ここは天界。
あらゆる世界の神々が住まうここで、あるゲームが開催されることになった。
ゲームの名前は『サーヴァントゲーム』
神々が適当に選んだ魂に加護を与えて異世界に送り、それを競わせるというゲームなのだ。
今回のサーヴァントゲームの主催者は『ゼロの使い魔』の世界の神様。
その神様からの告知に他の神様も面白そうだと参加を決めていく。
天界の神殿の大きな石板に今回のサーヴァントゲームのルールが書かれていた。
サーヴァントゲームのルールは基本的に変わらないことが多いが、今回は一風変わっているようだ。
神々はそのルールに興味を持ったようで、たくさんの参加者が集まってくる。
そうして始まる神様たちの暇つぶし。
普通の人間には迷惑千万極まりないゲームの開始が決定された。
第○○○○○○○回サーヴァントゲーム開催のお知らせ
今回のゲームは選と本選に別れて行われます。
予選は参加者の担当世界で選んだ魂を一度転生させ、一定期間まで生活させてください。
その一定期間が過ぎるまで生き残ることが予選突破条件です。
予選突破したものが使い魔として本選会場に召喚されます。
ゲームの備考及び注意事項
・選んだ魂に直接力を付与したり、加工することは禁じる。
・魂の転生場所は自分の担当区域に限定されるが、転生場所・種族を任意に決めてはならない。
・転生した後に加護を与えることを許可する、だが不死などの加護は種族的なものでないかぎり禁じる。(人間に不死×、真祖の吸血鬼に不死○)
・与える力は自分の担当区域のものだけとする。他世界の能力を付与してはならない。
・転生者に直接接触することは許可する。
・魂に与える力は『世界』及び『惑星』を壊すものは禁じる。だが、『人類文明』『人類社会』を壊すものは許されている。
・予選中にサーヴァントゲームを説明することは許可。話すも話さないも自由とする。
・本選が開始された時点で、神々は転生者に接触及び手助けは禁じる。これを破った者は転生者ともどもペナルティを受けてもらう。
・ゼロの使い魔に送られる名目は使い魔召喚儀式。
特別ルールとして、主催者が選んだ10人が先にゼロの使い魔の世界に転生され、ご主人候補となる。
勝利条件
ゼロの使い魔の最終巻まで生き残ること及び召喚されてからの生活から判断される。
敗北条件
主の死及び自らの死。
神々が直接手助けをした場合。
ルールを破った場合のペナルティ
神は神格剥奪で知的生命体以外への転生
転生者はその魂は地獄行きになる。
うーわー!今回は短めなのでそんなに進んでいません!
つーかすすまねぇ!どちくしょー!
メール返信
未完の月さま
おはようございます!
熱烈なラブコールありがとうございます。
我が子達を愛してくれて嬉しいです。
今回はギアスでも、ハリポタでもなくゼロ魔の更新ですけど、お暇つぶし程度にお楽しみください。
少女の手に渡った一匹の獣
新しい少女の牙
その獣の存在は誰も知らない
たとえ少女でも、その深遠はいまだ遠い
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
第6話
(ルーク視点)
なんでこんなことになってるんだ?
買い物が終わった俺らが学院に戻るとすでに夕方で、とっとと着替えた俺らは(なんでかサイトのあの格好を他の奴に見せたくない)早めに食事をして、そんで夜の訓練のために中庭にいる。
サイトも途中まで付き合っていたけど、今は夜のお茶会みたいにテーブルと椅子を用意して、お茶の準備をしている。
買ったばかりのコウは、ここが自分の指定席!とばかりにサイトの肩に乗っている。
サイトもコウが肩に乗っていてくれていることが、なんだか嬉しいみたいで笑っている。
俺はそんな2人(一人と一匹)を横目に訓練を続けていたんだけど、なぜかキュルケとタバサが大きな包みを持って現れた。
しかも、これをダーリンにプレゼントしちゃう!なんて言ってる。
・・・キュルケ、おまえ仮にも愛の狩人を名乗っているなら、サイトの性別に気づけ。(いや、俺も間違えたけどな。)
サイトはそんなキュルケに戸惑っているし、タバサはタバサで勝手にサイトが用意したお茶を飲んでくつろいでいる。
「キュ、キュルケ。俺、そんなの貰っても困るよ。」
「あら、ルイズのことを気にしているの?でも、あなたほどの腕前の戦士があんな棒っきれじゃダメよ。せめて、これぐらいの業物を持たなきゃ!」
いや、新しいのならコウがいるし、大体おまえは武器のこと解るのか?
そう言ってキュルケが包みをほどくと、中から出てきたのは金ぴかの(見てくれは)立派な大剣。
・・・ちょっと待て、俺はその剣を約1年前に見たことあるぞ。
「キュルケ、あんたその剣・・・」
「ああ、これ?ピエモンの秘薬屋の隣にある武器屋で買ったのよ。ゲルマニアの業物ですって。」
俺が呆然と聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。
サイトはその剣を見て、「きれ~な剣だな~」とか呟いている。
「キュルケ・・・あんた武器屋の主人になんて言って買ったの?」
俺の問いにキュルケは「へ?」と間の抜けた顔をすると、思い出しながら言った。
「確か・・・この店で一番の業物をくださいませんこと?って言ったのよ。あの程度の武器屋なら、上等な部類でしょうね。」
俺はそれを聞いて、思わず深いため息を吐いた。
あの武器屋はたしかに格式がある店というものじゃないが、探せば本当の業物というものがある店で、隠れた名店なんだ。
俺も師匠と一緒に戦場を回っている時に耳にして、学院に入るときにこの店がいいと父さんに我侭言って一緒に買いに言った時も、父さんがそんな風に上から見た言葉で買おうとしたんだよな。
『店主、この店で一番の剣を出してくれ。』
『へ、へぇただいまお持ちします!!・・・こちらがこの店一番の業物です。』
『ほぉ、これは見事なものだな。わが娘が振るうにふさわしい。』
『え!?そちらのお嬢様が持つので?』
『そうだが、なにか不都合があるのか?』
『い、いえ!ただ・・・人と剣には相性というものが・・・』
『なんだ!娘にこの剣はふさわしくないというのか!!?』
俺は1年も前のことを思い出しながら、内心大きくため息を吐いた。
あの主人は上から見下ろした奴らが大嫌いな人だからなぁ・・・その分、ろくに使えない装飾剣を売りつける。
なんせ装飾剣の類は見目がいいから、使えなくとも貴族の見栄という奴で相手は買っちまう。
折れても貴族のプライドが邪魔して店に文句を言うこともできない。
まったく・・・俺が見抜けなかったら、今頃あれを背中に背負っていたのか。
俺は今度は隠しもせずに大きくため息を吐いた。
「む?なによ、そのため息は?」
キュルケは俺のそんな態度が気に入らなかったのか、眉を寄せて不機嫌そうにする。
俺はデルフリンガーを鞘に納めると、サイトからお茶を受け取って話した。
「その剣って、鋳型に流し込んで見てくれを良くしただけの装飾剣よ。それにサイトは棍使いで、剣なんか使えないわよ。」
うん、これは本当。
剣なんてよほど才能がなければ、一朝一夕で身につくものじゃない。
俺だってここまでになるのに10年は掛かった。
「そ、それなら棍も剣も両方使えるようになればいいじゃない!!多少時間は掛かっても!」
「それはそれで大変よ。一つのことを極めるより、中途半端に別のことをやろうとすればその分、穴が空くわ。まぁ、棍をベースにほかの事を手習い程度に習得するというのも有りよ。」
実際に俺は剣を中心に、素手や弓もある程度習得している。
腕前は剣に比べたら大したことじゃないが、ちゃんと実戦で使えるレベルだ。
「だ・け・ど!その大剣じゃ、サイトの体格に合わない!サイトはパワーよりスピードタイプなんだから、もっと軽い剣がいいのよ。って、その前にそれナマクラだから。」
俺の畳み掛けるような言葉に、キュルケは残念そうに剣を引っ込めた。
ありゃ?もっと噛み付いてくるかと思ったんだがな。
「あなたに武器や格闘で勝てるわけないもの・・・あなた、貴族やめてどこかで傭兵でもやったら?すぐに稼げるわよ?」
「それもおもしろそうだけど、入学前に師匠と一緒に戦場は回り済み。」
規模の小さい小競り合い程度だけどな。
(サイト視点)
へー、ルイズって戦場に出たことあるんだ~って!それっていくつの時なの!?
