.hack//hydrangea
『壊れた歯車』
花見騒動からしばらく。
俺は二日酔いのためホームから出られなかったけど、管理者権限を使ったバルムンクやアルビレオが見舞いに来てくれて、一応シューゴたちの近況は把握している。
なにやらいろいろと騒動を巻き起こしながらも、楽しくやってるみたいだ。
それに仲間もそれなりに増えてるみたいで安心したな。
ただ・・・まだ腕輪の危険性についてははっきり認識できてねーみたいだ。
あんだけ危ない目にあっておきながら、危険性を認識できないのは問題だな。
俺から一度はっきり言っておいたほうがいいかな?
俺はホームに設置してあるベッドから起き上がる。
なんとか二日酔いも治ったし、しばらくぶりに出るか。
俺はアイテムの確認などをして、ホームから出た。
まずは、シューゴたちを探すかな?
俺はぶらぶらとタウンを歩き回る。
俺が引きこもる前とあんまり変らない。
知っているPCもいれば、初めて見るPCもいる。
俺はそのなかで、目的のPCを探す。
けど、なかなか見つからないな。
しばらく俺はタウン内を捜索する。
別に今日中に探さなきゃならないってわけじゃないけど、早めに教えなきゃならない。
「強すぎる力は『破壊』にも『救い』にもなる・・・か。」
まさにあの腕輪は言葉通りの代物だ。
平和な『世界』には必要のない代物だけど、『世界』に黄昏が迫っているならこれほど必要とする諸刃の剣はない。
まだなにも知らない勇者候補たちに、そのことを教えないと無邪気に世界が壊される。
俺はカオス・ゲートの前に来ると、別のタウンに飛ぶ。
考えたら、考えるだけ焦りの心が湧き出てくる。
『世界』を壊されたら、俺は『居場所』を失ってしまうから。
「み・・・見つからない・・・」
あれからどのくらい経ったのか、俺はとうとうシューゴたちを見つけることが出来なかった。
かわりに見つけたのは・・・
「だいじょーぶ、明日には見つかるよ♪」
『死の恐怖』の二つ名を持つ双剣士を見つけちゃいました。
「んなこと言ったって、楚良だってあの腕輪の危険性は知ってるだろ?」
俺たちは適当なエリアに来て、シューゴたちを探すが全部空振り。
メンバーアドレスを交換すれば、メールで呼び出しだのなんだのが出来るんだが・・・諸事情によりそれは出来ない。
結構不便だな・・・
「あー・・・バルムンクや三十朗辺りが接触して話していればいいんだけどな~・・・」
「無理じゃないの?あういう熱血タイプって、自分で思い込んだら一直線!って感じじゃん。」
俺が頭を抱えていたら、楚良がなにやら実感篭った声で言う。
「やけに説得力あるのは気のせいか?」
「クリムみたいな大人の熱血タイプならともかく、子供の熱血タイプはそういうもんでしょ。」
「あーなるほど。」
それは説得力あるな。
幸いにしてシューゴは子供の熱血タイプだけど、最近のひねくれたガキじゃなくって、素直さがあるから間違いには早めに気づきやすい。
ひねくれたガキで思い出した・・・シューゴたちに会う前に指導したあいつら本当に生意気だったな。
明らかに人を小馬鹿にしやがって・・・しかもそれがロールじゃなく、素だから余計に性質が悪い!
ああ、思い出したらムカムカしてきたな。
俺は苛立ち紛れに近くの魔方陣に歩み寄る。
こういうときは、モンスターで憂さを晴らすのが一番だ!
後ろで楚良の声が聞こえるけど、今は無視だ!
そうして、俺は一番近くの魔方陣に近づくと中からモンスターが出てきた。
ここはそんなにレベルの高いエリアじゃないけど、俺の八つ当たりに協力してもらうぜ!
俺は双剣を構えて、そのモンスターと戦おうとして、違和感に気づいた。
目の前のモンスターは一見、超鎧将軍に見えるけど腕が違う。
武器が違う。ところどころの装飾も違う。・・・こいつ、改造モンスター!?
俺はそのモンスターの異様さに驚いている間に、そいつの武器が振り下ろされる。
やばい!やられる!?
「くっいろんなモンスターを組み合わせてる・・・運が悪いな~」
俺が咄嗟に防御の体制をとっていると、俺とモンスターの間に楚良が割って入って、そいつの攻撃を受け止めた。
「楚良!?」
「こいつ、例の改造モンスターだよね?腕輪もないし、どうするの?」
「そんなの・・・ぶっ潰すに決まってるだろ!!」
俺は楚良が受け止めている武器を、双剣で弾くとモンスターと距離を取った。
そしてスノーフーレクを構えて、ハイドランジアの黒いローブを纏って、俺はモンスターを睨みつける。
「我の機嫌が悪いときに現われたのが運の尽き・・・この『世界』の平穏を崩す異形よ、我が刃の前に眠るがいい!」
俺は地を蹴って、モンスターの足を切り裂く。
それによりバランスを崩したモンスターは倒れた。
「ヒュー!さっすが『闇の紫陽花』!つえー」
「気を抜くな。これが改造モンスターならば、すぐに再生される。」
楚良が茶化して言うが、俺はモンスターから目を離さない。
あいつをぶっ潰すって言ったが、勝算なんて無いに等しい。
データドレインしようにも、そういったスキルも道具もない。
ここに運よくシューゴたちが現われるなんて都合のいいことなんてあるはずないんだ。
俺は奥歯をかみ締めて、徐々に再生されいていくモンスターを睨みつける。
こいつになにかしら決定打を与えないことには、こちらに勝算はない!
それからしばらく、俺&楚良VS改造モンスターの攻防が続いた。
どれくらいそうしたのか、こいつは一向に倒れない。
やっぱり、データドレインは必需品か!?
こいつを倒した後にでも、ヘルバかアルビレオにつけてもらおうかな~?
俺は意識が遠くに飛びそうになりながらも、必死に動き続ける。
楚良のほうも精神的に疲弊してきてるみたいで、動きが落ちていってる。
だー!どうすりゃいいんだ!?
俺はバックステップでモンスターの攻撃を避けるが、その際に足をくじいてしまった。
「っ!しまった。」
俺は痛む足を押さえながら、紙一重で攻撃を避けるがそう長くも続きそうにない。
楚良も楚良で、俺を助ける余裕なんてないのは見ていてわかる。
俺の目前にモンスターの攻撃が迫ってくる。
「・・・ここまでか・・・」
俺は観念して目を瞑って攻撃に備える。
しかし瞼の下からでもわかるほどの強烈な光が、俺の目に届いた。
俺がおそるおそる目を開けると、そこにいたのはデータドレインの光に包まれているモンスター。
「もしかして・・・シューゴ!?」
俺はデータドレインを使ったシューゴがいると思って、あたりをきょろきょろ見渡すが見つからない。
かわりに、もっとも意外なものを見つけた。
それはまるで石の人形。
例の赤い杖は持っていないが、間違いなくあいつの腕から伸びている光はデータドレインの光り。
嘘だろ?だってあいつはカイトが、倒したはずだ。
「なんでこんなとこにいるんだよ、スケィス!」
俺たちを助けたのは、間違いなく死の恐怖・スケィスだった。
あのあと、スケィスはモンスターをデータドレインしたあと、どこかに消え去っていった。
なにも喋らず、なにも示さず。
「なんでスケィスが俺たちを助けてくれたんだ?」
俺はフードを脱いで、スケィスが消え去った方向を呆然と見つめた。
「・・・よかった。」
そのとき、楚良がそう呟いたのが俺の耳に届いた。
「楚良?」
「あいつ・・・ちゃんと本来の役目に戻れたんだ・・・」
そう呟く楚良の顔は自分のことのように嬉しそうに笑っていた。
「って待て、なにがなにやら説明してくれ。」
自分の中だけで納得するな。
俺が説明を求めると、楚良はめんどくさそうに話してくれた。
纏めるとこんな感じだ。
●楚良はスケィスの杖に閉じ込められていた間、ずっとスケィスの声が聞こえていた。
●スケィスを含む八相は、もともと正常な頃のモルガナに造られたアウラや『世界』を護る防御システム。
●モルガナの暴走により、八相たちも歪められて本来の役割からはずれてしまった。
●楚良が杖に閉じ込められていた間、スケィスのそういった苦しみの声が聞こえていた。
●だから本来の役目に戻れたスケィスを見れて嬉しい。
・・・こんな感じか。
そりゃまぁ、確かに母としては子供を護るなにかを残そうとするのは、自然なことだ。
その護る術で子供を殺そうとするなんて、なんとも皮肉なものだ。
まさか八相にそんな秘密があるなんて思いもしなかったしな。
それにしても、あいつが来てくれなかったら俺たちは改造モンスターにやられていたんだよな。
「本当に人生ってどこでどうなるかわかったもんじゃないな。」
俺の呟きは誰に聞かれることなく空気に消えていった。
そのとき、俺たちは気づかなかった。
隅の方で、俺たちのことをじっと見ている人影に・・・
とりあえず一言。
『昨日の敵は今日の友』
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『桜前線』
どうもー!ハイドくんでーす!!
