ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(ルーク視点)
ギーシュとの決闘から3日。
俺のベッドの上でサイトが安らかな寝息をたてている。
身体の至る所には痛々しい包帯が巻かれている。
水の使い手や秘薬を使って大分傷は癒えているが、サイトはまだ目を覚まさない。
俺はベッドの隣に椅子を持ってきて、サイトの包帯を換えたり、汗を拭いたりしている。
流石にわき腹の包帯を換えるときは目を逸らしながらやっている。
他の奴に任せる気にはならなかった。
もしかしたらサイトも俺と同じようになんらかの理由で性別を隠している可能性があるからな。
だから俺はサイトの怪我を他の奴には必要最低限しか見せていない。
俺はサイトの顔をじっと見る。
今までファースト・キスを男相手にする羽目になったと憤っていて、サイトの顔をじっくり見たことがなかった。
けれど、こうやって見ればサイトもやっぱり女の子なんだと思い知らされる。
サラサラな髪に、結構細い肩。
まつげも案外長くて、唇も瑞々しくルージュもつけていないのに綺麗なピンク。
手当てしている時に触れた肌は、きめ細かくて柔らかかった。
それに、ギーシュとの決闘のときに鳥を操った時のサイトは本当に神秘的で、一瞬、森を守護する精霊に見えた。
ちょっと見、男にしか見えないけどこうやって見れば、かなり綺麗なんだな。
・・・身長は俺より高いけど。
俺は自分の胸がざわつくのを感じた。
こんな感情を俺は知らない。
この感情に名前をつけることが出来ない。
否、多分つけることが出来るかもしれないが、それを認めるのが怖い。
「まったく・・・俺らしくないな。」
「惚れたか、相棒?」
突然デルフリンガーにそう言われて、俺は反射的に納得しそうになったが、断言できない。
俺自身、誰かにそういった感情を抱いたことのないから。
だから、俺はこれしか言えなかった。
「解らない・・・」
俺の中で芽生えた小さな芽は、まだどういうものか解らないから。
とにかく今は、サイトの目が開くのを心待ちしている。
(サイト視点)
私が目を開けると、そこにはシエスタがいた。
「あ!目が覚めたんですね!!」
シエスタは桶のようなものを持っていて、私のことを心配そうに覗き込んでる。
あれ?私・・・なにやってたんだろ?
「あ!そうだ決闘!!・・・いでぇ!」
私は倒れる前になにをやっていたのか思い出して、急いで起き上がる。・・・けど、直後身体中に走る痛みに、ベッドに逆戻りしてしまった。
「無理しないでください!水の秘薬で怪我を治しているとはいえ、まだ完治しているわけじゃないんです。」
シエスタはそう言いながら、私の両肩を抑え込む。
「水の秘薬?」
「はい。ミス・ヴァリエールが特別にお取り寄せした高価な薬です。」
そう言って説明してくれるシエスタは、机に突っ伏したままで寝ているルイズに顔を向けた。
ルイズはぐっすり眠っているみたいで、そのまわりには包帯や薬ビンみたいなものが無造作に置いてある。
ルイズ・・・ずっと私の怪我の看病をしていたのかしら?
熟睡しているルイズに、私は思わず微笑むとシエスタが目をキラキラさせながら、まくし立ててきた。
「それにしてもサイトさんってすごいです!あんなたくさんの鳥を操って貴族に勝つなんて。」
鳥?・・・あ、そういえば私、森の鳥達の力を借りたんだっけ・・・
みんな、力を貸してくれるっていうから・・・って!なんで私、鳥の言葉がわかったのよ!!
私はただの(?)女の子で・・・ここの人たちみたいにメイジでも、なんでもない普通の人間。
その私がなんで動物の言葉が解ったのかな?
「サイトさんって勇気があるんですね。」
不意にシエスタがなんだか熱い視線で、私のことを見ているのは気のせいかな?
顔も赤いし、風邪だったら早めに休んだほうがいいよ?
「勇気って・・・別に間違ったことを間違えてるって言っただけだよ。」
私はそう言って、自分の右手を見る。
そこに刻まれているのは、私がルイズの使い魔になった証であるルーン。
よく小説とかでも、こういったものには不思議な力があるって言うからねぇ。
私が動物の言葉が解るようになったのは、これのおかげかな?
私はシエスタの熱い視線から逃れるために、思考の中に没頭する。
なんだかルイズが起きて、シエスタと揉めているみたいだけど気にしない、気にしない・・・気にしないもん!
(ルーク視点)
サイトがやっと目覚めてくれた。
なんかメイドに迫られていたから、なんとかメイドを追い出して二人っきりになる。
「あー・・・その・・・今まで悪かったわね。女の子だって知らずに、あんな意地悪ばっかりして。」
俺はなんとかサイトの目を見ながら、そう言う。
見たいと思っていたサイトの目は、夜みたいに真っ黒な色をしていた。
俺はその瞳を本当に綺麗だと思った。
現金なものだな。
一度女の子だと意識しちまうと、こんなに見方が変っちまうなんてな。
「いいよ。黙っていたこっちも悪かったし。」
そう言って、サイトはにっこりと笑って、俺を許してくれた。
その笑顔に俺の心臓はまた跳ね上がった。
だー!なんなんだよ、これー!!
「あ、あんたも女の子なんだし、体に傷なんか残すんじゃないのよ!傷が治ったら、あんたの服とか日用品揃えてあげるからね!!」
俺は内心の動揺を押し隠すように叫んだ。
「・・・ありがとう、ルイズ。」
「・・・今は体を治すことだけ考えなさい。」
俺はサイトに水の秘薬を飲ませる。
サイトも俺の手に逆らわず、素直に飲んだ。
「それでも・・・言って、おきたかった・・・から・・・」
サイトがそう言って、寝た。
眠くなるタイプの秘薬を飲ませたから、これでまたしばらくは起きないはずだ。
俺は完全にサイトが寝入ったのを確認すると、壁を背にその場にずるずると座り込んだ。
心臓がまだバクバクいってやがる。
隣の部屋のキュルケにでもなく、幼馴染にでもあるアンリエッタ姫でもなく、黒髪で胸の大きいかわいいメイドでもなく、いきなり現れた男みたいな女の子にこんなにドキドキするなんて・・・
「本当に・・・重症だな・・・」
俺はそう呟いて、目を閉じた。
一度意識してしまった。
今まで芽生えたことのない感情に、どう折り合いをつければいいのか、自分でも解らなかった。
(サイト視点)
決闘の傷も治って一週間。
私は今日もルイズの身の回りの世話をしている。
私が女だってバレてからは、ルイズの態度がずいぶん柔らかくなった。
寝る場所は床からルイズの隣で(最初はルイズはソファで寝るなんて言い出したのよ!?)、食事も私があれじゃ栄養偏りそうだからって、ルイズの分と自分の分を作らせて貰っているの。
ルイズは私の料理を美味しいと褒めてくれるけど、内心はどうだかわからないのよね。
その他変ったことといえば、あの決闘以来、厨房責任者のマルトーっていう人に気に入られたのよね。
なぜか『我らの笛』と呼ばれるようになったのよ。
これは私がたくさんの鳥たちに協力してもらったことが由来みたいなの。
その中でも仲良くなったのはシエスタっていう黒髪のメイドさん。
よく一緒にお料理の話とか、私はルイズの洗濯物を任せてもらえないけど、ほかの人の洗濯を洗う手伝いなんかもしているんだ。
デザートのお菓子作りもレシピを教えてもらったり、私がレシピを教えたりしていて、なかなか充実した生活を送っている。
シエスタが私と顔を合わせるたびに赤くなるのはちょっと気になるけどね。
ただ、最近なんだか変な視線を感じたりするのがちょっと気になる。
視線を感じたほうに目を向けると、なぜかフレイムがいるんだよね。
話を聞いてみても、『主の命令です。』としか話してくれなくて・・・私って嫌われてるのかな?