見たところ、ルイズと私の年はそんなに離れているように見えない。
もしかしたら私より年下かもしれない。
そんな女の子が戦場なんて・・・ルイズって確かに貴族の子女っていうより、傭兵とか戦士とかのイメージが強いわ。
でも、それでも(多分)15にもなっていない女の子が戦場を駆けずり回るなんて・・・!!
「ル、ルイズ・・・戦場って本当にあの戦場なのか・・・?」
私が恐る恐る聞くと、ルイズはあっけらかんと、
「規模は小さいものだけど、確かに戦場よ。」
なんて言ってくれました。
「あ、あははは・・・この世界ってルイズみたいな女の子も戦場に出なきゃならない世界なんだ・・・」
私は少し眩暈を感じながら、そう口にした。
「ちょ、ちょっと、普通の女の子は剣一本で戦場なんか行かないわよ!!」
「ルイズが特殊。」
誰かなにか話しているけど、私も徴兵されないように気をつけよう。
もし徴兵されても、生き残れるぐらい強くなろう。
(ルーク視点)
なにやらサイトが変な方向に勘違いしているみたいで、それをキュルケが必死こいて訂正している。
確かによっぽど特殊じゃなけりゃ、女は戦場に立とうとはしねぇな。
俺は師匠に『一度は戦場を知りやがれ!!!』なんて具合に放り込まれたしな・・・
ああ、あいつらみんな元気にやってっかな~?
俺はちょっと過去の思い出に浸りながら、遠い目をする。
頭上に輝くのはかつて戦場を一緒に駆け巡った仲間たち。
あいつらのおかげで、俺は貴族だの平民だのといった思考はものの見事に破壊されたんだよな。
ありがとう、みんな!お空の上で俺たちをいつまでも見守ってくれ!!
((((おれたちゃ、まだ死んでねーーーーーー!!!!!!!))))
あり?幻聴か?
俺は軽く頭を振ってもう一度夜空を見上げる。
双つの月が美しく輝いていて、手元が見やすい。
俺はそれを頼りにまた鍛錬に集中する。
仮想の敵を斬り、足を払い、確実にその命を奪っていく。
俺はまわりの仮想的を全て切り払ったあと、少し離れた場所の仮想的めがけて懐に隠し持った杖を振り下ろす。
ドカーン!!!
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・ルイズ」」」
「お・・・俺じゃねぇえええええええ!!!」
思わず地で叫んでしまった。
それと同時に30メイルはある土のゴーレムが姿を現した。
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(ルーク視点)
今日は虚無の曜日。
俺は前からの約束で、サイトを連れてトリステイン城下町に行くことにした。
サイトだって女の子なんだし、いろいろと入用だしな。
え~っと、まずは着替えとかだよな?
他にも化粧品?・・・俺も女として生活してるけど、そういう女の買い物ってよくわからないんだよな~
訓練用の服として平民の服を買うことあるけど、あれは全部男物だし。
キュルケとかならその辺詳しいだろうけど、俺の家とキュルケの家って仲が悪いからな~
俺自身、別にどうでもいいことだけどな。(ご先祖様が恋人や伴侶盗られたのって、自分に魅力がなかっただけじゃないのか?)
キュルケにしても、俺のことライバル視している節があるしな。
俺が男だって知ったら、どんな反応を見せることやら・・・考えただけ頭痛いな。
「ルイズ。馬の用意できたぞ。」
「わかったわ。もうすぐ支度できるから、先に城門で待ってて。」
俺は部屋に入ってきたサイトに背を向けたまま、髪を整える。
着ているものは平民の服。・・・着替え終わったところでよかった!
「あれ?その服で行くのか?」
「そうよ、下手に学院の制服や貴族の私服なんて着ていったら、金持ちだとバレて買い物するとふっかけられるのよ。」
実際に一度面倒くさくて、学園の制服のまま行った時なんか、スリに合いかけること5回。店先でやたら高いものを押し付けられること8回はあった。
あれ以来、俺は町に行くときは必ず平民の服で行くことにしている。
髪の毛を帽子の中にしまうと、デルフリンガーも何時ものように背中に背負っている。
俺は準備が終わると金貨の入った袋を持って城門に行く。
『逢引とは、相棒もやるねぇ』
うっせぇ、ボロ剣。
(サイト視点)
私はルイズに連れられて、現在トリステイン城下町にいる。
かなり賑やかな場所で、道はちょっと狭いけど町の人たちの顔は生気に満ちている。
「ずいぶん活気があるな。」
「ここは城下町で一番の大通りなのよ。露天や商店もかなりの数が揃っているのよ。」
ルイズはここでの平民の服を着て、私の前を歩いている。
その足取りはかなり慣れていて、私はついていくのがやっとのほどだ。
「ちょっ・・・!ルイズ、待ってくれよ。」
「なにやってるのよ。ほら、つかまってなさい。」
私が置いていかれそうになったとき、ルイズは私の手を取ってくれた。
ルイズの手って柔らかいのかと思っていたけど、長年剣術をやっている者らしい手で剣ダコとかあって逞しかった。
こうやって見れば、ルイズって華奢なところばかり目立つけど肩とか結構がっちり鍛えてあるのね。
「ありがとう。」
「・・・///土地勘のない人間が路地なんかに入ったら、あっという間に絡まれるからよ!」
ぶっきらぼうにそう言ったルイズの顔は、照れているのか赤くなっていた。
私はそれを見て、なんだかルイズが可愛いと思った。
(キュルケ視点)
あたしはある日突然恋をした。
恋・・・それは炎のようにとても燃えやすく情熱的なもの!
あたしの二つ名は『微熱』
本当に恋は突然なものなのよ!!
あたしが恋をした殿方の名前はヒラガ・サイト。
あのゼロのルイズが召喚した平民の男。
最初はぱっとしないルイズにお似合いの使い魔だと思ったけど、彼はギーシュと決闘の時に見せた体捌きや、鳥を従えた姿・・・惚れるには十分だわ、ダーリン!!