いやぁ、最近はゲームの中でも季節が解るようになってきました。
最初なんて、ただ時間が流れていくだけだったからな。
年間行事のクエストとか出来たときは、やっぱ俺って日本人だなぁとしみじみ思ったもんだよ。
そんな俺ですが、現在『Δ 桜舞う 並木の 憩い』に来ておりやす。
バルムンクから花見イベントの話を聞いて、これは是非とも参加しなきゃならんでしょう!
そうやって、俺は取って置きの日本酒のデータと漆塗りの器を持って参加中!
酒はバルムンクのお手製もの!つまみは満開の桜!
まさに完璧だ!
俺はそうして、酒に舌鼓を打ちながら桜を楽しむのであった。
(バルムンク視点)
今日は私が企画したお花見イベントの開催だ。
満開の桜のエリアでプレイヤーたちが桜を見ながら談笑する。
ふっ我ながら素晴らしい企画だ。
それにこのエリアにはちょっとした仕掛けも施してあるからな。
私はそうして桜を見ているプレイヤーたちの間を歩きながら、少し小高い丘になっている桜の木の下に見覚えのあるプレイヤーを見つけた。
「ハイド。」
私が声を掛ければハイドはこちらに顔を向けた。
手に持っているのは以前、仕事の報酬に渡した酒のデータと器。
「よお、バルムンク。今回の企画はなかなかじゃないか。」
ハイドは上機嫌にそう言う。
私もハイドの隣に座りながら、予め作っておいた酒のデータを呼び出す。
やはり酒なくしてなにが花見か。
「お!バルちゃんもいっぱいやるつもりだったのか!!」
「まぁな。こっちも飲むか?」
私が薦めると、ハイドは目をキラキラさせて頷く。
食の楽しみのないゲーム内では、これが一番のこいつの楽しみか。
「うっわー!これって大吟醸じゃん。前に貰ったのはブランデーだったし、やっぱバルムンクって酒のデータ作るのうまいな。」
ハイドはそう言って、美味そうに酒を煽る。
私にはゲーム内で味覚はないが、なんだかデータのはずである酒がこいつと飲むと美味く感じられる。
私とハイドで二人で酒を舌鼓していると、うるさいのが来た。
「バルムンクさん!ちゃんと仕事してください!!」
私の補佐をしている呪文使いレキ。
有能で信頼できるが、こういうところはうるさい。
「あーあー・・・お酒のデータまで作って・・・実際に酔えるわけじゃないのに。」
呆れたように言うレキ。
「なにを言う!酒なくしてなにが花見か!!」
「そうだそうだ!」
私とハイドが力説するが、レキは呆れるだけだ。
「ほら!おまえも飲んでみろよ!!」
「え!?あ、ちょっと!!」
ハイドがレキの態度にキレたのか、酒を強引にレキの口の中に流し込む。
それからしばらく沈黙して・・・
「・・・美味い。」
レキは呆然とした感じに呟く。
やはりハイドの近くにいると、味覚がリアルと同じように感じる。
私の気のせいじゃなかったのか。
「なんで・・・ここはゲームの中なのに、酒の芳醇な香りと味が解るんだ?一体どうなっている?僕は別にリアルでお酒なんて飲んでないのに・・・」
レキはこの事実をにわか信じられないみたいで、その場に蹲ってぶつぶつ言ってる。
ん?私は驚かないのか?だと。
やはり4年前にあのような事件を体験した者の一人としては、この程度のことで驚いていては心身ともに疲れるだけだ。
先輩のアルビレオなぞ、先日ハイドと宴会して精神的二日酔いになってたしな。
(主人公視点)
俺は酒を飲んで蹲っているレキを見ながら、内心やっぱりと思っていた。
どうも俺の近くでなにか飲んだり食べたりすると、そのプレイヤーも同じように感じるみたいだ。
だったら痛覚とか嗅覚はどうなんだ?なんて話しになるとこっちは別。
とくに普段と変らない。
前にアルビレオと宴会やった次の日、アルビレオは青い顔してたからな。
なんでも精神的な二日酔いらしい。
俺はこのことを知って、たまたまログインしてきた知り合いに片っ端から酒やら食い物を一緒に食わせて、みんな同じ反応を示している。
まぁ、ドットハッカーズのメンバーはこの程度では驚かないほどの、度胸を身につけているからすんなり納得してた。
ちなみに腹も膨れないけど、ブラックローズあたりはいいダイエットになるって言って、俺に食い物ねだりに来ることあるんだよな。
味覚を感じることで、満腹感を得られるから思いっきり食べても太らない。
ただ・・・これは俺の食の楽しみなの!おまえらのダイエット用品じゃないんだ!!
おかげでどんどんストックしていたデータがなくなっていく・・・
近いうちにアルバイトしないとな・・・(T_T)
俺はそう思いながら、辺りを見渡すと見覚えのある姿を発見!
「バルムンク!俺、ちょっと別のところにいくわ!!」
俺はそう言いながら、丘を駆け下りていった。
後ろのほうでは、バルムンクが俺を呼び止める声が聞こえるけど無視!
俺は双子ちゃんのところに一直線に駆け寄るのであった。
「シューゴ!レナ!」
「「ハイド(さん)!!」」
俺は二人のところに駆け寄る。
二人も御座を広げて花見モードだったけど、俺に気づいてこっちに駆け寄ってきた。
その後ろには・・・犬?
「ハイドも来てたのか。」
「当然!俺がこういったイベントを見逃すと思っていたのか?」
俺はとりあえず犬?に関しては突っ込まず、胸を張ってそう言うと二人は楽しそうに笑っている。
俺はそれを見ながらも、犬を何気なく観察する。
本当にどっかで見たことのある犬なんだよな・・・って、こいつ人狼族じゃねぇか!?
最近出来た隠し職業で、俺も何人か見たことあるが、銀狼ははじめて見た。
俺が知ってる狼形態は黒とか茶色とかだからな。
「シューゴ、その人は知り合いか?」
俺がそう聞くが、シューゴは俺の質問がわからないのか首をかしげている。
レナちゃんも同じように首をかしげている。
ちょっと待て・・・おまえら、そのPCがプレイヤーだとわからずに一緒にいるのか?