そう聞いてみたところ、なんだかすごい勢いで首を横に振ってたな。
嫌われなくてよかったって反面、本当になんで見ているのか不思議なんだよね。
そんなこんなで、今日はシエスタの手伝いでルイズの部屋に帰るのがちょっと遅れていると、目の前にフレイムが目の前で道を塞いでいた。
「あれ?フレイム、どうかしたの?」
私はフレイムに声を掛けると、フレイムはいかにも言いにくそうに身じろぎする。
しかもなんだか目がきょろきょろと泳いでいて、怪しいんだけど(汗)
『すみません・・・主があなたを呼んでこい・・・と・・・』
「主?それってキュルケっていう人のことだよな?確かルイズと仲が良いのか、悪いのか微妙な・・・」
なんでキュルケが私のことなんて?
『来て・・・もらえるか?』
フレイムの申し出を私は承諾する。
せっかく呼んでもらえたんだし、ここは受けたほうがよさそうだしね。
フレイムに連れられて、キュルケの部屋に訪れた私。
部屋は全体的に暗く、明かりは蝋燭だけ。
な・・・なんだか本当にルイズと同じ構造の部屋なの!?
私は戸惑いながらもきょろきょろと見渡すと、部屋の主であるキュルケはなんだか妖艶なベビードールを着ていた。
私は思わずそれに見入ってしまった。
いいなぁ。私じゃあういうの着ても似合わないのよねぇ。
「そんなところに突っ立ってないで、こちらにいらっしゃいな。」
私はそう言われて、おずおずとキュルケの近くに行く。
椅子が用意されていて、それに座るように言われて私は言われるがままに腰を掛ける。
「あの・・・一体なんの用なんだ?」
「あなたはあたしをはしたない女だと思うでしょうね。」
キュルケがなんの脈絡もなくそう言った。
はしたない?確かにその格好は年頃の女の子がやるには恥ずかしい。
でも私はそれを言ったものかどうか考えていると、キュルケはなんだか腰をくねらせながら私に近づいてくる。
「?どうかしたの?」
「あたしの二つ名は『微熱』。松明のように燃え上がりやすいの。」
うん。それは前に聞いたわ。
だから何が言いたいの?
「あたし、恋をしたの!あの決闘のとき、あなたが鳥を操っているときに!!」
私はそれを聞いてピンときた。
キュルケは私に恋の相談がしたいんだ。
あれ?でもそれなら、よく知らない私なんかよりルイズのほうが~って、二人は表面上仲が悪いから相談しづらいんだ!
それならちょっと納得。
私って女の子同士の恋バナって初めてなんだよね!
「へぇ、誰に?」
私はちょっとわくわくしながら聞いてみる。
「あたしが恋をしているのはあな「キュルケ!」・・・?」
「なんだ?」
キュルケが相手のことを話そうとしたところ、窓のほうから男の人の声が聞こえてきた。
ここって確か3階よね?
私が窓のほうを見ると、ハンサムな感じの男性がいた。
しかもなんだか怒っている感じ。
・・・というかこの感じって・・・
「ちかーん!!」
私は思わず普段隠し持っている棍の一部を相手に向けて、思いっきり力の限り投げつけてしまった。
「ぐほっ!?」
その男はそんな声と一緒に下に落下した。
その少し後に、なんだか鈍い音がしたような気がしたけど、気のせいよね?
「なんだったんだ、今の?」
「ただのお友達よ。それより、あたしが恋してるのは!」
私もキュルケもなんだか冷や汗をかいているけど、それは無視してキュルケの恋バナ恋バナ。
「キュルケ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか?」
さぁ、次こそは!と聞く気満々のところ、またもやお邪魔!!
でも、この人のほうが先約なら、そっちを優先しなきゃ。
「キュルケ。先約があるなら、そっちを優先しろよ。」
俺が咎めるように言うと、キュルケが杖を一振りした。
その途端、蝋燭の炎がまるで生き物のように動いて、新たに現れた男性に激突。
そしてまた下に落ちていった。
私はそれを見送って、席を立った。
2度あることは3度ある。
もしかしたら、またお邪魔が入るかもしれないし、女の子同士の恋バナはまた今度にしましょう。
私はそう結論付けて、部屋から出て行った。
乱入者を始末したキュルケは、今度こそ!という意気込みでサイトのほうを振り返るが、そこには誰もいなかった。
「あ、あれ?ダーリン!?」
哀れ、キュルケ!
一方サイト。
「ただいま。」
「おかえり。ずいぶん遅かったわね。」
「うん。厨房の手伝いに時間がかかっちまったし、キュルケに恋の相談されたんだ。」
「ああ、キュルケは惚れっぽいことで有名だからね。あんまり真面目に受け取らないほうがいいわよ。」
「そうなんだ。ルイズはデルフの手入れ。」
「そ。こいつってば、ちゃんと手入れしてやんないと拗ねるのよ。」
『自分の相棒の手入れは剣士としては当たり前だろ!?』
「それでも、あんたはちょっと文句多すぎ。」
「あはははは。」
概ね平和のようである。
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(サイト視点)
「それにしても凄い威力だな・・・」
私は箒を片手に、教室中に落ちている瓦礫を片付ける。
その視界の端にはルイズも机や椅子の片づけをしている。
なんでこうなったかというと、ルイズが原因。
その他にも原因はあるかもしれないけど、教室を破壊した直接の原因はやっぱりルイズにある。
錬金?の魔法を使おうとして、いきなり爆発したのだ。
その威力は本当にすごくて、重傷者がいないのが不思議なくらいだったわ。
「悪かったわね・・・」
ルイズは机を運びながらそう呟く。
「あ、聞こえてたんだ。でもよ、いくら馬鹿にされたからって、火薬の類を錬金してそれを爆発させるのはやりすぎだぞ?下手したら大怪我するところだったんだぞ?」
ルイズは多分、発火性のなにかと爆発性のあるなにかを錬金して爆発させたんだ。
粉塵爆発みたいな感じで。
私はルイズを窘める気持ちでそう言ったら、どこからか笑い声が聞こえた。
男みたいな声に聞こえるけど、なんか人間の声とも違う・・・
私は声の出所を探そうとするけど、近くに人は見かけない。
「デルフ!」
私がきょろきょろと辺りを見回していたら、突然ルイズがそう怒鳴った。
「わりぃ相棒。そいつがあんまりにもおもしろいこと言うから、つい笑っちまった!」
・・・声の出所は・・・ルイズの背中?
