えていた。
こんなところでまだ破壊されたくないけど、俺はこの場を切り抜ける方法が思いつかない。
堕天使の悲鳴を使おうにも、俺が能力を発動するまえに目の前のエクソシストの黒い刀で切り裂かれちまうな。
俺の防御力がどのくらいなのか、自分でも解らないからイノセンスで攻撃されて耐え切れる自身は全くないし。
俺とエクソシストはじりじりと間合いを取る。
俺が一歩引くと、エクソシストは一歩前に出る。
それを繰り返していると、俺の背が木に当たったのが解った。
「!?しまっ・・・」
「ここまでだな・・・六幻!」
エクソシストの黒い刃が俺の眼前に迫った。
俺は観念して目を閉じる。
そして来るであろう衝撃を待っているのに、何時までたってもそれが来ない。
なぜ?
俺は恐る恐る目を開けると、本当に俺の目の前に黒い刃の切っ先が見えた。
どうやら寸止めしてくれたようだけど、これがただの俺の恐怖を煽るだけの時間稼ぎならすっげー悪趣味だぞ、こいつ。
「どうした?止めを刺さないのか?
俺はエクソシストを睨みながら言った。
破壊するならさっさとしてくれ。
俺は何も言わないエクソシストにいい加減キレそうになっていると、エクソシストが不意に口を開いた。
「・・・おまえ・・・サポーターなのか?」
「へ?」
俺は一瞬なにを言われたのか解らず、変な声を上げてしまったがすぐに思い至った。
いつの間にか首のチョーカーが外れていて、黒い逆十字が顕になっていたのだ。
なるほど、こいつはこの十字を見てサポーターだって思ったのか。
なんかラビの時と同じ展開になってるな。だったらこの起死回生のチャンスを利用してやるよ!
「そうです!最近入った黒の教団のサポーターで、龍樹といいます。あなたは黒の教団のエクソシストですか?だったら、その刀を納めてください。アクマと勘違いされて殺されるなんて真っ平ですよ。」
自分でもよく口が回るなぁ、と半ば感心しながらもエクソシストから目線を外さない。
ここで目でも逸らそうものなら、すぐにでも斬られそうな雰囲気だしな。
そうやってしばらく俺とエクソシストの間に沈黙が続いたが、先にその沈黙を破ったのはエクソシストの方からだった。
「・・・なぜこんなところにいたんだ?」
・・・あははは、やっぱりこんな深い森に1人でいたら怪しいかぁ~
「・・・ちょっとした旅の途中ですよ。クロス・マリアン神父の行方を追ってましてね。」
俺は咄嗟に旅をしている間に聞いた黒の教団の元帥の名前を出した。
なんでも、本部を嫌って全然近寄らず、雲隠れをしているとんでもないエクソシストだって・・・
俺たちアクマの間じゃ、結構有名な話なんだよな~
エクソシストは俺の説明に納得してくれたのか、してくれなかったのかよく解らない表情をする。
なんか少しばかり苦虫を噛み潰したような顔をしているってことは、少しばかりクロス元帥に思うところがあるみたいだ。
やがて、エクソシストは俺の目の前から刀を引いてくれた。
どうやら納得してくれたみたいだ。
よかった。これで少しは生き延びれる可能性が見えてきたよ。
「俺はおまえを信用したわけじゃない。妙な真似をしてみろ。すぐにでも切り裂くからな。」
・・・完全に信用されたわけじゃないんだな。当たり前だけど。
エクソシストは無線ゴーレムを取り出して、誰かと連絡をつける。
やばい・・・本部と連絡して俺の素性を確かめる気だ・・・
俺はあたりを軽く見渡して、逃げ道を探すがこのエクソシスト全然隙がねぇ!!
やがて無線ゴーレムから若い男の声が聞こえてきた。
『もしもし?どうしたんだい神田?』
へぇ、こいつの名前神田っていうんだ。日本人かな?
俺は半ば現実逃避した思考の中、そんなどうでもいいことを考えてしまう。
そんな俺の様子を気にした風でもなく、神田と若い男の会話は続く。
「おいコムイ。サポーターの中に龍樹という奴はいるか?東洋人のような奴だ。」
『龍樹?それってこの間ラビに調査を頼んだ子だよ。なに?もしかして目の前にいるのかい?』
「あぁ、今、俺の、目の前に、いるぜ。」
神田は区切りながらはっきり言った。
そして、黒い刀が俺に向かって振り下ろそうとされていた。
俺は反射的に横に飛びのき、その刃をかわす。
神田が俺をものすごい形相で睨んでくる。
「おまえ・・・一体何者だ?」
あははは・・・ここで適当なこと言ったら、絶対有無を言わさず斬られる。
俺は本能的にそう悟ってしまい。正直に口を開いた。
「伯爵により作られたアクマだよ。俺たちの敵で救済者のエクソシストさん。」
それが開戦の合図だったのかもしれない。
神田の刀が再び俺に迫ってくる。
しかも次は連続で切りかかってくる。
俺はその斬撃を紙一重で避けていく。
俺の能力は確かにそこらのアクマに比べて発動するまでの時間は短い。
けど、神田の攻撃はそれよりも速い!
俺は必死に避けていく中、『堕天使の悲鳴』の使いどころを考える。
一瞬でも気を抜いたらお終いだ!!
「!!?」
そのとき、神田は木の幹に足を取られたのか、バランスを崩した。
ここだ!!
ひぃぃあああああああああああああああああああああ!!!!!!
俺の能力が森中に響き渡る。
「がっ・・・か、体が・・・」
神田は必死になって呪縛から逃れようともがくが、指一本動かせていない。
「無駄だよ。俺の呪縛から逃れる奴なんざ、元帥クラスでもないとそう簡単にはいかない。」
「くっ俺を殺すのか?」
「まさか!俺はアクマだけど殺しは嫌いなんでね。このまま放置させてもらうよ。それとコムイっつったか?」
俺は未だつながった状態の無線ゴーレムを見る。
「頼むから俺を放っといてくれ。俺はただ旅がしたいだけなんだ。」
世界を見て回りたい。本当にこれだけが俺の願いなんだ。
『・・・君は変わったアクマだね。』
「よく言われるよ。失敗作だしな。」
『失敗作?』
「たまにいるんだよ。呼び戻そうとした魂が戻らず、最初から自我を持っている奴がな・・・」
『それは興味深いね。』
「いっとくけど、俺はあんたらのモルモットになるのはごめんだぜ。今まで遠慮してたけど、今後監視をつけるような真似をしたら容赦なく返り討ちにさせてもらう。」
俺はそれだけ言って、ボディをコンバートするとその場から飛び去った。
あとに残されたのは動けない神田と無線ゴーレムだけである。
<神田視点>
俺は飛び去っていった龍樹の背中をただ見ることしかできなかった。
「ちくしょう・・・」
『彼・・・本当に変わったアクマだね。』
「知るか!!アクマはアクマだ!!!」
俺はコムイにそう怒鳴ると、無線ゴーレムの向こうでコムイは深いため息を吐いたのが、俺にも解った。
『考えてもごらんよ。彼は調査するファインダーを『殺す』じゃなくて、『返り討ち』にするって言ったんだよ?つまり、彼は人間を殺すつもりはないって言ってるんだ。』
・・・確かに考えればそうだが・・・
「それでも信用できねぇ・・・」
『ま、とりあえず早く本部に戻っておいでよ。それじゃ。』
そこでコムイとの通信が終わった。
しかし・・・
「いつになったら・・・動けるようになるんだ。」
俺の呟きは誰もいない森の中、秋の木枯らしの中に虚しく消えていった。