今日は虚無の曜日だから、この間出来なかった告白の続きをしようとメイクもばっちり決めてルイズの部屋に入ったのに誰もいない。
せっかくあたしから出向いたのに!
あたしはなんとなく窓から外を覗くと丁度二人が馬に乗って出かけるところだった。
しかももう門を出ている。
ルイズの馬術の腕は相当のもので、これじゃ普通の方法じゃ追いつけないじゃない。
あたしはそう結論すると、まっすぐ親友の部屋に向かった。
彼女の使い魔ならきっと二人に追いつけるはずだわ。
待っててね、ダーリン!!!
(ルーク視点)
俺はサイトの手を引きながら、いろいろな店を回った。
服屋に小物屋、装飾品店。
時には露天で売られている食べ物や飲み物を片手に、俺たちは買い物を楽しんだ。
女の買い物は時間が掛かるっていうけど、これはサイトも例外じゃなかった。
とくにサイトは小物が気に入ったみたいで、別に買うわけじゃないのに一つ一つ手にとってじっくり眺めたり、「これかわいい。」と話を振ってくる。
こういう一面を見ると、サイトも普通の女の子なんだなって実感しちまうな。
服のほうは女物の服を数着購入した。
晩餐やパーティ用のドレスも買うって言ったのに、あいつは自分には似合わないって拒否されちまった。
いつか俺の供として、そういうのに出席する場合には必要なんだけど、サイトにはまだ理解できないか。
ついでだから、今サイトの着ている服はサイトがいつも着ているあの不思議な材質の服じゃなくて、袖のない白いワンピースで背中の部分にウェストを調節するリボンがデザインされているものに、丈の短いレモン色の薄い長袖のカーディガン、それとつばの広い白い帽子でどこから見ても本当に『女の子』だ。
服屋に行ったときに、サイトは別段特別な理由があって男装していた訳じゃないと聞いたから、どうせだからそれに着替えさせたんだ。
・・・俺も男物着て、長い髪を帽子の中に隠して『男』なんだし、他の奴が見たって違和感ないよな!
サイトはスカートは履き慣れていないみたいで、しきりに足元を気にしていたけどそれもすぐに慣れたみたいで今は窓際に飾られている商品を見ながら一緒にブルドンネ通りを歩く。
・・・これじゃ、本当に逢瀬みたいだ。
『お!この辺りって俺が売られていた武器屋の近くじゃねぇか?』
不意にデルフリンガーが口を開いた。
俺もそう言われて初めて気づいた。
「へ?デルフリンガーってこの辺りで売られていたのか?」
「ああ、そういえばそうね。あそこの主人って貴族にはやたらと高い物を押し付けるけど、ちゃんと見る目のある人間には相応のものを出してくれるのよ。」
最初に行った時、本当にナマクラを押し付けられかけたから性質悪いんだよな。
まぁ、俺も武器の見立てに関してはちょっとくらい自信あったから、それを見抜いて主人と意気投合したってわけよ。
今でも時々、あそこに顔を出して珍しい武器とか見せてもらっている。
「サイト。あんたの武器って確か棍だったわよね?」
「へ?うん、そうだけど?」
「それなら、ついでだからあんたの武器も新調するか、新しく購入しましょう。今の武器じゃ、いざってときに折れないとも限らないしね。」
俺がそう提案すると、サイトもそうだな、と言って了承した。
そのまま俺たちは武器屋へと足を向けた。
(サイト視点)
私は履き慣れないスカートを気にしながら、武器屋に入っていった。
そこは本当にファンタジー世界で出てくるような武器がたくさんあった。
うわ・・・これってモーニングスター?こっちはハルバートだし、マスケット銃も置いてある。
私はざっと店内を見渡していると、ルイズは気負うことなくカウンターに近づく。
そこでぼーっとしていた・・・多分この店の主人がルイズに気づいて慌てて起き上がった。
「おう!また来たのか嬢ちゃん!」
「ええ、たまたま近くに来たから寄らせてもらったわ。なにかめぼしい物は入荷したかしら?」
「悪いがさっぱりだ。アルビオンの内乱とかで武器は結構売れるが、これ!といった名品はほかの店に持っていかれちまった。」
「そう。まぁ、今日は私じゃなくて連れの武器を見立てて欲しいのよ。サイト!」
二人の会話を黙って聞いていると、ルイズが私を呼んだので私は急いでカウンターに近づく。
主人は私を頭から足の先までじっくり眺めるように見ると、主人はルイズのほうを見る。
「本当にこの嬢ちゃんの武器を見繕うのかい?」
「そうよ。彼女の得物は棍。それでなにか頑丈で使いやすいものを持ってきて。」
ルイズの言葉に主人は了承して店の奥に引っ込む。
「ルイズって、ここの主人と仲がいいんだ。」
「まぁね。私も武器に関してはちょっとうるさいから、気が合ったのよ。」
私たちがそうこう話している間に、主人が何本もの棍を両手に抱えて戻ってきた。
「これが俺のおすすめの奴だ。一本一本説明していくから、嬢ちゃんは少し振り回して合うかどうか試してくれ。」
私はそう言われて頷くと、適当に一本手にする。
ほかの奴より若干細いシンプルなデザインの棍
「うわ、これすっごい軽い!」
なにこれ?まるで羽根みたいじゃない!?