「ルイズ・・・それ・・・」
背中の剣が・・・喋ってるの?
私が恐る恐る聞くと、ルイズはため息を吐いて背中の剣を抜いた。
今朝はあまりよく見てなかったけど、柄の部分に顔みたいなモノがある。
「こいつはデルフリンガー。インテリジェンス・ソードっていう喋る剣よ。口は悪いけどそんなに悪い奴じゃないわ。」
喋る剣・・・本当にファンタジーね、ここ。
「よ・・・よろしく。それで、さっきなんで笑ったんだ?」
私が聞くと、デルフリンガーはまた大笑いして、話してくれた。
「相棒はな。魔法を使うとことごとく爆発させんだよ。さっきのも、そういう物質を錬金したんじゃなく、魔法そのものが爆発したんだ。」
そう言って笑うデルフリンガーに、ルイズはゆっくり刀身に手を掛ける。
そしてにっこり笑って・・・
「いい加減にしないと・・・折るぞ?」
ミシッ・・・・
なんだか不吉な音が聞こえたんですけど?
その後は、デルフリンガーがルイズに平謝りすることで一件落着した。
それと同時に私はルイズの二つ名である『ゼロ』が魔法が使えない『ゼロ』じゃなく、自らの前に立ちはだかる全てをなぎ払う『ゼロ』に思えてしまった。
「腹減った・・・」
あの後、なんとかお昼までに教室の片づけが終わった私たちは昼食にありつけた。
けど、ルイズはともかく私のご飯は固いパンが一つと麦スープ。
これじゃ力なんて出ないわよ・・・
私は昼食が終わって、ルイズに夕方まで好きに過ごしていいと言われて、ぶらぶらと学院内を散策する。
さすが貴族と名乗るだけのことがあるほど、学院内は広い。
私は今、どこにいるのかも解らない状態になっている。
つまり、完全に迷子。
お昼はあれだけで、ルイズの部屋に戻ろうにもここがどこかなのかすら解らない・・・最悪だわ。
「せめて、もう少しなにか食えてたらなぁ・・・ん?」
私の鼻になにやら美味しそうな匂いが漂ってきた。
私はその匂いに引き寄せられるかのように歩き出す。
そして、私は曲がり角で誰かにぶつかった。
「きゃ!」
「うわっ」
どうも匂いに気を取られすぎて、人の気配に気づけなかったんだわ。
私はなんとか踏みとどまることが出来たけど、ぶつかった子はそのまま尻餅をついてしまった。
なんだかメイドさんみたいな格好をしている子。
「あ、ごめん。大丈夫?」
私がそう聞くと、その子はいいえと笑いながら立ち上がった。
あ、よく見ればシーツとかそういうのが周りに落ちている。
私はまた謝りながら、それを拾う。
「ホントにごめん。洗濯物汚しちゃって・・・」
「大丈夫ですよ。このくらいの量なら、すぐに洗いなおせます。」
そう言って笑うメイドさんは、なんだか懐かしい感じがする。
「あ、それなら手伝うよ。これでも家事は得意だからね。」
うん、これは自身持って言える。
しかも洗濯機を使わずに手洗いも完璧に出来ます。
メイドさんもそれならお願いします。って笑った。
「わりぃな。洗濯物汚しちまったのに、飯までくれるなんて。」
あのあと、洗濯物を洗いなおした後、盛大に鳴ってしまった私のお腹。
それにシエスタ(メイドさんの名前)が賄いでいいならばって、ご飯を食べさせてくれることになった。
出されたシチューを私は夢中で口の中にかきこんだ。
どんなに行儀が悪いと言われても、今の私には聞こえない。
飽食の日本で育ったんだから、こんなにお腹がすくことなんてなかったんだからね!
「そんなにお腹がすいてたんですか?」
私がシチューを食べていると、シエスタはそれを微笑ましそうに見てくる。
うう・・・なんだか小さい子を見守るお母さんみたいな慈愛の眼差しが痛い・・・
「ああ、使い魔だからってパン一つに麦スープが一杯だけ。まったくあいつは俺に飢え死にしろっていうのかよ。」
私は今朝のメニューを思い出して、つい愚痴っぽくなってしまう。
それにルイズのメニューを見た私の感想は一つ。
栄養バランス偏りそう・・・この一言ね。
私の話を聞いて、シエスタは気の毒そうな目で私を見て、またお腹がすいたら来て下さいとまで言われた。
あれ?私、なにかフラグたてた?
「ありがとう。そうさせてもらうよ。食事のお礼になにか仕事を手伝うよ。」
「え、いいんですか?それなら、貴族様にお出しするケーキを運ぶのを手伝ってください。」
私はそれを二つ返事でOKした。
けど、まさかあんなことが起きるなんて予想できなかったわね。
(ルーク視点)
一体なにがどうなってるんだ?