いくら隠し職業でも、こんないないはずの犬がいたら気づくだろ?
それにレナちゃんもセカンドPCのはずで、この『世界』は長いと思うんだけどな・・・
知らないなら、それはそれでいいけどね。
俺はシューゴとレナになんでもないと言うと、視界に大きな木桜の木が見えた。
他の木に比べると、その大きさは3倍はありそうなサイズだ。
ただ・・・その木には華が咲いていない。
「なんだ、あれ?」
「え?・・・うわっあれ桜がついてないじゃん!!?」
シューゴも気づいたみたいで、驚いた声を上げている。
桜の華が満開のこのエリアで、あの木の存在はかなり浮く。
もしあれに華がついているのなら、さぞや美しいだろうに・・・もったいない。
俺は様子を見ようと、その木のふもとまで行く。
当然のように、シューゴ、レナ、人狼族もついてくる。
「本当に華が一つもついてないな・・・」
俺たちは桜の木の下について、見上げる。
だけど蕾一つついてない。
真冬の桜の木と同じだ。
「これって・・・バグなのかな?」
「それはない。」
レナちゃんの言葉に、俺は即効で否定した。
「なんでだよ?だって、他の桜は全部咲いてるのにこいつだけ咲いてないなんて、おかしいだろう?」
シューゴはそう首を傾げて問いかけてくるが、俺には根拠がある。
絶対的な根拠が!
なんせ・・・この企画をしたのはバルムンクだ!
あいつが『ただの』花見の席を用意するのはおかしい!
絶対になにか仕掛けがあるだろうと俺は睨んでいたが、こうもあからさまなものを用意するとは思わなかった。
精々、桜の木の下には死体が埋まってるなんて発想で、誰が掘り起こすもわからないアンデッド系モンスターを用意しているだけだと思っていたのに・・・やるな、バルムンク。
「これは隠しイベントだ。恐らく、この桜の木の花を咲かせればレアアイテムが手に入る謎解き系のもの。」
「隠しイベント!?なんでハイドがそんな事知ってんだ!?」
「別に知ってたんじゃなく、この花見を企画した奴がイベントも用意しないというのはおかしいと思ったからだ。案の定、こんなあからさまなものを用意してたってわけ。」
俺の説明にみんな納得する。
ついでに、俺たちと同じように桜の木の下に集まっていた他のプレイヤーもしきりに感心してる。
「問題は・・・どうやって華を咲かすかだ。」
近くに告知の看板も、ヒントらしきモノもない。
まったくのノーヒントでやらなきゃならないんだ。
ま!所詮、バルちゃんが考えたイベント。
俺にはその思考を簡単にトレースできる!
「よし、掘るか!」
パネルを操作して、あるアイテムを呼び出す。
そのアイテムは・・・
「す、スコップ?」
そうスコップ!
工事現場とかにある巨大スコップが俺の手にある。
そして!
「おラオラオらおらおらおらおらおらおら!!」
ざくざくざくざくざくざくざくざく!!
俺は猛スピードで桜の木の下を掘る。
「な、なんだなんだ!?」
シューゴが俺の行動に驚いている。
ふっ君もまだまだ甘いな。
「桜の木の下には死体が埋まってる。その要領で、桜の下になにかしらのヒントが埋まってるはずだ。ほら、おまえらも掘れ!」
俺が促すと、あちこちでざくざくと土を掘る音が聞こえる。
人狼族のPCも手伝ってくれてる。
さーて、誰が最初に見つけるかな?
(シューゴ視点)
ハイドって頭いいんだな。
ハイドに促されて桜の下を掘り始めて数分。
俺はそう思いながら、また掘る。
それにしても、今日のハイドのテンションなんかおかしいぞ?
いつも明るい奴だと思っていたが、まるで酔っ払っているみたいだ。
・・・まさか、リアルで酒を飲んでんのか?あいつ。
俺は横目ですごい勢いで掘るハイドを見る。
かなり深く掘っているみたいで、あいつの姿が見えない。
おいおい・・・どこまで掘る気だよ・・・
ガキンッ
「あれ?」
俺がスコップ代わりにしていた剣から、硬質な音が聞こえてきた。
なんかヒントが出てきたのか?
俺はそれを掘り出そうとして・・・固まった。
・・・だって・・・だって・・・そこにいたのは骸骨だったからだ!
「うわー!ほねーーーーー!!!!?」
俺は思わず絶叫を上げて、その場から飛び退った。
いくらなんでも、マジでこんなもん埋めんなよなー!!
『HONE』
「へ?」
気のせいか、骸骨が喋った。
ギラーンッ
「ひっ」
骸骨の目が光って、俺を見てる。
それと同時にバトルモードオンの音声案内。
俺の本能が告げてる。
これはやばい。
『HONEEEEEEEE!!』
「うぎゃあーーー!!」
こうして・・・俺と骸骨・スケルトンの追いかけっこが始まった。
(レナ視点)
「お兄ちゃん!?」
私がハイドさんやお兄ちゃんにならって穴を掘ってると、いきなりお兄ちゃんがスケルトンに追い掛け回されていた。
うそ!?なんでこんなところにモンスターが出てるのよ!!?
スケルトンは中級者なら問題なく倒せるモンスターだけど、今の私やお兄ちゃんじゃ勝てない。
私はハイドさんに助けを呼ぼうと思って姿を探すけど・・・いない!?
「あれ?ハイドさん、どこに行っちゃったの!?」
私は慌ててハイドさんを探すけど、どこにも見つからない。
こうしている間も、お兄ちゃんはスケルトンに追いかけられているし・・・あーもー!どうしろっていうのよ!!?
私がいろいろと考えている間に、お兄ちゃんはスケルトンにどんどん追い詰められている。
「お兄ちゃん!」
(シューゴ視点)
俺はスケルトンに追いかけられて、いろいろ逃げ回っているうちに、追い詰められた。
後ろには、例の華の付いていない巨大な桜の木。
前方には武器を構えてにたにた笑っているスケルトン。
うわー・・・今日は妹と一緒に楽しい花見祭りだったはずなのに、なんでこうなったのかな~?
俺はいろいろと混乱しながらも、覚悟を決めて目を閉じてたら、予想していたことが起きない。
戦闘不能の告知も出てこないし、ダメージを受けた音も聞こえない。
俺が恐る恐る目を開けると、俺やハイドとも違う青年タイプの双剣士が目の前に立っていた。
「あーあ!こんなの俺の役じゃないのににゃー・・・」
(楚良視点)
いつもPKする立場な自分が、PCを助けるなんてらしくない。
これもみんな、あの放浪AIもどきや他のみんなと関わってからだ。
俺は苛立ちながらも、スケルトンを睨みつける。
俺が吹っ飛ばしたスケルトンは、食らったはずのダメージを徐々に回復させてる。
・・・おかしい。
俺のレベルなら、スケルトンくらい一発で倒せるはずなのに、こいつは消滅しない。
くそっウワサの改造モンスターか。
俺はスケルトンの攻撃をさばきながら、考えを巡らせる。
強さは通常のスケルトンを強化した程度。
だけど、改造されたせいでHPは無限に近い。
あー!こんな役はクリムやバルムンクの役なのにー!!
そのとき、俺の横からいくつもの光が伸びてきた。
(主人公視点)
俺はまだ穴を掘っていた。
ここははずれなのかな?
俺はそう思って穴から這い出そうとしたとき、上のほうが騒がしいのに気づいた。
あり?誰かが引き当てたのかな?