私がそれを持ち上げて驚いていると、主人が私の反応に満足そうに笑った。
「そいつはスピードを重視した奴だ。可能な限り軽くしてあんだが、強度がそんなに強くないのが難点だ。嬢ちゃんがどんな戦法で戦うかわからんからな、頭数揃えで出してきた。」
「へー」
私はそれに納得しながらヒュンヒュンと振り回す。
長さも丁度いいし、思ったより使いやすい。
私は一通り振り回して、次の棍を手にした。
「あれ?これは・・・先端のほうが重い?」
「よく気づいたな。そいつは攻撃力を重視した奴だ。見た目は普通の棍だが、先端の辺りの密度はトライアングルメイジの錬金でも作り出せねぇほどに濃くしてある。先端が重いから、そのスピードで相手に大打撃を与えることが出来るんだ。」
私はそう言われながら、その棍を振り回す。
遠心力を利用したやつね。
止めるときにちょっと私のほうが振り回されるけど、慣れたらすごい使いやすそう。
そうやって私は次々と出される棍を試してみるけど、どうもしっくりこない・・・
「それもダメなの?」
「あぁ、使いやすいんだがどうもしっくりこなくてな・・・」
私は最後の棍をカウンターに戻すと、主人はうーんと首をひねる。
「うーん、嬢ちゃんの腕は悪くないがどうしたもんか・・・」
「他にはないの?」
ルイズが聞くと、それに答えたのは以外にもデルフだった。
『それならとっておきのがあるじゃねぇか。』
その言葉に主人は盛大に顔を顰めた。
「あほか、デル公!ありゃこんな嬢ちゃんが扱える代物じゃねぇよ!!」
『んなもんやってみなけりゃわからねーだろ。実際に相棒は傍目には剣なんて振り回せねーと思っていたが、実際には凄腕の剣士だぜ?』
ルイズを引き合いに、主人に『とっておき』を出させようとするデルフに、主人はちらっとルイズを見る。
ルイズはその視線の意味が解ったのか、わずかに顔を顰めた。
確かにルイズは剣士ってイメージじゃないしね。
「・・・わかった。だが、あれを使いこなせるかどうかは嬢ちゃんの腕次第だ。」
主人はそう言うと、奥に引っ込んでいった。
「デルフ、とっておきってなんなんだ?」
私がそう聞いてみるけど、デルフは楽しみにしてろ、というだけで教えてくれない。
ルイズも知らないみたいで教えてくれなかった。
そうやってしばらく主人を待ち続けること数分。
主人はなにやら相当疲れたような表情で、なにかを引きずって現れた。
「主人・・・それ、一体なんなの?」
ルイズが恐る恐るという風に聞いてみるが、主人はただ棍だ、としか言わずやっとの様子でそれをカウンターに乗せた。
主人は棍をカウンターに乗せた後、大きく息を吐いて明らかに疲れていた。
「ぜーはー・・・こいつがこの店のとっておきの棍だ。こいつには魔法が掛かっていてな、デル公みたいに喋るわけじゃねぇけど、自分が認めた奴以外には持ち上げるのもやっとの程の重量になるんだ。」
認められりゃ、手足のように自在に使いこなせるようになるぜ。
そう言って主人はドカッと椅子に座った。
本当に重かったんだ。
私はその棍を見てみる。
柄の部分は深い青に塗られていて、その存在を主張するかのように紅い宝石が一つだけ埋め込まれている。
なんだろう、見ているとすごく惹かれる・・・
「サイト?」
隣でルイズが呼ぶけど、私はふらふらと引かれるように棍に手を伸ばす。
私の行動にルイズも主人も黙ってみる。
私は棍を手にし、意を決して持ち上げようとする。
・・・これで持ち上がらなかったら間抜けもいいところよね。
だけど、その棍は私の考えとは裏腹にいとも簡単に持ち上がった。
なんだか右手のルーンが光ったような気もするんですけど!?
「うそ・・・だろ?」
「本当に・・・持ち上がった・・・」
『だーから言ったろ?この嬢ちゃんなら使えるって!!』
いや、それは言ってないから。
私は信じられない思いで、その棍を振るう。
軽い・・・それにこんなに手に馴染むの初めてだわ。
「・・・決まりだな。主人、こいつはいくらだ!」
ルイズがなんだか男の子みたいな口調でそう言う。
ルイズってこんな口調で話す子だっけ?
私はそんなルイズに首を傾げていると、いきなり棍が勝手に震えだした。
「え?な、なんだ!?」
PON♪
私は思わずそれを落としそうになったとき、そんな軽い音と一緒に持っていたモノが暖かい毛に包まれたなにかになった。
「「「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」」」
「きゅ♪」
店内の音がすべて消えたと思った。
「えーっと・・・これって、なに?」
なんで棍が青い毛に包まれた猫ぐらいの大きさの生き物になったの?
しかも額には柄にはまっていた宝石がついているし、耳が長いからウサギ?でも体格は猫っぽくて尻尾も長いし・・・うわーん!!!!
「かわいいーーーーーーー!!!!」
私はその生き物を思いっきり抱きしめた。
私だって女の子なんだし、こういう可愛い生き物は大好きよ。
「・・・主人。」
「・・・俺だって知りませんよ。」
(ルーク視点)
サイトはいきなり棍から動物に変った動物を抱きしめて、ふわふわそうな毛に顔を埋めている。
動物のほうもそれを嫌がることなく、嬉々として受け入れて、自らも擦り寄っている。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!?
無機物から有機物になる魔法なんて俺はしらないぞ!?
俺は自分の系統を知らないから片っ端から魔法を学んでいる。
魔法に関する知識ならそこらのトライアングルにも負けないという自信もある。
だけど、こんな生物知らない。
「・・・主人。」
「・・・俺だって知りませんよ。」
「どういう経緯で、あれを入手したの?」
「いえ、気がつけば倉庫に置いてあったんですよ。メイジの方にも見てもらいましたが、魔法が掛かっていることくらいと、持ち主を自ら選ぶことくらいしか解らなくて・・・」
「害はないのよね?」
「・・・おそらく」
俺は主人と話しながら、もう一度サイトのほうを見る。
サイトは上機嫌であの小動物を撫でたり抱きしめたりを繰り返している。
小動物のほうも、サイトを気に入ったのか自分から肩に乗ったり、擦り寄ったりをしている。
サイトも、小動物もお互いを気に入ったようだ。
・・・これで引き離したりしたら、俺が悪者だな。
「いくらだ?」
「お買いに?」
「あれだけお互い気に入っているのよ?あれで買わないなんて言ったら、私が悪者よ。」
「へぇ・・・あれなら新金貨2000で結構ですよ。」
「え!?そ、そんなんでいいのか!?万を覚悟してたんだぞ!!!?」
あんな貴重価値が激しくあるようなもの、万でも安い気がする。
「嬢ちゃん、言葉言葉。いやぁ、嬢ちゃんにはいつも贔屓してもらっているし、持ち主が見つからなかった奴がようやく主を決めたんだ。その祝いがわりだ。」
主人はそう言って悪戯が成功したように笑った。
『親父、おまえも丸くなったねぇ・・・』
「おう。武器もわからねぇ貴族様は嫌いだが、嬢ちゃんなら別だ。」
デルフと主人のそんな掛け合いに、俺は思わず笑った。
「買った!」
俺は小切手にサインして、店をあとにした。
「えへへ、名前なんにしようかな?」
「きゅー♪」
「そうね・・・エー○ィなんてどうかしら?」
「ルイズ・・・それはジャンルが違うからちょっと・・・」
「それならル○ー・カー○ンクル。」
「それもまずいから!!」
「?・・・それならコウは?」
「コウ?」
「そいつの体毛はサファイアみたいだけど、額の石はルビーみたいでしょ?サファイアもルビーも同じ鋼玉なんだ。だからコウ。」
「へぇ。うん、いいね。わかりやすいしな。よし、今日からお前の名前はコウな!」
「きゅ!」
「気に入ったみたいね。」
一方、忘れかけられているキュルケは・・・
「ちょっと!ルイズもダーリンもどこに行ったのよ!?」
「・・・武器屋」
かーなーりー出遅れて武器屋に到着。
それでもすでにコウを買って、だいぶしてからである。
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(ルーク視点)
ギーシュとの決闘から3日。
俺のベッドの上でサイトが安らかな寝息をたてている。
身体の至る所には痛々しい包帯が巻かれている。
水の使い手や秘薬を使って大分傷は癒えているが、サイトはまだ目を覚まさない。
俺はベッドの隣に椅子を持ってきて、サイトの包帯を換えたり、汗を拭いたりしている。
流石にわき腹の包帯を換えるときは目を逸らしながらやっている。
他の奴に任せる気にはならなかった。
もしかしたらサイトも俺と同じようになんらかの理由で性別を隠している可能性があるからな。
だから俺はサイトの怪我を他の奴には必要最低限しか見せていない。
俺はサイトの顔をじっと見る。
今までファースト・キスを男相手にする羽目になったと憤っていて、サイトの顔をじっくり見たことがなかった。
けれど、こうやって見ればサイトもやっぱり女の子なんだと思い知らされる。
サラサラな髪に、結構細い肩。
まつげも案外長くて、唇も瑞々しくルージュもつけていないのに綺麗なピンク。
手当てしている時に触れた肌は、きめ細かくて柔らかかった。
それに、ギーシュとの決闘のときに鳥を操った時のサイトは本当に神秘的で、一瞬、森を守護する精霊に見えた。
ちょっと見、男にしか見えないけどこうやって見れば、かなり綺麗なんだな。
・・・身長は俺より高いけど。
俺は自分の胸がざわつくのを感じた。
こんな感情を俺は知らない。
この感情に名前をつけることが出来ない。
否、多分つけることが出来るかもしれないが、それを認めるのが怖い。
「まったく・・・俺らしくないな。」
「惚れたか、相棒?」
突然デルフリンガーにそう言われて、俺は反射的に納得しそうになったが、断言できない。
俺自身、誰かにそういった感情を抱いたことのないから。
だから、俺はこれしか言えなかった。
「解らない・・・」
俺の中で芽生えた小さな芽は、まだどういうものか解らないから。
とにかく今は、サイトの目が開くのを心待ちしている。
(サイト視点)
私が目を開けると、そこにはシエスタがいた。
「あ!目が覚めたんですね!!」
シエスタは桶のようなものを持っていて、私のことを心配そうに覗き込んでる。
あれ?私・・・なにやってたんだろ?