俺はサイトに夕方まで自由にさせていた。
それで俺自身は午後のお茶を楽しんでいたら、ギーシュの二股が発覚して、それで原因となった平民と決闘することになったんだと。
俺はそれを聞いて、暇つぶし程度にはなるかと思って決闘の場所であるヴェストリの広場に行ったら、なぜかサイトがいた。
サイトは今朝の鍛錬のときに使っていた棒を構えて、真っ直ぐギーシュを睨んでいる。
「サイト・・・あんたなんでこんなことになってるのよ?」
私は一歩前に出て、サイトにそう呼びかけるとサイトは俺に気づいて、怒りに満ちていた瞳がふっと和らいだのを感じた。
「ルイズか。なーに、あいつが二股して、それを他の奴のせいにするから腹がたってな。俺はあういう奴が一番嫌いだからな。」
そう言って、サイトはまたギーシュのほうに目を向ける。
「おやおや、使い魔が心配で君も来たのかい?ミス・ヴァリエール。」
ギーシュが俺に気づいたのか、そう言って嘲るように笑う。
それと同時に俺はこいつの魔法や戦い方を思い出す。
ゴーレムを作り出して、自分では戦わない典型的(無能)指揮官タイプ。
この手の奴は頭を潰せば事足りる・・・って、なんで俺が分析してんだよ。
とりあえず、今朝の鍛錬じゃサイトもそこそこやるし、ギーシュレベルなら互角にいくはずだ。
「侮っていたら痛い目見るわよ。それからサイト。」
俺はギーシュの挑発をスルーして、サイトに向き直る。
「この程度の奴に負けたら、朝の鍛錬を倍にするからね。」
「へー、ルイズは『平民は貴族に勝てない』って言わないんだ。」
俺の言葉にサイトはおもしろそうに応える。
誰に聞いたんだよ、そんなこと。
「私は剣一本で喧嘩吹っかけてきた馬鹿をのしてきたのよ。あんたも私の使い魔になったんだから、ドットメイジくらいサシで倒せるようになりなさい。」
実際にゼロ、ゼロって馬鹿にしてた奴らをぶっ飛ばしてんのは本当だしな。
俺はにやりと笑って、野次馬達を一瞥する。
中には俺が今までのしてきた奴らも混じっている。
そいつらは俺と目が合うと、たちまち顔を青くして後ずさりする。
「ああ、今の俺はルイズの足元にも及ばないけど、こいつくらいなら俺でも勝てる。」
「上等・・・ま、頑張りなさい。」
俺はそれだけ言って、野次馬の中に戻っていった。
(サイト視点)
私はギャラリーの中に戻っていくルイズの背中を見送りながら、どこかほっとした。
だってルイズは平民も貴族も関係ないって言ってくれたから。
私は無意識のうちに微笑んで、ギーシュを見る。
「それじゃ俺が勝ったら、シエスタやおまえが二股かけた女の子に謝れよ?」
「いいとも。それで、君が負けたら土下座してこう言ってもらおう。『平民の分を弁えず、生意気を言ってごめんなさい』って。」
ギーシュは完全に自分の勝利を信じてる。
ならば、そこにつけいる隙がある。
「俺は棍を使う。おまえはなにで戦うんだ?」
私が聞くと、ギーシュは薔薇の造花を一振りする。
花びらが一枚地面に落ちると、そこから人間と同じくらいの大きさの人形が生まれた。
戦乙女を模したそれは槍のような武器を持っている。
「僕はメイジだからね。魔法で戦う。青銅のゴーレム・ワルキューレが相手だ!」
それと同時に、ゴーレムが私に向かってくる。
はやい!
私はゴーレムから繰り出される拳をなんとか紙一重でかわすと、急いで距離を取る。
「なかなかすばしっこいな。けど、何時まで持つかな?」
「はっこれでも鍛えてるからな。早々に負けるわけにはいかねーよ。」
私ははったりでそう言うけど、ギーシュは全然余裕な感じ。
どうしよう、あんなのまともに受けたら棍が折れちゃう。
だからといって、防戦一方じゃ勝てない。
・・・一か八か司令塔を狙う!
私は意を決して、足を踏み出す。
ゴーレムは一体のみ。
あれを突破できたら、あとはギーシュのみ!
私は自分の持てるだけの力で地面を蹴る。
その瞬発力で私はゴーレムの脇を通り抜ける。
ゴーレムのほうも、私のスピードには反応できなかったみたいだ。
「よし、あとはおまえだけだ!」
とりあえず、顔面にいれてやる!!
私は棍を振り上げてギーシュに迫る。
「ふ、僕も甘く見られたものだな。」
ギーシュはこの期に及んでも、余裕な顔で笑う。
それと同時にギーシュの目の前にもう一体ゴーレムが現われた。
「やばっ!」
私の棍は既に振り下ろされていて、すぐに軌道を変えることなんて出来ない。
ゴーレムは私の棍を片手で受け止めると、もう片方の腕で私の鳩尾を思いっきり殴ってきた。
「かはっ」
ズサーー!
あまりの痛みと衝撃に、私は棍から手を放してしまい、そのまま地面を滑るように投げ出された。
「ちくしょう・・・まさか、カウンターで返してくるなんて・・・」
私は痛み鳩尾を手で押さえながら、なんとか立ち上がる。
「僕もこれでも軍人の家系だからね。兵法は少しばかりかじってるんだ。君の戦闘センスもなかなかのものだよ。」
ギーシュはそう言って更に造花を振ると、合計で7体のゴーレムがその場に出てきた。
「僕みたいな司令官タイプの敵に対して、頭を叩くのが一番だというのは僕自身、一番解っていることだからね。さぁ、降参するなら今のうちだよ?」
そう言うギーシュはルイズとはまた違う意味合いでの、戦士の顔をしている。
ルイズが戦場を知る戦士なら、ギーシュは訓練校を卒業していない戦士ってところかな?
私はそう考えて、思わず笑った。
私ったらなにしてるのかな?
こんな戦場も知らない戦士にこんなにされるなんて、馬鹿みたい。
「だめだな・・・こんなのじゃルイズに追いつけない。」
私はそう呟いて、ギーシュを真っ直ぐ見る。
ギーシュはそれに少したじろいだ顔をする。
棍は未だゴーレムの一体に奪われたままだけど、まだ私は負けていない。
「徒手空拳は苦手なんだけどな・・・」
私はそのままゴーレムに突っ込む。
「素手のまま突っ込むなんて自殺行為だな!」
その言葉と同時にゴーレムたちも活動する。
私はそれを捌きながらも、肩や腕、足に傷が出来ていく。
たまにわき腹あたりにまで裂傷が出来る。
痛い・・・こんなの元の世界でも感じたことない。
ドゴッ
「あああああああ!!!!」
ゴーレムの一撃で、私は地面に叩きつけられる。
やっぱり武器なしだときついな。
私はもう一度立ち上がる。
周りからは「もうやめろ!」「充分やった!」とか声が聞こえてくる。
ルイズはなにも言わず、ただじっと私のほうを見るだけ。
手を出す気はないみたい。
「おや?まだ立ち上がるのかい?さすが往生際の悪い『ゼロ』のルイズの使い魔だ。」
そう言って笑うギーシュは、明らかにあざ笑っている。
その瞬間、私の中でなにかがはじけた。
(ルーク視点)
不意に音が消えたと思った。
ギーシュが俺やあいつをあざ笑ったとき、サイトの雰囲気が変った。
俺は実戦経験なんてほんの1度や2度・・・それも師匠に連れられての国境の小競り合い程度しかやったことない。
それでも解る。明らかに今までのサイトとはなにかが違う。
サイトは身体のダメージを受けていないかのように真っ直ぐ立つと、右手をギーシュに向けて真っ直ぐ向ける。
身体のあちこちから血が流れて、明らかに重症なのにサイトはそれを微塵も見せない。
「力を・・・貸して・・・」
サイトが呟くようにそう言うと、学園の外の森が急に騒ぎ出した。
そこから一斉に飛び出してくるのは、鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥鳥・・・大型の鳥から小鳥まで、あらゆる鳥がこちらに・・・否、ギーシュ目掛けて飛んでくる。
その鳥達の中には、今朝サイトが肩や手に止まらせていた種類の鳥まで混じってる。
なんだよ、これ?一体、なにがどうなってるんだ?