俺は出遅れた感が拭えずに穴から這い出すと、俺の額に光の筋が伸びてきた。
あれ・・・なんだよ・・・これ・・・
そこで俺の意識は暗転した。
(シューゴ視点)
俺はとっさに腕輪の力を発動させて、モンスターを弱体化させようとしたけど、なぜかモンスターに光が届かず、まわりのPCに光が伸びていった。
レナやいつの間にか来ていたミレイユ、それにあと一つ俺からは見えない場所に伸びていってる。
「・・・って、なんだよこれ!?」
俺は訳がわからなくて叫んでいると、俺を助けてくれた双剣士は信じられないような目で、腕輪を凝視している。
「うっそー!こんなときに失敗なんてついてなーい!」
え?これ失敗?失敗なのか!?
俺は助けを求めるように双剣士を見るけど、そいつは肩を竦めただけで身軽な様子で近くの桜の木の上に退避する。
「その腕輪ー、失敗するとまわりのPC巻き込んでステータス異常になるから気をつけてねー!」
そんな言葉を残して、その双剣士はばびょん!とか意味不明な掛け声とともに去っていった・・・
「って、この状態でどうしろっていうんだー!!」
俺の叫びと共にスケルトンが再び襲い掛かってきて、俺は慌てて避けながらレナのところに行く。
とりあえず、ここから離れないと。
「レナ!とりあえず逃げる・・・ぞ?」
俺はレナの手を引っ張って逃げようとするが、レナの様子がおかしい。
目をうるうるさせて、顔を紅くして俺を見つめてる。
それで・・・
「お兄ちゃん・・・だーい好きv」
などと言って抱きついてきたー!
「うぉい!?どうしたんだ、レナ!?」
「お兄ちゃん、大好き・・・」
俺はレナを引き離そうとしたけど、双剣士の俺より力のある重剣士のレナに勝てるわけなく、はがすことが出来ない。
これが・・・これがさっきの双剣士の兄ちゃんが言ってたステータス異常なのか!?
『HONEEEEEE!!』
「うわ、やばい!!」
俺は迫ってきたモンスターから逃げるためにレナを抱えたまま逃げる。
「レベルも低いし、こんな状態じゃ戦えない!ハイドの奴はどこいったんだー!?」
ざくっ!
俺の悲鳴のような言葉とともに、モンスターが誰かに攻撃された。
『HONEEEEEEE!?』
モンスターは、なぜかそのまま消滅した。
今まであの双剣士の兄ちゃんが何度攻撃しても倒せなかったのに・・・
俺はモンスターを攻撃した奴を探そうと視線をめぐらせると、すぐに見つかった。
真っ黒いローブに、白い大鎌を持ったPC。
一度だけ見たことある。
最初の冒険のときに、レナをお姫様抱っこしてた奴だ・・・!!
「てめぇは・・・レナに手を出した・・・!?」
俺があの時のことを言おうとしたとき、俺の目の前にいきなり大鎌の切っ先が刺さっていた。
「あっれー?はずれちゃった?ま、いいか。次ははずさないよー♪」
そいつはくすくす笑うとゆっくり大鎌を振り上げる。
なんか、前に会ったときと口調も雰囲気も違うぞ!?
「うそ!?あれって『闇の紫陽花』!?このゲーム最古参のプレイヤーだよ!?」
ミレイユがそんなことを言ってるけど、考えてる暇がねー!!
俺はレナを抱えて逃げ出す。
なんで俺があんなのに狙われなきゃいけねーんだ!!!?
そうやって何度なく快速のタリスマンも使って逃げ回っている俺らに、あいつはしごくゆっくりとした調子で迫ってくる。
なんつーか、死神に追われてる気分だぞ!?
「くすくすくすくす・・・どこに行ったのかなー?出ておいでよー?一緒に遊ぼう?」
あいつはそう言いながら、確実に俺らに近づいている。
ちょっと待て!マジでホラーもののゲームやってる気分だぞ!?
レナはレナで、まだ俺に引っ付いてるし!?
俺はなんとか逃げる算段を考えるが、それこそ無駄。
なにせ・・・既に俺らの前にいるからだ!!
「み~つけた♪」
こんなことなら考えずに我武者羅に逃げるんだったー!!
後悔してもすでに遅し!あいつの刃が俺らに迫る。
もう逃げられなくなり、俺は今度こそ覚悟を決めたとき・・・
「はれ?」
なんとも間の抜けた声が聞こえてきた。
「へ?」
俺も間の抜けた声を出す。
「あれ?お兄ちゃん?」
レナもなんだか寝ぼけたような声がした。
(主人公視点)
俺はいつの間にか『闇の紫陽花』モードになっていて、なにがあったのかシューゴに聞いてみて驚いた。
俺・・・シューゴのデータドレインの失敗の余波を食らって、混乱したってわけか。
「なるほど・・・我が受けた光の正体はその腕輪の仕業か。」
本当にとんでもねーよ!被害が出なくてよかったー・・・
「すいません・・・本当にすいません!」
シューゴが俺に土下座して謝ってるけど、そこまでされると返って引く。
「構わぬ。だが、汝がそれ相応の力を身につけるまで、その力をあまり使わぬことを心がけよ。」
俺がそう言って踵を返す。
これ以上ここにいると、なんか収拾つかなくなりそうだからな。
そのまま俺はゲートアウトした。
なんか酒を飲みすぎて、少し気持ち悪くなったしな・・・
そのあと、バルムンクたちから文句を言われまくった。
あのあと、俺が倒したスケルトンのあとに、他のスケルトンが大量発生しててんてこ舞いだったらしい。
それも人狼族・・・『神拳』の凰花の手助けもあって、なんとか片付いたらしいけどな。
けど・・・あんまり大声で怒鳴らないでくれ・・・二日酔いで頭に響く・・・
同じ量を飲んでたバルムンクはぴんぴんしてる。
俺はザルだが、あいつはワクだ!
それからしばらく、俺はホームから一歩もでることが出来なかった。
.hack//hydrangea
『かぼちゃ畑の死闘』
「えーっと・・・今日はどうしようかな?」
俺は自分のホームで、今日の予定を考える。
シューゴたちにくっついていたいけど、ストーリーほとんど覚えていないから身動きが出来ない。
だったらメンバーアドレス交換しろって?
やだやだ、それは俺のロールに反する!
『孤高』の名前に傷がつくじゃんか!!
って・・・誰に言ってんだよ、俺。
俺は一つため息を吐くと、ホームを出た。
とりあえず、街をぶらついてみるか。
「あれ?一日イベントの主催者ってバルムンクなのか。」
俺はマク・アヌの広場で見かけた掲示板にあるイベント情報を見る。
バルムンクはいろんなイベントを企画するけど、いっつも妙に凝ってるのが多いんだよな。
しかも景品もなんか微妙・・・
まぁ・・・そう解っていて参加する俺も、ある意味微妙かもな・・・
俺はそう考えながらも、イベントをチェックする。
なんだかんだ言って、結局参加するのだ。
えーっと・・・今回は宝探しか。
前回のはクイズ系の奴で、やったら微妙な問題ばっかりだったな。
俺は前回のイベントを思い出して口元が引きつるのがわかった。
うん・・・あれは本当に微妙すぎだ。
どこの世界に・・・
八相の名前をクイズに出す奴がいるかーーー!!!?
あれはよっぽどThe Worldを知っていなきゃ解けないだろ!?ってくらいだったんだぞ!?