「あ!そうだ決闘!!・・・いでぇ!」
私は倒れる前になにをやっていたのか思い出して、急いで起き上がる。・・・けど、直後身体中に走る痛みに、ベッドに逆戻りしてしまった。
「無理しないでください!水の秘薬で怪我を治しているとはいえ、まだ完治しているわけじゃないんです。」
シエスタはそう言いながら、私の両肩を抑え込む。
「水の秘薬?」
「はい。ミス・ヴァリエールが特別にお取り寄せした高価な薬です。」
そう言って説明してくれるシエスタは、机に突っ伏したままで寝ているルイズに顔を向けた。
ルイズはぐっすり眠っているみたいで、そのまわりには包帯や薬ビンみたいなものが無造作に置いてある。
ルイズ・・・ずっと私の怪我の看病をしていたのかしら?
熟睡しているルイズに、私は思わず微笑むとシエスタが目をキラキラさせながら、まくし立ててきた。
「それにしてもサイトさんってすごいです!あんなたくさんの鳥を操って貴族に勝つなんて。」
鳥?・・・あ、そういえば私、森の鳥達の力を借りたんだっけ・・・
みんな、力を貸してくれるっていうから・・・って!なんで私、鳥の言葉がわかったのよ!!
私はただの(?)女の子で・・・ここの人たちみたいにメイジでも、なんでもない普通の人間。
その私がなんで動物の言葉が解ったのかな?
「サイトさんって勇気があるんですね。」
不意にシエスタがなんだか熱い視線で、私のことを見ているのは気のせいかな?
顔も赤いし、風邪だったら早めに休んだほうがいいよ?
「勇気って・・・別に間違ったことを間違えてるって言っただけだよ。」
私はそう言って、自分の右手を見る。
そこに刻まれているのは、私がルイズの使い魔になった証であるルーン。
よく小説とかでも、こういったものには不思議な力があるって言うからねぇ。
私が動物の言葉が解るようになったのは、これのおかげかな?
私はシエスタの熱い視線から逃れるために、思考の中に没頭する。
なんだかルイズが起きて、シエスタと揉めているみたいだけど気にしない、気にしない・・・気にしないもん!
(ルーク視点)
サイトがやっと目覚めてくれた。
なんかメイドに迫られていたから、なんとかメイドを追い出して二人っきりになる。
「あー・・・その・・・今まで悪かったわね。女の子だって知らずに、あんな意地悪ばっかりして。」
俺はなんとかサイトの目を見ながら、そう言う。
見たいと思っていたサイトの目は、夜みたいに真っ黒な色をしていた。
俺はその瞳を本当に綺麗だと思った。
現金なものだな。
一度女の子だと意識しちまうと、こんなに見方が変っちまうなんてな。
「いいよ。黙っていたこっちも悪かったし。」
そう言って、サイトはにっこりと笑って、俺を許してくれた。
その笑顔に俺の心臓はまた跳ね上がった。
だー!なんなんだよ、これー!!
「あ、あんたも女の子なんだし、体に傷なんか残すんじゃないのよ!傷が治ったら、あんたの服とか日用品揃えてあげるからね!!」
俺は内心の動揺を押し隠すように叫んだ。
「・・・ありがとう、ルイズ。」
「・・・今は体を治すことだけ考えなさい。」
俺はサイトに水の秘薬を飲ませる。
サイトも俺の手に逆らわず、素直に飲んだ。
「それでも・・・言って、おきたかった・・・から・・・」
サイトがそう言って、寝た。
眠くなるタイプの秘薬を飲ませたから、これでまたしばらくは起きないはずだ。
俺は完全にサイトが寝入ったのを確認すると、壁を背にその場にずるずると座り込んだ。
心臓がまだバクバクいってやがる。
隣の部屋のキュルケにでもなく、幼馴染にでもあるアンリエッタ姫でもなく、黒髪で胸の大きいかわいいメイドでもなく、いきなり現れた男みたいな女の子にこんなにドキドキするなんて・・・
「本当に・・・重症だな・・・」
俺はそう呟いて、目を閉じた。
一度意識してしまった。
今まで芽生えたことのない感情に、どう折り合いをつければいいのか、自分でも解らなかった。
(サイト視点)
決闘の傷も治って一週間。
私は今日もルイズの身の回りの世話をしている。
私が女だってバレてからは、ルイズの態度がずいぶん柔らかくなった。
寝る場所は床からルイズの隣で(最初はルイズはソファで寝るなんて言い出したのよ!?)、食事も私があれじゃ栄養偏りそうだからって、ルイズの分と自分の分を作らせて貰っているの。
ルイズは私の料理を美味しいと褒めてくれるけど、内心はどうだかわからないのよね。
その他変ったことといえば、あの決闘以来、厨房責任者のマルトーっていう人に気に入られたのよね。
なぜか『我らの笛』と呼ばれるようになったのよ。
これは私がたくさんの鳥たちに協力してもらったことが由来みたいなの。
その中でも仲良くなったのはシエスタっていう黒髪のメイドさん。
よく一緒にお料理の話とか、私はルイズの洗濯物を任せてもらえないけど、ほかの人の洗濯を洗う手伝いなんかもしているんだ。
デザートのお菓子作りもレシピを教えてもらったり、私がレシピを教えたりしていて、なかなか充実した生活を送っている。
シエスタが私と顔を合わせるたびに赤くなるのはちょっと気になるけどね。
ただ、最近なんだか変な視線を感じたりするのがちょっと気になる。
視線を感じたほうに目を向けると、なぜかフレイムがいるんだよね。
話を聞いてみても、『主の命令です。』としか話してくれなくて・・・私って嫌われてるのかな?