俺はもう一度サイトのほうも見る。
これだけの鳥達が辺りを旋回しているのに、サイトはまったく動じた様子もなく、変らない体勢でギーシュを見てる。
右手のルーンが強い輝きを放っているのが、俺の目を引いた。
「な、なんだこの鳥は!?ひっやめてくれ!突っつくな、引っ張るな!!」
ギーシュは鳥達の猛攻に晒されて、すでにマジ泣きに入ってる。
いきなりの事態に、ギーシュはお得意のゴーレムで撃墜することも出来ない。
ただガキみたいに腕を振り回しているだけ。
「参った!僕が悪かったから、もう止めてくれー!!」
あ、ついに降参した。
「ちゃんと、みんなに謝るか?」
サイトが無機質な声でそう聞く。
ギーシュは何度も大きく頷くと、サイトはギーシュに問いかけたものとは違う柔らかな声音で鳥達に語りかける。
「ありがとうみんな。また・・・力を貸してくれる?」
その問いかけに鳥達はまるで「応」と言うかのように、サイトの周りを穏やかに飛び、そして森に帰っていった。
俺はそれを呆然と見送って、サイトのほうに振り返った。
「サイト!!」
サイトはまるで糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。
俺はサイトが地面に着く前に身体を割り込ませて受け止める。
「サイト!!」
俺はもう一度サイトに呼びかける。
あちこち傷だらけの上に血の気のない顔でぐったりしている。
「誰か治癒魔法を!出血が多すぎる!!」
俺は周りの生徒に呼びかけながら、ハンカチを裂きながらサイトを応急手当していく。
こういうことを師匠から教わっといてよかった。
俺はサイトを部屋に運ぼうとして、俵担ぎで持ち上げる。
そのとき、俺の背中に柔らかいなにかが当たった。
・・・男には絶対にないような温もりと弾力が・・・
「うそ・・・だろ?」
俺はそのままの体勢で呆然とサイトの顔を見る。
確かに今朝はなんとなくサイトが綺麗だな~とかそんなこと思ったけどよ・・・マジで?マジなのか!?
こいつ・・・女じゃねぇか!!!
「だから言ったろ?本当にそいつでいいのか、相棒。」
「おまえ・・・知ってたな。」
この時ほど、俺は自分の愛剣を憎んだことはなかったな。
ゼロの使い魔~ちょっと変った平行世界~
(ルーク視点)
場所は変って俺の部屋。
世間には女として認識されている俺は、女子寮にその身をおいている。
あの後気絶した使い魔を他の生徒に手伝ってもらって運び込んだ。
それで目を覚ました使い魔を、俺は忌々しそうに睨んだ。
一応、こいつには俺が召喚した理由、場所の名前、立場といったものは教えた。
「なんで・・・なんで私の使い魔が人間(しかも男)なのよ!!」
せめて、せめて!女の子だったらー!!
そうだったら俺の心の傷は浅かった・・・!!
「そんなこと言われても・・・俺、もう家に帰れないのか?」
使い魔・・・サイトだっけか?項垂れたように言う。
しかも聞き取りづらいが、「俺のファースト・キスが・・・」とかなんとか呟いてる。
落ち込みたいのはこっちだ!!
・・・決めた・・・俺のファースト・キス喪失の恨みのため、しばらく苛める!
(サイト視点)
「それで?使い魔ってなにをすればいいんだ?」
何故かルイズと名乗る美少女の使い魔になってしまった私。
とりあえず、こっちの世界で生活しなきゃならないし、
「そうね、いくつかあるけど、、まずは主人の目となり耳となるんだけど・・・ダメね、なんにも見えないもの。」
それって・・・プライバシーの侵害じゃないの?
「他は、秘薬を探したりするんだけど・・・あんた秘薬って知ってる?」
ルイズに聞かれて、私は首を横に振った。
勉強すればなんとかならなくもないと思うけど、今すぐは無理ね。
それにルイズはまた大きくため息を吐いた。
「最後に、使い魔は主人を守るものだけど、あんた・・・戦うことできるの?」
そう聞かれて、私は迷った。
戦うって言われても、喧嘩程度しか出来ないし、棒術も使えるけどここでどこまで通用するのか・・・
私が答えに迷っていると、ルイズはまた大きなため息を吐いた。
「それも期待してないわよ。あんた、私より弱そうだもの。」
「うぐっ明らかに俺より華奢なおまえに言われたくねーよ!」
そう言った途端、部屋の温度が10度くらい下がった気がした。
私はルイズを見上げると、これが般若なのかな?って思っちゃった・・・
「その言葉・・・よーく覚えとけよ?お・・・私があんたより華奢でも強いってことを証明してあげる!」
そう言ったルイズは・・・本当に怖かったです・・・
それから、私の仕事はルイズの身の回りの世話に決まった。
家事は得意だからいいけどね。
私の身の振り方(?)が決まってルイズはすぐに寝ちゃった。
私はわらを敷いた床に寝ろって・・・
「ったく・・・こんなに可愛いのに、性格キツイ奴。」
私はそう呟きながら、ルイズの寝顔を見る。
その顔は本当に可愛い・・・
私より身長が低いし、小柄で華奢な体つき。
声も女の子特有な高い声で、男みたいな低い声の私とは大違い。
胸はないけど、それでも容姿は美少女の名に相応しい。
・・・私に無いものいっぱい持っているルイズ。
この子の使い魔をなれば・・・私も身に付けられるかな?
私の密かな想いは、次の日思いっきり砕かれた。
(ルーク視点)
俺の朝は早い。
剣の鍛錬のために基本的に夜明けより少し早く起きる。
横を見ると、わらの上に昨日召喚した使い魔が寝ていた。
のんきな寝顔。
俺はその寝顔を少し見たら、手早く着替えた。
着替えを手伝わせようかと思ったが、それで俺が男だとばれたらやばいからな。一人で着る
学院の制服じゃなく、動きやすい平民の服。
一応、貴族の学院の制服だからそれなりに値も張るし、数にも限度があるからな。
それに比べて平民の服なら、汚れても破れても気軽に買い換えれる。
それにこれなら俺が剣の鍛錬のためだと言って、男物の服が着れるからな。
「おはよう、デルフ。」
「おう!おはよう、相棒!」
最後に俺はデルフリンガーを背中に背負う。
準備が終わった俺は使い魔・・・サイトって言ったか?・・・を叩き起こす。
「ぐぇっ!な・・・なんだ、なんだ!?」
「起きなさい。昨夜言ったみたいに、私があんたより強いことを証明してあげるわ。」
・・・朝から女言葉って疲れるんだよな~
のろのろと起き上がった使い魔は、第一に俺の顔を見て「夢じゃない!?」と叫びやがった。
俺のほうが夢だったらと思いてーよ!!