俺やドットハックメンバーは解けたけど、他のプレイヤーは見るからに頭抱えてて哀れだったな。
まったく『死の恐怖』や『復讐する者』、『増殖』、『策謀家』とかの別名まで出てくるし・・・
それに景品も微妙だ・・・なんせ八相のデフォルメぬいぐるみ・・・
喜んだのはマハのぬいぐるみを手に入れた司とエルクぐらいだったな・・・
って・・・いけね・・・思考が関係ないところに飛んでたな。
俺は頭を振ると、イベントのあるエリアを覚えてカオスゲートに向かった。
・・・バルムンクは仲間だし、ちゃんと参加しなきゃあとで拗ねるだからな。
今回のイベントは宝探し。
目の前に広がるアットホームな畑に俺はどうしたもんかと思う。
このエリアからして、野菜とかに宝が隠されてるんだよな。
バルムンクのイベント傾向は微妙だけど、慣れれば簡単にトレースできる。
俺はそう思いながら辺りを見ると、ちょっと離れたところで爆発が起きている。
・・・トラップに他のプレイヤーが引っ掛かったのか・・・
俺はそれが少し気になってその爆心地に向かった。
そこにいたのは、例の双子ちゃんとレアハンターがいました。
「おまえらもこのクエストに参加していたのか。」
「はい。ハイドさんも参加していたなんて思いませんでした。」
俺はシューゴやレナと合流して、一緒にクエストをやっていた。
ちょっと離れた場所では、ミレイユが野菜を片っ端から真っ二つにしている。
傍から見てると、ちょっと怖いぞ。
「このクエスト企画したの奴とは知り合いでね。ちゃんと参加しないと後で拗ねるから。」
実際に1回参加しなかったら、すっごーく拗ねられた。
あれを浮上させるのは骨がおりたぞ(汗)
「へー!ハイドってシステム管理者と知り合いなんだ。」
俺の言葉にシューゴが反応を返す。
若干、こめかみが引きつっているのは俺の気のせいか?
「ああ。それで、今回のクエストだけどよーくわかる。」
うん、掲示板見て、このエリアを見ればものすごく単純なことだ。
「え!?それじゃ、ハイドはどこにレアアイテムが隠されてるのか解るの!?」
うおっ!?
いつの間にか戻ってきたミレイユが興奮した状態で、俺に詰め寄ってくる。
本当に単純なもんだぞ?
「掲示板にはなんて書かれてあった?」
俺がそう言うと、3人とも思い出そうと頭を捻る。
「えーっと・・・『ホワイトデイを彩る素敵な商品』・・・」
「『パンプキンパイと一緒にどうぞ』・・・」
「このエリアは畑・・・」
そこまで解るなら、あとは正解まで一直線!
俺はにっと笑う。
「さーて!この畑にある野菜は?」
俺の言葉に3人とも気がついたみたいで、一目散にある場所に向かった。
向かった場所は、かぼちゃ畑!
「おー!これはすごいな。」
「感心してないで助けてくださいよー!!」
俺の目の前で、シューゴ、レナ、ミレイユが魔道ゴーレムに追われている。
バルムンクの奴。これは初心者でも参加できるイベントじゃなかったのか?
「たーすーけーてー!」
シューゴが情けなく悲鳴を上げる。
しゃーない、助けるか。
俺はため息を一つ吐いて、魔道ゴーレムの前に出る。
それと同時に双剣で魔道ゴーレムを瞬時に切り裂く。
ズズン・・・・
ゴーレムはその場で崩れ落ちた。
さっきのは居合い切りの応用。
俺がこの『世界』にいるからこそ出来た技だ。
普通のプレイヤーには出来ない。
「大丈夫か?」
俺がシューゴたちのほうを向くと、なんか3人とも目をきらきらさせて俺を見てる。
解りやすく言うと、シューゴは同じ双剣士だからいつか自分も出来るようになるのかな?という期待。
レナは助けてくれた白馬の王子様を見たという感じ。
ミレイユは俺がさっきやった技が見たことの無いものだから『レア』を見た瞳だ。
すっげー解りやすい。
本当にこの世界じゃ、口よりも目が多くのことを語ってくれるよ。
「すっげー!ハイドってやっぱ高レベルプレイヤーなんだな。あんなモンスターを一撃なんてよ!!」
いやいや・・・あれってレベル40くらいだぞ?
俺のレベルと比べたら倍以上開きがあるって。
「シューゴもレベル上げたら出来るようになるさ。ほら、さっさとお宝を・・・!?」
俺は背後からの気配を感じて、とっさに3人を突き飛ばした。
そして、次に襲い掛かるのは決して軽くない衝撃。
「ハイド!?」
「心配ねー!これくらいかすり傷だ!!」
俺は双剣を構えて、俺に攻撃した奴を睨みつける。
そこにいたのは、さっき俺が切り裂いたはずの魔道ゴーレムだ。
そいつのところどころはまだダメージを被ったままだが、それも徐々に修復されていってる。
「おいおい・・・このタイプに回復能力なんてないはずだぞ?」
俺はもう一度、そいつを切り刻むがまた立ち上がった。
「・・・こいつ改造モンスターじゃないか。」
やっばい・・・このままじゃこっちが体力負けする!
「そうだ!またこの腕輪で・・・!!」
そこにシューゴが腕輪を掲げている姿が、俺の視界によぎった。
げっまだ使いこなせていないものを安易に使おうとするな!!
俺は止めようとしたが、時すでに遅し。
シューゴはすでにスキルを発動させている。
腕輪から放たれる光は真っ直ぐ魔道ゴーレムに伸びていく。
「データ・・・ドレイーン!!」
魔道ゴーレムのデータが改変されて、徐々にその姿を変えていく。
そして・・・次に姿を現したのは・・・かかし。
「うっそー・・・」
まさか、成功するなんて・・・
「よっしゃー!」
「お兄ちゃん、かっこいい!!」
俺の背後でシューゴたちがきゃっきゃっはしゃいでいる声が聞こえる。
おいおい・・・もし失敗してたらどうする気だったんだよ・・・
その後、無事にお宝をゲットした俺たち。
だが・・・そのお宝がこれまたすっげーマニアック!
なんでセーラー服にメイド服!?しかも猫耳、尻尾つき!?
こんなん貰ってもしょーがねーだろ!?
俺はそのアイテムを全部シューゴたちにやった。
そして・・・その次の日あたりでバルムンクにばったり会ったので俺はあいつに一撃食らわせた。
「この大ボケ管理者!!!!」
『黄昏事件』が終わってから、長い時間が過ぎた。
あの時、事件解決に貢献したメンバーは、『ドットハッカーズ』と呼ばれ、伝説のパーティとして名を馳せている。
俺はそのウワサを耳にしつつも、今日も今日とて孤高でタウンをうろつき、闇の紫陽花でプレイヤーに助言し、傍観し、敵対している。
さて、今日は一体なにをしたもんかな?
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『新しい伝説の幕開け』
「うっへー・・・本当に枯れてるな。」
「えぇ、最近こんなトラブルばかり続いているんです。」
俺は今ハイド姿で、CC社の新人デバッカー剣士の護衛として依頼されてとあるエリアに来ている。
俺はCC社からは、削除できない関与できない厄介な放浪AIと認識されているみたいで、削除できなければどうにかして利用しよう!という方針になったらしく、こういった仕事を頼まれる。
新人のPCはレベルが足りないとかで、弱いのが多いからな。
報酬は、アルビレオ経由で上手い料理データ。
どうやらCC社のトップレベルのプログラマーが作っているみたいで、味も匂いも上出来!!
あれを一度味わうと、やみつきになるな。
「そんじゃ、とっとと直そうぜ。俺はモンスターや他のプレイヤーが来ないように見張っておくからな。」
「はい、お願いします。」
そいつはそう言うと、直そうとなにかパネル操作している。
俺はすぐに直るだろうと思って、あたりを見ていたら、突然新人の悲鳴が聞こえた。
俺は振り返ると、そこには見たことのないモンスターと倒れている新人がいた。
くそ!あそこには魔方陣も放浪モンスターもいなかったはずだぞ!?