そう聞いてみたところ、なんだかすごい勢いで首を横に振ってたな。
嫌われなくてよかったって反面、本当になんで見ているのか不思議なんだよね。
そんなこんなで、今日はシエスタの手伝いでルイズの部屋に帰るのがちょっと遅れていると、目の前にフレイムが目の前で道を塞いでいた。
「あれ?フレイム、どうかしたの?」
私はフレイムに声を掛けると、フレイムはいかにも言いにくそうに身じろぎする。
しかもなんだか目がきょろきょろと泳いでいて、怪しいんだけど(汗)
『すみません・・・主があなたを呼んでこい・・・と・・・』
「主?それってキュルケっていう人のことだよな?確かルイズと仲が良いのか、悪いのか微妙な・・・」
なんでキュルケが私のことなんて?
『来て・・・もらえるか?』
フレイムの申し出を私は承諾する。
せっかく呼んでもらえたんだし、ここは受けたほうがよさそうだしね。
フレイムに連れられて、キュルケの部屋に訪れた私。
部屋は全体的に暗く、明かりは蝋燭だけ。
な・・・なんだか本当にルイズと同じ構造の部屋なの!?
私は戸惑いながらもきょろきょろと見渡すと、部屋の主であるキュルケはなんだか妖艶なベビードールを着ていた。
私は思わずそれに見入ってしまった。
いいなぁ。私じゃあういうの着ても似合わないのよねぇ。
「そんなところに突っ立ってないで、こちらにいらっしゃいな。」
私はそう言われて、おずおずとキュルケの近くに行く。
椅子が用意されていて、それに座るように言われて私は言われるがままに腰を掛ける。
「あの・・・一体なんの用なんだ?」
「あなたはあたしをはしたない女だと思うでしょうね。」
キュルケがなんの脈絡もなくそう言った。
はしたない?確かにその格好は年頃の女の子がやるには恥ずかしい。
でも私はそれを言ったものかどうか考えていると、キュルケはなんだか腰をくねらせながら私に近づいてくる。
「?どうかしたの?」
「あたしの二つ名は『微熱』。松明のように燃え上がりやすいの。」
うん。それは前に聞いたわ。
だから何が言いたいの?
「あたし、恋をしたの!あの決闘のとき、あなたが鳥を操っているときに!!」
私はそれを聞いてピンときた。
キュルケは私に恋の相談がしたいんだ。
あれ?でもそれなら、よく知らない私なんかよりルイズのほうが~って、二人は表面上仲が悪いから相談しづらいんだ!
それならちょっと納得。
私って女の子同士の恋バナって初めてなんだよね!
「へぇ、誰に?」
私はちょっとわくわくしながら聞いてみる。
「あたしが恋をしているのはあな「キュルケ!」・・・?」
「なんだ?」
キュルケが相手のことを話そうとしたところ、窓のほうから男の人の声が聞こえてきた。
ここって確か3階よね?
私が窓のほうを見ると、ハンサムな感じの男性がいた。
しかもなんだか怒っている感じ。
・・・というかこの感じって・・・
「ちかーん!!」
私は思わず普段隠し持っている棍の一部を相手に向けて、思いっきり力の限り投げつけてしまった。
「ぐほっ!?」
その男はそんな声と一緒に下に落下した。
その少し後に、なんだか鈍い音がしたような気がしたけど、気のせいよね?
「なんだったんだ、今の?」
「ただのお友達よ。それより、あたしが恋してるのは!」
私もキュルケもなんだか冷や汗をかいているけど、それは無視してキュルケの恋バナ恋バナ。
「キュルケ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか?」
さぁ、次こそは!と聞く気満々のところ、またもやお邪魔!!
でも、この人のほうが先約なら、そっちを優先しなきゃ。
「キュルケ。先約があるなら、そっちを優先しろよ。」
俺が咎めるように言うと、キュルケが杖を一振りした。
その途端、蝋燭の炎がまるで生き物のように動いて、新たに現れた男性に激突。
そしてまた下に落ちていった。
私はそれを見送って、席を立った。
2度あることは3度ある。
もしかしたら、またお邪魔が入るかもしれないし、女の子同士の恋バナはまた今度にしましょう。
私はそう結論付けて、部屋から出て行った。
乱入者を始末したキュルケは、今度こそ!という意気込みでサイトのほうを振り返るが、そこには誰もいなかった。
「あ、あれ?ダーリン!?」
哀れ、キュルケ!
一方サイト。
「ただいま。」
「おかえり。ずいぶん遅かったわね。」
「うん。厨房の手伝いに時間がかかっちまったし、キュルケに恋の相談されたんだ。」
「ああ、キュルケは惚れっぽいことで有名だからね。あんまり真面目に受け取らないほうがいいわよ。」
「そうなんだ。ルイズはデルフの手入れ。」
「そ。こいつってば、ちゃんと手入れしてやんないと拗ねるのよ。」
『自分の相棒の手入れは剣士としては当たり前だろ!?』
「それでも、あんたはちょっと文句多すぎ。」
「あはははは。」
概ね平和のようである。
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(サイト視点)
「それにしても凄い威力だな・・・」
私は箒を片手に、教室中に落ちている瓦礫を片付ける。
その視界の端にはルイズも机や椅子の片づけをしている。
なんでこうなったかというと、ルイズが原因。
その他にも原因はあるかもしれないけど、教室を破壊した直接の原因はやっぱりルイズにある。
錬金?の魔法を使おうとして、いきなり爆発したのだ。
その威力は本当にすごくて、重傷者がいないのが不思議なくらいだったわ。
「悪かったわね・・・」
ルイズは机を運びながらそう呟く。
「あ、聞こえてたんだ。でもよ、いくら馬鹿にされたからって、火薬の類を錬金してそれを爆発させるのはやりすぎだぞ?下手したら大怪我するところだったんだぞ?」
ルイズは多分、発火性のなにかと爆発性のあるなにかを錬金して爆発させたんだ。
粉塵爆発みたいな感じで。
私はルイズを窘める気持ちでそう言ったら、どこからか笑い声が聞こえた。
男みたいな声に聞こえるけど、なんか人間の声とも違う・・・
私は声の出所を探そうとするけど、近くに人は見かけない。
「デルフ!」
私がきょろきょろと辺りを見回していたら、突然ルイズがそう怒鳴った。
「わりぃ相棒。そいつがあんまりにもおもしろいこと言うから、つい笑っちまった!」
・・・声の出所は・・・ルイズの背中?
「ルイズ・・・それ・・・」
背中の剣が・・・喋ってるの?
私が恐る恐る聞くと、ルイズはため息を吐いて背中の剣を抜いた。
今朝はあまりよく見てなかったけど、柄の部分に顔みたいなモノがある。
「こいつはデルフリンガー。インテリジェンス・ソードっていう喋る剣よ。口は悪いけどそんなに悪い奴じゃないわ。」
喋る剣・・・本当にファンタジーね、ここ。
「よ・・・よろしく。それで、さっきなんで笑ったんだ?」
私が聞くと、デルフリンガーはまた大笑いして、話してくれた。
「相棒はな。魔法を使うとことごとく爆発させんだよ。さっきのも、そういう物質を錬金したんじゃなく、魔法そのものが爆発したんだ。」
そう言って笑うデルフリンガーに、ルイズはゆっくり刀身に手を掛ける。
そしてにっこり笑って・・・
「いい加減にしないと・・・折るぞ?」
ミシッ・・・・
なんだか不吉な音が聞こえたんですけど?