「そう思いたいのはこっちよ!ほら、鍛錬に行くから準備なさい!!自分の得物を持ってね!」
私はそう言って、部屋を出て行く。
そのすぐ後に長い棒を持った使い魔が追いかけてくる。
ふーん・・・あいつ、棒術をするのか。
俺はそれに感心しながらも外に出る。
さて、精々しごいてやるか。
場所は変って学院の中庭。
俺は軽く準備体操をする。
サイトも俺に習って身体を動かす。
「なぁ、メイジってのは身体も鍛えるもんなのか?」
サイトがそう聞いてきて、俺は止まらずに答える。
「個人によるわね。といっても、大抵のメイジは身体なんて鍛えずに、魔法を特化させる人たちがほとんどよ。」
軍人とかは別だけどな。
俺の答えに、サイトはふーんとなんだか解らずに納得している。
「さて・・・準備体操は終わり!次は基礎訓練するから、ちゃんとついて来なさいよ!」
「わかったよ。」
「それじゃ片手前倒立して、そのまま腕立て!」
俺は宣言したとおりにすると、サイトがえええ!!?と喚いている。
おいおい・・・男ならこのぐらい出来るようになれよ・・・
俺が呆れた目をサイトに向けると、なんとか片手前倒立は出来てる。
でも、バランスが悪くてすぐにドテッと倒れた。
それでもサイトは何度も前倒立の形に持っていくが、すぐに倒れる。
俺は5回目で、サイトを止めた。
「もういい・・・あんたは腕立て伏せでもやってて・・・片手でも両手でもいいから、200回ね。」
そう言って、俺も腕立てを始める。
とりあえず、あいつが終わる前に俺も終わらせないとな。
今日は500回ずつでいいか。
(サイト視点)
見た目は人形のように愛らしい。
戦闘なんて出来そうにない。
ふわふわとお花畑で遊んでいるのが似合う。
私のご主人様は、そんな第一印象がありました。
けど、その実態は私なんかよりはるかにタフで運動能力がある魔法使いでした!
私がルイズに言われたとおりに、腕立て伏せをやる。
片手じゃ無理だから、両手でやる。
元の世界である程度身体を鍛えてあったけど、ルイズを見てたら自分がいかにルイズより下なのかが解るわ。
なにせ・・・ルイズは片手前倒立したまま屈伸運動やってるもの。
私が腕立てを100まで切ったところ、ルイズは既に350を数えてる。
すごいペースだわ。
「あら、まだ終わってなかったの?」
ルイズは終わったみたいで、私の傍らに立つ。
明らかに片手400回を超える屈伸運動をやっていたのに、ルイズは息切れの一つも起していない。
「あと・・・50で、終わ、る。」
私は意気も絶え絶えに、そう言う。
「情けないわね。それじゃ、私は素振りをやっているからあんたも終わったら、得物の型の練習してなさい。」
ルイズはそう言って、剣を取り出すと素振りを始める。
その動きは剣術をやっていない私でも解るほど、洗練された動き。
昨夜ルイズが言ったとおりだ。
今の私はルイズより弱い。
私はなんとか腕立て伏せを終わらせると、棍を手にした。
3つのパーツに分かれた組み立て式の棍。
私はそれを手早く組み立てると、頭で型を思い出す前に身体が動く。
幼い頃から両親に騙されてやっているけど、別に身体を動かすのは嫌いじゃない。
今じゃ自然に身体が動くほど、自分に染み込んでる。
仮想の敵を叩く、薙ぐ、受け止める、いなす・・・そんな一連の動きをしながらも、私の目はルイズを捉える。
元の世界に帰る目処が立たない以上、ルイズの使い魔でいなくちゃならないし、養ってもらう恩返しはしようと思っていたけど、ルイズは強い。
実際に戦ったわけじゃないけど、私じゃ勝てない。
それが・・・なんだか悔しい。
私たちが素振りや型の練習を終えると、ルイズは一つ交えてみない?って言われて私は頷いた。
ルイズの実力・・・この目で見てみたい。
私は無意識のうちにそう思った。
結果は惨敗。
私はルイズにコテンパンにやられた。
「ほらね。私はあんたより華奢だけど、あんたより強いわよ!」
疲れで動けずにその場で横になる私に、ルイズはふふんと鼻を鳴らして胸を張る。
「ああ、俺の完敗だ。昨夜の言葉は訂正する。」
私は素直に負けを認めた。
負けたのに、なんだか清々しく感じる。
「まぁ、あんたも結構筋はいいわね。これからも私が鍛えてあげましょうか?」
「え・・・遠慮する。これじゃルイズが言ってた雑用が出来なくなる・・・」
今の時点で、私の筋肉は悲鳴を上げてるもの。
うう・・・ルイズはいつもこんな鍛錬してるの?
「それは困るわね・・・それじゃそこで待ってなさい。今、保健室で痛み止めの薬でも貰ってくるわ。」
ルイズはそう言って踵を返す。
「・・・あいつ、結構優しいのかな?」
私はその背を見送りながら、ぽつりと呟いた。
(ルーク視点)
鍛錬が終わって、俺は保健室から無断で痛み止めを拝借する。
まだ保険の先生もいないし、いつものことだからな。
それにしても・・・昨夜戦えないかと思ったが、なかなかやるな。
実践向きの俺の剣術より、お稽古事の棒術だったが鍛えれば悪くないな。
俺は無意識にほくそ笑んでる自分に気づいた。
なんか解らないが、あいつを鍛えるのがなんか楽しい。
「もしかしたら・・・いいダチになるかもしれないな。」
俺はそう呟く。
「なんでい相棒。使い魔を友達にしたいのかい?」
「同性のダチなんて、今までいなかったんだ。憧れてもいいだろう?」
「でもよ相棒。あいつでいいのか?」
「なにが言いたいんだ?デルフ。」
俺は背中のデルフリンガーを睨みつける。
「おおこわ・・・へいへい、もう何も言いませんよ。」
そこでデルフリンガーは黙った。
今まで、本当のことを打ち明けることのできる友達なんていなかった。
でも、あいつなら・・・サイトなら俺の友達になってくれるかもしれない。
ま、まぁ、人のファーストキス喪失の一端を担っているから、しばらくは苛めるけどな。
中庭に出て、俺はいつの間にか登っている朝日の眩しさに目を細めた。
それと同時にサイトに目を奪われた。
朝日の中、あいつのまわりには小鳥達が集まっている。
サイトはその小鳥達を手や肩に止まらせて、優しく微笑んでる。
優しく・・・綺麗に・・・
ドクンッ
その瞬間、俺の鼓動が一瞬跳ね上がったような気がした。
な、なに考えてんだ俺は!あいつは男じゃないか!!