俺はモンスターを切り裂くと、新人に話しかけた。
「おい、大丈夫か?」
『大丈夫です。ちょっと驚いただけで・・・僕はこのままログアウトしてこのことを上層部に伝えます。」
「わかった。今回の依頼料はいらねぇから、次回はしっかり護衛するよ。」
『はい。』
そいつはそう言って、ログアウトした。
俺は念のため、CC社のほうにメールでさっきのことを報告しといた。
なんか・・・嫌な予感がする。
あれから暫くして、アルビレオから俺が護衛した新人が意識不明になったことを知らされた。
あいつだけじゃなく、他にも何人ものプレイヤーやCC社の人間がそうやって意識不明になっているらしい。
おいおい・・・まさかあれから4年経ってるのか?
だとしたら・・・今は『黄金の腕輪伝説』時代じゃねぇかよ!?
ちきしょう・・・この中って時間わからないからなぁ・・・
しかも俺が原作やアニメを見てから、随分時間が経っているから記憶もおぼろげだ。
キャラは覚えていても、ストーリーなんか頭に残っていない。
やばい・・・ここに来て俺の先読みが出来ないのはちょっと痛手だ。
俺はそう考えながらマク・アヌの町並みをぶらぶら歩いていたら、誰かとぶつかった。
「のわっ」
「いてっ」
俺とぶつかってきた奴は、見事にその場にすっころんでしまった。
俺はぶつけた箇所を手で押さえつつそいつを見る。
そいつは俺の知り合いのPCだった。
「いってー・・・悪いカイト。大丈夫だったか?」
あれ?カイトの奴、今は進路決めでしばらく来れないって言ってたと思ってたんだが・・・息抜きに来たのか?
俺がそう言ってカイト?に手を貸すと、珍しく間抜けな顔を晒していた。
「カイト?・・・俺はシューゴって言うだけど・・・」
「シューゴ?」
俺がカイトと勘違いした奴、もしや腕伝の主人公さんですか?
もう物語りは始まってるんですか?
うそーーーーーー!!!?
俺は今日始めてログインしたと話すシューゴに、いろいろとこの世界の遊び方を教えてやった。
この世界にクリアなんてないから、プレイヤーの数だけ遊び方が存在する。
「へー、ハイドっていろいろ知ってるんだな。」
「まぁな。俺はフラグメント時代から『ここ』にいるから、その辺の奴より詳しい自信はあるぜ。」
俺はニカっと笑ってそう言う。
シューゴはキラキラした目で俺を見てくる。
子供らしくていいねぇー・・・最近のガキは礼儀を知らないからな・・・
いけね・・・ちょっと最近指導したガキのことを思い出しちまった。
「お兄ちゃん!」
そこに女の子の声が聞こえてきた。
俺とシューゴがそっちを向くと、ブラックローズがいた。
いや・・・ブラックローズじゃなくて、キャラプレで当選した子か。
「おまえ・・・怜奈か!?俺の双子の妹の!?」
「あったりー!『レナ』でーす!」
「へ?なに?おまえら双子で当選したのかよ?」
俺は事情を知っておきながら、そ知らぬ振りしてそう言った。
「あれ?そっちの人ってもしかして『孤高』?」
お!レナは俺のこと知ってるみたいだな。
俺はレナのほうにきちんと向き直ると、うやうやしく頭を下げた。
「初めましてレナさん。俺は双剣士のハイド、二つ名は『孤高』と申します。」
俺の名前を聞いた途端、レナは手を叩いて喜んだ。
「うわー!まさか『レナ』で二つ名持ちに会えるなんて思わなかったよ。私、重剣士レナです。よろしければご指導お願いします!」
そう言って、レナは頭を下げた。
「なぁ?レナはハイドのこと知ってるのか?」
あ、シューゴのこと半ば忘れていた。
「当たり前よ!!双剣士『孤高』のハイドと言えば、The World一と言われても過言じゃない古参プレイヤーなんだよ!?『闇の紫陽花』に匹敵するほどのプレイヤーで、『ドットハッカーズ』より下手したら有名なんだから!!!」
うぇ!?俺がドットハッカーズより有名!?
なんかの間違いじゃないのか?
ハイドとハイドランジアはただの古参プレイヤーだっつの。
「レナちゃん・・・なんで俺が天下の『ドットハッカーズ』より有名なんだ?」
俺の問いかけに、レナは目をキラキラさせてこっちを見る。
ブラックローズがお姉さん属性なら、レナは妹属性だな・・・
同じPCで、ここまで違う印象を受けるとは思わなかったな。
「だってこのゲームのB版からプレイしていて、誰にも負けたことのない最強のプレイヤー!それを驕ることなく、初心者やそういう人たちのサポートをしているんですもの。あなたにお世話になった人たちや、PKしようとして返り討ちにあった人たちの間で有名です。」
うわー・・・なんか背びれ尾ひれがついている気がする。
確かに、一般プレイヤー相手に負けたことないけど、クビアに負けてるんだけどな。
つーか・・・『レナ』は今日始めてログインしたんだよな?
だけど、ここまで俺のことを知っているとしたらこいつは・・・
「レナちゃん、それってセカンドPCなのか?」
「はい!」
俺の問いかけに、レナちゃんはしっかり頷いてくれた。
その横で、シューゴは初心者だって言ってるけど、レナが初心者じゃなけりゃ『ハイド』がサポートする必要ねーな。
俺がそのことを言うと、レナは残念そうに声を上げた。
シューゴはなんかほっとしているように見えたが、俺の気のせいか?
「そんな~、折角ハイドさんに会えたのに~!」
はは・・・そんな声出されても、俺はメンバーアドレスを渡したりしないぞ?
「レナ~・・・はやく冒険に行こうぜ!」
シューゴの奴が俺を睨みながら、そう促している。
おい・・・俺は君のシスコンメーターに引っ掛かったのか!?
俺はレナにまとわりつく『虫』と認識されてるのか!?
「それじゃ、俺はもう行くよ。」
俺はとっとと離れたほうが賢明だと判断して、2人から離れた。
といっても、カオスゲートで転送しただけなんだけどな。
場所は『萌え立つ 過ぎ越しの 碧野』だけどな。
俺は今、真っ黒いローブを纏って白い大鎌を持って平原を歩いている。
ぶっちゃけ、ハイドランジア姿でシューゴたちを待ち伏せしよう!とい目論見なのだ。
無印時代じゃ大して活躍できなかったからな。
今回は主人公たちと絶対!冒険するんだ!!
俺は握り拳を作って決意していると、むこうの方でシューゴたちが転送されているのに気づいた。
そして、その少し離れている場所には、見覚えのある呪文使いのミストラル・・・じゃなかったこの時代ならミレイユだ。・・・の姿もある。
俺は気づかれないように3人を尾行する。
今のところ気づかれてはいないみたいだ。
にしても・・・シューゴ、もうちょっと操作を頑張ろうな?
いくらなんでも、このエリアの雑魚にそんなボコボコにされるのは見ていて哀れだぞ?
俺は飛び出したいのを我慢して、尾行を続ける。
ハイドランジアでは、助言が主になりそうだよ・・・
しばらく尾行を続けて、飛び出すタイミングを計っていたら、シューゴたちの目の前にとんでもないモンスターが姿を現した。
モンスターの名前は『鎧超将軍』。
こんな初心者エリアに出てくるようなレベルじゃねぇって!!
俺はスノーフレークを構えるとシューゴたちの目の前に出た。
といっても、タイミングが悪かったみたいで、既にシューゴが『おばけ』になってるけど(汗)
「このようなところに不相応な異形が現れたな。」
俺はそう言いながら、レナをお姫様抱っこして鎧超将軍の攻撃を避けた。
俺はレナにフードの下の顔が見えないように、レナの顔を見た。
「大丈夫か?」
俺がそう聞くと、レナは顔を赤くして俺を見る。
おいおい・・・なんだよその反応は?
