昔、世界は一度統一されました。
それをなしたのは白の皇帝です。
隣に黒き裏切りの騎士を従えた純白の魔王が、世界をその手中に収めたのです。
天高くから、女神の涙を降らせる城から高らかに宣言した白の皇帝。
誰もが絶望に心を染め、彼の者の世界で生きるしかないのかと嘆きました。
しかし、その魔王の治世も長くは続きませんでした。
黒の救世主が降臨されたのです。
黒の救世主は、降り注ぐ凶弾をことごとく退け、あっという間に白の皇帝の前に降り立つと、正義の刃で白の皇帝を退治しました。
世界は救世主のおかげで、平和を取り戻すことが出来ました。
その後も黒の救世主は、その平和が少しでも長く続くようにその全てをかけました。
だから、私たちは今あるこの平和に感謝しなければいけません。
2度と、白の皇帝のような悪い人を出さないために…
それはほんの少し前にあった本当のお話。
もう50年も前に起こった戦いの物語。
だが、それは真実の物語ではない。
そのことを知るのは、もう白の皇帝から志を継いだ黒の救世主しかいなかった。
その黒の救世主も、その生涯を終えようとしている。
誰にも知られることなく、かつて親友とともにひと夏を過ごした思い出の場所で…
枢木神社
そう鳥居に書かれたその場所の、かつて白の皇帝が幼少の頃より過ごした土蔵・・・改装されて人が住みやすくなっている・・・そこに一人の老人がその生を終わらせようとしていた。
その老人の体は、老いているにも関わらず鍛え上げられた肉体は若い頃を髣髴させ、その瞳は夏の緑のような濃い色をいまだ宿している。
「僕も…そろそろ限界かな?」
老人はどこまでも広がる青空を見つめながら、そう呟いた。
それと同時に老人はごほごほっと咳き込む。
瞳を閉じると、美しい青空の下で笑っていた愛しい人の姿が鮮やかに瞼の下に思い描ける。
姿だけではない。
愛しい人の声や仕草、表情、体温、匂い…その全てが思い描ける。
「あれから、世界はずいぶん穏やかになったよ。君が壊して、創った世界…君を知っている人は、みんな君の本当の願いを解ってくれた…君の最期の願い…みんなで頑張ったんだ。」
老人は青空に向かって一人話し続ける。
この空の向こうで、待っているだろう彼の人に届けるかのように。
「リヴァルは写真家になったんだ。君を乗せていたサイドカーで世界を回って、平和になった世界を撮り続けたんだ。ミレイ会長はディレクターになってね。いつも面白い番組を組み立てるんだ。ニーナはフレイヤのデータを全部消した後、次世代エネルギーの第一人者になったんだ。カレンはね、意外かもしれないけど医者になったんだ。これからは壊す力じゃなくて、治す力が必要なんだって…」
懐かしい、幸せの思い出。
「ジェレミア卿はアーニャと一緒にオレンジ畑を耕したんだ。そこのオレンジがすごく美味しくてね、君にも食べさせたかったな。ロイドさんとセシルさんは、科学に最期まで人生捧げてたよ。でも、それは兵器を作るんじゃなくて、平和に役立つものを創るためなんだ。咲世子さんは気付いたらどこかいなくなっちゃった。そっちでは会えたかい?それからC.C.は、もう誰にもギアスを与えないしコードは自分が持ってるって言うんだ。君が創った世界を見守るんだって…」
ともに戦った仲間たち。
今はもう、老人を残して誰もいない。
みな、最愛の人のいるところに逝ってしまった。
あとは、老人の時間が切れるのを持つばかり。
徐々に老人の体から力が抜けていき、瞼も重くなっていくがそれでも老人は空を見ようと目を開ける。
最愛の人が最期に見た景色をその目に刻み込もうとするかのように…
「もう君のところに行ってもいいよね?…贅沢かもしれないけど…僕がそっちにいったら…笑顔でお疲れ様って言ってくれないかい?そうしたら…僕も…50年前に…君に伝えたかったことを…伝えるか…ら…」
老人の瞼は閉じられた。
体の力は完全になくなり、老人が持っていた漆黒の仮面がその手より離れる。
最愛の人より譲り受けた罰の証。
その仮面には、だいぶ古いものだが血の跡が色濃く残っている。
血の跡は人の手の形をしていた。
この日、人知れず黒の英雄が死んだ。
初代から”願い”を託された英雄は次の代に”願い”を託して、歴史の闇に消えていった。
CODE GEASS
君は世界に愛されている