しっかりしろ、俺!
俺は頭を振って先ほどのことを飛ばす。
それで俺はサイトのところに歩み寄った。
俺の気配に気づいた小鳥達は一斉に飛び立つ。
「随分懐かれていたわね。あんた、動物好きなの?」
「ああ、休んでいたら寄ってきたんだ。俺、動物は大概好きだぜ?」
そう言って笑うサイトは、さっきのとは違う笑顔で笑う。
男らしいとも、やんちゃっぽいとも言えない笑顔。
なんて言えばいいのか解らないその笑顔に、俺はまた頭を振る。
「ほら、痛み止めの薬よ。それ飲んだら、部屋に帰って授業の支度よ。」
俺はそう言って、寮に帰る。
その後に、サイトも着いてくる。
なんだか胸がもやもやするけど、なんなんだよ一体。
(サイト視点)
私はルイズから薬を貰って、部屋に帰る。
薬のおかげで痛みは大分引いたから助かったわ。
部屋に帰って、ルイズの授業の準備をするけど、着替えるとき部屋から追い出された。
同性同士だから、別に見ても平気だと思うんだけどな・・・って、私ルイズに性別話してなかったわ。
大抵の人間は、私の性別を誤解するから話しておかないと、ルイズは私のこと男だと思ったままだわ。
私は廊下でルイズにどう切り出そうかと考えていたら、隣の部屋から誰か出てきた。
「あら?あなた、そこはミス・ヴァリエールの部屋じゃなかったかしら?」
炎みたいな赤い髪の、褐色な肌の女性。
多分、年頃は私と同じ・・・にしては、反則な胸してるわね。
私だって女だから、そういうことは結構気にする。
「はい、そうです。」
とりあえず、この人の質問に答える。
そこに丁度いいタイミングでルイズが出てきた。
相変わらず、背中には剣を背負っている。
「お待たせ・・・ってキュルケ?」
ルイズは赤髪の人・・・キュルケって名前なんだ・・・を見た途端、怪訝な顔してその目線が胸に行く。
うんうん、解るわ。
あの胸は反則よね。
「おはようルイズ。その子があなたの使い魔?あははは!本当に人間を使い魔にしちゃったのね!さすが『ゼロ』のルイズ!あははははははは」
そう言って、キュルケはしきりに笑う。
それに耐えるようにルイズは歯を食いしばっている。
「真っ二つにされたいの?ツェルプストー・・・」
ルイズがそう言った途端(しかも手は剣の柄にかかっている)、キュルケの笑いが止まった。
それはもうピタッと擬音が付きそうなくらいなほどに。
「それは勘弁願いたいわね。でもね、ミス・ヴァリエール。使い魔っていうのはこう子のことを言うのよ?フレイム。」
キュルケが呼ぶと、また隣の部屋から赤いトカゲのような大きな生物が出てきた。
「うわっすげー!」
私は目をキラキラさせて、その生物の傍に行く。
その傍らで、ルイズとキュルケが何か話しているけど、この子可愛いvv
「俺、サイトっていうんだ。よろしくな。」
私は上機嫌に話しかけると返事があった。
耳に届くというより、頭に響く感じだ。
『よろしくサイト。我はフレイムという。サラマンダーの一族だ。』
・・・なんで、私。この生物の言葉がわかるんですか?
それにそれに・・・なんか右手のルーン?が光ってるんですけど!!!?
「ほら、さっさと朝食に行くわよ!」
「ぐぇっ!」
私が固まっていると、ルイズに襟首を引っ張られた。
ルイズに腕力で適わない私は、そのまま食堂まで引っ張られました。
その後、ルイズが引き起こした使い魔虐待(食事のこと)と教室爆破事件で、動物の声が聞こえるという謎が、私の頭からすっぽり抜けてしまいました。
キャラ紹介
ルイズ
本名:ルーク・フランデルト・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
性別:男 年齢:16歳
外見その他は原作のルイズとそっくり。だが男。
それが本人にとってもコンプレックスとなっている。
貴族とか平民とか本人にとってどうでもいい。
魔法の才能がないと解り(?)、剣術を学んでいる。
当面の目標・少しでも男らしくなりたい!
剣術レベルは、その辺の傭兵は簡単になぎ倒せる。
ワルドレベルのメイジが相手でも引けはとらない。
愛剣はデルフリンガー
サイト
本名:平賀才人
性別:女 年齢:17歳
外見その他は原作のサイトそっくり。でも女。
女らしくない自分の身体にコンプレックスを持っている。
でも、胸は原作ルイズよりは弱冠大きい。
両親の趣味で男として育てられたが、本人はけっこう女らしい。
少しでも女らしくなりたいと思い、花嫁修業は欠かさない。
家事全般が得意で、料理は貴族の舌を唸らせるほど。
元の世界では棒術を習っている。
ギーシュレベルのメイジ相手なら互角に渡り合える。
当面の目標は元の世界に帰りたい!&もう少し女らしくなりたい!
自分にはある秘密がある。
別段重要というわけでもない秘密だ。
両親や親戚には知っている人は多いし、親しい友人なら表だって言わないけど知っている。
学校側も知っているし、よくそれで揉め事になる。
本当に・・・なんで自分はこんな秘密を抱えなきゃならないの?
私の名前は平賀 才人。
得意なことは料理、洗濯、掃除その他の家事全般。
その他棒術をたしなんでいる。
年は17歳で、身長は172センチ。
これだけ聞けば、家事が得意な男の子を想像する人は多いと思うけど・・・
何を隠そう私は・・・女です!
世間では男と認識されている私。
なぜそう認識されているかは、単純なことだ。
ただの両親の趣味!
これの一言に尽きる。
だけど、趣味と言って侮るなかれ。
あの二人は女の子を男の子みたいに育てたいってだけで、戸籍とかその他もろもろ完璧に男にしているのよ!