「は・・・はい・・・」
おーい?目がハートになってるぞ?
・・・って、そんな場合じゃなかった。
俺は鎧超将軍の攻撃を避けながら、レナを降ろすタイミングを窺うが、こいつ普通よりすばやく設定されているみたいだから、その隙がねー!!
ちっきしょー!ここに誰かいれば・・・
俺がそう考えていると、突然目の前の鎧超将軍の身体が切り裂かれた。
そして、目の前に降り立つ白銀の騎士。
「おまえがこの程度に苦戦するとは・・・らしくないぞ『闇の紫陽花』」
「仕方がなかろう?黒き薔薇の後継者をおざなりにするわけにはいかないのだからな。『蒼天』」
俺たちは、互いに二つ名で呼び合う。
しっかし、本当にグッドタイミングだバルムンク。
俺はレナを降ろすと、バルムンクが離れるように指示した。
レナはバルムンクにも顔を赤くして、その指示に従う。
レナちゃんって・・・ミーハーなのか?
まぁいいか。これで思う存分戦える。
俺は改めて武器を構えて、バルムンクの横に立つ。
「いっやー・・・本当に助かったよバルちゃん。」
「そのあだ名はやめろ。それと、その姿でハイド口調はやめてくれ。」
バルムンクは俺の口調にうんざりしたような顔でそう言った。
「ひっどーい!俺とバルちゃんの仲じゃんかー!!」
「どういう仲だ!!」
俺とバルムンクが漫才染みたことをやっている間に、鎧超将軍は回復していた。
バグモンスターか・・・
「さて・・・汝はあと何回殺せば死ぬのかな?」
俺はハイドランジアモードでそう言った。
「この世界に倒せないモンスターはいない。倒せないモンスターはただのバグだ。」
戦闘開始。
ズバッ
「へ?」
「な!?」
俺たちが一歩踏み出そうとした途端、鎧超将軍がまた倒れた。
言っておくが、俺たちじゃないぞ?
「あっれー?バルムンクとハイドランジアじゃん!ひっさしぶりー!!」
こ・・・この口調は・・・
俺の隣でバルムンクも、この口調と声に心当たりがあるみたいでちょっと嫌そうな顔をしている。
そんで、モンスターの背後から現れたのは俺たちの想像通りの奴だった。
「ばびょん!やっほー楚良くんでーす!」
やっぱりかーーー!!?
「楚良・・・おまえがこんな初心者エリアに何の用なんだ?」
「んー?司くんやミミルと待ち合わせー♪まだ時間あったから、暇つぶしに適当にワード選んだんだよ。しっかし・・・まさかこんなエリアで鎧超将軍なんて、管理者の人の怠慢じゃん!」
あ・・・バルムンクの口が引きつってる・・・
バルムンクはCC社に就職して、今はリョースの後釜でシステム管理者やってるからなー・・・楚良のこの言葉はきついって。
あ?なんでこの時間軸で楚良がいるのかって?
そりゃー俺も思った。
原作じゃ、楚良は意識不明から回復したあと、The Worldの記憶は全部失っていたはずなんだけど、ここじゃ記憶はばっちり持ってる。
しかも、放浪AI化してたときの記憶もあるみたいでバルムンクやカイト・・・他のドットハッカーズの存在もばっちり知ってるわけなんだ。
んで・・・なんの冗談なんだか、いつの間にか楚良も二つ名持ちになってる。
二つ名は『死の恐怖』。
楚良はPKだけど、特に弱いもの虐めをするタイプじゃない。
クリムやバルムンク、カイトのような強いものと戦いたがる傾向がある。
そして、その長年の操作技術とかで勝ち星付けまくっているがゆえに付けられたのが、この二つ名。
はっきり言ってシャレになってない。
「汝が我らを助けるとは・・・明日は全てのエリアが嵐となるな。」
「あ!そういうこと言うわけ?せっかく助太刀に入ったのに。」
おまえが俺らに戦いを挑むんじゃなくて、助けに入ったからだろうが。
それに・・・鎧超将軍とっくに回復してるぞ?
俺たちはそれに当然気づいているわけで、攻撃をあっさりかわす。
「うーん・・・やっぱあのウワサは本当なのかにゃ?」
「ウワサとは?」
楚良の言葉に俺が問いかけると、楚良はおもしろそうに口を歪めた。
「『黄昏』が再び来る・・・ってね♪」
「なんだと!?」
バルムンクが驚きを顕にしている。
その間も、モンスターからの攻撃は避け続けている。
そこに、鎧超将軍の動きが変った。
今までがむしゃらに俺らを狙っていたのに、不意に別の場所に走り出した。
その先にいるのは・・・レナ!?
「やばい・・・レナ、逃げろ!!」
「レナー!」
俺が声を荒げると同時に、シューゴがレナの傍に走り寄っている。
その腕には黄金の腕輪・・・カイトの腕輪か!!
「シューゴ!その腕輪を使え!!」
俺の言葉にシューゴはあたふたしながらも、腕輪を鎧超将軍に向ける。
そして放たれるスキル。
「データ・・・ドレイン!!」
腕輪から伸びた光が鎧超将軍を包み、データを書き換えていく。
そして光が収まると、鎧超将軍は超雑魚モンスターのぐにゃりんに変っていた。
ぐにゃりんは、そのまま逃げていく。
俺はそれにほっとしつつ、シューゴたちに歩み寄る。
シューゴは俺に警戒して、双剣を構えてレナの前に出る。
いや・・・俺、敵じゃないんだけどな・・・
「誰だ、あんた?」
「我が名はハイドランジア。二つ名は『闇の紫陽花』。この『世界』で唯一の大鎌使いだ。」
「・・・で?あんたいった「ハイドランジアさまーー!!」・・・ごふっ!!」
うおっ!?レナちゃんがシューゴを吹っ飛ばして、前へ出てきた。
俺は後ずさりしそうな自分を叱咤して、なんとか踏みとどまる。
シューゴの奴、無事か?
「さっきは危ないところをありがとうございます!私は重剣士のレナと言います。あの・・・よろしければメンバーアドレスを・・・」
いや・・・あの・・・目をうるうるさせながらにじり寄らないでくれ!!
シューゴの目が怖いんだよ!!
「すまないが・・・我は誰ともメンバーアドレスを交換しない。汝らが無事ならそれでいい。」
俺はそこで踵を返す。
これ以上ここにいたら、心臓に悪い!!
「汝らに夕暮竜の加護があらんことを」
俺はそれだけ言って、バルムンクたちのところに向かった。
「くはー・・・まいったぜ・・・」
「モテモテだな、ハイド。」
ここは水の都マク・アヌ。
俺とバルムンクは、裏路地のところにいる。
楚良は、待ち合わせの時間だからってここにいない。
姿はハイドモード。
カイトの色違いPCということで、結構珍しい目で見られるんだよな。
主に『黄昏事件』後にやっている奴ら。
「それにしても・・・キャラクタープレゼントキャンペーンなんて、CC社はやってはいないはずだぞ?」
バルムンクがさきほど見たシューゴとレナのPCを思い出して、そう言った。
「楚良が言ってたろ?再び『黄昏』が迫っているって・・・恐らくアウラが蘇らせたんだ。勇者と腕輪を。」
「そうか・・・ならば、あの二人を全力でバックアップしなくてはな。そちらは頼めるか?」
バルムンクの言葉に、俺はにやりと笑う。
「了解!報酬はバルちゃんお手製の料理データで手を打とう!」
「くっ・・・わかった、最高のデータを食わせてやる。」
バルムンクの酒のデータは美味いんだよな♪
「それじゃ新しい勇者候補さんを見守りますか!」
新しい伝説が開幕した。
.hack//hydrangea
『パーティ・パーティ!』
時を少し巻き戻そう。
俺は『隠されし 禁断の 聖域』にいた。
なんでそこにいたのかは、なんとなくだった。
俺はあの最後の戦いのとき、カイトたちのもとに現れたのかと思えば、すぐに敵に吹っ飛ばされて気絶という情けない結果になった。
だから俺は、目を覚ましたらすぐにカイトたちに気づかれる前にその場から去った。
どうやら、あれがモルガナだったみたいだ。
ちくしょー・・・最終決戦は俺も参加しようと思ったのに・・・
よりによって途中参戦・すぐさま退場かよ!?