その後は、デルフリンガーがルイズに平謝りすることで一件落着した。
それと同時に私はルイズの二つ名である『ゼロ』が魔法が使えない『ゼロ』じゃなく、自らの前に立ちはだかる全てをなぎ払う『ゼロ』に思えてしまった。
「腹減った・・・」
あの後、なんとかお昼までに教室の片づけが終わった私たちは昼食にありつけた。
けど、ルイズはともかく私のご飯は固いパンが一つと麦スープ。
これじゃ力なんて出ないわよ・・・
私は昼食が終わって、ルイズに夕方まで好きに過ごしていいと言われて、ぶらぶらと学院内を散策する。
さすが貴族と名乗るだけのことがあるほど、学院内は広い。
私は今、どこにいるのかも解らない状態になっている。
つまり、完全に迷子。
お昼はあれだけで、ルイズの部屋に戻ろうにもここがどこかなのかすら解らない・・・最悪だわ。
「せめて、もう少しなにか食えてたらなぁ・・・ん?」
私の鼻になにやら美味しそうな匂いが漂ってきた。
私はその匂いに引き寄せられるかのように歩き出す。
そして、私は曲がり角で誰かにぶつかった。
「きゃ!」
「うわっ」
どうも匂いに気を取られすぎて、人の気配に気づけなかったんだわ。
私はなんとか踏みとどまることが出来たけど、ぶつかった子はそのまま尻餅をついてしまった。
なんだかメイドさんみたいな格好をしている子。
「あ、ごめん。大丈夫?」
私がそう聞くと、その子はいいえと笑いながら立ち上がった。
あ、よく見ればシーツとかそういうのが周りに落ちている。
私はまた謝りながら、それを拾う。
「ホントにごめん。洗濯物汚しちゃって・・・」
「大丈夫ですよ。このくらいの量なら、すぐに洗いなおせます。」
そう言って笑うメイドさんは、なんだか懐かしい感じがする。
「あ、それなら手伝うよ。これでも家事は得意だからね。」
うん、これは自身持って言える。
しかも洗濯機を使わずに手洗いも完璧に出来ます。
メイドさんもそれならお願いします。って笑った。
「わりぃな。洗濯物汚しちまったのに、飯までくれるなんて。」
あのあと、洗濯物を洗いなおした後、盛大に鳴ってしまった私のお腹。
それにシエスタ(メイドさんの名前)が賄いでいいならばって、ご飯を食べさせてくれることになった。
出されたシチューを私は夢中で口の中にかきこんだ。
どんなに行儀が悪いと言われても、今の私には聞こえない。
飽食の日本で育ったんだから、こんなにお腹がすくことなんてなかったんだからね!
「そんなにお腹がすいてたんですか?」
私がシチューを食べていると、シエスタはそれを微笑ましそうに見てくる。
うう・・・なんだか小さい子を見守るお母さんみたいな慈愛の眼差しが痛い・・・
「ああ、使い魔だからってパン一つに麦スープが一杯だけ。まったくあいつは俺に飢え死にしろっていうのかよ。」
私は今朝のメニューを思い出して、つい愚痴っぽくなってしまう。
それにルイズのメニューを見た私の感想は一つ。
栄養バランス偏りそう・・・この一言ね。
私の話を聞いて、シエスタは気の毒そうな目で私を見て、またお腹がすいたら来て下さいとまで言われた。
あれ?私、なにかフラグたてた?
「ありがとう。そうさせてもらうよ。食事のお礼になにか仕事を手伝うよ。」
「え、いいんですか?それなら、貴族様にお出しするケーキを運ぶのを手伝ってください。」
私はそれを二つ返事でOKした。
けど、まさかあんなことが起きるなんて予想できなかったわね。
(ルーク視点)
一体なにがどうなってるんだ?
俺はサイトに夕方まで自由にさせていた。
それで俺自身は午後のお茶を楽しんでいたら、ギーシュの二股が発覚して、それで原因となった平民と決闘することになったんだと。
俺はそれを聞いて、暇つぶし程度にはなるかと思って決闘の場所であるヴェストリの広場に行ったら、なぜかサイトがいた。
サイトは今朝の鍛錬のときに使っていた棒を構えて、真っ直ぐギーシュを睨んでいる。
「サイト・・・あんたなんでこんなことになってるのよ?」
私は一歩前に出て、サイトにそう呼びかけるとサイトは俺に気づいて、怒りに満ちていた瞳がふっと和らいだのを感じた。
「ルイズか。なーに、あいつが二股して、それを他の奴のせいにするから腹がたってな。俺はあういう奴が一番嫌いだからな。」
そう言って、サイトはまたギーシュのほうに目を向ける。
「おやおや、使い魔が心配で君も来たのかい?ミス・ヴァリエール。」
ギーシュが俺に気づいたのか、そう言って嘲るように笑う。
それと同時に俺はこいつの魔法や戦い方を思い出す。
ゴーレムを作り出して、自分では戦わない典型的(無能)指揮官タイプ。
この手の奴は頭を潰せば事足りる・・・って、なんで俺が分析してんだよ。
とりあえず、今朝の鍛錬じゃサイトもそこそこやるし、ギーシュレベルなら互角にいくはずだ。
「侮っていたら痛い目見るわよ。それからサイト。」
俺はギーシュの挑発をスルーして、サイトに向き直る。
「この程度の奴に負けたら、朝の鍛錬を倍にするからね。」
「へー、ルイズは『平民は貴族に勝てない』って言わないんだ。」
俺の言葉にサイトはおもしろそうに応える。
誰に聞いたんだよ、そんなこと。
「私は剣一本で喧嘩吹っかけてきた馬鹿をのしてきたのよ。あんたも私の使い魔になったんだから、ドットメイジくらいサシで倒せるようになりなさい。」
実際にゼロ、ゼロって馬鹿にしてた奴らをぶっ飛ばしてんのは本当だしな。
俺はにやりと笑って、野次馬達を一瞥する。
中には俺が今までのしてきた奴らも混じっている。
そいつらは俺と目が合うと、たちまち顔を青くして後ずさりする。
「ああ、今の俺はルイズの足元にも及ばないけど、こいつくらいなら俺でも勝てる。」
「上等・・・ま、頑張りなさい。」
俺はそれだけ言って、野次馬の中に戻っていった。
(サイト視点)
私はギャラリーの中に戻っていくルイズの背中を見送りながら、どこかほっとした。
だってルイズは平民も貴族も関係ないって言ってくれたから。
私は無意識のうちに微笑んで、ギーシュを見る。
「それじゃ俺が勝ったら、シエスタやおまえが二股かけた女の子に謝れよ?」
「いいとも。それで、君が負けたら土下座してこう言ってもらおう。『平民の分を弁えず、生意気を言ってごめんなさい』って。」
ギーシュは完全に自分の勝利を信じてる。
ならば、そこにつけいる隙がある。
「俺は棍を使う。おまえはなにで戦うんだ?」
私が聞くと、ギーシュは薔薇の造花を一振りする。
花びらが一枚地面に落ちると、そこから人間と同じくらいの大きさの人形が生まれた。
戦乙女を模したそれは槍のような武器を持っている。
「僕はメイジだからね。魔法で戦う。青銅のゴーレム・ワルキューレが相手だ!」
それと同時に、ゴーレムが私に向かってくる。
はやい!