自分が女だと解ったとき、戸籍まで男ということにしている両親に畏怖の感情を覚えたものだわ。
そんなこんなで、私は世間では男として通している。
見た目も男みたいで、喋り方も長年の男生活のせいか、口から出る言葉は男のそれだ。
そんな自分が嫌で、一生懸命、料理や掃除といったことを覚えた。
こんな私でも、好きな人と一緒になりたいと思う。
だからせめて花嫁修業だけは疎かにしなかった。
そのおかげで、その辺の子より家事は出来る。
他に両親に騙されて棒術もやっているわ。
これは護身程度には出来るわね。
以前これでスリや泥棒を退治したことあるけど、それのせいで学校の女の子の間には王子様扱いや騎士扱いされたわね。
あれはかなりショックだったわ。
どんどん『女の子』から遠ざかっていく感じがしてね・・・
そして今日、私はいつもの棒術の稽古から帰る途中、いきなり足元に穴が開いた。
本当に突然で、私はなす術もなく重力に従う。
「へ?き・・・きゃあああああああ!!!!!」
この時私は、生まれて初めて女の子らしい悲鳴を上げながら、その穴の中に消えていった。
「あなた、誰?」
次に私が目を開けたら、背中に大きな剣を背負った桃色かかったブロンドの女の子が私を見下ろしていた。
「え?ここ・・・どこ・・・?」
私は頭に霞が掛かったような感じがして、思考がうまく纏まらない・・・
私の頭がはっきりしない間にも、まわりが騒がしい・・・
それにまわりの人たちはみんな同じような格好している。
まるで魔法使いみたいな・・・そんな格好。
やっぱり頭がぼんやりするな・・・
その間に最初に私に声を掛けた女の子が私に近づいて来る。
「こんなのお・・・私だって理不尽なんだからね!」
その子がなにか指揮棒のようなものを取り出すと、なにか呟く。
「我が名はルーク・フランデルト・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
最初のほうは小さな声だったから聞こえなかったけど、その子が私の額に棒を当てたかと思った次の瞬間、自分の唇になにかが押し付けられた感触・・・
え・・・?・・・ちょっと待って・・・今、私・・・女の子にキスされてる・・・?
霞掛かった頭が急速に晴れていく。
「な・・・な!おまえ一体・・・!!?」
私は自分の口に手を当てて後ずさった。
そんな・・・私初めてだったのに・・・!!!
私が文句を言おうとしたら、体中が熱くなっていくのを感じた。
それが痛みに変って、私はとうとう悲鳴を上げた。
「ぐああああ!てめぇ、俺の身体になにしやがった・・・!!!」
・・・こんなときでも男言葉が出る自分が恨めしいわ。
「使い魔のルーンが刻まれているだけよ。すぐ済むわ。」
桃色の女の子は何度も唇を袖で拭きながらそう言う。
同性同士なんだからノーカンよ!ノーカン!!
私が更に文句を言おうとした途端、右手が更に異常に痛みが走った。
まるで・・・なにかが刻まれているみたいな・・・
そこで私の意識が途切れた。
自分にはある重大な秘密がある。
それは家族しか知らない重大な秘密。
たとえ姫殿下にも知らせてはならない重大な秘密。
自分と家族以外の人たちしか知らない・・・婚約者も知らない重大な秘密。
「おいおい・・・俺はどうなるんだ?」
「無機物は人の部類に入らない。」
「ひどっ!」
自分の人生は生まれた時から嘘だらけだ。
まず名前。
世間では自分の名はルイズと名乗っているが、本当の名前は違う。
自分の本当の名はルーク。
そしてこれが一番知られてはいけない秘密。
世間でルイズは貴族の娘と言われているが、本当は違う。
自分は・・・俺は貴族の息子だ!
なぜ自分が世間で女として扱われているのか簡潔に説明する。
簡単に言えば、俺は生まれた時から身体が病弱で、とある高名な占いの得意なメイジから俺を20歳まで女として育てれば丈夫に育つと言われて、それを真に受けた両親が俺を女として育てた。
こういうことだ。
実を言うと、俺の家では前例がないことじゃない。
俺のすぐ上の姉であるカトレアも、20歳まで男として育てられていたのだ。
名前もカトルとして名乗っていたが、20歳になってようやく堂々と本名を名乗れるようになったときの姉さんの喜びようは、本当に嬉しそうだった。
俺も速く本当の自分として生きたい・・・
効果のほうもカトレア姉さんで実証されてるように、今の俺は他の子より丈夫だと言える。
そんな俺だが・・・魔法が使えない。
否、魔法を使おうとすればことごとく爆発を起すのだ。
一体なにが原因かわからない。
父さんや母さんに言わせてみれば、俺の魔力はかなりのもので、魔法を使えないほうがおかしいと言われる。
そんなことを言われても困る。
俺は自分で魔法の才はないと諦めた。
否、諦めたというより、魔法以外のものにも手を付け始めたのだ。
俺だって姿はどうあれ男。
強くなりたいって願望もある。
だから魔法で強くなれないなら剣術で強くなろうと思った。
父さんや母さんは、それは貴族のすることじゃないと止めようとするけど、魔法の才能がない以上、武術でしか強くなれない。
だけど決して魔法をおろそかにしているわけでもない。
俺は魔法も剣術も同じだけ努力した。
剣術のほうはなかなかモノに出来たけど、魔法はいまださっぱりだ。
それはかの有名なトリステイン魔法学園に入学しても同じことだった。
「おい、俺の紹介はしないのかい?」
「うるさいぞ、無機物。」
「なんだと!?オレは由緒正しいインテリジェンス・ソードの・・・・」
「はいはい、うるさいから紹介してやるよ。」
さっき俺に口を挟んできたのは、俺の愛剣であるインテリジェンス・ソードのデルフリンガーだ。
俺がトリステイン魔法学園に入学するときの祝いとして、自分で選んで買った剣だ。
見た目はボロ剣だけど、かなり頑丈で重さも長さも丁度いい。
父さんはもっと綺麗な剣にしたらどうだ?って言ってたけど、他のはみんなナマクラばっかだったからこれにした。
それ以来、俺は極力デルフを背中に背負って生活している。
当然、まわりの奴らからは奇異の目で見られ、からかいの対象にされる。
まぁもっとも、そんなのは全て無視だけどな!
そして今日。
俺は2年生に進級する。
自分の属性にあった使い魔を召喚する『召喚の儀』を経て。
「次、ミス・ヴァリエール!」
「はい。」
コルベール先生に呼ばれて、俺は前に出る。
「五つの力を司るペンタゴン。」
別に使い魔なんて俺はどうでもいい。
「我の運命に従いし」
でもいなければ、俺は進級できない。
「使い魔を召喚せよ!」
ドラゴンやグリフォンなんて言わないから、せめてまともな使い魔が来てくれ!
どぉぉぉぉぉぉん!
激しい爆音と共に、なにかが召喚された。
煙でよく見えない。
しばらくして煙が晴れてきたとき、俺は自分が召喚したものをはっきりと見た。
見たことも無い服を着た俺と同じ年頃の男が出てきた。
・・・始祖ブリミルよ。
これは俺に対する何かの罰ですか?
春の使い魔召喚の儀で呼び出した使い魔との契約方法を熟知した上で、俺にこんな使い魔を召喚させたのですか?
召喚の儀で呼び出された使い魔との契約方法・・・それは口付け。
猫や犬、蛙やモグラならまだいい。
だけどな・・・人間の、しかも男が相手?
「どちくしょーーーーー!!!!!」
この日、俺は使い魔を得た。
それと同時に、心に大きな傷を負って・・・