ヤマトは非常に焦っていた。
目の前で顔を紅くして恥らう一人の少女に。
その少女がただのクラスメイトや自分のファンの子ならなんとでもなるだろう。
しかし、この目の前の少女はかつて共に旅をした仲間なのだ。
目の前の少女・・・先代選ばれし子供の一人・武之内空。
さきほど、中学生クリスマスバンド大会で空が差し入れを持ってきてくれた。
それ自体はありがたい。
だが、その先がまずいのだ。
差し入れを受け取って、礼を言おうとした途端いきなり『あたし、ヤマトのことが好きなの!』と言われたのだ。
(まさか・・・空に告白されるなんて・・・)
真剣な目で言うそれは、単に友達として、仲間として好きというわけではないと如実に語っている。
ヤマトも空に好意を持っているが、それはあくまで仲間として、友達としての感情だ。
とても空の告白に応えることは出来ない。
それにヤマトには既に恋人がいる。
仲間の誰にも言ったことがない。
3年前のあの夏の日から、ずっと想いをつなげてきた恋人が。
空の想いを受け取れない理由はもう一つある。
(もう・・・限界かもしれないな・・・)
今まで隠せたことが奇跡だったのかもしれない。
ヤマトは世間では男として通しているが、本来は女なのだ。
なぜ男の格好をしているかは、この際どうでもいい。
その事実を目の前の少女に告げなくてはならない。
ヤマトは意を決すると、空を真っ直ぐ見る。
真剣な想いには、真剣な想いを。
「空。気持ちは嬉しいけど、それに応えることは出来ない。実は俺・・・」