俺は自分に対する憤りを拳に込めて壁を殴る。
「・・・いたい・・・」
「当たり前じゃない。」
痛みを訴える拳をさすっていたら、背後からヘルバの声が聞こえて、俺は振り返った。
案の定、ヘルバは呆れた顔でこっちを見てる。
「何しに来たんだよ・・・」
俺は自然と仏頂面でそう言った。
ヘルバはそんな俺に気にも留めないといった感じに、話を持ち出す。
「新しい女神も決まって、この世界は安定したわ。それで、ネットスラムで黄昏事件の解決祝いにパーティを開くの。あなたも参加する?」
パーティ?
そんなのあったかな?
俺が思案していると、ヘルバはさりげなく爆弾を落とした。
「司たちも来るわよ。それにあなたは強制参加が決まっているから。逃げたらカイトたちが許さないわよ。」
「うぇっ!?」
強制参加かよ!?しかも司たちも来る!?
・・・いかん・・・これは絶対参加しろって、俺の中の悪魔が囁く~!!
「返事は?」
俺はヘルバにそう聞かれて、自分の中の悪魔に負けたことを自覚した。
ドパーンッ ドパーンッ
ここはネットスラム。
ヘルバがテクスチャに手を加えたみたいで、町並みの色が柔らかくなっている。
空には花火が盛大に上がり、景気のいいBGMでみんなそれに合わせて踊っている。
俺はそれをハイドランジア・フードなし状態で、ヘルバと一緒にビルの上から見下ろしていた。
「あなたは踊らないの?」
「俺はある意味部外者だろ?そんな俺があそこに行けない。」
俺の眼下には、カイトやブラックローズたちが楽しそうに踊っている。
別の場所に目を向けると、司や昴もミミルもベアもBTもクリムも楚良もいる。
・・・銀漢のダンスはちょっと意味不明だけどな。
俺が生暖かい視線を銀漢に向けていると、俺たちの近くに光の環が現れ、ショップのNPCが現れた。
・・・こいつリョースだな。
俺は初対面のそいつが現れて、どうしようかと考えていると、アルビレオも一緒にいるのに気づいた。
「遅かったわね、リョース。」
「少しごたごたがあってね。ヘルバ、ネットスラムをルートタウンとして受け入れる準備が出来ている。」
俺がアルビレオに近づこうとしたら、突然話が始まった。
おいおい・・・ネットスラムがルートタウンになっちまったら、ここは『世界』であって『世界』じゃない場所から、『世界』そのものになっちまうじゃねぇか。
俺がそう考えていると、ヘルバも同じように思っているのか、あっさり断った。
「その必要はないわ。」
「・・・そうだな、必要ないな。」
おーい!2人だけで通じあうなー!
「久しぶりだな、ハイド。」
俺はどういうリアクションを取ればいいのか迷っていたら、アルビレオが声を掛けてきた。
その手には、『悲シイ思イ出』を持っている。
「よう、アルビレオ。久しぶり、ちょっと未帰還者になりかけたけど、こうやって戻って来れたぜ。」
俺がそう言うと、アルビレオは呆れたように笑った。
「おまえは・・・まぁいい。元気そうでよかった。」
「おまえもな。」
俺たちはそうした掛け合いをしていると、不意にアルビレオが真剣な顔で俺を見た。
「ハイドランジア及びハイドに碧衣の騎士団団長アルビレオから通達する。」
俺は自然と居住まいを治して、アルビレオに向き合う。
こいつがこういう風に言うってことは、余程なことがあるときくらいだ。
さて、なにを言うか・・・
「今回の『黄昏事件』の功績により、ドットハッカーズのリーダー・カイトとサブリーダー・ブラックローズのPCデザインを他のプレイヤーが使用することを禁止とする。」
げっそういや、俺の服装ってカイトの青バージョンじゃねぇかよ!?
やっばー・・・ずっとハイドランジアでいなきゃならなくなっちまう・・・
俺が内心頭を抱えていると、アルビレオがふっと表情を緩めた。
「だが、そのドットハッカーズを裏から支えた功績として、君のPCデザインも他のプレイヤーが使用するのを禁止となった。」
「へっ」
それって・・・俺はハイドになってもいいってことか?
俺はアルビレオの顔をまじまじ見ると、アルビレオはそれが可笑しかったのか、ぷっと吹き出した。
「そんな顔するな。これはカイトたちからの要望もあってこうなったんだ。」
「カイトたちの要望?」
「あぁ、カイトたちがさっきの通達をしたら、おまえのPCは使えるようにしてくれって頼んできてな。(しなければ腕輪で『世界』を壊すって脅しもあって)こうなったんだ。おまえは今までと同じように、ハイドの姿でいればいいさ。それに、ハイドランジアのPCもおまえ専用になった。」
おい・・・なんか含みがあったぞ?
俺が訝しげにしていると、アルビレオが遠い顔してビルの下のみんなを見る。
「これが、碧衣の騎士団団長アルビレオの最期の仕事だ。」
本日2度目の爆弾に俺は目を見開いた。
だって、そうだろう?
アルビレオがCC社をやめる理由は、体調不良が原因のはずだ。
今のアルビレオにそれは・・・
俺が絶句していると、アルビレオは声を上げて笑い出した。
「なにを想像しているんだ?俺が騎士団を辞める理由はただの人事異動だ。」
あ、そうなの?
「ひやひやさせんなよ・・・おまえがThe World止めちまうのかと思ったじゃねぇか・・・」
俺は深いため息を吐いて、そう言う。
いつの間にか、ヘルバとリョースはいない。
「おいおい、いくらなんでもThe Worldまでは止めないさ。この世界には、おまえもリコリスもいるからな。」
そう言って、アルビレオは紅い槍を見た。
槍の輝きは変らないけど、受ける雰囲気が随分変っている。
前は見ているだけで、悲しい思いになるのに、今は優しい感じが・・・いや、懐かしい感じがする。
「そっか・・・それで、新しい団長は?」
俺は気づかない振りしてそう聞くと、アルビレオは笑った。
まるで悪戯が成功した子供のような表情で。
「神威という女性PCだ。俺の後輩で、今はアメリカのほうに出張している。騎士団の制式鎧を着ているからすぐにわかるはずだ。それと・・・おまえのことを知らない。というより知らせていない。」
・・・えっと・・・この場合の知らないは、ハイドランジアの格好がCC社公認になったということか?
だとしたら・・・俺って追いかけられること大決定!!?
「ちょっと待てーー!!」
「騎士団の連中も、面白がっているから、多分おまえのことは誰も知らせないな。頑張って自分で弁解しろ。」
俺を心配させた罰だ。
そう言って爽やかに笑ったアルビレオの顔を、俺は忘れることはないだろう・・・
その後、俺は自棄だとばかりに、カイトたちのところに乱入して踊り明かした。
当然、カイトたちに説明を求められたから、話せること(俺が放浪AIもどき)を全部話した。
ま、メンバーアドレスの交換だけは、俺のロール上しなかったけどな。