私はゴーレムから繰り出される拳をなんとか紙一重でかわすと、急いで距離を取る。
「なかなかすばしっこいな。けど、何時まで持つかな?」
「はっこれでも鍛えてるからな。早々に負けるわけにはいかねーよ。」
私ははったりでそう言うけど、ギーシュは全然余裕な感じ。
どうしよう、あんなのまともに受けたら棍が折れちゃう。
だからといって、防戦一方じゃ勝てない。
・・・一か八か司令塔を狙う!
私は意を決して、足を踏み出す。
ゴーレムは一体のみ。
あれを突破できたら、あとはギーシュのみ!
私は自分の持てるだけの力で地面を蹴る。
その瞬発力で私はゴーレムの脇を通り抜ける。
ゴーレムのほうも、私のスピードには反応できなかったみたいだ。
「よし、あとはおまえだけだ!」
とりあえず、顔面にいれてやる!!
私は棍を振り上げてギーシュに迫る。
「ふ、僕も甘く見られたものだな。」
ギーシュはこの期に及んでも、余裕な顔で笑う。
それと同時にギーシュの目の前にもう一体ゴーレムが現われた。
「やばっ!」
私の棍は既に振り下ろされていて、すぐに軌道を変えることなんて出来ない。
ゴーレムは私の棍を片手で受け止めると、もう片方の腕で私の鳩尾を思いっきり殴ってきた。
「かはっ」
ズサーー!
あまりの痛みと衝撃に、私は棍から手を放してしまい、そのまま地面を滑るように投げ出された。
「ちくしょう・・・まさか、カウンターで返してくるなんて・・・」
私は痛み鳩尾を手で押さえながら、なんとか立ち上がる。
「僕もこれでも軍人の家系だからね。兵法は少しばかりかじってるんだ。君の戦闘センスもなかなかのものだよ。」
ギーシュはそう言って更に造花を振ると、合計で7体のゴーレムがその場に出てきた。
「僕みたいな司令官タイプの敵に対して、頭を叩くのが一番だというのは僕自身、一番解っていることだからね。さぁ、降参するなら今のうちだよ?」
そう言うギーシュはルイズとはまた違う意味合いでの、戦士の顔をしている。
ルイズが戦場を知る戦士なら、ギーシュは訓練校を卒業していない戦士ってところかな?
私はそう考えて、思わず笑った。
私ったらなにしてるのかな?
こんな戦場も知らない戦士にこんなにされるなんて、馬鹿みたい。
「だめだな・・・こんなのじゃルイズに追いつけない。」
私はそう呟いて、ギーシュを真っ直ぐ見る。
ギーシュはそれに少したじろいだ顔をする。
棍は未だゴーレムの一体に奪われたままだけど、まだ私は負けていない。
「徒手空拳は苦手なんだけどな・・・」
私はそのままゴーレムに突っ込む。
「素手のまま突っ込むなんて自殺行為だな!」
その言葉と同時にゴーレムたちも活動する。
私はそれを捌きながらも、肩や腕、足に傷が出来ていく。
たまにわき腹あたりにまで裂傷が出来る。
痛い・・・こんなの元の世界でも感じたことない。
ドゴッ
「あああああああ!!!!」
ゴーレムの一撃で、私は地面に叩きつけられる。
やっぱり武器なしだときついな。
私はもう一度立ち上がる。
周りからは「もうやめろ!」「充分やった!」とか声が聞こえてくる。
ルイズはなにも言わず、ただじっと私のほうを見るだけ。
手を出す気はないみたい。
「おや?まだ立ち上がるのかい?さすが往生際の悪い『ゼロ』のルイズの使い魔だ。」
そう言って笑うギーシュは、明らかにあざ笑っている。
その瞬間、私の中でなにかがはじけた。
(ルーク視点)
不意に音が消えたと思った。
ギーシュが俺やあいつをあざ笑ったとき、サイトの雰囲気が変った。
俺は実戦経験なんてほんの1度や2度・・・それも師匠に連れられての国境の小競り合い程度しかやったことない。
それでも解る。明らかに今までのサイトとはなにかが違う。
サイトは身体のダメージを受けていないかのように真っ直ぐ立つと、右手をギーシュに向けて真っ直ぐ向ける。
身体のあちこちから血が流れて、明らかに重症なのにサイトはそれを微塵も見せない。
「力を・・・貸して・・・」
サイトが呟くようにそう言うと、学園の外の森が急に騒ぎ出した。
そこから一斉に飛び出してくるのは、鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥・・・大型の鳥から小鳥まで、あらゆる鳥がこちらに・・・否、ギーシュ目掛けて飛んでくる。
その鳥達の中には、今朝サイトが肩や手に止まらせていた種類の鳥まで混じってる。
なんだよ、これ?一体、なにがどうなってるんだ?
俺はもう一度サイトのほうも見る。
これだけの鳥達が辺りを旋回しているのに、サイトはまったく動じた様子もなく、変らない体勢でギーシュを見てる。
右手のルーンが強い輝きを放っているのが、俺の目を引いた。
「な、なんだこの鳥は!?ひっやめてくれ!突っつくな、引っ張るな!!」
ギーシュは鳥達の猛攻に晒されて、すでにマジ泣きに入ってる。
いきなりの事態に、ギーシュはお得意のゴーレムで撃墜することも出来ない。
ただガキみたいに腕を振り回しているだけ。
「参った!僕が悪かったから、もう止めてくれー!!」
あ、ついに降参した。
「ちゃんと、みんなに謝るか?」
サイトが無機質な声でそう聞く。
ギーシュは何度も大きく頷くと、サイトはギーシュに問いかけたものとは違う柔らかな声音で鳥達に語りかける。
「ありがとうみんな。また・・・力を貸してくれる?」
その問いかけに鳥達はまるで「応」と言うかのように、サイトの周りを穏やかに飛び、そして森に帰っていった。
俺はそれを呆然と見送って、サイトのほうに振り返った。
「サイト!!」
サイトはまるで糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。
俺はサイトが地面に着く前に身体を割り込ませて受け止める。
「サイト!!」
俺はもう一度サイトに呼びかける。
あちこち傷だらけの上に血の気のない顔でぐったりしている。
「誰か治癒魔法を!出血が多すぎる!!」
俺は周りの生徒に呼びかけながら、ハンカチを裂きながらサイトを応急手当していく。
こういうことを師匠から教わっといてよかった。
俺はサイトを部屋に運ぼうとして、俵担ぎで持ち上げる。
そのとき、俺の背中に柔らかいなにかが当たった。
・・・男には絶対にないような温もりと弾力が・・・
「うそ・・・だろ?」
俺はそのままの体勢で呆然とサイトの顔を見る。
確かに今朝はなんとなくサイトが綺麗だな~とかそんなこと思ったけどよ・・・マジで?マジなのか!?
こいつ・・・女じゃねぇか!!!
「だから言ったろ?本当にそいつでいいのか、相棒。」
「おまえ・・・知ってたな。」
この時ほど、俺は自分の愛剣を憎んだことはなかったな。